ラジオの小噺

ラジオ・K

起、

あと承と転、

そして結である。

 季節は忘れた。

 が、今(2023/7/18)のように「熱い、あつい、というかもうねつだろこれ」などという世迷言を発していた記憶はなく、

 また「目がァ痒いッ!」とのたうち回ることもなかったし、

 「寒いってレベルじゃねーぞ!(寒がり)」と路端に転がってこと切れていた事実はなかったので…………まぁ、多分秋。

 食欲の秋ということにしておく。

 つけ麵が美味しい季節である。




 場は高幡不動たかはたふどう

 当時はの隅っこだと認識していて、たった今調べたら、東京都であった。危ない危ない。

 ……の駅前にある京王バス、バス停にて。


「偉いッ!」


 列の先頭にいたら大声。

 先頭の大学2年生は驚きながら振り返る。


「君は偉いッ!」


 お年寄りである。良い塩梅の白髪。おじいちゃんだ。その眼はラーメンをしこたま食べて太っちょになり続けているドワーフ(つまりラジオ・Kだ)。


 ――というか、何事?


 おじいちゃんの目先を辿ると、ドワーフの手元にたどり着く。

 そこには若者らしくないものがあった(主観である)。

 気合の入ったブックカバーに覆われた、というかもう単語が答えを出していると思うが、本。

 一冊の本。15センチ、250ページ(概算)。

 ドワーフは読書中であった。


「君は絶対将来大物になるッ!」

「はぁ」

「見てみなさい周りを! 最近の学生は皆だらしない!」


 何のことか。

 現在進行形膨張中系ドワーフの後ろは名も知らぬ縁なき女学生。茶髪だ。

 サッと手元のモノをしまう。

 顔には奇妙な罪悪感が張り付いていた。

 何かというと、つまりは、スマホである。iPhoneの……ええい型番など覚えておらぬわい。


「つまりはどいつもこいつも本を読まない! だが君は違う! これからも精進しなさい、きっと大物になるッ!」

「はぁ、ありがとう……ございます?」






 それが、えェと……6年ほど前のお話。

 このおじいちゃんとそれ以降、会ったことはない。存命かどうかもわからない。

 大学文学部史学科を這うようにして卒論頑張って卒業し、すったもんだの末、今や無職。

 大物という言葉の対極にいそうなニートというキャリアにある。

 で、ビッグクランチしようと運動中のドワーフは、現在文を読むこと、電子遊戯PCゲーに浸かること、そして厨二病もうそうを世に叩きつけている。

 つまりカクヨムしているのだ。



                           ラジオの小噺――――完

                       先生の次回作にご期待ください。








おまけ

 その時読んでいた本は……


 田中光二著:『連合艦隊大血戦~新・太平洋戦記9』

 

 カバーをしていて良かったのかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ラジオの小噺 ラジオ・K @radioK

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