異世界生活・20日目
目を開くと、一面の白い花畑でした。
目線を動かせば、一人の美しい女性が花畑の中で座っているのが見えます。
近づくと、その女性は真っ黒な小さな子犬をその膝に乗せて、慈しむように撫でていました。
女性が、こちらに向いてニコリと微笑みます。その瞬間、私の役目が全て終わった事を悟りました。女性は「ありがとう」と言うと、白い花びらが一面に舞い上がります。
空に吸い込まれていく花びらを眺めていると、不意に誰かが呼ぶ声が聴こえました。
ふと気づくと、女神像の前でした。どれくらいの時間が経ったのかはわかりません。あれは夢だったのでしょうか?女神像から、柔らかな光が溢れ出ています。重苦しい空気も、今はとても清々しいものになっていました。
外へ出ると、白い花びらがどこからともなく舞っていて人々の顔には笑顔が見えました。
エドさん曰く、私が祈り始めると地面から黒い霧が溢れ出して私を包んでいったそうです。
皆さんが取り払おうとしたその時、女神像から神託が降り皆で一心に祈りを捧げたそうです。すると、黒い霧の中から光が溢れ辺り一帯を包み込むと空気が一変していたそうです。
それからは、お祭り騒ぎでした。
聖女の光臨を祝したパレードが行われ、礼拝の時間には人が溢れ、様々な人が挨拶にやってきました。誰もが涙を流して喜んでいるのを見て、心から良かったと思えました。
その晩。夢に女神様が現れました。
改めて祈りへのお礼を言われ、そして、私を日本へ帰して下さると仰られました。
私は迷いました。確かに、向こうにはまだ残してきたものがあります。しかし、ここで過ごした日々もまた、かけがえのないモノになっていました。
女神様は焦らずとも良いと言われました。ゆっくり、この世界を見て回るのも良いかもしれない…と。何故なら、まだ世界にはたくさんの国があり、祈りの力を必要としている人々がいるはず。
ならば、私がやることは決まっています。
この身が誰かの役に立てるなら、誰かに必要とされているなら、私は頑張ってみたいと思ったのです。
なので、私が今まで書いた日記だけ日本に送る事にしました。
私自身が戻る日はまだ遠いでしょう。ですが、私はこちらの世界で優しい人達に囲まれて、幸せな毎日を過ごしています。
どうか、心配しないでください。
そして、アナタにも幸福が訪れますように…と遠い異世界の地で祈りを捧げます。
|谷口水織《たにぐち みおり
一般人の異世界生活日記帳 高井真悠 @Miju_0116
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます