第79話 『鷹崎家』(四)



「動画を見てくれているなら、ご存知だろうけど」


 静かになった桟橋風の足場を進みながら、鷹崎妹が棒を肩に担ぎ直す。


「私の【豪快! 蒼天嬢!レディ・セット・コンボ!】はバフ系スキル。攻撃のヒット後、1.7秒以内に次の攻撃をヒットさせた場合――つまりコンボ・・・が継続した場合、ヒット数かける5パーセントずつ、スピードとパワーが向上していくんだよね」

「ふむ。見たところ、五十四回の攻撃を当てていたようだが、つまり今の短い時間で身体性能がプラス270パーセントされていたのか」


 鷹崎妹が目を丸くした。


「距離も速度もあったのに、よく見えてたね……。さすがバズ・ニンジャ」

「あんまるも見えていたと思うが。目がいいからな」

「うん、まあ、見えてはいたケド、数えはしなかったかなー……」

「……なぜ微妙に引いているんだ?」


 『こわ……』

 『他人のミスとかもめちゃくちゃカウントしてそう』

 『ニンジャがたまにこういう言動するの、「あ、こいつニンジャだった」って思い出せるから好き』


 ともあれ、それだけなら常時高倍率バフがかかる姫虎の【六秒間の蛮行シックストラグル】のほうが強そうにも思えるが、鷹崎妹のダンジョンスキルの強みはそこではない。


「利点は、マジチャの消費がほとんど必要ないこと。加えて、バフが純粋なボーナスで、体に負担がかからないこと。今みたいな対多数の乱戦ならコンボし放題だし、露払いなら任せて」

「アタシ的にはメッチャ助かります! 鮫丸斬撃波サメマルインパクトは、けっこうマジチャ食うんで……」


 俺も戦闘速度は速いほうだと思うが、バフも範囲攻撃もない。消耗を避けるなら、鷹崎妹に頼るのがいちばんだろう。


「俺とアリアも、普段は妹に頼ってるんですよ。俺のダンジョンスキル、【豪運! 御迷籤!ガチャ・ガチャ・オリパ!】は戦闘向きじゃないし、アリアは強いけど燃費が悪い上に使い魔なので……」


 鷹崎兄が『目玉くん』を指差した。空に浮かんでいるのは四台。俺のと、あんまるのと、鷹崎妹のと、鷹崎兄のだ。鷹崎アリアのものはない。


「アリア、パパのまりょく使うの。どかーんって」

「というわけなんです。本人が配信できれば手っ取り早いんですけどね」


 苦笑して言う。使い魔は主人の魔力を用いてスキルを発動するらしい。

 桟橋を進みながら、鷹崎妹が「逆に」と言った。


「私、距離取って戦う相手はメチャ苦手だから、アリアの出番ね。遠距離武器を自分で使うのもダメ。コンボ成立が『自分と、自分の体に触れているものが敵に当たったかどうか』で判定されるから、銃弾にはスキルが乗らないの」


 役割分担がわかりやすい。鷹崎アリアが遠距離と大物狩り、鷹崎妹が近距離と小物狩り、鷹崎兄が全体指揮と補助全般……、と言ったところか。

 あんまるが興味深そうに棒を指差した。


「鷹崎妹さん、今日は棒? なんスね。最近は長柄ハンマーが多かったのに」

「今日は対人あるかもだから、こんにしてみた。ほら、ハンマー使うと、グチャッとやっちゃいそうじゃん」

「あー。アタシ、その辺めっちゃ苦手なんスよねー、ほら、武器がコレなんで」


 コレ、と言って妖刀鮫丸を持ち上げる。

 魔力の刃がなくても大太刀として運用可能で、人間をたやすく真っ二つに出来る業物である。


「峰打ちくらいしか手加減のしようがないんスよね。重量あるから峰打ちでもグチャッてなっちゃうカモですし」

「ありあ、グチャッとするのすきー」

「バカ姪、人間にはやっちゃダメだからねー」


 『のほほんとスプラッターな会話してんな……』

 『美少女三人でお散歩は見た目に映えるな。会話は……聞かんかったことにしたろ!』

 『おじさんとゲーミングニンジャのことも忘れてやるなよ』


 ゲーミングニンジャって言うな。


「段蔵くん、実際、対人戦ってどんな感じです? 俺たち、対人戦はほとんど経験がないもので。ダイバー同士の手合決闘デュエルゲームなら、やったことあるんですが」

「基本的には俺が対応している。――こんな感じだ」


 俺は袖に仕込んだクナイを、前方十五メートルほど先の柱の横あたりに投げた。魔術的迷彩・・・・・が解け、潜んでいた男が現れる。


「痛っ、あァあッ?」


 見るからにヤクザと言った風体の、パンチパーマでグラサンをかけた男だ。その頬に赤い傷が残っている。クナイの跡だ。

 『鷹崎家』が三人そろって、即座に戦闘態勢になった――が。


「――ん、んお、お……、なん、ら? なん、で、わかっ……」

「スキルか魔道具かわからんが、姿を消しても気配を消さないなら、忍者相手に奇襲など無意味だ。気づくに決まっているだろう。ゆっくり眠るといい」


 ヤクザは前のめりに倒れ、桟橋の床に顔面から激突した。

 ふむ。傭兵ギルドの先輩らしく、説明っぽいこともしておくか。


「闇ギルド構成員はこちらを殺すか逃げるかするつもりだが、こちらは無力化して拘束する以外の選択肢がない。なんらかの手段を用意しておいたほうがいいだろう。俺はこのように、加藤家秘伝の痺れ薬を使っている」


 三人は半目で俺を見た。なぜだ。


「知ってはいたんですけど……、実物は動画で見るより理不尽だなぁ」

「でしょ! この気持ち、ずっと誰かとリアルで共有したかったんスよ……!」


 あんまるはなぜか感動している。謎だ。

 ともあれ、ここからは闇ギルド構成員も襲ってくるつもりなのだろう。忍者感覚ニンジャ・センス全開で行くとしよう。



※※※あとがき※※※

久々の更新となってしまい、申し訳ございません! なのだ!

おかげさまで体調とメンタルは持ち直しました! やったね!

でも、ちょっとお仕事の用事が入ったので、更新ペースはそんなに上がらないです。ごめんね!

若さと無限の体力と最強のメンタルが欲しいのだ。


あとダンジョンスキルの募集をするのだ(考えるのにけっこう時間かかるので)

採用させていただくかどうかはわかりませんが、「こういうスキルどうよ!」ってのがあれば、ぜひコメントくださいませなのだ。


まだ当作品に☆☆☆の奴をやっていない方は、ぜひぜひ☆☆☆の奴をよろしくお願いいたしますなのだ!

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迷宮見廻りバズ・ニンジャ:横暴腹黒幼馴染配信者からクビにされた裏方モブ忍者が、ギャルのサムライに拾われて真の居場所を見つける話。 ヤマモトユウスケ @ryagiekuru

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