みにくい白鳥の子
有理
みにくい白鳥の子
「みにくい白鳥の子」
洞木まりあ(うつぎ まりあ)
夕季あいり(ゆうき あいり)
桑原花(くわはら はな)
平良司(たいら つかさ)
今永貴之(いまなが たかゆき)
※兼役あり
×××途中、まりあ・あいり表記に変わります。
その際役を入れ替えるとまた解釈が変わります。
お好きなように遊んでください
………………………………………………
司「仕方ないよ。」
花「だって、あいつはアヒルの子だから。」
貴之「命の重さは同じだろう」
司「そうかな。」
花「違うよ。」
花「美しい白鳥と醜いアヒルが同じ価値なわけない」
貴之「変なのは、お前らだろ」
花「ほら、もう一回。白鳥が来るまでにもう一回。」
貴之「やめ、」
まりあN「焼け焦げた爪のにおいがする。」
司・花「ほら」
まりあN「もう一度手を振り上げて、」
貴之「…っ!」
まりあN「歓声を浴びるのは」
あいり(たいとるこーる)「みにくい白鳥の子」
……………………………………………………
食堂
男性客(今永役)「なあ、今回の公演。見にいけた?」
女性客(桑原役)「昨日行ったの!その日しか空いてなくって!」
男性客「まじか!俺買えなかったんだ。どうだった?」
女性客「めちゃくちゃよかった!相変わらず綺麗だし演技も完璧だし!」
男性客「洞木?」
女性客「そう!マリア様よ!」
男性客「見損ねたなあ。でも、そろそろ本格的に芸能活動増えるのかな。」
女性客「そうよね。そしたらこんな大学の公演なんて出なくなっちゃうわよね。」
男性客「次こそ買わなきゃだわ。」
女性客「私ツテあるから買ってあげようか?」
男性客「え?まじで?誰?」
女性客「同じ演劇サークルの、」
席を立つ夕季。
女性客「あ、ゆうきー」
夕季「あ、あの」
女性客「今度の公演もチケット押さえてくれる?今のところ5枚」
夕季「ま、まだ、公演日もなにも決まってなくて、」
女性客「押さえてって言ってんの。」
夕季「あ、規模もわかんないから先に押さえたりは、」
女性客「押さえてって言ってんの。聞こえない?」
夕季「…は、はい。」
女性客「よろしくねー。」
そそくさと立ち去る夕季。
男性客「誰?」
女性客「夕季あいり。知らない?出てんじゃん公演」
男性客「え?知らない。初めて見た顔。」
女性客「一個前の灰かぶり姫にもでてたよ?」
男性客「へー。チケットくれるの?あいつ」
女性客「何枚かは押さえてくれるよー。あいつ友達いないからさ手持ち分のチケット余ってんのよ。多分。」
男性客「そうなんだ。おかげで次の販売は並ばなくていいな。」
女性客「感謝してよね?あいつの相手私がしてんだからさ。」
男性客「ひどい言いようだなあ。」
夕季N「私の居場所はこの世界にはなかった。生まれた時からずっと。でも」
洞木「あいり!」
女性客「あ、マリア様よ!」
男性客「うわ、本当だ!」
洞木「稽古、始まるわよ?」
夕季「う、うん。」
洞木「ほら!背筋伸ばして歩きなさい?猫背なんだから!舞台映えしないじゃないの!」
夕季「あ、う、うん」
男性客「…まじで美人だよな…」
女性客「本当よ、本当に、マリア様だわ…」
夕季N「彼女が、私に生きる世界を与えてくれた。」
…………………………………………………
桑原「お疲れー!」
平良「おー。」
桑原「あれ?まりあちゃんは?」
平良「まだ来てない。」
桑原「ふーん。」
平良「…昨日。」
桑原「何?」
平良「怒鳴って悪かった。」
桑原「…。」
平良「ごめん。」
桑原「…ここじゃ内緒なんじゃなかったの?」
平良「俺らしかいないし。」
桑原「…ふーん。」
平良「お前が今永と仲良さそうにしてるの見たら、むしゃくしゃして。…ごめん。」
桑原「パイプ」
平良「は?」
桑原「パイプ、必要でしょ?」
平良「なんの?」
桑原「台本!書いてもらわなきゃだし。前回の公演も今永くんが台本くれたんじゃん。面白かったでしょ?」
平良「そうだけど、」
桑原「私達じゃ頑張っても他の舞台の模倣くらいしかできないんだしさ。あと何回公演できるか分かんないし、うーんと面白い舞台やりたいの。」
平良「…」
桑原「話題になれば、まりあちゃん、いい事務所からスカウトされるかもだしさ。」
平良「…まあ。」
桑原「司。何のために演劇やってるか忘れたの?」
平良「いや。」
桑原「ね?」
平良「…うん。」
桑原「それに。今永くんは私になんて興味ないよ。」
平良「それは分からないだろ。」
桑原「私聞いちゃったもん!経済学科の潮見さん!」
平良「潮見?」
桑原「そ。ずいぶん片想いしてるんだってさ!」
平良「へー。」
桑原「だから。大丈夫。」
平良「…わかったよ。」
