第3920異世界 詠唱できなくなった聖女の婚約破棄! ~婚約者の横に立つ妹の呪い! 進言した彼は悪役王子! 聖女と二人で平民落ち~



「ギンチヨ、聖女でない者と、婚約は出来ない、破棄だ」


 第一王子の非情な宣言が、パーティ会場に響きます。



 私はギンチヨ、学生ながら、銀髪の聖女として将来を期待された、侯爵令嬢です。


 でも突然、光魔法の詠唱を唱えられなくなりました。詠唱の時だけ声が出ないのです。


 原因は不明で、何かの呪いだと言われています。

 そのため、私は聖女から引きずり落とされました。


 呪いは、義妹の得意分野です。

 第一王子の横に立つ令嬢が、私の義妹です。


「私は、この侯爵令嬢と婚約する」

 彼は、義妹との婚約を宣言しました。


「侯爵家は、このギンチヨを追放しろ、いいな」

 あぁ、私は家を追い出されるのですね。



「兄上、事を急ぎすぎです。もう少し、状況と原因を調査してからでも、遅くはないはずです」


 第二王子のクロガネ様が進言しました。


「お前は、私の新しい婚約者を侮辱するのか!」

 第一王子の思考には、冷静さの欠片もありません。


「お前のような悪役王子も、追放だ!」

 感情に任せて宣言しました。もう誰にも止められません。


 会場は、静粛に包まれました。




    ◇




 学園の方は、私財を売って続けることにしました。

 ここは平民学生寮の玄関です。今日、私は、平民学生寮への引っ越しです。


 もう一人、引っ越しをしている黒髪の男性と一緒になりました。


「あれ? クロガネ様」

 男性は、追放された第二王子です。


「よぉ、ギンチヨ、奇遇だな」

 緊張感のない挨拶です。


「ずいぶんと軽い感じになりましたね?」


「まぁ、悪役王子らしくしないとな」

 黒髪に、白い歯を輝かせ、彼は笑いました。第二王子の時には見せなかった笑顔です。


「じゃ、クロガネ君。もしかして、保証人は王弟陛下ですか」


「あぁ、ギンチヨもか」


 平民が学園に籍を置くには、保証人が必要です。追放された身で、保証人が見つからなかったのですが、王弟陛下が引き受けてくれました。



    ◇



 お昼休みの教室です。


 平民となった私たち二人は、机を最後尾に移されました。どうも、さらし者にならないようにと、教師が気を使ってくれたようです。


「困りました、伯爵家の令息様と、婚約するよう話が来ました」

 隣のクロガネ君に相談しました。


「俺には、対抗する伯爵家の令嬢と、婚約するよう話が来た」


 彼にもですか。


「困りましたね、令息様と令嬢様は、学園内で恋仲になっているのですよね」


「あぁ、親の伯爵同士は、犬猿の仲なのにな」



 その時、なにやら学園内が騒がしくなってきました。


「大変だ! 王都に魔物が入り込んだ」

「討伐に行った第一王子を追って来たようだ」

「討伐に失敗したのか」

「学園を避難場所に使うぞ」


 怒号が飛び交っています。


「ギンチヨはケガ人を看てくれ」

「クロガネ君は?」


「魔物を討伐する」

「危険です」


 忠告を聞かず、彼は走り出しています。


    ◇


 魔物は、クロガネ君が、騎士たちのバラバラな陣形を立て直し、討伐できました。


 しかし、彼は大ケガを負ってしまいました。


 学園に運び込まれた彼の前で、私は不思議と落ち着いています。


 聖女だったころの教育が役立っています。


「呪い…無理するな……」

 息も絶え絶えなのに、私を気遣うクロガネ君を……


「ありがとう、詠唱を唱えられないなら、唱えなければいいのです」


 無詠唱エキストラヒール!


