第13話 幻想を持ち続けるために

 なぜなのか自分でもはっきりしないけど、もう六本足の歩道橋のすぐ下に海の波間を見ることはなくなった。もっとも、今までだってそんなにちょくちょく見られた訳ではないのだ。


 陸の海には結局、波打ち際に立てただけで海水に触れる事はついに無かった。

 でも、そんなものなのかもしれない。それでも私は生活を続けられるのだから、困る事は無いのだから、それでも良いのだろう。おそらくは。


 嬉しいのは波打ち際にすら行けなくなったけど、私は水平線をよく見るようになった。

 なぜか曇り空の日に多い。理由はおそらく永遠に分からないと思う。

 

 陸の海は遠い存在になってしまったけれど、だからこそ、より心惹かれる。

 長く憧れられる存在を私は手に入れたのかもしれなかった。


 幻想を遠い憧れに変えられた私は幸せなのかもしれなかった。

                 終

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

波打ち際幻想 肥後妙子 @higotaeko

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