洞木「お疲れー。」
桑原「あ!まりあちゃん!お疲れ様!」
平良「お疲れ。」
洞木「ほら、クーラー効いてんだから早く入って」
夕季「ご、ごめん、」
桑原「…夕季と来たんだ。」
洞木「食堂で会ったの。」
桑原「ふーん。」
洞木「さ、ミーティング!しよっか。」
桑原「次の公演、また、今永君に台本提供してもらおうと思ってるの。渋々だけどちゃんと了承もらったよ!ただ、大まかなイメージは欲しいらしくって。どういうのやりたい?まりあちゃん」
洞木「そうね、この間は昔話がモチーフだったから、次は童話なんてどう?」
桑原「まりあちゃん何が好き?」
洞木「私だけじゃなくて、みんなの意見も聞かなきゃ」
平良「子供の頃よく読んでたの、はだかの王様かな。でもまりあ主演じゃ難しそうだな。」
桑原「私は人魚姫がいい!絶対似合うし!まりあちゃん」
洞木「私主役前提なの?」
桑原「当たり前よ!まりあちゃんのために、」
洞木「あいりは?」
桑原「…まりあちゃ」
洞木「あいりは?何が好き?」
夕季「あ、わ、わたしは、」
桑原「夕季はいいじゃん。何でもいいよね?夕季。」
洞木「だめよ、ちゃんと聞かなきゃ。」
夕季「私は、赤い靴とか、やってみたい、」
平良「ははは、暗い。夕季らしいな!」
桑原「…。」
洞木「いいわね、私も結構好きよ。」
平良「まりあは?何が好きなんだ?」
洞木「そうね。マッチ売りの少女。」
平良「へー。」
洞木「どう?」
桑原「いいよ!まりあちゃんがやるっていうなら今永くんに頼んで書いてもらうよ!」
平良「なんかちょっと意外だった。」
洞木「そう?」
平良「悲劇のヒロインってイメージはなかったから。」
桑原「なんでもできるよ!まりあちゃんなら!」
洞木「どう?あいり。」
夕季「私は、なんでも。」
桑原「ほら、どうせなんでもいいんだから。」
洞木「じゃあ、花、悪いんだけど今永くんに聞いてみてくれる?」
桑原「うん!お願いしてみる!」
平良「なあ、そういえば今度駅前の劇場で原野俊之が演劇やるんだってさ。」
桑原「原野って、あの?今、月9の脚本描いてる?」
平良「そ。業界に携わってる親戚に聞いたからガセじゃないと思う。」
洞木「何やるの?」
平良「題材は決まってるらしいけど公表されてない。役者は一般公募でオーディションするってさ。」
桑原「えー!まりあちゃん応募しなよ!」
洞木「確かに。すっごい魅力的。」
平良「応募はまだしてないみたいだから、俺詳しく聞いとくよ。」
桑原「うん!分かったらすぐ教えてあげて!」
夕季「…わ、私そろそろ、バイトが、」
桑原「おつかれー」
平良「あ、夕季お前、外のゴミ、出しといて」
夕季「う、うん」
洞木「あいり私も手伝うよ」
夕季「あ、ううん、一人で大丈夫、ごめん」
洞木「…」
桑原「まりあちゃんって、夕季に優しいよね。」
洞木「そう?」
桑原「うん。なんで?」
洞木「…幼馴染、だから」
桑原「それだけ?」
洞木「他に何かあるようにみえる?」
桑原「…ううん。」
洞木「…やっぱり手伝ってこようかな。昨日大道具バラしたし。」
部屋を出る洞木
平良「つっかかりすぎ。」
桑原「だって。」
平良「夕季に当たり強いのいい加減やめとけよ。」
桑原「ムカつくんだもん。ああいう奴。まりあちゃんが優しいからって当たり前だと思ってる。」
平良「幼馴染なんだから仕方ないだろ。」
桑原「あんなグズ。」
平良「でもさ、この前の公演。夕季、すごかったな。」
桑原「…」
平良「派手な役普段やらないけど、俺結構びっくりした。渋滞で遅れてきたまりあの分、やってのけてさ。」
桑原「たまたまよ。」
平良「役が途中で入れ替わったこと、気付いた客いんのかな。」
桑原「ベール挟んでたんだから分かんないでしょ。」
平良「にしても、夕季だってわかんないくらい、」
桑原「うるさい!」
桑原「踏み台のこと、褒めないでよ!私のことはちっとも褒めてくれないくせに!」
平良「…凄いもの凄いって言って何が悪いんだよ」
桑原「夕季が相手だからムカつくの。」
平良「花。弱いものイジメしてる暇ないんじゃなかったのかよ。」
桑原「…」
平良「何のために俺たちこんなことやってんのか忘れたのか。」
桑原「私達の、為だよ。」
平良「そう。」
桑原「…わかってるよ。」
平良「まりあさえ、女優になれば終わるんだから。」
桑原「…わかってる。」
今永「夕季、さん?」
夕季「は、はい、」
今永「俺、台本提供してる、今永です」
夕季「あ、ああ、その節は、」
今永「それ、全部運ぶの?ゴミ。」
夕季「はい。頼まれたので。」
今永「手伝うよ。俺空きコマで暇だからさ。」
夕季「いえ、1人で大丈夫です」
今永「2人でやった方が早いよ。暇つぶしさせて。」
