第63話 初日

朝焼けが窓から差し込む。


「敵襲!敵襲! 魔物が出たぞ〜。」

という見張りの叫び声が村を揺るがせる。


ミナは眠りから覚醒した。


ミナは瞬時に反応する。

素早く戦闘服に着替え、手元の短剣と斬鉄剣を掴む。


「行ってくるわ!」

と一言残し、ミナは颯爽さっそうと駆け出して行った。


カイは、ゆっくりと起き上がった。

ミナが飛び出して行ったあとを見送り、つぶやいた。


「せっかちだなぁ。作戦も何も聞いていないのに。」

その言葉に、フィルニアが笑みを浮かべて答えた。


「ミナだから。」

ミナの行動力を知っているフィルニアの言葉に、カイも微笑んだ。


「僕たちは、どうしたらいいと思う?」

とカイがフィルニアに尋ねる。


フィルニアは少し考えた後に言った。

「私は、以前、怪我人をみて治療をしていたから、怪我人の様子を見てくるよ。」


そして、フィルニアはカイに向けて言った。

「カイは、街中の様子を見て欲しいな。

 戦闘についても、少しでいいから経験しておいてもらって。

 この村には戦略が足りていない気がするし、物資の正確な管理も必要でしょ。

 そのあたり、カイなら頼りになるわ。」


カイは頷く。

「わかった。まずは、一通り村の様子を見て周るよ。

 その後、ミナの援護に向かう。

 僕たちの力がどの程度役に立つか、そこも見極めないとね。」

とフィルニアに答えた。


フィルニアはカイの言葉に笑顔を見せて言った。

「うん。お願い。」






ミナは、両手に短剣を握りしめ、見張り役の声の方へと全力で駆け出した。

ミナは、森の地面を蹴り、木々の間を縫うように進んでいく。


「木が邪魔でよく見えないわね。」


ミナは軽やかな身のこなしで木の上に登っていく。

高く太い木の頂点付近に立つと、ミナの視界は一気に開けた。


そして、耳に飛び込んできたのは、地響きのような獣の足音だった。


「いた!」


顔をしかめながら視線を落とす。

それは明らかに狼系の魔物たちの群れだった。


「100以上はいるな。」

とミナはつぶやいた。


だが、その中でもミナが探していたのは、あかい影、紅月狼(コウゲツロウ)だ。


狼の群れの中、ミナは目をこらす。その群れの中に紅い影を見つけた。


「見つけた!」


ミナは大木から身を投げ出し、一瞬にして獣たちに向かって駆け出した。

身体強化のスキルを発動させ、疾風のような速度で駆け抜けた。


だが、その道中には、グレイウルフの群れが立ちはだかる。

ミナは短剣でひとつひとつ確実に切り裂きながら、その群れを突破していった。

ときどき現れる黒狼も、焦ることなく慎重に撃退する。



ついに紅月狼が目前に迫った。

その圧倒的な存在感にミナは、武者震いを覚える。そして、ミナは短剣を鞘に納め、斬鉄剣の鞘に手を添える。

深呼吸を一つし、紅月狼に向かって一直線に駆け出した。


黒狼が襲いかかる。


ミナは、斬鉄剣を抜刀し、黒狼が二つに両断される。

そして、ミナは紅月狼に切り掛かった。剣と爪が火花を散らしながらぶつかり合う。

ミナと紅月狼の戦いが始まった。


獣の鋭い爪がミナに襲いかかる。

ミナは華麗にその爪をかわし、斬鉄剣を振り下ろす。

その一撃は紅月狼の体に深く突き刺さる。

獣の苦痛のうめき声が響き渡る。


だが、戦いはこれで終わりではなかった。

獣は怒りにまかせて再びミナに襲い掛かかる。

ミナは冷静にかわす。

そして攻撃の瞬間を見計らい、狼の脇腹を切り裂く。


獣は咆哮を上げ、ミナに向かって飛びかかる。

ミナはその巨体をかわし、背後に回り込む。

そして、全ての力をこめて剣を振り下ろす。

その一撃は、紅月狼の首元をに突き刺さる。

獣は苦しみながら地に倒れる。


ミナは、剣を引き抜き、斬鉄剣を両手で持ち正面に構える。


紅月狼は苦しみながらも、ミナに襲い掛かろうと起きあがろうとしていた。

ミナは一歩前に出る。


「これでおわりだ!」

と言い放ち、斬鉄剣を紅月狼の心臓へと突き上げる。


獣は最後の力を振り絞って叫び声を上げたが、その身体はすぐに力いその身体は、淡い光を放ち姿が消えていく。

戦場のあとには少し大きめの魔石が転がっていた。


ミナは、その魔石を拾い。

それをアイテムボックスに収納する。


ミナは、辺りを見渡す。

グレイウルフとその中に点在する黒狼がいる。


ミナは、斬鉄剣を持ち、「かかってこい!」と獣たちに目で挑発する。


その群れの影、奥の方から、新たな紅月狼が、飛び上がり、ミナに向かって襲いかかる。


その瞬間


ピシュッ


一本の矢が、ミナを横切る。


ズドン


という衝撃音が響き渡りながら、矢が無慈悲に紅月狼の脳天を突き破った。


それは、カイが放ったボウガンの矢であった。


ミナは、斬鉄剣を手にギロリと辺りを見渡す。


狼の群れは、逃げ去って行くのであった。


一瞬の静寂が森に広がった。

しかし、すぐに新たな波紋が広がる。


ミナの視線が森の奥に向けられていた。

そこには、銀色に輝く狼がいた。


その巨大な体躯たいくは、ミナがこれまでに見たどんな狼よりも威圧的だった。

銀色の毛皮は輝き、美しさと恐怖を同時に放つ。

その存在は一瞬で、ミナの心に深い恐怖を植え付けた。


ミナの直感が危険を告げていた。

「こいつには敵わない。」


ミナは、撤退した。

幸いなことに、銀狼は、ミナを追っては来なかった。


ミナは、銀狼とは、戦っていない。

だが、ミナは、敗北感を感じていたのである。

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秘密組織・異世界冒険探偵団(鏡の世界と時の剣舞) エリナ @erina_clater

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