お掃除で地球を救って彼女ができた女子中学生の話

皇帝栄ちゃん

お掃除で地球を救って彼女ができた女子中学生の話


 図書室のSF小説コーナーにその美少女はいた。彼女が持つプラカードには『翻訳してほしい著作権切れの海外小説があったら言ってください。わたしの要望を満たせたら引き受けます』と書かれている(昼休みに友だちが教えてくれたとおりだ)。

 見た感じ、身長は一五〇センチ前後だろうか。あたしは一五五センチだからあまり身長差はない。

 まずは彼女の美少女ぐあいをじっと観察する。

 首の後ろでくくったきれいな黒髪ロング、美しさと可愛さが同居するクールな風貌の童顔と青い瞳、そのうえで痩せすぎず程よい肉付きの色白な肢体とくれば、これはもう文句なしに美少女なのだ。さらさら栗色セミロングの髪が自慢でそこそこ可愛いあたしでも完敗である。

 制服のネクタイがアクアマリンだから彼女は一年生で間違いない。二年生はエメラルド、三年生はアメジストだ。

「あのー、百合乃ゆりの世界ほしさん? あたしは二年のつい革命かくみっていうんですけど」 

「遅い」

「えっ?」

「半月も経過してようやくですか。わたしのほうからコンタクトしてはいけないので待ちくたびれましたよ。いったいぜんたい翻訳を依頼する本はなんですか?」

 美少女にふさわしい澄んだ声音だ。耳が癒されるぅ~。

「えっと、ロード・ダンセイニの『ラストレヴォリューション』ですけども」

「は? ダンセイニって……では幻想小説クラスタじゃないですかあなた。あー、ダンセイニ唯一のSF長編『The Last Revolution』ですか。SF小説だからSFクラスタだと認識したんですねまぎらわしい。地球の意思だって誤認くらいするってことが証明されたわけですよ」

 途中から言ってることよくわかんないけど、なんか変人っぽいかな。まあきれいで可愛くて声がいいから印象は悪くない。やっぱり可愛いは宇宙遺産だ。

「とりあえずカクミさん、普通に友人や家族と話すように接してください。あけすけに。敬語もいりません。距離合わせは時間の無駄です。地球の命運がかかってるんで」

 地球の命運ならしょうがない。

「じゃあホシちゃん。翻訳はしてくれるの?」

「してあげますよ。あなたがわたしの要望をきいてくれれば。まあ実際きくしかないですけど。簡単に言うと、地球を、この星を救ってほしいんです」

「くわしく」

「地球に滅亡の危機が迫っています。救えるのはカクミさんだけです。地球の意思がそう判断しました。そしてわたしは、あなたにそのことを伝え、あなたのサポートをするため、半月前に地球意識の投射により生み出された人間です。これでわかりましたかわかりましたよね。わたしのこと頭おかしいと思ってくれて結構です必死なんです」

「ホシちゃんステイステイ」

 あたしは両手で彼女をなだめると、さっと周囲を確認した。放課後とはいえそれなりに利用者がいる。何人かがちらちらこっちを見ていたので、なんでもありませーんとニッコリ笑ってぺこぺこ頭をさげる。

「すみません。まわりが見えていませんでした」

 バツが悪そうに上目遣いであやまるホシちゃん。おおー、しおらしい面もちゃんとあるんだ、可愛いなあ、ふへへへ。

「えーと、ホシちゃんは地球の意識によって生み出された人間ってことだけど、証拠を見せてほしいな。非現実的なことが事実だと実感できる証拠。それをわからせてほしい」

「カクミさんは、わたしの話に耳をかたむけてくれるんですね」

「怪奇幻想小説好きには大別して三種類のタイプがいると思う。ひとつ。少数派。ガチで非現実要素を信じてる人。ふたつ。多数派。信じていない、あるいは懐疑的な人。みっつ。中間派。現実にあったらいいのにな、存在したら嬉しいのに、そんな気持ちを抱く内心では信じたい人。あたしは三番目なの。だから、ホシちゃんみたいな美少女が真剣にそういうこと言ってくれて、だいぶ期待してる。あたしの期待にこたえてみせてよ!」

 するとホシちゃんがあたしの手をとった。すべすべ美肌の指を絡めて、あたしの鳶色アイを凝視する。

 あれ? ホシちゃんの青い瞳、なんか不思議な感じだけど、間近で目にしてわかった。――宇宙から見た地球だ!