夕季「…すみません」
今永「いえいえ。」
今永「そういえば、こないだの“かぐや姫”どうだった?夕季さんたしか、親友の役やってたよね?」
夕季「はい。やりごたえがあるって、まりあちゃんも言ってました。」
今永「夕季さんは?」
夕季「え、いや、あの」
今永「どうだった?」
夕季「…かぐや姫、現代版に書き換えって聞いた時はほぼ昔話通りのかぐや姫を想像していたんですが台本読んで驚きました。どうして最後、殺しちゃったんですか。」
今永「ああ、かぐや姫?」
夕季「はい。」
今永「俺ね、かぐや姫ってお話、美談ばっかりで嫌いなんだよね。美しくて優しいだけのお姫様、なんか泥でも塗ってやりたくない?」
夕季「私は、別に。」
今永「そう?」
夕季「でも、舞台映えしてました。最期まりあちゃん綺麗で。」
今永「洞木ねー。」
夕季「憧れなんです。まりあちゃんは。綺麗で私なんかにも優しくて。」
今永「俺は夕季さんの演技、好きだったよ。」
夕季「え、」
今永「お芝居で誰かと比べたりするのは野暮だけどさ。夕季さん、冒頭屏風裏で洞木の代わりに演ったでしょかぐや姫。」
夕季「まりあちゃん、渋滞にひっかかって、」
今永「通しで見てみたかったな。夕季さんのかぐや姫。」
夕季「…」
洞木「あいり?」
夕季「まりあちゃん!」
洞木「やっぱゴミいっぱいあっただろうなって、手伝いに来たんだけど、お邪魔だった?」
今永「マリア様に見つかっちゃったな。」
洞木「うちの部員を誑かすのやめてくれない?」
今永「俺、好きな人いるんで。」
洞木「万年片思いの癖に。」
今永「はは、言うねー。」
夕季「あ、あの、ごめん、手伝わせて」
洞木「ううん!こんなに沢山あいり1人に頼む方がおかしいでしょ?」
今永「マリア様に甘えときなって。」
洞木「3人でやったらすぐ終わるしね」
夕季「…2人は仲良いの?」
今永「隣町の劇場でたまたま会ったんだよ。」
洞木「そう。おんなじ舞台見てたの。」
今永「俺の友達が書いた小説のやつでさ。」
洞木「あ、うちで書いてもらってる台本も今永君が持ってきてるけど書いてくれてるのはそのお友達だからね。」
今永「そうやってすぐバラす。」
洞木「あたりまえでしょ?ちゃんと著作権、守らなきゃ!」
夕季「今永さんが書いたわけじゃなかったんだ…」
今永「こんな台本書いてって頼んで書いてもらってんだ。向こうの本業は物書きだからさー。」
夕季「じゃあ、かぐや姫に泥、」
今永「なあ、洞木この書類捨てていいやつ?」
洞木「ああ、これはいるやつだ。混じってた?」
今永「うん。ダンボールの間に」
洞木「先にこれ返してくるね。待ってて」
今永「おー。」
今永「泥塗ってやりたいっていうのは、俺の感情。」
夕季「…」
今永「マリア様には内緒な。」
夕季N「夏公演でやった“かぐや姫”。誰一人として着物なんか着なかった。かぐや姫すらセーラー服を着た風変わりなお話。」
今永N「外見のいい少女“カヤ”はクラスの女子にかぐや姫と呼ばれて祭り上げられた。似合うからと言ってデパコスをカヤにプレゼントしたり何もかもを取り巻き達は与えていった。」
夕季N「浮世離れしていく彼女はある日、地に落とされる。」
今永N「自ら祭り上げた存在が煙たくなったクラスの女子達は」
夕季N「彼女を屋上から突き落とした。」
今永N「落ちていく彼女が見たのは、我儘に生きた自分だったのか、望む姿を映しただけの鏡だったのか。」
夕季N「机に置かれた白百合は何も語らない。」
今永N「そんな、風変わりなお話だった。」
洞木「今永、そういえばまた今度台本頼むと思うから、協力してね。」
今永「え、あいつ今締め切り前なんだよなー。書いてくれるかな。」
洞木「今何書いてるの?」
今永「知らないよ。AVばっか借りてたから、官能小説かもな。」
洞木「えー。媚でも売ろうと思ったのに。」
今永「あいつにそういうのは効かないよ。でも伝えとく。この前の公演、DVDにして渡したら面白かったって言ってたし。気が向いたら書いてくれるよ。」
洞木「うん。未来の脚本家!間藤先生によろしく。」
今永「脚本家にはならないだろうけどなー」
洞木「じゃ、ゴミ捨てありがとう!」
今永「おーう。」
立ち去る今永。
洞木「あいり。あの人とは連絡取ってるの?」
夕季「え、いや、今海外で舞台やってるから、」
洞木「ふーん。」
夕季「…会いたいの?」
洞木「っ、!」
洞木「会いたいわけないじゃない!!」
夕季「あ、その、ごめ、」
洞木「…」
夕季「こ、今度日本に帰ってきたら、れ、連絡しようか?」
洞木「いらない。私の顔見たって思い出すわけないでしょ。」
夕季「で、でも、こんなに似てるのに、」
