綿貫さんはわたしのコトが好きすぎる!
徒家エイト
第1話
「貴女のことが好き」
夕暮れの空き教室で、突然同性のクラスメイトにそう言われて、わたしは返す言葉がなかった。
目の前にいる絶世の美女は、おそらく自分最大のキメ顔でひざまずいている。わたしはうろたえながら答えた。
「わ、綿貫さん? 自分が何言うとんかわかっとんの?」
「ええもちろん。。姫島橋さん、いいえ、楓。私とお付き合いしてください」
エグイ距離の詰め方をしてきた彼女は、綿貫有理。完全無欠文武両道の才女で、読者モデルにスカウトされたこともあるとかないとかいう学校一の美人だ。
長く艶やかな黒髪と、長いまつげに彩られた切れ目の奥に、潤んだ瞳を持った彼女。わたしより頭二つ分高い超絶モデル体型だが、今視線は下にあった。
「あなたの明るいショートカット、可愛い身長、綺麗な白い肌に、その、……柔らかそうな胸も、すべてが大好き」
胸は放っとけ。
だが綿貫さんは、良いことを行ったと言わんばかりに微笑んだ。
この世のすべての誉め言葉が該当するであろう彼女に告白され、いいえと言える奴がいるだろうか?
「え、いやや……」
いや、いる。
少なくとも私は言う。言った。すると綿貫さんはとんでもなく衝撃を受けた顔になった。
「な、なぜ……?」
「なぜって、そりゃ……」
倒れ込む綿貫さんに、私は迷いながらも告げた。
「わたし、綿貫さんと初対面やもん! 話したことほぼないやん!!」
「がーん」
客観的事実を告げただけなはずなのに、綿貫さんはショックを受けたようだった。というか、口でがーんって言い寄ったこの人。それでも絵になるのだからすごい。
「もしかして……、楓は忘れてしまったの? 私たちが運命の出会いをした日のことを」
「わたし一昨日転校してきたばっかやねんけど!?」
「その一昨日の話よ」
わたし、姫島橋楓はその辺にいる平凡な女子高生である。
いや、正確には平凡な女子高生だった、が正しいかもしれない。どういう点で平凡でないかというと、大阪から東京に引っ越すことになってしまったという点。
つまりわたしは、標準語を喋る花の東京JKの中で唯一の関西JKになってしまったのである。
そのことに、(元)平凡JKのわたしはひどく緊張してうろたえていた。
(大阪人、おもろいって期待されとる気がする……)
そう思うと、初登校の三日前から眠れなくなった。面白いことをしなければと、ひたすらノートにギャグを書き溜める日々が続いた。
そして転校初日。つまり綿貫さんに告白される三日前。
「どーもー。姫島橋楓でーす!」
わたしはキャラに似合わず明るい声で言った。本当のわたしは結構ダウナーなのだが、ダウナーな大阪人は期待されていない気がしたので無理をしたのだ。
「駅の名前違いますよー。姫島橋は名字ですー」
しーん。
教室が沈黙に包まれる。ツカミに失敗した。だがわたしは諦めなかった。
「わたしね、怒るとめっちゃすごいんですよ? 怒ってこのネクタイほどいたらどないなると思います?」
どうなるねん、という当然返しはない。わたしは沈黙の降りる教室で、一人ブレザーのネクタイをほどいた。
「長さが一緒や!」
だいたい身長140センチちょっとだからできる芸当。関西のあっつあつ鉄板ギャグだ。ありがとう池乃めだか師匠(吉本新喜劇に出演する巨匠だ)。
「…………」
だがここの鉄板は熱されなかった。冷え切った教室の空気だけが、私の頬を撫でていく。
「…………」
滑ったという事実を認識したこと以外、もうわたしは何も感じることが出来なかった。
ごめんなさい、めだか師匠。わたしにあなたのギャグは扱いきれませんでした……。
ぽつぽつという拍手の中、わたしはひとり机に戻った。そして何事もなかったかのようにホームルームが再開し、再び涙する。
「……消えたい」
すべりちらかした哀れな大阪人のつぶやきが教室に漏れたことなど、誰も知らない。
「思い出してもうたやん! あんとき滑ったこと!!」
わたしは頭を押さえる。一生封印したい黒歴史やったのに!!