 * * *  


 どこまでも広がる蒼穹と純白の雲しかない世界の、どこまでも続く白い地平線にあたしたちは立っていた。

「ここは地球の中心にして狭間。物理的な場所ではなく概念空間です」

「ううぅぅぅおおぉぉぉぉぉーーーーーーッ!! 非現実はあった! ありがとうホシちゃん!」

「きゃあああっ!? か、カクミさんっ、ななななにひゅるんでしゅかっ」

 あっ、感激のあまり我を忘れてぎゅーっと抱きしめてしまった。おぉう。とてもいい匂い。

 ホシちゃんクレバーな子かと思ったら意外にも顔を真っ赤にしてあたふたしている。そんな彼女の反応にあたしも胸がどきどきした(この甘酸っぱい感覚は……)。

「いいですか、いくらわたしが地球意思の投射で誕生した生命体だからって、ちゃんと人間なんですからね」

「地球意思の投射って、アルジャナン・ブラックウッドの『ケンタウロス』にあるようなやつ?」

「ですです。ラヴクラフトが代表作の冒頭で引用したやつですよ。フェヒナーの地球に関する理論って実はわりと当たってるんですよね」

 フェヒナーって学者は地球も含めたあらゆる天体には意識があると考えていたらしい。そして宇宙全体の意思が造物主ってことみたいなんだけど、ぶっちゃけよくわからん。

「ホシちゃん、地球の危機って具体的にはなんなの。地球を狙う凶悪な宇宙人とか、あるいは巨大隕石やら暗黒天体が地球に衝突とか?」

 邪悪な異星人相手に戦う自分や隕石を人型ロボットで押し返す自分を想像して悦に浸る。

「いえ、環境汚染です」

「環境汚染」

「現代文明のあれやこれやが地球の環境を汚染しまくって、とうとう人間の感知不可能なところで地球崩壊間近の緊急事態です。ぶっちゃけ自然を破壊しすぎなんですよ人類。ネットで環境問題のニュースになるとたまーに『地球は人間のことなんか気にしてないよ』なんて雑な正当化を垂れ流すやついますけど実際は滅亡まっしぐらだってんですよバーカバーカ」

 そんなことあたしに言われても……。

「あのー、それであたしは地球を救うためになにをすればいいのかなーと」

「浄化の作業地点まで案内しますんでついてきてください」

 ホシちゃんの後ろをてくてく歩きはじめる。うーん、背中から抱きしめたら怒られるだろうなあ。きらわれたくないので我慢しよう。

 それにしても地球の中心にして狭間とやら、変化のない悠久の青空が広がるばかりで、だけどその開放感ときたら清々しさがハンパなく心地いい。

 しばらくして、ホシちゃんはうっとりするほど格調高いリズムの英語を朗誦した。

「Mother Earth is held down by chains of pavement and kept in dungeons of brick; though the goal of our journey was an eternal thing, wild marshes where Earth was free.」

「おおー。きれい。ぱちぱちぱち」

「いまのは『The Last Revolution』の一文です。目的地が本来の地球の地ということで現状に合っているかと思いまして」

「ネタバレやめろぉー」

「物語の内容には触れていませんよ。そもそも英語が苦手なカクミさんはヒアリングできないでしょう」

「ぐわー」

 のどかなやりとりのあと、大地や空間のそこかしこに濃い土の香りと草花が垣間見える場所に到着した。

 ホシちゃんが陶芸家っぽくエアろくろをこねる動作をすると、霧吹きとタオルが出てきた。

「地球浄化スプレーと地球浄化タオルです。地球浄化道具を生成できるのはわたしだけですが、使用できるのは地球意思に選ばれたカクミさんだけです。それではスプレーをタオルにかけて、草花がちら見えするあたりを拭いてください」

 言われたとおりにごしごしやると、なんと自然のかぐわしい露草と多彩な花々が一帯に出現した!

