夏の偶然 〜お買い物〜

 その日の夜、七瀬が寝ようと準備をしている時、ピロンという音がしたので、携帯の画面を見ると、メッセージアプリから通知が来ていた。

 どのトークの通知もOFFにしているので何だろうかと不思議に思っていると、Face IDでロックが解除され、通知内容が表示される。

 メッセージの送り主は水瀬くんだった。

『水瀬です。よろしくお願いします。』

 とても真面目な文面だ。同じような文型で

『宮本です。よろしくお願いします。急にどうしたの?』

と返信する。既読はすぐについた。

『お祭りの手伝いを一緒にするから連絡取れたほうがいいと思って友達追加しちゃったんだけど、大丈夫だった?』

『全然大丈夫。むしろわからないことがあってもすぐ聞けるからありがたい...!』

『よかった!ところで、宮本は明日どこかに行く予定ある?』

『特に予定はないよ』

『実は祭りの買い出しを頼まれてるんだけど一緒に行かない?一人だとちょっと大変そうで』

『いいよ!何時にどこ集合?』

『10時にショッピングモールの入り口待ち合わせで』

『了解!』

 歯を磨いて布団に入る。

 いつも1分あれば寝れるはずなのに、今日はどうしても眠りにつくことができない。

 理由は簡単だった。楽しみという気持ちを上回るほど緊張でドキドキしているからだ。

 普段なら春子以外とはメッセージのやり取りもしないし、遊びにも行かない。男子と出かけるなんてお父さん以外で初めてかもしれない。

 会ってすぐに沈黙になったらどうしようなどという不安で頭を悩ませていると、気づいたら布団に入ってから1時間が経とうとしていた。まるでクリスマスにサンタクロースを待って寝れない子供のようだ。

 頭の中を無理やり真っ白にして、暗闇の世界に入り込んだ。


 真っ暗な世界がぼんやりと明るくなる。反射的に重い瞼が持ち上がる。

「なっちゃん、朝だよ」

 ふんわりとしたおばあちゃんの声が耳に入り、寝ぼけながら朝だなあと感じる。

 そしてふと気づく。

「おばあちゃん!今、何時!?」

「9時半だよ。起きてこなかったから起こしちゃったけど大丈夫だったかい?」

「めっちゃ助かった!ありがとう!!朝ごはん食べるね!」

そう言いながら食卓へ向かい、おばあちゃんが作ってくれた朝ごはんを味わいながら素早く食べ、洋服を着替え、顔を洗って、歯を磨いて、髪をとかして、出かける準備を整える。

 待ち合わせのショッピングモールまでは普通に歩いて20分かかる。今は9時50分。

 走ったらギリギリ間に合うだろうか。おばあちゃんにくるまで送ってもらうのは流石に申し訳ないので走っていくことにした。ああ、なんで目覚ましをかけなかったんだ。後悔は先に立たずだ。

 アスファルトから熱が上ってくる。帽子はかぶっているものの、太陽からも頭のてっぺんに熱が伝わってくる。また田舎といえども夏には気温は30度まで上がる。外にいるだけで汗が吹き出る。少し走るとお風呂上がりのような状態になる。

 汗が止まらず、体力はもうすでに限界だが、水瀬くんを待たせるわけには行かないと自分に言い聞かせて走り続ける。

 ショッピングモールが見えてきた。あともう少しだ。時間を確認する。10時ちょうどだ。セーフだと安心して速度を落とす。

 入り口に着いた時、水瀬くんはもう来ていた。

「ごめん!待った?」

「今来たところだよ。ところで、すごい汗だね(笑)」

「寝坊しちゃって.....慌てて走ってきた(笑)」

「お疲れ様(笑)少し中で休憩しようか?」

「.....いい?」

「全然いいよ。俺も喉乾いてたし、それに今日は俺のお願いで来てもらってるからね」

「ありがとうございます!!」


「何飲む?」

「私、アイスティー」

「じゃあ俺もそれで」

 水瀬くんの優しさで、汗と熱で覆われている疲れ切った体を休めることができた。感謝感謝。大好きなアイスティーも飲めて幸せだ。

「すっごい急なんだけどさ、宮本のこと名前で呼んでいい.....?」

「.....うん。じゃあ私も碧って呼んでいい.....?」

「.....うん。俺が言い出したことだけど、なんか照れちゃうね.....」

「まあ、ね。」

「.....」

「.....」

「.....よし!じゃあ七瀬、買い物に行こう!」

「うん!碧、行こう!」

 恥ずかしさを紛らわすためか、お互い声が大きかったような気がするが、そんなことはどうでも良いだろう。

 まだ冷たいアイスティーを一気に飲む。体の内部に冷たい液体が流れるような感覚は何度目であっても面白いものだ。

 そうして私と碧はカートを持ち、リストにあるものをどんどんカゴに入れていった。会計をするときにはカートが2台に増えていた。すごい量だ。支払いを終えて両手に袋を持つ。

「買ったものはどこに持っていくの?」

「とりあえず、俺の親戚の家におこうかな。一緒に来てくれる?ちょっと遠いけど」

「もちろん!」

 碧の親戚の家はショッピングモールから歩いて10分ほどだった。全然遠くないじゃん、と心の中でツッコミを入れる。

「おじゃましまーす」

家について出迎えてくれたのは碧のおばあちゃんだった。

「いらっしゃい!暑い中大変だったろうに、ありがとうね。お名前はなんていうの?」

「宮本七瀬です。碧くんと同じクラスなんです」

「そうなのね!碧がいつもお世話になってます」

「いえいえ、こちらこそ」

「ちょうどお昼ご飯ができているんだけど、食べていく?」

 そういえば、今日はおばあちゃんがお昼は家にいないと言っていた。ありがたくいただくこう。

「ではお言葉に甘えていただきます.....!」

「じゃあ七瀬、俺が荷物持っとくから先に上がって」

「いいの?ありがとう!」

碧に両手に持っていた荷物を預け、おばあちゃんについていく。おばあちゃんは終始こちらをニコニコしながら見ていた。なんだか恥ずかしかった。

 お昼ご飯はミートソースパスタだった。

「「いただきます!」」

 碧と一緒に食べ始める。今日あったことを碧のおばあちゃんに話しながら食べていたら、あっといまに時間がすぎていった。

「片付けは全部やっとくから、このお金でアイスでも買って食べなさい」

食べ終わってひと段落つくと、おばあちゃんに300円手渡された。美味しいご飯からアイス代まで色々もらってしまって申し訳なく思ったが、完全に断れなかったためありがたく受け取り、家を出て碧と一緒に近くのコンビニへ向かった。

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逃げ水 かげゆ @mimimimi_27

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