最終話

「う……」

少し、暑い。

柊水はうっすらと目を開ける。

部屋が明るいと思った。

いつも薄暗い部屋が、今日は全体的に明るい。

「よいしょ……っと」

ゆっくりと起き上がり、なぜ暑かったのかすぐにわかった。

右隣には火織。左隣には狛犬姿の空。

二人はいつの間に柊水の側で寝てしまったらしい。

ふかふかの布団をかけられ、ぴったり二人が寄り添っているので温かいを通り越して暑くなっていた。


そして、障子越しからの光を目を細めて見る。

久々に雨音が聞こえない日を迎える。

「本当に晴れたんだな……」

柊水はポツリと呟く。

すると、もぞもぞと誰かが動く。

右隣の火織の目がゆっくり開く。

ぼんやりしていた火織はハッとなり飛び起きた。

「柊水様……!目覚めたんですね!た、体調はどうですか?あ、お腹へってますか!?」

「えっと体調は問題ないです。あれ、もしかして私、かなり長いこと気を失っていた感じですか?」

「あの日から3日間、柊水様は寝ていました」

「そうだったのですね……。すみません、心配をかけてしまって」

「い、いえ!そんなっ……でも、柊水様が無事で本当に良かったです」

ぺこぺこと頭を下げる柊水と火織。しばらくそうしていると、柊水の左隣で寝ていた空も起きる。

「ふわぁ……うわわ!柊水様、目覚められたのですね!?すみませんっ!いつの間にか眠っていて……!あ、喉乾いていますよね、水を持ってきます!」

バタバタと慌ただしく空が部屋を出ていく。

その姿を見て柊水はクスクス笑う。

日常が戻ってきた……そんな風に柊水は思った。


柊水は軽食を空に用意してもらい、お茶を飲んで一息つく。

「あの、私が眠っていた間、大丈夫でしたか?」

「はい。神殿に住み着いていた邪の者を退治してからは雨が降ったりはしませんでした。あとは……神殿の掃除がまだちょっと残ってますね」

空は何とも歯切れの悪い言い方をした。

「空さん。大丈夫ですよ、そんなにしょんぼりしなくても……」

火織が軽く空の頭を撫でる。

どうやら空は、柊水や火織を助けるために神殿の屋根を破壊したことを気にしていたようだ。

「瓦礫などの掃除が終わったら、修繕工事を頼みましょう。確か、炎月が修繕に詳しい知り合いがいると言っていたので、手紙で聞いておきます」

「柊水様……!瓦礫の掃除、任せてください!あっという間に終わらせます!」

空はもふもふのしっぽをぶんぶん揺らしてやる気を示していた。


今日一日はゆっくり休むべきと火織と空に言われた柊水。

しかし、さんざん寝た後なので横になっても眠れそうになかった。

柊水は部屋を出て庭に向かった。


晴れた日はこんな風だったか。

久々の感覚に柊水は目眩を起こしそうだった。

ジメジメと湿気を含んだ空気とは大違い。

さらりとした心地の良い風が柊水の肌を撫でる。

暖かく眩しい陽の光が心を躍らせる。

いつもは暗い色彩で覆われた庭も、今日は色鮮やかに見える。

そして、空を仰ぐ。

雲一つない青空がどこまで広がっている。

「青空はこんな色をしていたか……」

柊水の口から自然とそんな言葉がこぼれた。


「優しくて綺麗な薄青ですよね」

火織の声が聞こえた。

柊水が後ろを振り返れば、火織と、青年姿の空がいた。

「柊水様がもっと元気になったら、3人で青空の下、草木や花の香りを楽しみながらおにぎりとかを食べたいです」

火織がちょっと照れた様子で言う。

「いいですね!桜の木がこの庭にはありますから、お花見とかもしたいですね!」

空が瞳をキラキラさせて言う。

柊水は目を細めて笑う。

「これからの日々が楽しみです。火織さん、空、これからもよろしくお願いします」

改めて柊水はそう言った。

すると、二人が急に抱きついてきた。

「これからも柊水様、そして火織さんをお支えしますね!」

「これからは3人で、移ろう季節を楽しみながら仲良く過ごしましょう」


陽の光に照らされた庭で3人の笑い声が響いていた。

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雨のち晴れを望む 天石蓮 @56komatuna

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