 勢いで発動させましたが、意外と出来るものなんですね……



「あれ、キズが治った」

「ギンチヨは、大聖女なのか?」


 クロガネ君が、治癒しました。


「そんなわけ、ないじゃない」



 クロガネ君を想って治癒を願ったら、詠唱を唱えなくても術が発動したなんて、言えるわけないです。




    ◇




 聖女の力を取り戻した私は、もう無双状態です。



 伯爵家の令息と令嬢を冬眠状態にして、ベッドに寝かせました。


 そこに両家の親を呼び、クロガネ君が演説をぶちます。


「貴方たちは、心中した二人を見て、なんとも思わないのか!」


 久しぶりに王族のオーラというものを見ました。


「この二人の結婚を認めなさい!」


 クライマックスです。改心した伯爵が、泣きながら両手で握手を交わします。


「奇跡だ! 親の愛で、二人が目を覚ました」

 そっと、冬眠の術を解きました。



 クロガネ君、少し芝居っぽいですが、いや、もともと芝居でしたね。


 これで、令息と令嬢の恋が実り、私たちもフリーに戻りました。


 めでたし、めでたし……いや、まだザマァしてません。




    ◇




 増税と、魔物襲来からの復興とで国民が苦しむ中、第一王子の戴冠式が盛大に行われました、


 第一王子は国王となり、わがまま放題で、快楽におぼれていると聞きます。


 義妹も王妃となり、散財と浮気を繰り返してると聞きます。



「伯爵たちが協力して、クーデターを起こした!」

 急な話です。


「国王と王妃を牢に閉じこめた」

「王弟陛下の力添えがあったようだ」

「前の国王と王妃も捕らえたようだ」


 喧騒の中、クーデターは成功しました。


 私は、学園にいましたが、王宮に来てケガ人を治してくれと、王弟陛下から命令がありました。


 私は平民であり、王宮に入ることは出来ませんし、聖女としての治癒も公には出来ませんが、緊急事態なので、すぐ来いとのことでした。



    ◇



 ケガは大したものではなく、すぐに治りました。


 魔法を発動するとき、クロガネ君を想うのは、ちょっと恥ずかしいです。


 治療が終わったタイミングで、王弟陛下から呼びだされました。



「あれ? クロガネ君」

「よぉ、ギンチヨ」

 部屋には、王弟陛下と、あの伯爵様たちもいました。



「クーデターの成功は知っているな」

 王弟陛下が話し始めました。


 国民の幸せを考えて決起したこと、国民は希望の星となる人物を求めていること、自分は国王にならないことの説明がありました。


「それと私たちに、どんな関係があるのですか?」

 素朴な疑問を投げかけました。


 王弟陛下は、以前から、今回のことを予見していた感じがします。



「クロガネには国王になってもらい、ギンチヨには聖女になってもらう。これは貴族院の総意だ」


 王弟陛下の言葉は、予想していましたが、やはり驚きです。


「拝命いたします」

 クロガネ君、いや、クロガネ様が受けました。


「承知しました」

 彼が受けるなら、私も受けます。



「二人の最初の仕事は、国王となった第一王子たちの処刑への署名になるだろう」


 私たちを追放したことへの報復、国政への不満を静めること、そして、私たちの復帰を国内外へ知らしめる王弟陛下の策ですね。




「そして、二人には夫婦となってもらう」

 は? 王弟陛下、何を言っているのですか。


「その指示には従えません」


 クロガネ様、その返事は意外でした。とても悲しいです。期待した私の気持ちが一気に沈みました。



「結婚は、自分の意思で行います」


「ギンチヨ嬢、俺と結婚してくれ」

 え? クロガネ様が、私の前で片ヒザをつきました。


 私は、声が出ません。

 ひざまずいて、クロガネ様の手を握ります。


「幸せにするから」


 クロガネ様の声に、これまで苦労してきた思いが加わり、私の目から涙があふれ出ました。




━━ fin ━━



あとがき

 最後まで読んでいただきありがとうございました。

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