必殺仕事人風台本12『お市』

Danzig

第1話


お松の死に際に、仕事を頼まれたお市

集合場所で左之助と相談するが・・・


お市:頼むよ、この仕事、受けておくれよ


左之助:無理だな


お市:頼むよ


左之助:俺達じゃ人数が足りねぇ


お市:じゃぁ、左之助が二人でも三人でも殺(や)ってくれりゃいいじゃないか


左之助:ダメだ


お市:どうしてだい


左之助:依頼は全部で五人だろ

左之助:一人は旗(はたもと)の屋敷(やしき)、二人は番屋(ばんや)、一人は旅篭(はたご)屋、一人は帰り道。

左之助:それを同時に仕掛けなきゃ、この仕事は上手くいかねぇ


左之助:今の俺たちは、そこにいる仁吉を入れて三人だ

左之助:俺の体は、一つしかないんでな


お市:こんな時、お竜がいてくれたらねぇ


左之助:いねぇ奴の事を言っても、始まらねぇだろう


お市:この依頼はさ、お松ちゃんが、死に際に、私に仕事を頼んでくれたんだよ

お市:そして、このお金は、お松さんが体を売った、いや、人生を売って作ったお金なのさ

お市:どうしても、仕事を受けたいじゃないか

お市:お松ちゃんの恨みを晴らしてやりたいじゃないか

お市:頼むよ左之助


左之助:お市、おめぇの気落ちは分かるが

左之助:どんな金だろうと、いくら出されようと、出来ねぇもんは、出来ねぇんだよ

左之助:三人じゃ無理だ


お市:そんな・・・


左之助:俺たちにしくじりは許されねぇ

左之助:その理由は知っているな


お市:あぁ・・・・


左之助:俺たちは、仇討(あだう)ちをする訳じゃねぇ

左之助:銭をもらって、人の恨みを晴らすのが仕事だ

左之助:俺たちがしくじったら、もう二度と恨みが晴らせなくなる

左之助:そうなっちゃいけないだろ

左之助:だから、俺たちは、出来ねぇ仕事を受けちゃ、いけねぇんだ


お市:それは分かってるけど・・・


左之助:その金は、元締めの所へ持っていけ


お市:でもさ・・・・・


左之助:お市、お前の気持ちは分かる、だがな・・・


お市:分かってるさ、

お市:分かってるけど・・・やるせないじゃないか


お市:お松ちゃんは、私の友達だったんだよ


左之助:気持ちは分かるって言ってるだろ

左之助:でも、ダメなものはダメだ


お市:そうだけどさ・・・


その時、ゆらりと影が動く


お菊:なんだい

お菊:あんたのとこは、随分と小さな所帯(しょたい)だったんだね


左之助:誰だ!


お菊が姿を現す


お菊:私だよ、忘れたのかい?


左之助:お前は、あんときの


お市:左之助、誰なんだい


左之助:こいつとは、善兵衛をやるときにちょっとな


お菊:あんた、お市さん・・・だっけ?

お菊:あんたとは初めてだね

お菊:私の名はお菊

お菊:駿河(するが)じゃ、辻風(つじかぜ)と呼ばれた仕事人さ


お市:辻風(つじかぜ)?

お市:辻風っていったら・・・


左之助:お市、お前知ってるのか


お市:あぁ前に

お市:駿河に、辻風と呼ばれる仕事人がいると、聞いたことがあるよ


お菊:何だい、私の事を知ってるのかい?


お市:確か、紐(ひも)のついた、クナイのような得物(えもの)を使うって


お菊:これの事かい?

お菊:クナイとはちょっと違うけどね


得物を見せるお菊


左之助:でも、何でおめぇが、この場所を知ってやがるんだ


お菊:悪いけど、そこの坊やの後を、つけさせてもらったのさ


左之助:仁吉・・・てめぇ


お菊:まぁ、その子を責めないでやっておくれよ


左之助:・・・・


お菊:ところで

お菊:話は聞かせてもらったよ

お菊:あんた達、人数が足りないんだろ?

お菊:私が何とかしてやろうか


左之助:なんで、おめぇが・・・


お菊:袖(そで)触(ふ)れ合うも何とやら

お菊:あんたとは、ちょっとあったろ?

お菊:仕方ないから、一度だけ、私が手を貸してやるよ


左之助:おめぇ、足を洗ったんだろ

左之助:また地獄道に舞い戻っちまうぞ


お菊:だから、一度だけって言ったろ?


お菊:続けたって有難い稼業じゃないからね・・・

お菊:だから一度だけさ


左之助:それだけじゃ、理由にはならねぇな


お菊:私も、殺されたお松さんとは、江戸に来てから、ちょっとあってね

お菊:恨みを晴らしてやりたいと、思ってんのさ

お菊:それでいいかい?

お菊:それに


左之助:それに、何だよ


お菊:誰かさんのおかげで、最後にするつもりだった仕事が

お菊:あんまり面白く終われなかったんでね


左之助を見つめるお菊

目をそらす左之助


左之助:そいつは、悪かったな


お菊:別に、あんたを責(せ)めちゃいないよ

お菊:私なりに、もう一度、キッチリ仕事を終わらせたいだけさ


お菊:ここで、あんたに、貸(か)しを作っとくもの、悪くないしね

お菊:どうだい?


左之助:あぁ、分かったよ


左之助:お市、お前はそれでいいか?

左之助:こいつの腕は確かだ


お市:あぁ、それで、お松ちゃんの恨みが晴らせるなら

お市:私はいいよ


お菊:そうかい、じゃぁ手を貸してやるよ






蝋燭の灯りの中

金を4等分して並べるお市


お市:では改めて

お市:依頼だよ


お市:頼(たの)み人は、お松

お市:頼み料は八両

お市:仕掛ける相手は

お市:旗本(はたもと)、富樫忠高(とがし ただたか)

お市:与力(よりき)、滝川源之進(たきがわ げんのしん)

お市:岡(おか)っ引(ぴ)きの弥助(やすけ)

お市:越後屋(えちごや)、平八(へいはち)

お市:旅篭屋(はたごや)の主(あるじ)、伝次郎(でんじろう)

お市:その五人


お市:こっちは、私、左之助、仁吉、お菊の四人

お市:それでいいいね


左之助:あぁ


お菊:いいよ


お市:じゃぁ、持って行っておくれ


仁吉、左之助、お市、お菊がそれぞれ金を取っていく


お市:「さて、私は行くよ」


左之助:「じゃぁ、俺は行くぜ」


お菊:「じゃぁ、後でね」


???:あぁ・・・


???:ふっ


誰かが蝋燭の灯りを消す


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