エピローグ
――魔王オディウムが再度討伐されて、しばらく時間が経った。
国家のナンバー2であったゲオルクが魔王の生まれ変わりであった事実は、国民へは伏せられた。あまりにも衝撃が大きすぎるからだ。
コロシアムで繰り広げられた死闘についても、突発的に現れた凶悪な魔物を帝国兵たちが総力を挙げて退治したというシナリオに書き換えられている。
魔王が蘇っていたなどという真実は誰も求めていない。ましてや、その布石として各国で血が流されていたことなど……。
皇帝エリック・イグナティウスはゲオルクに国政を丸投げしていた姿勢を反省して、識者を集めた本物の諮問会議を立ち上げることにした。その諮問会議の中には自身の在籍も義務付けた。
エリック自身は自分がアホ皇帝であることを理解していたが、国策や国家的な決裁をすべて他の誰かに委ねるのは今後やめることにした。
同じ過ちは二度と繰り返してはならない。バカはバカなりに、国の未来を考えることにした。
それでも諮問会議のたたき台に是非を決定するだけなので、半分はハンコを押しているだけのような立ち位置にもなるが、本当に国家の意思決定を自分で決められるようになるまで、自身の努力で勉強を重ねていくしかない。少なくともそれだけの覚悟がエリックの中でできあがった。
エリスは外交的な執務へと特化するようになった。
一時はゲオルクの操り人形となったエリックに「見ていられない」と散々口を出してきたが、オディウムとの再戦以来精神的な変化を見せた夫を信頼するように決めたようだった。
世界の歯車はまた狂わされたが、力を合わせてまた元に戻していくしかない。
◆
レインは、ドラゴンのアマリリスに乗って大空を駆けていた。
オディウムを倒してから、人間とダークエルフの関係性にも変化が生まれた。
元々閉鎖的な考えであったダークエルフは、ゲオルクの奸計や軍事侵攻を経験して、自身の存在を世界から隔絶させても、必ずしも安全というわけではないということを徹底的に思い知らされた。
次に何かがあった場合、漆黒の森は今度こそ燃やし尽くされてしまうかもしれない。
そういった脅威に対抗するため、ダークエルフたちは王都ミラグロと協力体勢を敷くこととなった。
連邦の属国とまではいかなくとも、互いに外的な脅威から身を守り、必要があれば助け合う姿勢を取ることで合意を得た。
レインはその橋渡しの役として、竜に乗ったダークエルフと人間の連合軍で世界各地の治安を守っている。
レインがエリスと再び恋人になることはない。
かつて世界を救った英雄は、間違えて女に生まれ変わった。
だが、それが何だというのか。
レインは聖人の墓場でひっそりと眠ることを拒み、世界をもう一度救った。
エリックも、エリスも、その笑顔を守ることはできた。
レインにとっては、それで十分だった。
ティム・モルフェウスの無念を引きずって生きていくよりも、新しい人生をレイン・ハンネマンとして生きていけばいい。
その胸には清々しさがあり、悲しみも悔しさも残っていなかった。
目の前には光り輝く未来しかない。
レインがドラゴンの手綱を引く。
アマリリスが咆哮で答えて、すさまじいスピードで空を駆けて行った。
今の彼女には帰る場所がある。
大空を舞ったドラゴンは、あっという間に見えなくなった。空には、再び静寂が訪れる。
どんな過去も、踏み出していけば何かが変わる。
レインの胸には、揺るがない言葉が刻まれた。
空の蒼へと溶けていった女は、決して一人ではなかった。
【完】
美少女無双ダークエルフは、前世で愛した人を護るために剣を取る~間違えて女に生まれ変わった勇者のセカンド英雄譚~ 月狂 四郎 @lunaticshiro
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