私用電話(男女サシ編)

Danzig

第1話

私用電話



トゥルルルル

電話が鳴る


女:はい、山本物産でございます。


男:あ、あの・・・私、長谷川と申しますが、

男:営業3課の伊東ゆかりさん、お願いできますでしょうか?


心:あぁぁ、たかしだ! 

心:今日は上司がいる日だから、私用電話はかけて来ないでって、あれほど言ったのに


女:はい、いつもお世話になっております

女:そのご用件でしたら、私、伊東が承り(うけたまわり)ます


男:あ、なんだ、ゆかり?

男:俺、たかしだよ、わかる?


心:わかってるわよ、そんな事。 

心:どうして、よりによって、今日電話なんてかけてくるのよ!


女:はい、その件につきましては、承知しております


男:ははは、何だよゆかり、

男:何かしこまっちゃってるの?


心:何って、

心:上司がいるからに決まってるでしょ!

心:もう、気付いてよ、たかし


女:ははは、特に、そんな事はございませんよ


男:そう? 

男:なんか、いつものゆかりと雰囲気が違う気がしたけど、

男:俺の気のせいか、ははは


心:ちょ・・・

心:気付くでしょ普通! 

心:鈍感にも程があるわよ。

心:もう・・・上司のいるところで彼氏と、こんな電話なんて

心:何プレイなのよこれは!


女:そんな事もございませんよ。 ほほほ


男:そっか、ならいいんだけどさ


男:そうそう、今日電話したのはさ・・・


心:何? どうしたの? 急に深刻な声だしちゃって


女:お客様、如何(いかが)いたしましたでしょうか?


男:うん・・・

男:実は俺さ・・・


心:え!、何?何?


男:この前ゆかりと話してた時、俺、酔っ払ってたじゃん


心:あぁ、あの時の・・・・


女:その件でございますか


男:俺、その時、ゆかりに変な事言っちゃったかなぁと思ってさ


心:そういえば、言ってたわね


女:はい、存(ぞん)じ上げております


男:それで俺、ゆかりに嫌われちゃったんじゃないかって、

男:すげー不安になっちゃってさ


心:な~んだ、そんな事か

心:もう、たかしったら考えすぎよ

心:びっくりしたじゃない


女:あぁ、左様(さよう)でございましたか


男:俺、あれから色々考えちゃってさ、

男:眠れなかったんだ


心:フフフ、バカねぇ、たかしったら、

心:でも、そんな所が可愛いわよ


女:フフ、バ・・・あ・・・それはご不安でしたね


男:それで俺、気付いたんだよ。

男:俺って、スゲーゆかりの事、愛してるって


心:キャー! うれしい♪


女:はい、ありがとうございます


男:でも、ゆかり・・・・

男:俺はお前の事、愛してるけど、

男:お前は俺の事、嫌いになってない?


心:そ、そんな訳ないじゃない


女:はは、とんでもございません、

女:そんな事はございませんよ


男:ほんと!

男:あぁ、よかった


心:フフフ、たかしったら、可愛い


女:それは、何よりでございました


男:じゃさ、ゆかり

男:俺の事、愛してる?


心:そりゃ、もちろん!


女:はい、左様でございますよ


男:じゃ俺の事、『愛してる』って言ってくれよ。


女:えっ!!


男:俺、不安なんだよ

男:今直ぐ聞きたいんだ、お前の口から

男:俺の事、愛してるって


心:何言ってんのよ、今言える訳ないじゃない。

心:上司がいるのよ、気付いてよ、たかし


女:あの・・・そう、仰られましても・・・・


心:お願い・・・・

心:たかし、気付いてよ~


男:あぁ、そうか・・・


心:ふぅ、気づいてくれたのね、たかし


女:ありがとうございます


男:やっぱり、そうだよね


心:そうよ、そう。 

心:仕事が終わったらゆっくり話をしましょね♪


女:そうですね


男:やっぱり、ゆかり・・・・・

男:俺の事嫌いになっちゃったんだな


心:な、なんでそうなるのよ! 

心:そんな訳ないじゃないの!


女:あの・・お客様!

女:そ、そんな事はございませんよ


男:でも、やっぱり言ってくれないんだから

男:そう思うのが普通でしょ


心:違うのよ、たかし! 

心:今言えないだけなのよ、今


女:いや・・・あの・・・客様・・

女:そうではなくてですね・・・


男:じゃ、なんで愛してるって言ってくれないんだよ


心:だから、今は上司がいるから言えないんだって・・・・


女:弊社の営業時間は午後5時までとなっておりまして・・・


心:仕事が終わったら、いくらでも言ってあげるから・・・


男:そっか・・・そうだよな・・・・


心:そうなの、たかしごめんね


女:ご理解いただけましたか?


男:もういいんだ、ゆかり・・・

男:困らせちゃってゴメンな


心:ゴメンね、たかし、今は我慢して、

心:仕事終わったら、すぐに電話するから


女:お客様、本当に申し訳ございません


男:俺なんかがいたら迷惑みたいだから、俺、ゆかりの事・・・諦めるよ


女:お客さま?


男:今までありがとう、ゆかり

男:変な電話かけちゃって、ゴメンな

男:さようなら


心:な・・・


女:なんでそうなるのよ!

女:私だって、たかしの事、ちゃんと愛してるわよ!

女:仕事終わったら電話するから、待っててよ!



ガチャン!

強く電話を切る


女:ったく・・・世話の焼ける・・・

女:はっ!



上司と目があい、

今の状況に気付くゆかり


女:いや・・・課長・・・

女:あ・・・・あの・・・・・

女:その・・・・つまり・・・

女:こ、これは・・・

女:い、悪戯電話だったんです!

女:ははは・・・

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

私用電話(男女サシ編) Danzig @Danzig999

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説