添い寝
「じゃあ、私はこれでぇ……」
「あぁ……」
「また行こうねぇ!」
「うん……お休みぃ……」
仄暗い影に覆われた自宅の前で奈月と別れた。
俺はビニール袋を片手に2人と自宅の玄関を潜った。
「俺は飯作るから、誰か風呂掃除してくれ……」
「あ、やります……!」
「頼むよ……」
「私はマモル手伝うよぉ!」
「あぁ……ありがとう……」
今日は何を作ろう。
俺はそんなことを思いながら、冷蔵庫の中身と商店街で手に入れた料理本を見比べる。
「今日は炒飯でも作るか……海鮮系の……」
冷蔵庫にあった海老とイカの切り身を台所へ移動させ、覆っているラップを剥がす。
フライパンに油を敷いて、新鮮な海鮮達を炒める。
「タマ、卵溶いてくれないか……?」
俺はずっと腰にくっ付いているタマへ視線を送った。
表情は分からないが、何やら甘えた声を出している。
「よしよし……」
「うにゃあぁ……」
優しく頭を撫でていると、伏せられていたタマの顔がゆっくりと上がった。
柔らかい頬は微かに赤く染まり、蒼色の瞳は鮮やかに潤んでいる。
「ど、どうした……? 体調でも悪いのか……?」
「みゃあぁん……」
タマは聞いたことがないような甘い声を出しながら頬を擦り付けてくる。
俺は風呂場で掃除をしているであろうシロの名前を必死に叫んだ。
「シ、シロぉ! タマが変だぁ!」
「えぇっ!?」
俺の声を聞き付けて風呂場から駆け付けてくれたシロ。
彼女の両手は急いだ証である白い泡に塗れている。
「どういう状態なんだこれ……!?」
「うにゃあぁん……」
「甘えたいんでしょうね……」
「あぁ……夕飯終わったら一緒に遊ぼうな……」
「やぁだぁ……」
「うーん……」
タマは可愛らしい甘えた声を出しながら、こちらをジッと見つめてくる。
何とかしてやりたいが、夕飯を作らないわけにはいかない。
「よし……分かった……遊びながら夕飯を作ろう……」
「えぇ……」
俺はタマの要望を叶えつつ、片手だけで夕飯作りに手を付け始めた。
片手で卵を溶き、片手で海鮮物を炒め、片手でフライパンを大きく振る。
「こ、溢れてます……!」
「シロ……変わってくれないか……?」
「分かりました……!」
「んにゃあぁ……」
両手で健気にフライパンを振るシロを横目にタマの頭を撫でる。
片手で頭を撫でながら、もう片方の指先で喉を優しく擽ぐる。
「ううぅんみゃあぁ……」
「シロ……大丈夫か……?」
「あ、はい……!」
「タマはよくこうなるのか……?」
「いやぁ……私も久しぶりに見ました……」
「そうなのか……」
俺が思っていた以上にタマは我慢をしていたのだろうか。
これで何とか解消されればいいが、果たしてどうなることだろう。
「とりあえず飯食うか……」
「そうですねぇ……」
俺はタマにくっ付かれたまま、居間に置いているちゃぶ台の前へ座った。
香ばしい匂いと湯気が立ち込めている皿を机の上に並べる。
「タマはここでいいのか……?」
「ここがいい……!」
「分かった……」
タマは俺の膝の上で八重歯を見せながら微笑んだ。
「いただきます……」
「いただきます……!」
「いただきまぁす……!」
少し暑苦しいが、タマの嬉しそうな顔が間近で見られるのならそこまで悪くない。
「うまぁい……!」
「美味しいですね……!」
「あぁ……シロのお陰だな……」
「えへへ……」
穏やかな温もりが籠った食卓。
「後は俺が片付けとくよ……」
「あ、ありがとうございます……お姉様、お風呂行きましょ……」
「うぎゃああぁ……」
タマとシロの体格差は子供と大人ほどある。
タマはシロによって、ズルズルと風呂場へ連行されていった。
「よし……こんなもんか……」
「ふうぅ……」
「スッキリしたぁ!」
「そうかぁ……」
風呂場から出たタマはいつものタマに戻っていた。
甘えたい欲はどうやら入浴で解消されたらしい。
「今日は皆で寝ようか……ベッド狭いだろうけど……」
「やったぁ!」
「お、お願いします……!」
タマとシロの押さえ付けられた欲求を満たすにはこれしかない。
俺は2人と一緒に薄い毛布の中へ潜り込んだ。
「あったかいねぇ……」
「とても……安心します……」
俺の今までの人生の中で人と添い寝したことなんてあっただろうか。
いや、厳密には人ではないのかもしれないが、大切な存在であることには代わりない。
「明日は……家でゴロゴロしてようか……」
「ゴロゴロしたぁい……」
「ゆっくりしたいですねぇ……」
明日は連休の最終日だ。
悔いが残らないように過ごすとしよう。
双子の猫娘姉妹をお世話する話 田舎の人 @inaka0313
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