洞木「あいり。やめてよ。」
洞木「あいつは私を捨てたんだよ。入れ替わってることにも気付かない、クソみたいな母親。」
洞木「会いたいわけないじゃない。」
夕季「…まりあちゃんが、いいなら、いいんだけど」
洞木「ねえ。それよりも、これ。探してた本。」
夕季「え!見つけてくれたの?」
洞木「たまたま知り合いに出版社の人がいて聞いたら取り寄せてくれたの。欲しかったんでしょ?」
夕季「ありがとう。いくら?お金払う」
洞木「いいわよ。」
夕季「で、でも、」
洞木「ほら早く行きなさい。バイト間に合わないんじゃないの?」
夕季「あ、本当だ…ごめんまりあちゃん!ありがとう!」
立ち去る夕季。
洞木「会いたいわけ…ない。」
洞木N「私、洞木まりあは人には言えない秘密がある。」
…………
洞木「やだ。あの人のところになんてもういかない」
施設長(桑原役)「あいりちゃん、そんなこと言わないで。」
洞木「やだって、言ってんでしょ!あんな人親じゃない!産んでから一度だって会いにこなかったくせに!」
施設長「あいりちゃん…じゃあ、今日は帰ってもらうように言うから。」
洞木「二度と来ないでって言って」
施設長「それはできないよ。…とりあえず、伝えてくるから。」
洞木N「噛み締めた下唇の味を、今でも忘れることなく覚えている。当時世間を虜にした舞台女優“夕季 雅”。彼女は多忙な中ある物語をリアルに演る為に、ファンの男性と恋愛し、子供まで作った。この事実は世間からひた隠しにされ、役を降りると男性の元に子供を残しまた次の舞台へと去っていった。」
夕季(父)(平良役)「あいり。ママは酷い人なんだ。君をここまで育てた僕にどうしてこんな残酷なことができる?」
洞木「パパ、やめて、」
夕季(父)「あいり、ああ、あいり。どうか顔を焼かせてくれ。どんどん彼女に似ていくお前を、どうやって愛せというんだ。」
洞木「やめて!」
夕季(父)「あいり!」
洞木N「顔を焼かれる寸前に、私は逃げた。必死で、靴なんか履かず、逃げて逃げて」
施設長「もう大丈夫よ。」
洞木N「ここへ辿り着いた。」
夕季「あいりちゃん。」
洞木N「夕季 あいり。そこで出会った、初めての友達。そして、私の生贄。」
………………
桑原「あーもう!そこ!立ち位置違うから!司の台詞からやり直し!」
平良「ここ、難しいよな。バミるか。」
桑原「甘やかさないで!」
平良「練習なんだからいいだろ?」
桑原「何のための稽古なの?」
女子部員(夕季役)「もう少し頑張ってみるから。平良くんありがとう。」
平良「…こわ。」
桑原「ほら戻って戻って。」
平良N「俺、平良司と」
桑原N「私、桑原花は、誰にも言えない秘密がある」
……………
桑原「司?今日もやるでしょ?」
平良「ああ、片付けたら行くわ」
平良N「つまらない高校生活をどう楽しくさせようか。それが俺達の些細な楽しみだった。」
桑原N「行き着いた結果が、いじめだったとしても。当時の私達は純粋に生きていた。」
桑原「ねえ、ねえ。今日は、ここでアナタお泊まりしてね。」
男子生徒(今永役)「や、やめて、くださ」
平良「一晩だけだよ。いいじゃん、屋根もあって。ほらそこ運動マットだってあるだろ?」
男子生徒「やめ、」
桑原「ほら!入れよ」
平良「花、女の子が野蛮なことしない。」
桑原N「その日、私達は1人の男子生徒を使われていない部室に閉じ込めた。」
平良N「次の日の朝、その部室から1人の遺体が運び出された。」
桑原N「閉じ込めたといっても、部屋に鍵などはかけてなかった。いつでも出られる状態だったはずなのに」
平良N「彼は死んだ。」
桑原N「天井にロープを引っ掛けて。」
平良N「首を吊った。」
桑原「…司、」
平良「違う、あいつは自殺したんだ。警察もそう言ってただろ。」
桑原「でも、」
平良「あの日。誰も俺達を見てなかった。殺した証拠なんてない。」
桑原N「なのに」
平良N「なのに」
洞木「私、見てたよ?」
桑原N「マリア様の声がした」
洞木「ほら、写真。あなたが蹴り飛ばすとこ。」
桑原「っ、」
平良「盗撮とか、趣味悪すぎだろ。消せよ。」
洞木「なんで?私はこの手前の花を撮ってたの。後ろに映り込んできたのはあなた達でしょ?」
桑原「消してよ」
平良「消せよ」
洞木「ふふ、どうしても?」
平良「当たり前だろ、消せよ。」
桑原N「司が彼女の胸ぐらを掴んだと同時に、女神が悪魔に変わった。」
洞木「ぜーったい、消さない。」
平良「な、」
洞木「ぜーったい絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対!消さないよ。なんなら提出しちゃう。教師に警察に彼の親に生徒にインターネットに晒しあげちゃうかもしれない」