「違う違うそのあとよ。私たちの運命の出会いは。あ、あのギャグも素晴らしかったわ、楓」
「やかましい!!」
あの後? わたしは再び回想する。
かつてないほどどん滑りし、東京の洗礼を受けたわたしは、教室でひとり机に突っ伏していた。
突然よくわからない自虐をしだした転校生に声をかける猛者もおらず、なんだか遠巻きに見られているであろう視線だけを感じる。
やらかした。明るく陽気な関西人キャラの確立に失敗した以上、わたしに残されたのは、転校前と同じダウナー友達少なめ休み時間に寝たふりする系女子としての道だけだ。人はそれを陰キャという。
「……姫島橋さん」
ふと声を掛けられた。
艶やか、と表現するのがぴったりな、大人びた声。
「なんです、か……?」
顔を上げたわたしは、思わず絶句した。絶世の美女がそこにいた。美女はにこりと微笑む。
「お疲れのところ申し訳ないわね。私は綿貫有理。えっと……、クラス委員をやってるんだけども、少し姫島橋さんに尋ねたいことがあって。その……、授業の進捗に関するお話なんだけども」
「ああ、はい……」
一挙手一投足が、まるで美人女優による演技のようだ。指先から足先まで、人を魅せるためだけに作られたような動きと造形に、わたしはおもわず見惚れてしまう。こんな人間、関西にはいない。(探したらおるかも。すまん、関西)
「東京ってすごいな……」
「満喫していただけたようで何よりだわ」
わたしのしょうもない独り言にも付き合ってくれるとは。性格も良いらしい。天は五物ぐらい与えてるんやないか。わたしは一物ももらってないのに。神様は不公平だ。美人には優しいし、阪神は勝たせてくれないし、それに。……いかん、美人の前で僻みが出てしまった。
「姫島橋さん? 大丈夫?」
自分の世界に入ってしまった私を、クラス委員の美人さんは優しく現実世界に戻してくれた。ああ、矮小な自分が昇華されてしまう……。
「ああ、うん。授業ね。先生に前の学校の教科書は出しとるんやけど」
「出しとる……」
「あ、ええと、出してる。から、問題ない、と、思います」
「いえ、関西弁、可愛いなと思って。そのまま続けて頂戴」
「あ、ども……」
美人に可愛いと言われると、なんだか申し訳なくなってくる。
「でも自分の方が断然美人さんやで?」
「?」
「あ、あなたの方が美人で可愛いですってこと」
「え?」
「こんな美人さんに話しかけてもらえるやなんて、それだけで転校した甲斐があったもんやわ」
「え、えっと……」
「これからよろしゅうね、綿貫さん」
一応にっこりと笑いかけると、綿貫さんはそそくさと帰って行ってしまった。
「……これはやらかした奴やな」
何か気に障ることを行ってしまったのかもしれない。今日は厄日だ。わたしはため息をついて、再び机に突っ伏すのだった。
「確かにこんな話はした気がする。けどこれで惚れたん、わたしに? うそやろ?」
もしかしたら、わたしは質の悪いドッキリに引っ掛かっているのかもしれない。そっちの方が可能性がありそうだ。
だが綿貫さんは胸に手を当てると、とうとうと語りだす。
「私ね、実は、あなたを見た瞬間に胸の高鳴りを感じたの」
「はあ」
「それで、あなたとお話をして、一日一人で考えて、確信した。これは恋だって」
「はあ?」
「あなたのその可愛らしい顔に見つめてほしい。可愛い声で名前を囁いてほしい。屈託のない顔で笑いかけてほしい。私のためだけに笑ってほしい。抱きしめてほしい。その小さくて柔らかな唇で口づけをしてほしい。本気でそう思ったの」
綿貫さんは私の手を取り微笑む。
「これが恋でなくて、一体何なの?」
「き、気のせい……、ちゃう?」
「いいえ、違うわ。運命よ」
再び綿貫さんが、私に言う。
「私とお付き合いしてくれないかしら、楓」
「…………」
わたしは絶句してしまう。
これはあかんぞ、面倒なことになったぞ。というアラートが、頭の中でガンガン鳴り響いていた。
綿貫さんは間違いなくこのクラス、いや学校の有名人。スクールカースト最上位のスーパーガールだ。そんなのに目を付けられると、ただでさえめちゃくちゃなわたしの学校生活が、さらにめちゃくちゃになってしまう。
