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 十八時になった。

「お疲れ様でした」

 静まり返った室内から、お疲れさん、という小宮の声だけが聞こえてきた。後輩の山本歩美は、十分前にトイレに行ったきり帰って来ていない。どうせ今夜のデートのために、念入りにメイクを直しているのだろう。

 里美はタイムカードを切り、携帯を見た。侑香から連絡が入っていた。

「ごめん。仕事が長引いて遅れそう。先に二人で始めておいて」

 里美は了解、と返事を送ると、足早に駅へと向かった。

 里美は二ヶ月に一度、中学時代からの友人二人と食事会をしている。先ほど連絡があった侑香と、もう一人は恵梨子。侑香は里美と同じく独身の会社員で、恵梨子は五年前に二歳上の会社員と結婚した専業主婦だ。

 都内で働く里美の周りでは、三十代でも独身の女性は多い。中には侑香のように結婚願望のない女性もいるが、里美はできることなら早く結婚したいと思っている。そしてその思いが強すぎて、先日一年近く付き合っていた佐伯浩史に別れを切り出されてしまった。里美は別れることを泣きながら拒んだが、浩史はあっさりと里美を捨てた。その傷が、まだ痛い。

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