桑原「やめ、て」
洞木「言ってたね、彼もそうやって。やめてって、言ってたね?覚えてる?忘れちゃった?昨日のことなのに?忘れちゃったかなあ?同じこと言って、聞くと思う?あなたは聞かなかったのに?」
平良「お前、何なんだよ、」
洞木「洞木 まりあ。高校2年生、そこ、見える?時計台の高校。」
平良「…お嬢様学校じゃないか。」
洞木「ねえ。黙っててあげるからさ、取引しない?」
桑原「とりひ、き」
洞木「あなた達の人生をかけて、私の夢叶えてくれない?」
平良N「その瞬間から俺達は囚われたままだ。」
…………………
桑原「司?」
平良「ん?」
桑原「あの、オーディション、どうなった?」
平良「ああ、原野俊之の?」
桑原「うん。」
平良「そっちはまだ情報出てないけど、月末に別のオーディションやるってさ。」
桑原「別の?」
平良「これ、詳細書類。一応女優部門が、」
桑原「まりあちゃんに渡してくる!」
平良「あ、おい、」
平良N「初めは、脅しで協力させられていた俺達だった。事あるごとに写真をチラつかせて笑うあいつの顔をずっと憎らしく思っていた。なのに、暫くして花は変わっていった。脅しとは違う、どこか宗教に似た信仰心。」
桑原「まりあちゃん!これ、司が!」
洞木「わ!これあのオーディション?」
桑原「前言ってたやつじゃないんだけど、これも女優部門あるらしくってね、」
平良N「まりあの夢が叶ったって、もう、遅いのかもしれないなんて」
桑原「司ー!説明してよ!」
平良「ああ、うん。」
洞木「なになに?」
平良N「目を輝かせる花を見て思う。」
_________
夕季「“おい、みっともないやつ。おまえなんか、ネコにでもつかまっちまえばいいんだ!”」
夕季「“おまえさえ、どこか遠いところへ行ってくれたらねえ!“」
夕季「“ああ、これも、ぼくがみっともないからなんだなあ”」
今永「“みにくいアヒルの子”?」
夕季「うわあ!今永さん、」
今永「こんなとこで練習?」
夕季「いや、あの」
今永「次のはそれなんだ。」
夕季「いっ!いえ!違います!」
今永「そう、なの?」
夕季「まだ、決まってないと思い、ます。多分、」
今永「じゃあ、何で練習してたの?」
夕季「練習ってわけじゃなくて、」
今永「ん?」
夕季「これ、私が中学で初めてやった演劇で。」
今永「うわー。使い込まれた台本だね。」
夕季「まりあちゃんが初めて誘ってくれて、お母さんが初めて褒めてくれたお話だから…」
今永「思い出の演劇か。」
夕季「たまに、こうやって振り返ってるっていうか」
今永「ふーん。」
夕季「今永さんは、どうしてここに?」
今永「哲学論、自習になっちゃってさ。そこのベンチでサボってた。」
夕季「ベンチ?」
今永「あれ?知らなかった?穴場なんだよ。ほら、ここ。」
夕季「あ、」
今永「もう旧校舎使う授業ないからさ、全部撤去されちゃったんだけど、ここに一個。多分先輩がこっそり持ってきたんだろうな。」
夕季「ご、ごめんなさい」
今永「え?なんで謝るの?」
夕季「秘密、知っちゃって…」
今永「あははは、いいよ。夕季さんが秘密にしててくれれば。」
夕季「私よくここに来るのに、気付かなかった。」
今永「ここ使ってるの俺と、こないだ言ってた、あの脚本書いてもらったやつくらいだと思うからあんまり人来ないよ。」
夕季「間藤…」
今永「そうそう。あ、夕季さんこそなんでこんなとこに?」
夕季「あ、それは、」
今永「練習なら部室でやればいいのに。部屋の方が涼しいじゃん。」
夕季「…ここ、好きだから、」
今永「…。」
夕季「あ、でも、邪魔ですよね、ごめんなさい」
今永「またすぐ謝る。俺の場所でもないんだから全然問題ないよ。」
夕季「でも、」
今永「あれ、喧嘩したい感じ?」
夕季「いや!そんなこと!」
今永「冗談だよ、はは。」
夕季「…」
今永「夕季さんは、洞木と仲良いよね。」
夕季「憧れ、なので。まりあちゃんは。」
今永「前も言ってたね。」
夕季「はい。私なんかにも優しくて。」
今永「演劇も、洞木きっかけって言ってたもんな。」
夕季「はい。」
夕季N「まりあちゃんは、私の憧れだった。」
……………
女の子(桑原役)「あんたとなんか遊ばなーい!」
男の子(平良役)「あっちいけー!」
夕季N「私は自分を産んだ親の顔を知らない。本当の名前も知らない。施設長が言うには産まれてすぐコインロッカーに捨てられていたそうだ。運良く見つけられた私は施設で育った。」
夕季N「物心つく前からここにいたはずなのに、いつも居場所なんてなかった。馴染めない人間関係の中私はいつも俯いて過ごしていた。」
