さよならのダンス

ぺぽっく

再会

これは、神様が俺にくれたプレゼントだろうか、それとも叶わぬ恋なんかしたことへの罰だろうか。どちらにせよ、今もお前が、あのとき目の前に現れたことがどうしようもなく嬉しかったんだ。



「よっ!遥、久しぶりだな!」

「なん、で、、?」

いやいやいやいや、おかしい。きっと疲れてるんだ。帰ってさっさと寝よう。

目の前の状況が受け入れられない俺は、疲れてるんだと脳に無理やり理解させようとした。

だって、おかしいだろ?1週間も前に死んだはずの親友が今、目の前に立ってるなんて。

俺は、小走りで走り抜けようとした。

「えっ!?ちょっ、待て待て待て。無視はひどくねえか?」

そう言って俺の肩に手をかけてきた、いや、手をかけようとした。すり抜けたのだ。

見なかったことにしてそのまま帰ろうとすると、

「おい、あそこ!校長が教頭と二人三脚でスキップしてるぞ!」

「えっ?」

古典的なワナだったが、特殊な状況が気になりすぎて俺は思わず振り返った。しまった。

「良かったー!もしかして、見えてないのかと思ったわ。」

「よお、大斗、、?」

観念した俺はおそるおそる返事をした。

「なんで最初無視したんだよー。」

「いやいや、当たり前だろ!!だって、お前とっくに死んでる?よな?」

「ああ、だから幽霊になってこうしてお前に会いに来てやったんだろ?」

未だに脳は混乱していたが、その言葉を聞いてちょっと嬉しかった。

「あ、今お前ちょっと喜んだろ!?顔ニヤついてるぞ」

「うるっせぇなー」

顔を隠しながら、ニヤニヤしながら覗き込んでくる大斗を片手で払う素振りをすると、大斗の身体を片手が空を切るようにすり抜ける。


あぁ、そっか。やっぱり、こいつ死んでんだな。


大斗が死んだ日、俺は、夏休みが始まってさっそく家で趣味の映画鑑賞会を1人で開いていた。

いつの間にか寝ていたのか、目覚めた時には10時過ぎ頃だった。トイレに行こうと廊下に出ると母さんがなにやら電話で話している。やけに深刻そうな顔して何かあったんだろうか。なんて思っていると、電話を終えてこっちに気づいた母さんが「大斗くん、事故で亡くなったって。」と一言だけ伝えてきた。母さんの言葉の意味が理解できず、何度も大斗、亡くなった、と反芻していた。

きっとあれが時が止まったような感覚ってやつだったんだと思う。

結局、俺は大斗の葬式には行かなかった。やっぱり、親友の死ってものが受け入れられなかったんだと思う。

だって「人はいつか死ぬ」だなんて、当たり前だって分かってても、それがこんなにも早く、自分に近しい人間で起こるなんて思わないだろ。いや、きっとそういう意味では、死が当たり前だなんて思ってなかったんだろうな。

それからの毎日はどんな風だったかは、あまり覚えていない。

ただ起きて、食べて、寝て、起きて、食べて、寝て、起きて、食べて、寝て……

そんな生活が数日も続くと、流石に家族からも心配されて申し訳なかったので、とりあえず外に出ることにした。なにか目的があるわけでもなく、徘徊のようなことをしてただけだけど。

青春真っ只中なはずの高校生の夏休みだ。きっと他のやつらは、プールやBBQでも楽しんでるんだろうな。

ただ、こんなことを続けていて面白い発見もあった。いつも通学路で見かける野良猫がいつの間にか子どもを産んだこと、家の近くにある寂れた商店街でこんな暑い季節なのにおでん屋台が出てること、昔よく行った駄菓子屋がツカダ駄菓子じゃなくて実はシカダ駄菓子だったこと。

こんな発見を見つけるたびに、なんだか楽しくなってきて、でもそんな簡単なことでつらいことを忘れてしまう自分が嫌になったりしていた。


今日もいつも通りの徘徊の帰り道だったのだ。そんなことを思い出して、改めて大斗が死んだことを実感させられてしまう。

「大斗ぉ、なんで事故なんかで死んでんだよぉ」そんな言葉を死んだ親友に投げかける。

涙が頬を伝ってくるのを感じる。だめだ、止まんねぇ。

「ごめんって、そんな泣くなよ。」

「あー、泣いてるとこ見られるとかカッコ悪ぃな、俺。」

袖で涙を雑に拭ったが、拭われた涙に代わるように次の涙が溢れ出す。俺が泣き終わるまで大斗は何を言うでもなく、ただただ待っていた。

涙を撫ぜる生暖かい風と、沈黙の合間に感じる静寂が、夏の日の暮れをしらせる。


「で、なんだっけ?幽霊?だとしたらなんで成仏してねぇんだ。お盆にしちゃあ、1週間も早いだろ。」

まだ少し涙は流れていたが、俺は精一杯の強がりを見せた。

「いやぁー、それがさ、わかんねぇんだ。俺にも。」

「え?」

「ついさっき気づいたらここにいたんだよ。」

話を聞いてみても、死んだ後のことも分かっておらず、事故のことすらピンときてない様子だ。

「お前、もしかして記憶喪失ってやつか?」

「そうなるのかな?」

「死んでから記憶喪失って有り得るのか?」

「まあ、実際記憶無いんだし、有り得るんじゃないの。」

「でも、だとしてもお前が成仏してないことの説明にはならないよな。」

「確かに。」

そんなこんなで話は迷宮入りしてしまった。

そのしばしの無言がすでに日が落ちていることを気づかせた

「もう帰らなくちゃ。お前は普通に家に帰るのか?」

「あぁ俺?大丈夫、今日は遥んち泊まるから」

「は?」

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さよならのダンス ぺぽっく @zinjusaiku

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