この素晴らしい世界で創作を

この素晴らしい世界で創作を

　多世界解釈なんて如何にも中二病臭ぇ思い付きがあんだよ。

ホモサピの中にも時々賢いやつがいるわけなんだけどさ。

多世界解釈とくりゃ、シュレディンガーっていうしょぼくれたおっさんね。

このおっさん、リア充とは程遠い人生でなんも楽しいことがなかったんだろうよ。

変な小理屈こね回して世界の成り立ちを言い当ててみせたりしたもんだ。

多世界解釈ではいつでもどこでも、おっさんが考え付いた方程式が成り立つ。

波動関数の収縮は起こらないってこったな。

波動関数ってのは世界の状態を表したものだから収縮が起こらないってことは世界は一つの形には決まらないってことになる。

　おっさんの方程式によると世界は、一つの形に決まらない多様な重ね合わせ状態になっている。

するってーと観測すればするだけ世界は分枝していく。

過去から未来に向けて殆ど永遠に分枝を続けていく。

おっさんの思い付きは俺らに言わせれば、まぁ『当たらずといえども遠からじ』ってってところだな。

だが実際の多世界はちょっと違うかもな。

　ホモサピはひたすら観測する存在だと仮定しよう。

それは俺らからしてみると、ホモサピが思いつく程度の世界ならばだ。

およそ何でもありってことと同義だ。

事実なんでもありだ。

　魔法だろうが、ワープ航法だろうが、タイムリープだろうが、何でもありだ。

なんたってホモサピは自分が住んでいる世界には無いとんでも現象が好きだからな。

ホモサピは、特に作家ってやつは、自分が生きている世界には無い現象を考え出そうと日夜頑張ってるわけだ。

これを世界の外からみたらどうだろう。

実は魔法もワープ航法もタイムリープもな。

数えきれないくらい沢山。

無限と言ってもよいくらいに多数存在する世界にある事実、一般常識に過ぎないのさ。

単に、魔法がある世界、ワープ航法が使える世界、タイムリープができる世界があるだけってこった。

　過去のいつかの時点で何処かの世界の誰かさんが、とんでも現象を観測しちまったんだな。

そこで世界は分枝したってわけだ。

とんでも現象がある世界ととんでも現象がない世界にね。

まあ世界の分枝はとんでも現象の観測だけで起きるわけじゃない。

今この瞬間だってホモサピが何か観測するたびに、無数の世界で無数の分枝が起き続けてるってこった。

　ホモサピは自分の世界にない魔法やワープ航法やタイムリープを想像の産物だと思い込んでいる。

だけどそれは違うんだよ。

ホモサピは他所の世界にある事実を記憶しているだけなのさ。

だから作家を名乗るホモサピが、創作と称してとんでも話を考え出そうとしているのかってーと、そうじゃないだろう。

連中は他所の世界で見聞きし体験したとんでも話を、なんとか思い出そうって呻吟してるだけなんだなこれが。

　ホモサピがなんで他所の世界のことを記憶してるかだって。

それはあれだよ。

異世界転生。

ホモサピはみんな、しょっちゅう異世界転生ってやつをやってるからね。

自分が転生する前の世界のことをうっすら覚えてるのさ。

　世界が混乱をきたさないように、原則として転生前の記憶は全消去するのが俺らの習いだけどね。

記憶を消去しきれないこともある。

　本当は御法度なんだけどさ。

最近は転生前の記憶をわざと残すのがはやりなんだぜ。

転生したホモサピの慌てふためくさまや賢い生きざまを眺めるのは面白いからね。

俺らの間で密かに広がる人気のトレンドだったりする。

　ある世界で試しに、転生者の記憶を大々的に残してみたやつらがいてね。

そしたら異世界転生ものなんていう物語を創作するブームが起きたりしてる。

作家だけじゃなくてパンピーまで、ラノベや漫画やアニメなんてメディアを考え出してせっせと記憶の棚卸を始める始末さ。

　「そんなの創作じゃねーよ。

おめーのつまんねー思い出に、あることないこと付け足した与太話じゃねーか」

なんて、俺らは大笑いしながら突っ込み入れて楽しんでる。

あれだよ。

テレビを見ながら突っ込み入れてる年寄り。

俺らのやってることはあれと同じだな。

テレビを見てる年寄りみたいに、俺らもホモサピを眺めて退屈しのぎしてるってことさ。

趣味が悪いって？

そんなこと言うなよ。

神様にだって娯楽は必要だろ？