それにわたしは綿貫さんのことをほとんど知らない。美人だと思うし、いい子だとも思うが、それまでだ。そんな状態で付き合うなんて、不誠実にもほどがある。
「……あんな、綿貫さん」
「何かしら?」
「やっぱり、自分とは付き合えへんわ……」
「……そりゃそうよ? 自分とは付き合えないわ」
「あ、そう言うことやなくて、さっきも言うたけど、あなたとは付き合えないって言う意味で……」
「……やっぱり、初対面だから、かしら? それとも私が」
「……せやね。わたしは貴方のことなんも知らん。知らんのに付き合うなんて、そんな不誠実な事出来へん」
「そう……。そんなところも好きよ、楓」
綿貫さんはすくりと立ち上がった。わたしより頭二つ分高い身長で、じっとわたしを見つめてくる。
諦めてくれたのだろうか。少し心が痛むが、これでよかった。
「1か月後」
と思ったら、綿貫さんが私をまっすぐ見つめて言った。
「1か月後、もう一回告白するわ」
「は?」
「その時には、楓は私のことを受け入れてくれるはず。……いいえ、受け入れさせるわ」
ドン。綿貫さんはわたしを壁に押し付ける。天然記念物みたいな顔面が目前に迫り、私は思わず息を飲む。
「う、受け入れさせるて」
「惚れさせるってことよ。私みたいに、もう私抜きじゃ生きていけないぐらいに」
「……えええええ!?」
「おはよう、楓」
翌日。惚れさせたるわ宣言から一夜明け、やれやれと登校するため玄関を開けると、そこに綿貫さんが立っていた。
「……なんでおるん」
「一緒に登校しましょう」
「いやなんでうち知っとるんよ!?」
昨日はあの後、すぐに解散した。わたしは家を教えた記憶はない。
っていうかここはオートロックのマンションの4階だ。どうやって入ってきた!?
「後をつけたわ」
「ストーキング宣言!?」
「冗談よ。先生に教えてもらったの。プリントを渡さなきゃいけない用事もあるからって。私、クラス委員だし」
「職権乱用や。で、オートロックは?」
「好きな人のためなら何でもできるのよ。オートロックは管理人さんに行って開けてもらったわ!」
綿貫さんが胸を張る。張るな。
「さ、細かいことを気にしていると遅刻してしまうわよ。学校、行きましょう?」
そう言って、綿貫さんは手を差し出してくる。
「……なんなん、この手」
「何って」
綿貫さんはさも当然のように言う。
「手を繋ぐために決まっているでしょう?」
「手は繋がへんよ!!」
「……東京の女子高生は登校時に手を繋ぐのが普通なのよ」
「自分さらっと嘘つくやん。昨日までそんな景色全然なかったで」
「く、この手はもう遅かったのね……」
「遅かったのね、ちゃうねん」
わたしがツッコミを入れると、綿貫さんは嬉しそうに笑った。
「でも朝からこうして楓とお話しできて良かったわ。さあ、行きましょう」
「う、まあ、うん……」
国宝級の笑顔をぶつけられると、どうにも弱い。まあ手を繋がないならいいか、と思い、わたしは諦めて彼女とともに登校することにした。
「……あんな、綿貫さん」
「何かしら、楓」
「わたし言うたやん。手は繋がへんって」
「そうね。だから繋いでいないわ」
「いや腕組んどるやん!!」
マンションのエントランスを出るなり、わたしは綿貫さんに連行されるかのように腕を組まされた。身長差もあってほんまもんの連行だ。思わずこっちが引きずられそうになるが、彼女はわたしに歩幅を合わせてくれたので、その心配はなかった。
いやそれよりも。
「手ぇ繋ぐより恥ずかしいやん!! どないしてくれるん!!」
腕を組まれているせいで逃げられない。噂に聞くところによると、綿貫さんは合気道の段位者でもあるらしく、わたしごときが抜けられるような相手でもなかった。
「大丈夫。そのうち慣れるわ」
「慣れるて……。自分は恥ずかしないん?」
「恥ずかしいわけないじゃない。愛する楓と一緒に入れるんだから」
「…………」
結局わたしたちは、くっついたまま校門をくぐってしまった。学校の有名人綿貫さんが、よくわからない転校生と腕を組んで歩いてきたのだ。全校生徒の注目も凄まじかった。
「どうも皆さん、おはよう」
