第5036異世界 教え子を聖女に育てました! でも、彼女はソッチ系? 私は違いますよ! 最終試験で明かされる彼女の正体は!



「クロガネ君は、攻撃魔法の才能がありません」


 私は、教師として、断腸の思いで、彼に最終通告をしました。



 王宮で、魔法の家庭教師をしている私は、銀髪令嬢のギンチヨです。


 クロガネ君は、黒髪に黒い瞳のイケメンで、私より少し年上のようです。


 王族であるため、攻撃魔法を鍛えるように王命があり、国王が私を雇いました。

 私は、教え子の才能を高めるエキスパートです。



 しかし、彼には才能が無いため、どうやっても、高位の攻撃魔法が発現できません。



「ギンチヨ先生、これまでの指導、ありがとうございました」


 最終試験に落ちた彼は、王宮を去るようです。


 彼の、裏表のない素直な性格、真摯に学ぶ姿勢は、好感の持てるものでした。


 この想い……私は、教師失格なのかもしれません。



    ◇



 翌日、新しい生徒のドロシー嬢が来ました。


 金髪に黒い瞳の、まぁまぁ美人で、胸が私よりも大きいです。



 早速、適性試験を行います。


「貴女の得意な魔法を見せて下さい」



「エキストラヒール!」


 彼女が詠唱を唱えると、見事に魔法陣が発現しました。



「素晴らしい」


 ドロシー嬢は、光魔法の才能があります。これは、貴重な人材を発見しました。


 という事は、彼女は聖女候補です。思わず、私も力が入ります。



「聖女様が見つかった!」


 ドロシー嬢の噂は、王宮を走り抜けました。



    ◇



 第二王子が、訓練の見学に来ました。


「ギンチヨ先生、今日も美しいですね。一緒に食事でもいかがですか」


 また、誘ってきました。この栗毛の色ボケ男が!



「王命による訓練中です、邪魔をしないで下さい」


 王命と言っておけば、第二王子でも無茶なことは出来ません。



「ドロシー嬢は、可愛い子ちゃんだね」


 彼女を毒牙にかける気ですか!


 でも、ドロシー嬢は、この色ボケ男に全く興味が無いようです。


 むしろ、私を異性として意識しているように見えます。まさか……



    ◇



 聖女を見出した功績が称えられ、私と第二王子が婚約すると噂になっています。


「ギンチヨ先生、良い返事を待ってるぜ」


 第二王子が来ましたが、無視します。


「可愛い子ちゃん、今度デートしようね」


 ドロシー嬢にも声をかけるのを忘れないのは、むしろ称賛に値すると、呆れるほどです。



「どうしようかな」

 第二王子との婚約は、名誉なことかもしれません。


「第二王子は浮気性ですよ! 婚約には反対です」

 ドロシー嬢は、婚約に反対してきます。


「そうですね、第二王子との婚約は、なんとか断ります」


 そう言いましたが、王族との婚約話を断ることは、普通はできません。


 久しぶりに実家へ顔を出して、お父様に頼んでも、無理でしょうね。



    ◇



 なぜか、翌日になると、私の婚約の話は消えていました。


「婚約が消えて良かったですね、ギンチヨ先生」

 ドロシー嬢が、話しかけてきました。


 彼女の赤い唇が、近づいて来ます。


「ちょっと待って、ドロシー!」

 彼女を手で押し返します。


「貴女に好意は持っていますが、女性同士のキスは、私にはできません」


 うゎ、びっくりしました。


 今、思わず、彼女とキスをしてしまいそうでした。



 …彼女の体は、筋肉質でたくましかったと、押し返した私の手が言っています。


 いけません、教え子に恋をすると、クロガネ君の時のように、別れがつらくなります。



「私は、ギンチヨ先生のことを……」


「それ以上は、言わないで」


「女性同士の恋愛は認めるけど、私は好きな男性がいるの、貴女の愛は受け入れられないの、解って」


 まだ心臓がドキドキしています。



 はぁ、クロガネ君は、今頃、何をしているのでしょうか。元気でいればいいのですが。


 この仕事はもうすぐ終わるので、彼を、探しに行ってみようかな。



「先生の好きな男性は、誰なんですか?」


「彼は、貴女の前に教えていた生徒なので、貴女の知らない男性よ」


 やっと、ドロシー嬢は、落ち着きを取り戻してくれました。



    ◇



 今日は、神殿で、ドロシー嬢が聖女となる最終試験を行います。


 国王と神殿長の前で、光魔法を披露します。


 国王は、私の雇い主ですが、初めて顔を見ました。


 パーティーに参加しない私は、第二王子以外に王族の顔を知りませんし、知りたいとも思いません。



「エキストラ・エリアヒール!」


 彼女の詠唱に従い、魔法陣が大きく広がり、部屋中に光の粒子が舞います。


「見事だ」


 国王は褒めてくれました。これで合格は間違いないでしょう。



「光魔法によって、ドロシー嬢は、本来の姿に戻ったようだ」


 国王が言います。


「え?」

 ドロシー嬢を見ます。



「クロガネ君?」


 ドロシー嬢の金髪は黒髪になり、胸のふくらみも無く、化粧も落ちて、クロガネ君になっています。


「だましていてゴメン。貴女と一緒にいたくて、ドロシー嬢に変装していたんだ」


 私の理解が追いつきません。


 ドロシー嬢は男? 聖女が男? クロガネ君は私と一緒にいたかったの? 彼は女性だったの?



「ギンチヨ先生、貴女を愛しています。この私と結婚して下さい」


 ここで告白ですか!



 少し時間をおいて、私は落ち着きを取り戻します。



「私は、男性に戻ったクロガネ君の愛を受け入れます」


 想い人と結ばれた、幸せな瞬間です。




「ギンチヨ嬢、彼はクロガネ君ではなく、私の息子、第一王子なので、クロガネ様と呼んでくれないかな?」


 え? 国王がスゴイことを言いました。


「貴女の正体も、侯爵家の“放浪令嬢”なのだろ?」


 私の素性も調べ上げていたようです。



 全ては、国王の手の上で踊らされていたようです。



━━ fin ━━



あとがき

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銀と黒の恋物語 ~異世界の数だけ愛をささやくオムニバス~ 甘い秋空 @Amai-Akisora

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