洞木「ちょっと、やめなさいよ。」
夕季N「そんな時、彼女と出会った。」
洞木「この子があんた達に遊んでくれなんてお願いした?勝手にどっか行きなさいよ。感じ悪い。」
女の子「何よあんた!」
男の子「逃げ込んできた新入りのくせに!」
洞木「あんた達だって同じようなもんじゃない!」
男の子「うるさい!ブス!」
洞木「ブス?この顔のどこが不細工だっていうの?」
女の子「ブス!ブス!」
洞木「目が悪いんじゃないの?鏡見て比べてみなさいよ!」
男の子「…もうあっち行こ。」
女の子「うん、」
夕季「あ、あの、」
洞木「あんたも!ちょっとは言い返しなさいよ!」
夕季「でも、私より小さな子だし、」
洞木「関係ないわよ!」
夕季N「仁王立ちする彼女は酷く綺麗で、キラキラして見えた。」
洞木「…あんた、名前は?」
夕季「ま、まりあ。」
洞木「まりあ?随分可愛い名前じゃない。」
夕季「施設長が付けてくれて、」
洞木「私は、あいり。夕季 あいり。」
夕季「あいり、ちゃん。」
洞木「ほら、よろしく。」
夕季N「差し出された手は温かくて、太陽みたいだった。…だから。」
洞木「助けてよ。まりあ。」
夕季「あいりちゃん、」
洞木「私の名前、あんたにあげるからさ。」
夕季「…」
洞木「私のママ、あんたにあげるから」
夕季「…」
洞木「代わってよ。」
夕季N「あの日から、私は彼女になった。」
……………
今永「ねえ、夕季さんは役者になりたい、とか考えてないの?」
夕季「本当は、なりたい、けど。私なんかなれっこないし…」
今永「また言ってる。私なんかって。」
夕季「だって、」
今永「俺さ、ツテあるんだ。紹介させてくれない?」
夕季「え!でも、私、」
今永「受かるかどうかは夕季さん次第だよ!でも、受けてみてほしい。」
夕季「私なんか、」
今永「アヒルが白鳥だったって、気付く日が来るかもしれないよ。」
夕季「…今永さん、」
_________
桑原「ねえ!司!ねえねえ!それ本当?」
平良「裏情報によるとマジらしい。」
桑原「えー!嬉しい!私達のまりあちゃんが!遂に!」
洞木「おはよー」
平良「お、噂をすれば」
桑原「おはよう!まりあちゃん!おはよう!」
夕季「お、おはようございます、」
桑原「なんだ夕季も一緒だったのか。」
平良「お疲れー。」
桑原「ねえねえねえ!まりあちゃん!オーディション!どうだったの?!」
洞木「その反応、さては知ってるな?」
平良「噂は早いもんで。」
洞木「ふふ、噂通り、受かっちゃった!」
桑原「えーー!!おめでとう!!おめでとうまりあちゃん!」
洞木「ありがとう!花!」
平良「おめでとう。これで女優の仲間入りだな。」
洞木「あはは、まだ早いよー。」
桑原「でも、実際もう稽古始まってたりするんでしょ?」
洞木「うーん、ちょっとだけね。早速参加させてもらえた。」
平良「おー。忙しくなるな。」
洞木「司のお陰もあるよ。紹介してくれてたんだって?」
平良「関係者の耳に入ったならよかったよ。」
桑原「おめでとうおめでとう!今日はお祝いしちゃう?」
洞木「あはは、大袈裟だよ。まだまだこれからが大事だからね!」
桑原「そうだね!このまま、ずっと応援し続けるから!ね、司!」
平良「…お、おう。勿論」
洞木「よろしくね。」
夕季「まりあちゃん、おめでとう。」
洞木「…ありが」
桑原「一年生!私の奢りでジュース買ってきてー!プチ祝賀会しよ!」
平良「あ、俺も出すよ。」
洞木「みんなありがと!」
夕季N「まりあちゃんは、当たり前に夢を叶えた。」
________
洞木「すみません!もう一回お願いします!」
演者1(桑原役)「ちょっとー。リテイク多すぎ。」
洞木「すみません。もう一回、お願いします。」
監督(平良役)「一旦休憩挟もうか。」
洞木「すみません…」
監督「洞木ちゃん、ちょっといい?」
洞木「はい。」
洞木N「決して平坦な道ではないと、覚悟していたはずだった。あの人が当たり前に生きている舞台上は決してキラキラしているわけではない。分かっていたつもりだ。でも、」
監督「…考えといて。」
洞木N「突きつけられた選択はジリジリと私を焦げ付かせた。」
__________
今永「お、お疲れ。」
桑原「ああ、今永くん。」
平良「お疲れー。」
今永「あれ?夕季さんと洞木は?」
桑原「まりあちゃんは今日お仕事だよ。」
今永「そういえば女優デビューしたんだっけ。」
桑原「何その興味ないみたいな言い方!すごい事なんだよ!オーディション受かって実際にお芝居できるって!」
今永「悪い悪い。それで、夕季さんは?」
平良「夕季は基本的に呼ばなきゃ来ないよ。」
今永「え?」