綿貫さんだけが、さも当然と言う顔で挨拶をしていた。こいつ強すぎる。
お昼。
休み時間の度にわたしの席に来ていた綿貫さんは、お昼休みもまた当然わたしの席に来た。
「今日はね、楓のためにお弁当を作ってきたの」
「えらい強火なアプローチやなあ」
「はい、どうぞ」
出してくれたのは、ピンク色の可愛らしいお弁当箱。中を開けると、唐揚げや卵焼き、ブロッコリーにミニトマトと言った定番の食材が、色とりどりに並べられていた。
「好き嫌いとかわからなかったから、無難なものになってしまったのだけれども」
「……自分作ったん?」
「この場合の『自分』は私の事よね? そうよ。私が作ったわ」
「すご……」
このままインスタにでも載せたらバズりそうな、綺麗で美味しそうなお弁当だ。これをわたしのために作ってくれたのだということが、なんだか少しうれしい。
「ほんまに食べてええん?」
「もちろんよ。貴女に食べてもらうために作ったんだもの」
「……ほな。いただきます」
卵焼きを箸で掴み口に運ぶ。ほんのり甘くてふわふわだ。口の中に卵の良い風味が抜けていく。
「……美味っ!」
「あら、良かったわ」
「いや、これ美味しすぎる。ホンマに作ったん? すごいな自分!」
わたしは興奮して、綿貫さんの肩をぽんぽんと叩いてしまう。そこでふと、彼女がお弁当を出していないことに気が付いた。
「綿貫さんの分は?」
「ああ、私の分はないわ。恥ずかしい話なのだけれど、作る時間がなくて……」
「ええ?」
それは何とも申し訳ない話だ。私は手元のお弁当を見つめる。
「……一緒に食べる?」
「それはダメよ。これは楓のために用意したんだから」
「いやでも申し訳ないわ。ほら、一口でも食べて」
唐揚げを箸でつまんで、綿貫さんに差し出す。
「はい、あーん」
「え」
綿貫さんが固まった。
「……あ」
自分が何をしようとしているかに気が付き、わたしも固まる。
「こ、これは!」
「はむ!」
わたしが箸を引っ込めるよりも早く、綿貫さんが唐揚げに飛びついた。
「美味しい! 美味しいわ楓!」
「そ、そりゃな。綿貫さんが作ったんやしな!」
「楓が食べさせてくれたからよ」
綿貫さんはそう言うと、いたずらっぽく微笑んだ。
「もう一口、いいかしら?」
「……え、ええよ! ってか元々綿貫さんのや、好きなだけ食えい!」
わたしは半ばヤケクソで、綿貫さんとお弁当をシェアするのだった。
「今日は、なんか疲れた……」
綿貫さんからの猛アピールをかいくぐって帰宅したわたしは、ベッドにぐったりと横になった。
「私はとても充実した一日だったわ」
「もうつっこまへんって決めてたけどやっぱ言うわ。なんでおんねん」
綿貫さんは平然とした表情で部屋に上がり込んでいた。
「楓の部屋、見て見たかったの」
「……全然片付いてないやろ。こんなもんやで」
わたしの部屋は、ひとまず机とベッド、それにクローゼットだけがあり、その周りには引っ越し会社の段ボール箱が積まれている。壁には何も貼っていないし、机の上にも教科書とノートがあるだけだ。
「いいお部屋だと思うわ。一緒に荷物、出しましょうか?」
「ええよ別に。すぐ引っ越すし」
「え……?」
わたしは思わず言ってしまった。綿貫さんは呆然とこちらを見ている。
仕方ないか。
わたしは諦めて話し始める。
「うちな、引っ越し多い家やねん。ずっと関西点々としてて、今回初めて東京に来たけど……。たぶん半年もせーへんうちに引っ越すわ」
「そんな……」
「せやから、わたしに恋するだけ無駄やと思うで。綿貫さん美人さんやし、もっとええ人おるよ」
「…………」
綿貫さんは何も言わない。でもこれで諦めてくれたはずだ。
わたしはベッドに寝転がる。
寂しいという感情は、とっくの昔に忘れてしまった。
転校が多かったせいで、わたしは誰の記憶にも残らないことに慣れている。どんだけ仲良くなっても、手紙を送るねと言われても、すぐに忘れ去られてしまうのだ。
別にショックではない。そう言うものなのだから。
だけど。
わたしは立ち尽くしている綿貫さんを、ちらりと見た。
綿貫さんに忘れられるんは、少しだけ寂しいような気がした。
「楓」