 地球浄化ブラシでこすったり地球浄化モップで掃き拭きしたり地球浄化バキュームで吸い込んだりするたび、ダンセイニの小説で描写されるような美しい自然の風景がなじんでくる。

 すごい。環境汚染で内部崩壊しかかった地球を〈原初世界ウアヴェルト〉からキレイにしている手ごたえがほんとすごい。

 でも。でもさあ……。

「これって作業内容自体はただの清掃では?」

「なんですか、なんか不思議な光でパーッと魔法みたく劇的に浄化できると思ったんですか、見栄えのいいファンタジーじゃあるまいし。環境汚染による破滅を救う作業なんですからやることは地味に地球の清掃ですよ」

「ええっ、でもあたしの目的は洋書の翻訳なんだから、こういうのってフツーは翻訳を寓意化したカリカチュアみたいな作業になったりするんじゃないの? それで翻訳の大変さと素晴らしさを学んでいく展開に」

「なりませんよなにいってんですか。地球が人間成長物語のドラマツルギーと感動ポルノに忖度してくれるわけないでしょーが」

 身も蓋もないな地球。

 そんな母なる星を救うお掃除がんばった。大変だったのは地球浄化ポリッシャー(イノベーター)だ。不器用なので操作できるようになるまでめちゃくちゃ時間かかった。

「だからカクミさん、ハンドルを手で押さえて動かそうとしても駄目なんですってば! あーまたもっていかれた。いまぶつけたのでアメリカ中南米あたりに軽い地震が起きましたよ。何度言えばわかるんですか、腰と腿の付け根あたりでハンドルを固定するんですよ、固定して維持できるようになったらそれを軸に動かせます。手は調整に使うくらいで、そう、そうそう、ゆっくり、それでいいんです。あっ、そこは出っ張りがあるので気をつけて――あー巻き込んじゃいましたか、いまので南太平洋に大津波が発生しましたよ死者は出ませんでしたから安心してください」

 半泣きでがんばった(ミスしたら自然災害が発生するとかきいてないよ)。

 コツをつかんだら流れで作業できるようになった。地球浄化ポリッシャーで浄化した箇所は一面の湿地帯に変化した。

「いいペースで進みましたので休憩しましょうか」

 ホシちゃんがエアろくろをこねるとクラブハウスサンドとミルクコーヒーが出てきた。

 あたしたちはその場に腰をおろして軽食タイムを満喫した。

「うーん、おいしい! おいしい! おいしい! すごいよホシちゃん」

「すごいのはカクミさんの語彙力です。この場所では好きな飲食物を生成できるので、わたしはなにもすごくありません」

「そっかー。じゃあ今度ホシちゃんの手料理を食べてみたいな」

「……話が飛躍してませんか」

「いまちょっと寂しげな目をしなかった?」

「してません。それよりなぜわたしの料理を希望するんですか」

 だって一緒に食事して会話するのがとても幸せで、それならこれが手料理だったらと思うと胸が、胸が、この高鳴り、もういましかない。

「あたしはホシちゃんが好き!」

 突然の告白を受けた美少女がコーヒーを噴き出してむせた。

「もちろん恋愛対象として好きだよっ」

「えっ、いや、ちょ、待ってくだひゃ……」

 頬を赤く染めるホシちゃん可愛すぎる。あー、キスしたい。

「あのですね、カクミさんがわたしを好きになるのは無理ないです。わたしはカクミさんの根源的な好みを凝縮してつくられましたから。地球からすればそのほうが事を運びやすいでしょう?」

 おっ、そうなんだ。それはそれで地球に感謝かなあ。わざわざ理想の恋愛対象をこしらえてよこしてくれたわけだし。

「じゃあ、ホシちゃんも最初からあたしを好きだったりする?」

「わかりません。なのでカクミさんがなかなか愛らしい容姿で安心しました。勉強と努力嫌いの他力本願っぽいところが難ありですけど」

「いやあそれほどでも。えへへへへ」

「なに後半聞き流してるんですか、人間性は褒めてないですからね、まんざらでもない顔するのやめてもらえますか恥ずかしい」

「キスしていい? あたしもファーストキスだから大丈夫」

「色ボケムードで押せばいけると思ってんじゃねーですよ」

 ちえー、せっかくコクったのに。でも断られてはいないからまだ玉砕じゃないよね。

「ひとつお聞きしたいのですが、どうして恋愛対象が女性なんですか? 異性が対象外になった理由はなんでしょう。答えたくないなら構いません。わたしはカクミさんが本気で嫌がることはできないようになっていますから」

