第3話 松川の戦い

空想時代小説


 10月8日、両軍は松川をはさんで対峙した。お互いの土手に横一列にならんで陣をしいている。本庄勢は、討ってでる気はないようである。川をわたっているうちに弓や鉄砲で撃ち込まれたら逃げようがない。一人でも失うのは惜しいのである。それは仙台勢も同じだが、数では勝っている。

 先陣の1部隊が浅瀬を見計らっておしだした。成実の部隊である。200ほどの兵が横一列で渡河を始めた。成実は、兵が渡る様子を見て、浅瀬をさがしている。見つかれば騎馬隊をそこに集中させる算段だった。しかし、流れが思ったより速く、流される兵が多くでた。渡り切った兵も本庄勢の鉄砲の的になり、ほとんどの兵が倒れた。成実は歯ぎしりしながら鉄砲隊を横一列に並べて、対岸に向けて発砲させた。だが、弾は届くものの命中率は低い。敵は数が少ない分、離れて陣取りをしており、流れ弾があたることが少なかったからである。早々に成実は鉄砲隊を下げさせ、本陣の政宗のところに向かった。

「政宗殿、らちがあきませぬ。数にまかせて総攻めをするしかないのでは!」

と激しく詰め寄った。政宗は苦虫をかんだような顔をしている。そこに小十郎が口をはさんだ。

「今のままでは、総攻めをしても犠牲が多すぎます。ここは、敵が渡河をするような策をたてるのが上々と思われます」

「そんな策があるのか?」

成実は、いぶかしがった。

「密偵に謀りごとを命じております。それがうまくいけば・・」

と小十郎が言ったところで、黒はばき組の伝令が本陣の横山隼人のところへやってきた。横山はその報告を聞くと、政宗の前に出て

「手下の報告によりますと、摺上原に上杉景勝の本陣が設置されたとのこと。そして、その旗は毘ではなく、龍だったとのこと」

「なに! 龍とな!」

政宗の顔が一瞬青ざめた。龍の旗は、上杉勢全軍集合の合図だったからである。摺上原からは、2日もあれば福島城にやってくる。となると、残りは後1日。密偵の策を待っていては間に合わぬかもしれぬ。そこに、また小十郎が口をはさんだ。

「殿、上杉勢は福島城に来るでしょうか。総力で来るとなれば、刈田に入り、白石城をめざしてくるのでは? もしかしたら北目城をねらっているのかもしれませぬ」

「それもあり得る。どの道、明日が勝負だ」

政宗は総攻めを覚悟していた。

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