フランチャイズだった地球
帆尊歩
第1話
「大気汚染の数値は?」重厚な机に座った男が、横に立つ中年男性に尋ねた。
「大分基準値を下げることが出来ました。大統領」エリート然としたその男性は、完結に答える。
「温暖化の状況は?」
「この調子なら、今年がマックスで、今後は下げていけそうです。ただかなり時間は掛かりそうです」
「人口問題と貧困、全て物の格差は?」
「まだまだですが、システムは稼働し始めました。こちらもまだまだ時間は掛かると思いますが、何とか方向性は見つけられました。ここから始まったと言うレベルですが、確実に今の政策を続ければ、目標は達成出来ます」男性は誇らしげに報告してい行く。
「そうか。これを報告すれば、何とかなりそうだな」大統領は独り言のようにつぶやいた。
「報告?民衆に対してですか?」
「あっいや、ありがとう。これも君が連邦議長として、私を支えてくれたからだよ。君はまだ議員の中では若い方だ。そこで文句を言う者も少なくはなかったが、私の判断は正しかったと思うよ」
「恐れいります。ならば、今だから言いますが、大統領が今回の事を言い出した時、そんな荒唐無稽なことが出来るはずがないと思っていました」
「そうなのか」大統領は楽しそうに言う。
「そうですよ。地球環境を劇的に変えなければならない。そう声を上げて、各国を説き伏せ、連邦政府を立ち上げて、全人類を巻き込み、地球環境の改善に乗り出した。あなたは誰がなんと言おうと、英雄です」
「ありがとう」
「報告は、以上でございます。よろしくご判断をお願いします」と大きな会議室で、大統領は深々と頭を下げた。
「その前に質問はよろしいかな」と業務部長が、これ見よがしに質問をした。これは台本どおりだった。
「もちろんでございます、業務部長」業務部長とは完全に利害が一致している。上司部下の関係ではないが。仕事の事を考えると完全に、上司だった。この会議室では唯一の仲間だ。
「この劇的改善は、どうしました」
「はい報告書にも書きましたが、まず連邦政府を樹立して、権限を集中しました。その上で、各プロジェクトリーダを選出、競わせる形で数値目標の達成を進捗管理しました。でも一番の功労者は民衆です。ここがやる気にならなければ、どうにもなりませんでした」
「うん、なるほどね。あっ、大統領、今のうちに一つ詫びを言わなければならない」
「なんでございましょう、業務部長」こちらも台本通りだった。
「地球のフランチャイズ契約の破棄、閉店をちらつかせてしまった事は謝る。君を脅すつもりはなかったんだ」業務部長はちらっと専務の方を見る。専務はフランチャイズ管理運営担当役員だ。
「そこからは、私に話させてくれ。いいかな、業務部長」
「専務、もちろんでございます」
「大統領、業務部長を許してやってくれ。みんな私の意を汲んでのことだ。しかし、地球がフランチャイズ契約破棄、閉店のリストに上がっていたことは事実だ」
「はい、それは重々」
「そこで、今回の改善を踏まえて、フランチャイズ契約破棄、閉店のリストから地球を外すことを提案する。いかがでしょう社長」とさらに奥に座る社長に専務が問う。
「管理統括の責任者の君がそう判断するなら、私からは言うことはない」その言葉に一番に反応したのは、業務部長だった。
「本当ですか。社長、専務、ありがとうございます。良かったな、大統領。これで地球は救われたぞ。よくやった」
「ありがとうございます。これもみんな業務部長のおかげです」
「いやいや。君の並々ならぬ熱意のたまものだよ。良かった」
「大統領、良いかな」一番奥の男性が口を開く。
「はい、社長」
「地球同様、フランチャイズ契約破棄、閉店リストに入っている惑星が百三十五あるんだ」
「はい」
「そこで君のノウハウを、水平展開してもらえないだろうか。無論、君のノウハウを使わせてもらうのだから、フランチャイズ料などの引き下げには応じるつもりだ」
「分りました」
「そうかそうか、やってくれるか。ありがとう」
業務部長が大統領の腕を掴んで、会議室の外に出た。
「君は、バカか。わざわざ他の地区の惑星を助けるような約束をして」
「業務部長、大丈夫ですよ。ノウハウを教えられて出来るなら、苦労はありません。むしろ私からしたら教えてやるけど、出来るものならやってみろって感じですから」
「まあ、たしかにそうだな。いきなり連邦政府なんて作れない。まして権限の集中と委譲。こんなことは君にしか出来っこない」
「それに、それでフランチャイズ料の引き下げが出来るなら、こんな良いことはありません。引き下げの交渉よろしくお願いしますよ、業務部長」
「ああ、わかった。本部負担が減れば、我が地区の利益率が上がるからな」
「はい、よろしくお願いします」
フランチャイズだった地球 帆尊歩 @hosonayumu
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