桑原「まりあちゃんが連れてくるか、こっちから連絡しないと来ないよ。」
今永「忙しくて?」
桑原「あいつは別に部員じゃないから。」
平良「花。」
今永「部員じゃ、ない?公演出てたよな。」
桑原「まりあちゃんがあいつもっていうから。」
今永「…片付けも、させてたよな。」
桑原「出させてやってるんだからそれくらいやってもらわなきゃねー。」
平良「花、もう、やめろよ。」
今永「…台本。」
桑原「わあ!できたの?」
今永「金輪際受けないから。これで最後な。」
平良「え、」
桑原「え、ちょっと待ってよ。何で?」
今永「お前らみてると虫唾が走る。」
桑原「困るよ。まりあちゃん、今永くんが用意してくれる台本気に入ってるんだからさ」
今永「俺は洞木のために出してるわけじゃないんだけど。」
平良「…」
桑原「いやでも、この前の公演もよかったって今永くん言ってたじゃん」
今永「洞木がよかったなんて言った覚えないだろ。」
桑原「何言って、」
今永「あのさ。お前らさ…。洞木、洞木って。洞木が死ねって言ったら死ぬのかよ。」
平良「…」
桑原「…死ぬよ」
平良「花、」
桑原「死ぬよ。まりあちゃんがそう言うなら。そうするよ、私は。」
今永「気色悪りぃ。」
桑原「まりあちゃんが望むなら何だってする。」
平良「花!」
今永「…お前の女、どうかしてるぞ。」
平良「…」
今永「じゃ、俺帰るから。」
平良「…花。本気?」
桑原「…」
平良「まりあのこと。俺達、自分達の為に今までやってきたと思ってたけど、違うの?」
桑原「司、」
平良「花。いい加減学習しないか。昔、俺達何やった?」
桑原「っ、」
平良「俺は善意でまりあに協力したことなんてなかったよ。早く解放されたくて、早くあいつから逃げたくて、花と2人で。必死で女優になる近道を探した。」
桑原「…」
平良「親戚中頭下げまくってやっと掴ませた。やっと自由になれるんだ。なのに、なのに。花、どうしちまったんだよ。」
桑原「…そりゃあ、初めの頃は怖かったよ。でも、だんだん、花って。昔のことなんてなかったみたいに。花って。呼んでくれるんだもん。なんか、私、許されたような気になって。」
平良「別れよう。俺達。」
桑原「司、」
平良「俺は、許されたいとか思ってない。許されるわけないだろう。人1人、殺したんだ。俺が、俺達が。」
桑原「私のせいじゃ、」
平良「…この数年で、何も成長しなかったんだな。花。」
桑原「私は、まりあちゃんが」
平良「花。まりあは、神でも何でもない。」
桑原「…」
平良「俺たちがやった罪は、消せないんだよ。」
平良「絶対、許されないんだ。」
_________
夕季「あ、まりあちゃん。」
洞木「…あい、り?なんでここに。」
夕季「あ、その、オーディション。」
洞木「…」
夕季「今永さんが、出てみたらって。」
洞木「女優になりたいとか、思ってる?」
夕季「…まりあちゃんみたいに、なりたくて。」
洞木「…」
夕季「私の憧れなんだ、まりあちゃんは。」
洞木「…てよ。」
洞木「降りてよ。」
夕季「まりあちゃん、」
洞木「降りてよ!!!」
夕季「…私、演りたいんだ。」
洞木「っ、」
夕季「作品、何か聞いた?」
洞木「みにくいアヒルの子、でしょ。」
夕季「そう。昔、初めてまりあちゃんが誘ってくれたお芝居と同じ。あの時、初めてお母さんが褒めてくれたんだ。」
洞木「…」
夕季「私、どうしても演りたいんだ。」
洞木「…あんたの母親じゃない。」
夕季「うん。」
洞木「あんたなんか選ばれるわけない。」
夕季「うん。」
洞木「偽者のあんたなんかが!」
夕季「うん。そうだね。」
………
洞木N「顔を焼かれる寸前に、私は逃げた。必死で、靴なんか履かず、逃げて逃げて」
洞木N「走って、走って、」
洞木N「近所の交番へ逃げ込んでからは思っていたより呆気なかった。父はすぐに連行され、私は施設へ入れられた。」
洞木N「暫くして彼女はやってきた。凛とした姿のまま。あのテレビの中にいた、彼女は黒いリムジンを引き連れて冷淡な瞳で施設へ来たのだ。」
夕季「あいりちゃん。よかったね、ママ迎えにきてくれて。」
洞木「…」
夕季「私もね、明日面談なんだ。」
洞木「面談?」
夕季「うん。明日何人か見に来るって、先生言ってたよ。選んでもらえるかな、私。」
洞木N「あの女の元へなんか、帰ってやるものか。そう考えた私は次の日の面談に潜り込んだ。とびっきり顔がいい私を選ぶに違いない。笑ってやった、目の前で。如何にも幸せを演じてやった。でも、」
施設長(桑原役)「まりあちゃん、よかったね。洞木さん、あなたがいいって。」
夕季「え!本当ですか!」
施設長「ええ。」
洞木N「私は選ばれなかった。」