「あー、たいしたことない理由だけど、それでもいいかな」

「わたしが聞きたいと言っているんです」

「えーと、あたし小さいころから怪奇幻想小説が好きで、小学生のとき男子から女のくせに気持ち悪い本読んでるってからかわれて、それで男子が苦手になって……」

「たいしたことなくないですよ」

 面白くもなさそうにホシちゃんがつぶやいた。端正な眉をつりあげて、可憐な唇をぐっとかみしめている。

「わたしなら――わたしならそんな男はボコボコにしばきたおして二度となめたクチきけないようにしてやりますけどね。カクミさん風に言うなら、簀巻きにしてアイルランドの湿原に沈めてもいいくらいです」

 いやあたしそんな物騒な比喩を口にしたおぼえないよっ!?

 でも、うん、すごく嬉しい。

「ホシちゃんがそう言ってくれたおかげでなんかすっきりした。あたしのために怒ってくれてありがとう」

「いえ、べつに……。あと、カクミさんのいまの笑顔は素直に可愛いと思います」

 ほんのり頬を桜色に染めて目をそらすホシちゃん。告白はうやむやになったけど、好感は得られたのでまだチャンスはあるはず。


「やっとおわったぁぁぁぁぁ」

「おめでとうカクミさん。あなたは滅亡が間近に迫っていた地球を人知れず救いました」

 そっかー、あたし地球を救っちゃったかあー(掃除で)。

 ぜんっぜん実感湧かないけど!(掃除だし)

「感慨に耽っているところ恐縮ですが、それでは約束を果たすとしましょう」

 ホシちゃんが真摯な顔つきでエアろくろをこねようとする。

 そうはさせるかっ。

「待った。あたしの記憶を消すな。あたしの記憶を操作するな。あたしとホシちゃんを切り離すあらゆる行為を拒否する」

「なっ――」

 目を見開いて口をパクパクさせるホシちゃん。顔に「なんで」って書いてある。

「やっぱりね。あぶないあぶない。怪奇幻想小説でバッドエンドや悲しい結末を多く経験してるから、軽食タイムでホシちゃんが寂しそうな目をしたときにそういう展開は警戒してた」

 たとえば――

 気がつくとあたしは図書室の机に突っ伏していた。目の前には小説の文章が書かれた紙の束が積んである。『ラストレヴォリューション』の翻訳だ。それを見たあたしの心に深い切なさがこみあげる。なぜだか目から涙がこぼれ落ちた。

 とかなんとかそういうの。ふざけんな。

「お察しのとおり、役目が終わればわたしは消えます。しょうがないことなんです。思い出づくりでもしますか?」

「消える前提で話を進めるのやめよう。前向きにいこう」

「わたしは歳をとらないんですよ。だから、もしわたしが消えなくても、老化して寿命を迎えるカクミさんと不老のまま残されるわたしのつらい別れが待っているんです」

「それは、あたしがおばあさんになってもホシちゃんは若いままってことだよね。ならまあヨシ。逆はイヤだけど」

「カクミさん、ほんっっっっっと、いい性格してますね」

 いやあそれほどでも。あははははは。

「なにバカ笑いしてるんですか全然まったく褒めてませんからね。都合よく解釈すんなし」

 嘆息に近いクソデカ溜息を吐くと、ホシちゃんは禁断のワード其の壱を解き放った。

「時が過ぎればきっとカクミさんが本気で好きになれる女性と出会えますよ」

 でた、悲しい別離のド定番なセリフ!

「ないないない絶対ない。ホシちゃんは地球のやつが根源的なあたしの好みを完璧に覗き抜いてつくりあげた女の子でしょ? つまり時が過ぎてあたしの価値観が変わってもホシちゃん以上の人には出会えない。それどころか新しい出会いのたびに比較して不幸になるだけだよ」

「カクミさん頭悪いくせにそういうとこだけ異常に鋭いですよね」

「いやあ、それほどでも」

「天丼はしつこいと受け手に寒がられますよ」

 あっごめんなさい。いや、なんで食べ物について注意されるのかわかんないけど。

「とにかくすっぱりとあきらめて、わたしのことは忘れてください」

 禁断のワード其の弐!

