過去

 人々が往来する商店街から外れた区画にある児童公園。

 そこにあるベンチで俺達は他愛もない話をしていた。


「マキ先輩結婚したんすねぇ……」

「いや……コレはただの同僚だ……」

「コレって言うなぁ……」

「じゃあ……あの娘達は……?」


 公園の中央にある大きなジャングルジムで遊びに興じている2人へ視線を送る堂慈。

 奈月はベンチの傍らで美味そうにコーラを飲んでいる。


「知り合いから預かったんだ……」

「どの筋からっすかぁ?」

「いや……普通の家だよ……」

「あ、そうなんすねぇ……」


 とんでもないことを何食わぬ顔で言い放つ堂慈。

 冗談なのだろうが、とても笑えない。

 

「高校時代の話聞かせてよぉ……真守ぅ……」

「話すほどのことじゃない……」

「うぇ〜……」

「高校入学する時に転校してきたんすよね〜?」

「何で覚えてんだよ……」

「物覚えいいんすよねぇ……オレぇ……」

「分かったよ……ちょっとだけなら話す……」


 俺は上京して隠し通してきた過去を話すことにした。

 このまま堂慈に好き勝手に話されるよりかはマシだ。


「昔の俺は色々あって荒れてたんだ……学校で問題も起こしたし、殴り合いの喧嘩もした……」

「ずっとキレてましたねぇ……あん時のマキ先輩……」

「ふぅん……更生したんだねぇ……」

「もういいだろ……俺は十分に話したよ……」

「まぁ……今日は勘弁してやろぉ……」


 今でも頭の隅に残っている数々の悪行。

 もちろんそんなことを周りの大人達が許すはずがない。


 高校2年生の夏休みに俺は少年院へ入れられた。

 そして、1年ほどの更生期間を通じて高校へ戻ることが出来たのだ。

 退学にならなかったのは、学校側の温情なのだろう。


「マモルゥ! コロッケ食べたぁい!」

「あ、私も……」

「あぁ……はいよ……」


 ビニール袋から紙袋に包まれたコロッケを取り出して、まだまだ元気な2人へ手渡す。

 2人はベンチに座って熱々のコロッケを嬉しそうに頬張り始めた。


「うまぁい!」

「凄く美味しいです……!」

「いやぁ……嬉しいなぁ……」

「また買わせてもらうわ……」

「あざっす……!」


 2人がこんなに喜んでくれるのなら、多少の出費は覚悟しよう。

 俺の分のコロッケは家に帰って食べるとしよう。


「じゃあ、オレはそろそろ戻るんで!」

「あぁ……ありがとうな……」

「また時間あったら寄ってくださいよ!」

「あぁ……そうさせてもらうよ……」


 堂慈は黄金色の髪を靡かせながら商店街の人混みへ消えていった。

 相変わらず明るい奴だった。


「もっと商店街見たぁい!」

「そうだな……行こうか……2人はどうする……?」

「行くよぉ……」

「行きましょう……!」


 俺達は時間が許すままに商店街の散策を続けた。

 そして、日が沈み始めた頃、俺達は帰りのバスへ乗り込むのだった。


「楽しかったか……?」

「はい……とっても……」

「なら良かった……」


 俺の隣でシロは優しい微笑みを浮かべている。

 俺はそんなシロの頭を掌で優しく覆った。


「んにゃあ……」

「よしよし……」


 瞳を閉じて嬉しそうに首を振るシロ。

 俺とシロはそんなやり取りをしながら、自宅へ帰り着いた。

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