…………
夕季「まりあ、ちゃん。」
洞木「可哀想だって、思ってんでしょ。」
夕季「…」
洞木「だったら、だったらさ」
夕季「まりあちゃ、」
洞木「代わってよ。あの日みたいにさあ。」
洞木「助けてよ。まりあ。」
夕季「…」
洞木N「原野俊之の舞台。主演オーディション。脚本はみにくいアヒルの子をオマージュした人間物語。主人公は血の繋がらない家族のもとたくさんの困難を乗り越えて、自らの力で女優へと成り上がっていく。」
原野(今永役)「君が主役だよ。夕季 あいりさん。」
洞木N「私はまた、選ばれなかった。」
__________
平良「…聞いた?」
桑原「うん。連絡きた。最後のお願いだって。」
平良「やる気、なんだ。」
桑原「司こそ。」
平良「これが最後だからな。」
桑原「そう。」
今永N「夕季さんを紹介した人から、彼女と数日連絡が取れないと言われた。学校中を探して、最後によぎったのがここ、演劇部部室だった。暗幕が覆う部屋へ入るとステージの上に見覚えのある男女が舞台稽古をしていた。」
今永「な、にやってんだ。」
桑原「新しいお芝居だよ。」
平良「エチュード。」
今永「即興劇、」
桑原「今永くんもたまには一緒にどう?」
今永N「ふと、目に入る舞台隅に爪を剥がれた腕」
花「あーあ。見つかっちゃった。」
今永「お前達、何やってんだよ。犯罪だぞ」
平良「エチュード、だよ。」
今永「っ、平良、離せ、」
司「おい、みっともないやつ。おまえなんか、ネコにでもつかまっちまえばいいんだ!」
花「おまえさえ、どこか遠いところへ行ってくれたらねえ!」
今永「やめろ、離せ、離せよ!」
司「仕方ないよ。」
花「だって、あいつはアヒルの子だから。」
花「美しい白鳥と醜いアヒルが同じ価値なわけない」
今永「っぁ、おい、それ」
平良N「花が掲げた赤い釘はつい瞬間までバーナーで炙られていたものだ。」
花「ほら、もう一回。白鳥が来るまでにもう一回。」
貴之「やめ、」
まりあN「焼け焦げた爪のにおいがする。」
花「ほら」
まりあN「もう一度手を振り上げて、」
貴之「…っ!」
まりあN「歓声を浴びるのは」
_______
監督(平良役)「まりあちゃーん。よかったよ。」
まりあ「とんでもないです、出演の機会いただきありがとうございました。とてもお勉強になりました。」
監督「特に見下したような目、凄みあったなー。」
まりあ「いえいえ、まだまだです。」
監督「…今日も306、取ってあるから。22時ね。」
まりあ「はい」
監督「今度映画やるっていう後輩も連れていくからよろしくね。」
まりあ「…はい。」
釘崎アリス(夕季役)「ねー。みてあや。これ。」
前田あや(洞木役)「あ、夕季まりあじゃん。」
アリス「そ。この間共演したんだけど、早速DM送ってきてさ。馴れ馴れしくない?」
あや「そう?とってもマメで丁寧だと思うけど?」
アリス「あー。違う違う。この世界は踏み台にしてなんぼなんだから、踏まれないように群れようとしてんの。」
あや「そうなの?よくわかんないけど。」
アリス「顔だけの女。枕ばっかだって噂されてるしさ。」
あや「そう、なんだ。」
アリス「あ、これ内緒ね?」
________
今永「…本当にこれでよかったの?」
あいり「やっと、自由になれたんだもん。」
今永「…」
あいり「これ、舞台のチケット。」
今永「でるんだ。」
あいり「はい。」
今永「まだ、やるの?」
あいり「はい。私は所詮誰かになる事でしか、生きられないんです。」
今永「…観に行くよ。」
…………
夕季「まりあ、ちゃん。」
洞木「可哀想だって、思ってんでしょ。」
夕季「…」
洞木「だったら、だったらさ」
夕季「まりあちゃ、」
洞木「代わってよ。あの日みたいにさあ。」
洞木「助けてよ。まりあ。」
夕季「…」
洞木「じゃあ、返してよ、」
夕季「え、」
洞木「私を返して。」
夕季「まりあちゃん、」
洞木「泥水啜ってでも私はアイツを見返してみせる」
夕季「まりあちゃ」
洞木「大好きな私を、演じさせてやるって言ってんだよ。」
夕季「っ、」
洞木「返せ、返せよこの顔も、名前も、全部全部!」
夕季「神様、見てるよ」
洞木「何、」
夕季「そんな顔私はしないよ。怖い顔、私はしない」
洞木「なに、言って」
夕季「マリア様は、ずっと笑ってなきゃ。でしょ?」
洞木「煩い」
夕季「煩い」
洞木「返せって、」
夕季「煩い!」
夕季「演じなきゃ、お芝居だよ?」
夕季「約束したでしょ。」
夕季「あいりちゃん。」
みにくい白鳥の子 有理 @lily000
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