異世界生活・19日目

白い花が咲き乱れる美しい場所に、二人の人物が立っています。

一人は足元まである金髪に白のドレスを身にまとった美しい女性。もう一人は漆黒の闇が人になったかのような男性。


正反対のように見えましたが、二人は寄り添い仲睦まじくしている様子から、恋人なのだと思いました。


しかし、徐々に男性の体に異変が起こります。黒いモヤが彼の身体を蝕み始めたのです。それは、人間の負の感情。妬み嫉み苦しみ悲しみ痛み憎しみそういったモノを受け止めるのが彼の役目。

そして、彼女はそれを人々の祈りによって浄化する役目を持っていました。


しかし、人は祈る意味を忘れてしまい負の感情は留まる所を知りません。

やがて、負の感情を抑えきれなくなった彼は人の世界の地下深くに自らを封印することになりました。


彼女には何も告げずに。


彼女は嘆き悲しみました。しかし、人々が祈りを思い出さなければ彼を探すことも救うことも出来ません。

彼女は未だ祈りを忘れぬ者たちの力を借りて、祈りを広める為に異世界から人を喚ぶ事にしました。彼女の気持ちに添え得る人物を。


やがて、聖女と呼ばれるその人は世界各地を回って祈りを捧げ奇跡を起こします。

しかし、彼の居場所は見つけられません。


そうして、何人もの聖女が祈りを伝え、そして廃れていきました。


彼女の力もあと僅か。最後の望みをかけて、聖女を喚びます。

それが…私だったんです。


地下深くから湧き上がった暗いナニカ。

その正体は漆黒の彼でした。彼女はとうとう、愛しい人を見つけ出しました。


しかし、彼は長い間負の感情を貯め続けてしまった。自我は失われ、別のナニカになってしまっていたのです。

それでも、どうか救われて欲しいと願います。


すると、奇跡が起こります。


朝や夕の礼拝だけでなく、祈る人々が居たのです。

ある者は日々の感謝を。

ある者は日々の幸せを。

その祈りの、一つ一つは小さいけれど確実に祈りの輪は広がっていました。


聖女が一歩ずつ進んだその後に。

確かに祈りが芽吹、花が開いたのです。


そして、ナニカは今女神の目の前で聖女を取り込もうとしていました。その苦しみから逃れるために。

愛しい人、負の感情を引受け続けた憐れな人。


あぁ、やっと見つけた。


私が真に救いたい人。


他の世界から喚んだあの娘に託した私の願いは、今叶えられようとしていた。

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