「ん?」
「私は諦めないわ」
視界いっぱいに綿貫さんの顔が広がる。
ベッドに寝ていたわたしに、綿貫さんが覆いかぶさってきたのだ。
「綿貫さん?」
「私は楓をあきらめない。ずっとあなたと一緒に入れるようになるまで。あなたと、本当の恋人になれる日まで、私は絶対にあきらめないわ」
「……どうして?」
言葉が思わず口をつく。
「どうして、そないに諦め悪いん? わたしのどこがそんなにいいん?」
取り立てて見た目がいいわけではない。
性格だって卑屈だ。
成績もスポーツも、別に得意ではない。
チビだし、面白くもない、ただの関西弁なまりの女の子。それがわたしだ。
綿貫さんみたいなすごい人に惚れられる理由なんて、一つもないのに。
だけど綿貫さんは、悲しそうに視線を落とした。
「私ね、好きになる子は女の子ばっかりだったの」
「…………」
「幼稚園の時に気が付いて、同時にそれは変なんだって思って。隠してきた。いつの間にか、みんなが求める『綿貫有理』を演じることで、安心しようとしていた。そうすれば、私の『おかしなところ』がみんなにバレることはないから」
「…………」
「おかげで、学校ではある程度知られる存在になったわ。みんなの『綿貫さん』になれたから、告白とか恋バナとか、そう言うのからも逃げられた。でも、それだけ。私が本当に求めるものは、手に入らなかった」
「なんなん、それ」
「私の事を、心から理解してくれる人。おかしいわよね。私は私を隠してるって言うのに。そんな私を理解してくれって、矛盾でしかないわ」
「そんな……」
「そんな時に、楓に出会った。一目見て、この子が好きだって思った」
綿貫さんは、まっすぐわたしを見た。泣きそうな目をしていた。
「楓と仲良くなりたいって思ったら、自然と告白が口から出てた。貴女を逃したくないの。貴女のそばにいたいの! 貴女とずっと、一緒にいたいの!!」
「……あんな、綿貫さん」
気が付くと、わたしは彼女の頭をなでていた。
「その気持ち、わたしにはわからへん」
「……そう、よね」
「まだ、な」
「…………」
「誰かとずっと一緒にいたいって、思ったことなかったから」
わたしも正直な気持ちを吐露する。
「寂しいとか悲しいとか言うても、月日がたてば感情は薄れる。忘れてまう。それが人間やねん。せやから、わたしがここで綿貫さんを追い返して、引っ越して、1年でも2年でもしたら、綿貫さん、わたしのことすっかり忘れられるわ」
「そんなことないわ! 私は絶対」
「……わたしは、それでええと思ってた。でも今、それやったら嫌やとも思ってる」
「え?」
「わたし、綿貫さんには忘れてほしくない。わたしも、一緒にいたい……」
「楓……」
「綿貫さん……」
涙がこぼれる。ずっと昔に失くしていた感情が、綿貫さんのせいで蘇ってきてしまった。
覚えていてほしい。仲良くしてほしい。愛してほしい。こんなにも単純で、でも手に入れがたいものを、わたしは猛烈に欲している。綿貫さんが、それを見せてくるから。
「……まかせて、楓」
「え?」
「言ったでしょ? 私は何でもする。貴女のためならね」
一か月後。
「ほな行こか、有理」
「ええ。行きましょ、楓」
わたしたちは、手を繋いで玄関を出た。もういつもの光景だ。手を繋ぐのも腕を組むのも、恥ずかしくもなんともない。
綿貫さん……、有理は有言実行した。
わたしと自分の両親に頼み込むと、わたしとルームシェアを始めたのだ。簡単ではなかったけれど、有理は押し通した。わたしも何度もお願いした。
最終的には両親たちが折れ、今、わたしたちは二人で学校近くのアパートに暮らしている。登校も下校も、学校でだって一緒だ。
「ねえ、楓」
「なあに、有理」
「改めて聞きたいのだけれども、その……」
有理は顔を赤くしてそっぽを向く。
「私に、惚れてくれたかしら?」
「何言うとんねん」
わたしは有理の頬にキスをする。
「大好きやで、有理」
綿貫さんはわたしのコトが好きすぎる! 徒家エイト @takuwan-umeboshi
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