破戒僧「覚超」物の怪退治 分冊版2

Danzig

第1話

破戒僧覚超の物の怪退治 2


物の怪退治に向かう覚超と朱火狐(あかね)


朱火狐:ところでよ、覚超(かくちょう)


覚超:ん? 如何(いかが)した、朱火狐(あかね)


朱火狐:今回の物の怪退治(たいじ)って、どこまで行くんだよ


覚超:うむ

覚超:先日、お主の夜伽(よとぎ)をした娘がおったであろう


朱火狐:おいおい

朱火狐:夜伽(よとぎ)とか言うなよ、気持ち悪い

朱火狐:思い出しただけでも、吐き気がするわ


覚超:ははは、それは難儀(なんぎ)だったな


朱火狐:何言ってやがる、お前のせいじぇねぇか


覚超:はて、そうであったか


朱火狐:ったく、とぼけやがって・・・

朱火狐:で、その娘がどうした


覚超:娘の名はお千代と言うてな


覚超:そのお千代の村の、峠(とうげ)まで行くんじゃよ


朱火狐:そんな事は、分かってんだよ


覚超:なんじゃ、知っておるではないか


朱火狐:俺も、その場にいただろうが

朱火狐:俺が聞いてるのは、その娘の村は、何処(どこ)なんだって話をしてんだよ


覚超:そういう話であったか

覚超:確か、お千代の村は三条(さんじょう)の辺りだと言うておったな


朱火狐:三条?

朱火狐:その辺りに物の怪なんていたか?


覚超:一年程前から、出るようになったと、言うておったな


朱火狐:新しく生まれた物の怪か・・・


覚超:さて、どうであろうな

覚超:まぁ、何にせよ、歯ごたえがある奴じゃと、良いのじゃがな

覚超:のう、朱火狐(あかね)

覚超:お主もそう思うじゃろ


朱火狐:思わねぇよ

朱火狐:退治するなら、さっさと殺(や)っちまうに、越(こ)したことはないだろ


覚超:それでは、面白味がなかろうて


朱火狐:物の怪と戦(や)るのに、面白味なんざ、いらねぇんだよ、この戦狂(いくさぐる)いが


覚超:ははは


朱火狐:おい、覚超(かくちょう)

朱火狐:お前、長く闘(たたか)いたいからって、手加減(てかげん)なんか、するんじゃねぇぞ


覚超:ところで朱火狐(あかね)


朱火狐:人の話を聞けよ!


覚超:お主は、何故、まだ女性(にょしょう)の恰好をしておるのだ?

覚超:その姿では、歩き辛(づら)かろうに


朱火狐:こんな朝っぱらから、物の怪の恰好で、道を歩けるわけねぇだろ!

朱火狐:誰に見れらるかも、分からんのに


覚超:そういうものか?

覚超:物の怪も難儀(なんぎ)な、ものよのう


朱火狐:何言ってやがる、お前の為だろうが!


覚超:拙僧のか?


朱火狐:そうだよ

朱火狐:物の怪と一緒に歩いてたら、お前が怪しまれるだろ


覚超:ははは、そうか、そうか

覚超:それは、すまんな


朱火狐:ったく、面倒な奴だな


覚超:朱火狐(あかね)、そろそろ三条に入る頃だぞ


朱火狐:そうか・・・

朱火狐:しかし、特に、物の怪の気配はないがな


覚超:そうよのぉ

覚超:その辺りでないとすると

覚超:物の怪が出るのは、向こうに見える、あの峠あたりか・・・


朱火狐:まぁ、どのみち、行ってみるしかないな


覚超:あぁ・・・


二人でしばらく歩く

しばらくして、物の怪が出るという峠にさしかかる


朱火狐:そういえば、覚超


覚超:ん?

覚超:なんじゃ


朱火狐:どうしてお前、坊主の恰好なんかしてるんだ?

朱火狐:お前、侍(さむらい)じゃなかったのかよ?


覚超:侍(さむらい)か・・・

覚超:そういう時もあったかのう


朱火狐:出家(しゅっけ)でもしたのか?


覚超:いや、出家はしておらんよ

覚超:ただ、髷(まげ)を結(ゆ)うのが、面倒(めんどう)になってな


朱火狐:なんだ、そんな事で坊主になったのか


覚超:そんな事というがな、朱火狐(あかね)

覚超:髷(まげ)を綺麗(きれい)に保つのは意外と面倒(めんどう)なのだぞ

覚超:坊主頭(ぼうずあたま)にしておる方が、何かと楽なのでな


朱火狐:そういうのは、人間の嗜(たしな)みっていうんじゃないのか? 

朱火狐:やっぱり「そんな事」じゃねぇか


覚超:いやいや、それだけではないぞ

覚超:どうせなら、法力が使えるようになれば、とは思ったのだ


朱火狐:で、法力は使えるように、なったのか?