 それ言っちゃいますかー。あたしとっくに限界なのに。はーそうですか。

 じゃあもうこらえる必要ないよね。涙腺――決壊。

「やだー! ホシちゃんとずっと一緒がいいーっ! うわあぁぁーーーーん!」

「ガン泣き!? こ、子供じゃないんですから」

「中学生はこどもだよ!」

 涙と怒りの鳶色アイで無辺の蒼穹をにらみつける。

「おい、きいてんのか地球! もしホシちゃんを消したら、あたしは生涯かけてお前に呪詛を送り続けるし、毎日環境汚染してやるから! 自治体やメーカーや販売店が回収してくれないリチウムイオン電池とかを土に埋めてやったりするからな!」

「地味に嫌すぎますねそれ……」

 ちょっとホシちゃんドン引きしないで。

「くそー、あたしの初恋を殺そうとする太陽系第三惑星なんてアルファ・ケンタウリに蹴られてハビタブルゾーンから外れてしまえーっ!」

「カクミさん、そのたとえならリギル・ケンタウルスのほうがより正確ですよ」

「しーるーかーボケェ! じゃあ馬頭星雲に罵倒されろぉ!」

「ああもう、言いたい放題ですね」

「ホシちゃんはどうなのさ。本当の気持ち言ってよ。あたしだけ正直にタンカ切ってて馬鹿みたいじゃない。言え。言えよ。言ってくださいお願いします。ホシちゃんの本音を言えー!」

「そんなの……カクミさんと一緒にいたいに決まってるじゃないですか。消えるのなんてまっぴらごめんですよ!」

 その言葉が聞きたかった。

 まあそれで事態が好転するわけじゃないけど。と思いきや、なんかホシちゃんが急にきょとんと耳を立てて「え、あ、それ、はい」と唇をもごもごさせた。

 彼女は微妙に首をかしげながら、

「カクミさん、不老不死になりたいですか?」

 は? えっ?

 突然なに。あたし数ページほど展開を飛ばした?

 いや、これは、まさか、風向きや流れが――変わった?

「ふ、不老不死ね。なりたいかどうかでいえば、なりたいけど」

「たったいま地球意思から連絡がありまして、カクミさんに地球の定期清掃をしてもらう契約を結びたいそうです」

「定期清掃」

「定期的に今回みたいな地球内部の掃除……えー、浄化をやってもらいたいと。今後も人類は文明を発達させてどんどん環境汚染するだろうし、それならカクミさんに不老不死になってもらって地球のために働いてもらうのが最善と、まあこういう次第ですが」

 ――わかってますよね?

 ――わかってますとも!

「やってあげるよ。地球があたしの条件をのんでくれるならだけど。まあ実際のむしかないけどねっ。簡単に言うと、ホシちゃんをあたしの永続パートナーにすることが絶対条件」

 決まった。完璧だ。

 ホシちゃんが歓喜の表情で抱きついて、あたしは不覚にもファーストキスを奪われた。

 はじめての接吻は甘い恋の蜜。もちろん告白の返事は聞くまでもない。


 あとは蛇足をひとつまみ。

 

「うえーん、なんで翻訳してくれないのー? なんであたしがホシちゃんに英語の勉強を教わらなくちゃいけないのかなー」

「カクミさんには自分で原書を読んでほしいです。ほら、コーヒーも用意しましたから。あと一時間がんばったらデートに行きましょう。来月は地球の浄化予定があるのをお忘れなく。なに泣いてるんですかお約束のハッピーエンドじゃないですか喜んでくださいよ」

「えぐえぐ。恋人にはもうちょっと優しさをお願いします。てゆーかホシちゃんの手料理はどうしたーっ!」

「いえそれが料理があんなに難しいとは知らずただいま必死に習得中ですごめんなさい」

「くそっカワイイなこいつぅーッ!」

 地球を救う女子中学生がとびきりの彼女と過ごすコーヒーは、とても苦くて甘かった。

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