第2話 来てへんよね?
「え、それは」
「うち女性経験がない人間、すごい好きなんよ」
「や、それはどういう」
「痛いのは一瞬、すぐにええ気持ちにさせてあげるからね」
人の姿をしてるのに、既に人では無かった。
「長かったわ。研究したんよ、どしたら人間を食べられるか。町のお花屋さんって結構警戒されへんのね。十五年間、祖父江くんがうちの事見てたん知ってたんよ。長かったわ、長かった。いただきます」
厚川さんの視線は僕の下半身に向けられた。
ズボンに手がかかった時少し気分が高揚した。そうかサキュバス的なアレか。これは、あれこれされそうですな。それならばそれはそれで幸せでござる。ふへへ。
「あとこれ確認やけどね。精通来てへんよね」
「精通とは」
自分の下半身に精通はしていない、その意味での精通だろう。厚川さんそこまでのテクニックを。
「その射精は出来る?」
「はい」
厚川さんはうーんと言った。僕も心の中でうーんと思った。どこかで見たシチュエーションだな。それにしたら僕が歳を取り過ぎているものだ。
「人間の男の子って、何歳くらいで来るもんなん?」
「人それぞれですが、大体九歳から十八歳の間に」
「祖父江くんはいつくらい?」
「十歳の時点では」
「ほうなるほど、食える瞬間はあったのか」
はい、残念ながら。
「あの記憶とか」
「消すよ。でもアイスは食べてからね。溶けちゃったから、また新しいの食べよっか」
目を覚ますと神原の喫茶店の前にいた。ためらわず、入った。
「おいおい、お前何してんだ。もう少しで女の子来るんだぞ」
「あぁ、悪い。すぐ帰る」
カランカランと音が背後で鳴った。
「神原くん、こんにちはこの方は?」
長身の髪の長い美女だった。
「友達」
「じゃ、僕失礼します」
神原の彼女は耳元で囁いた。
「お兄さん精通来てる?」
何か最近聞いた事あるぞ。
「神原も来てます」
「神原くん、今弟から電話あって小学校行かないといけなくて」
「あ、分かりました。また」
美女は去って行った。
「あーあ、何でこうモテないのかね。いつも聞かれるんだよ。童貞かそうじゃないか」
「そういう星の元に生まれたんだよ。俺たちは」
「不幸だ。彼女欲しい! 馬鹿な奴もいてさ、精通来てるか聞いてきて、来てるって言ったら会えなくなったり、電話番号変わったり。童貞で精通来てて何が悪いかよ」
そうだよな、分からないよな。なんでだろう、おかしいな。
「あ、そういえば向かいに花屋あったろ」
「何言ってんだ。花屋はつぶれてクリーニング屋が出来ただろ」
「そうだっけ」
「クリーニング屋のお姉さんが可愛いって言ってじゃないか」
そうか向かいのクリーニング屋のお姉さんが可愛いのか。ちょっとチェックしよ。
「祖父江くん、私のシャツを出して来て欲しい。お釣りはいらないよ」
神原のおじいさん、ナイス。
「あ、ずりぃ。俺に寄越せ」
神原の家の喫茶店を飛び出した。
多分、向かいの可愛い店員さんに言われるよ。
「こんにちは、お兄さんは童貞さん?」
ほらぁ。
花屋の厚川さん ハナビシトモエ @sikasann
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