覚超:まぁ、そっちの方はな

覚超:形姿(なりかたち)を真似(まね)るだけではダメだったわ


朱火狐:ケッ

朱火狐:当たり前だろ、そんな事。

朱火狐:服を着替えるだけで、法力が使えるなら

朱火狐:坊主は修行なんざ、しねぇだろ


覚超:まったくだな、はははは



朱火狐が何かに気づく


朱火狐:覚超・・・


覚超:あぁ、分かっておる


朱火狐:身は隠しても、殺気を隠す気はなさそうだな・・・・


覚超:これほど、剥(む)き出しの殺気とは

覚超:あまり、頭の良い「物の怪」では無さそうじゃな


朱火狐:それか、お前のような、戦狂(いくさぐる)いかだな


覚超:ほう、それは腕が鳴るのう


朱火狐:呑気(のんき)な事言ってんじゃねぇよ

朱火狐:並(な)みの殺気じゃねぇぞ


覚超:あぁ、それも分かっておる


朱火狐:ふぅ・・・

朱火狐:よっと


朱火狐が火狐(かこ)にもどる

覚超は時雨烏(しぐれがらす)に手をかける


覚超:火狐(かこ)、さすがに、朱火狐(あかね)の姿では戦えぬか


朱火狐:当たり前だろ!

朱火狐:俺は戦いを楽しむ趣味はないんでね

朱火狐:さっさと片付(かたづ)けるぞ


覚超:なんじゃ・・・つまらん奴じゃな


朱火狐:放(ほ)っとけ


覚超:さて、向こうが、どう出るか・・・


朱火狐:隠れてるなら、引きずり出せばいいだろう


誰もいない場所に向かって火狐(かこ)が叫ぶ


朱火狐:おい、隠れてねぇで出て来いよ


覚超:出て来ぬな・・・


朱火狐:引きずり出せばいいって言ったろ

朱火狐:そこか!

朱火狐:火吹(ひぶ)き

朱火狐:はぁーー! 


火狐(かこ)が火を噴く


妖怪:「キキー」


朱火狐:ほら、お出ましだ


妖怪:「キーーー」


覚超:ほう、身体(からだ)は蜘蛛(くも)、

覚超:その蜘蛛の頭にヒヒの胴(どう)がついておるのか

覚超:変わった鵺(ぬえ)じゃな


朱火狐:あぁ、俺も聞いた事がないな

朱火狐:新しく生まれた物の怪か


覚超:ふふふ

覚超:知らぬ相手というのは、心躍(こころおど)るな


朱火狐:おい、覚超

朱火狐:くれぐれも、変な気は起こすなよ


覚超:見たところ、妖術はなさそうじゃな


朱火狐:だから、人の話を聞けって!


覚超:であれば・・・


覚超が刀を抜いて妖怪に近づく


朱火狐:おい、覚超

朱火狐:そんな不用意(ふようい)に近づくな、危ねぇぞ


覚超:さぁ、来い!


妖怪:「キーーーー」


妖怪が、振り上げた腕を覚超に向けて振り下ろす


覚超:ぐはっ


数メートル後ろの木まで飛ばされる


朱火狐:おい

朱火狐:何、いきなり食らってんだよ、不用意にも程があるだろ


覚超:あたたたた


朱火狐:何やってんだよ

朱火狐:あんなもん、お前なら、かわせただろうが


覚超:いや、何

覚超:初めての相手なのでな

覚超:この物の怪の力が如何(いか)程のものか

覚超:受けてみたかったのよ


朱火狐:どれだけバカなんだよ、この戦狂いが

朱火狐:初見殺(しょけんごろ)しだったら、どうするつもりだったんだ


覚超:ははは、

覚超:その時は、その時

覚超:その方が面白かろうて


朱火狐:本当に狂ってるな


覚超:なぁに、妖術(ようじゅつ)の類(たぐい)は、無さそうだったのでな

覚超:死にはせんだろ


覚超:にしても・・・


朱火狐:あぁ、こいつ、強いな


覚超:あぁ、面白いのう


朱火狐:ったく、

朱火狐:付き合う、こっちの身にも、なって欲しいもんだぜ


覚超:さて、相手の力も分かったところで

覚超:そろそろ真面目にやるとするかな


朱火狐:最初から真面目にやれよ


覚超:こういう性分なのでな


朱火狐:ふっ

朱火狐:まぁいいさ

朱火狐:さっさと、こいつを片づけるぞ

朱火狐:妖術(ようじゅつ)がないのなら、幾(いく)ら力が強くても・・・


覚超:あぁ、所詮、ヒヒの知恵じゃろうて

覚超:たかが知れとるわ


朱火狐:そうだな、

朱火狐:さぁ、いくぞ

朱火狐:火吹(ひぶ)き

朱火狐:はぁーー! 


