政宗、福島城攻略できず
飛鳥 竜二
第1話 上杉攻め
空想時代小説
家康の上杉攻めにしたがい、政宗は信夫口から攻め入ることになっていた。だが、その前に通り道の白石城と梁川城そして福島城を攻め落とさなければならない。
7月24日に白石城攻めが始まり、出奔していた成実(政宗の従弟)が帰参し、先陣の石川昭光の傘下に入り、最前線で活躍した。白石城を任されていた上杉方の甘粕景継は不在で、その甥が500ほどの手勢で防いでいたが、多勢に無勢で、翌日には落城してしまった。
翌7月25日は、小山評定の日である。この日、小山では大坂に転進することが決められ、多くの大名が家康とともに石田三成を中心とする西軍と戦うことになったわけである。小山には、家康の次男結城秀康が1万ほどの手勢で残った。奥羽の諸大名には上杉攻めの中止命令が出た。
白石城では、政宗と重臣の片倉小十郎が話し込んでいる。
「小十郎、いまいましいの。家康から中止命令がきたぞ」
「前の家康様の書状に書いてあった上杉討伐のおりには、刈田・伊達・信夫らの旧領地をいただけるとという話は?」
「何も書いておらん。上杉が残れば、それもかなうまい」
「しかし、我らにとっては、旧領回復の戦い。白石だけを取り戻したのでは、不十分でござる。伊達・信夫は父祖の地でござるぞ」
「そうなのだ。皆、その思いで今回は出張っているのだ。ここで退くわけにはいかん」
そこに、伝令が駆け込んできた。
「最上義光(よしあき)殿から伝令です。上杉勢が米沢から山形に入ったとのこと。助勢の願いがきております」
それを聞いて、小十郎は小躍りした。
「殿、好機でござる。山形に援軍を出すとともに、後方支援ということで、伊達・信夫の城攻めができまする!」
「小十郎、たしかに! 早速評定じゃ。皆を集めよ」
白石城の本丸に主だった者が集められた。そこで、陣ぶれが発せられた。
山形への援軍 およそ1万
大将 留守政景(政宗の叔父)
副将 茂庭綱元
梁川城攻め およそ2000
大将 桜田玄蕃
副将 葛西俊信
大森城攻め およそ2000
大将 支倉常長
副将 横山隼人 黒はばき組頭領(仙台藩の忍び衆)
福島城攻め およそ2万
先陣 黒川晴氏・成実 およそ5000
右翼 矢代景頼・保土原行藤 およそ2000
左翼 鈴木元信・針生盛信 およそ2000
遊撃 遠藤盛胤・川島宗泰 およそ1000
後詰 片倉小十郎・河東田清重およそ3000
本陣 政宗・原田甲斐 およそ5000
白石城留守居 およそ2000
大将 石川昭光
片倉小十郎から陣ぶれに関する説明があった。
「山形への援軍は、途中の刈田にある城攻めをしていただきたい。特に湯原(ゆのはら)城は、堅固な山城ゆえ油断めさるな。山形では長谷堂城が戦いの舞台になると思われる。そこを抜かれると、山形城本城での戦いになるので、最上勢も必死となるであろう。こちらは高見の見物でお願いしたい。早く終わってしまったのでは、信夫攻めができない。ただし、最上が敗れるのは困る。引き分けで上杉が退くのが一番。
梁川城攻めは、陽動作戦だ。敵の注目を梁川に引き付ける。福島城から援軍がくれば退いてもよし。
大森城は福島城の後方で、会津からの援軍を防ぐ要所だ。城主からは内応の約状がきておる。城に入ったら、守りを固めていただきたい。
そして、福島城攻めは信夫山を本陣とする。先陣は川沿いに陣を張り、福島勢が梁川に進んだら川を越えます。右翼・左翼は先陣の動きを見て、それに従っていただきたい。遊撃隊は馬で渡り、先陣が戦いに入ったら助勢をお願いしたい。後詰は、戦況に応じて動くこととする。敵は本庄繁長率いる3500。数は少ないが、歴戦の策士だ。おのおの油断めさるな」
「オー!」
一同のときの声があがった。政宗は、勝ちを確信していた。
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