覚超:正眼中乱破(せいがん ちゅうらんぱ)

覚超:せりゃ


妖怪:キーーー


妖怪が振り返り、去ろうとする


朱火狐:なんだ・・逃げる・・・のか


覚超:チッ、逃がすか


覚超が妖怪を追おうとする


朱火狐:おい覚超、待て、早まるな


覚超:まて、物の怪


妖怪の尻から糸の玉が飛んできて、覚超の顔にあたる


妖怪:「キーーー」


覚超:ぐわっ


妖怪:キキキッ


喜ぶ妖怪


朱火狐:チッ

朱火狐:だから、待てって言ったろ

朱火狐:もろ、初見殺(しょけんごろ)しじゃぁねぇか


覚超:くっ、糸が顔に・・・

覚超:背を向けて逃げると見せかけ、尻から糸を玉のように飛ばしすとは

覚超:ヒヒにばかり目を取られて、身体が蜘蛛(くも)だという事を忘れておったわ


朱火狐:大丈夫か、覚超


覚超:糸が粘(ねば)ついて取れそうにない

覚超:息は出来るが、目は開けられんな・・・


朱火狐:気をつけろ

朱火狐:また、来るぞ


覚超:くそ、このままでは・・・


妖怪が覚超を襲う


朱火狐:ったく・・・

朱火狐:朱炎爆(しゅえんばく)!


妖怪の前で炎が爆発し、妖怪が飛ばされる


朱火狐:おい、おい、なめるなよ、若いの

朱火狐:幾(いく)ら、バカを騙(だま)せたからって

朱火狐:その程度で、いい気になられちゃ困るんだよ


朱火狐:覚超、まだ出来るな?


覚超:あぁ、無論(むろん)だ


覚超が刀を鞘に納めて、居合の構えをとる


朱火狐:さて、今度は俺が相手だ

朱火狐:来な



ヒヒは朱火狐ではなく、覚超を襲おうとする


朱火狐:なにっ・・・

朱火狐:そっちへ行ったぞ、覚超、左だ!


覚超:ん・・・はっ

覚超:岩浪発破(いわなみはっぱ)


妖怪:キーーーー


深い傷を負う妖怪


朱火狐:バカだと思ってったが、

朱火狐:手負(てお)いの方を襲(おそ)う程度の、知恵はあるようだな


覚超:あぁ、じゃが、相手が悪かったな

覚超:目が見えなくなった程度では、拙僧は殺せんよ


朱火狐:おい、もう終わらせるぞ


覚超:ちと残念じゃが、いた仕方がない


朱火狐:ったく、その態(な)りで

朱火狐:よくそんな口が利けるな


朱火狐:まぁいい、

朱火狐:覚超、お前、目が見えなくても

朱火狐:俺の後(あと)からなら行けるな


覚超:あぁ、問題ない


朱火狐:よし・・・

朱火狐:行くぞ


朱火狐:はーーーーー

朱火狐:食らえ

朱火狐:蒼雷火炎車駕(そうらい かえん しゃが)


覚超:ふん!

覚超:これで終(しま)いじゃ物の怪

覚超:夢想霞時雨(むそう かすみしぐれ)

覚超:そりゃーー


妖怪:キーーーー


妖怪が絶命する


朱火狐:ふー、これで仕留めたな


覚超:あぁ、そのようじゃな


朱火狐:やれやれ、

朱火狐:だいたい、お前がバカな事をしなかったら、

朱火狐:もっと早く終われたんだ


覚超:まぁ、そう言うでない

覚超:面白かったではないか

覚超:

朱火狐:面白かねぇよ、これだから戦狂(いくさぐる)いは・・・


覚超:そうか・・ん・・・

覚超:拙僧(せっそう)は・・ん・・・

覚超:結構(けっこう)・・・


朱火狐:なにやってんだよ、お前


覚超:糸が粘(ねば)ついてな・・・取れんのじゃ

覚超:物の怪が死んでも、この糸はなくならないのだな・・・


朱火狐:まぁ、その糸は妖術じゃねぇかならなぁ

朱火狐:俺が焼いてやろうか、その糸


覚超:そんな事したら、顔も焼けてしまうであろうが

覚超:澤(さわ)で目を濯(そそ)げば、取れるじゃろうて

覚超:火狐(かこ)、すまぬが、拙僧(せっそう)を澤まで連れて行ってくれぬか・・・


朱火狐:ったく、世話が焼ける奴だな・・・


沢まで下りて、水で目を洗う覚超


覚超:ふー

覚超:おお、取れた、取れた


朱火狐:で、これからお前は、どうすんだよ


覚超:お千代の村にいって、物の怪を退治した事を知らせてやらぬとな


朱火狐:あぁ、そうかい

朱火狐:じゃぁ、俺はこれで帰るとするか


覚超:まぁ、待て、火狐(かこ)


朱火狐:なんだよ


覚超:村まで、お主も一緒に付いてまいれ


朱火狐:どうして、俺が一緒に行かなきゃいけないんだよ


覚超:物の怪退治の謝礼として、酒が飲めるやもしれんぞ


朱火狐:酒か・・・久しぶりだな


覚超:ははは、今宵(こよい)は宴(うたげ)になるとよいな

覚超:物の怪退治の後の酒は、美味いからな

覚超:今から楽しみじゃて

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