第3話 運命の日

土の国 トゥルバス城下町 闘技場────


(ガンダス)

「うおおおおおらあああ!!」


(ウドー)

「ぐあっ!?」


(ガンダス)

「しゃあおらああああ!!」


(ハルト)

「ぎゃあっ!?」


(司会)

「おーーっと!ガンダスの強烈な鎚の連撃が鉄壁を誇るウドー、ハルト兄弟の装甲を打ち砕いたあぁ!!」


(ウドー)

「うぐっ……アイツ…なんて馬鹿力…うっ…」


(ハルト)

「兄貴ぃ…すまねぇ…もう動け…ぐふっ」


(司会)

「おーーっと!鉄壁兄弟、ガンダスの鎚の破壊力に最早立つこともできない!」


(ウドー)

「ちくしょ……こ、降参だ…」


(司会)

「あーーっと!ここで鉄壁兄弟降参!今宵の優勝者はトゥルバスいちの怪力、ガンダスだーーーー!」


(ガンダス)

「じゃぁああらああああ!!」


(観客)

「よくやったガンダス!」


(観客)

「流石だなガンダス!」


(観客)

「かっこよかったぜ!」


(オルカ)

「あーあ、また派手に暴れて。一歩間違えたらあの兄弟殺されかねないって」


(ヴァン)

「へへっ、どんな時も手は抜かない。流石は俺ら自警団団長だな」


(オルカ)

「ちょっと、それ本人の前では言わないで。この前だって対戦中熱が入ってつい本気で対戦者を殺しかけたんだから」


(ヴァン)

「ああ、ベントのことか。あれは災難だったな」


(エイヴァン)

「まあ、相手がガンダスと分かった時点で即座に棄権するべきだった。あいつと正面からやり合って勝てるやつなんざ、早々いねーよ」


(ヴァン)

「違いねぇ」


(エイヴァン)

「おいヴァン、金」


(ヴァン)

「ああ?」


(エイヴァン)

「俺の勝ちだ」


(ヴァン)

「はあ?……あっ!?」


(オルカ)

「なんだい、また賭けてたのかい」


(エイヴァン)

「忘れんな馬鹿。ガンダスが何発目で優勝するか、賭けようと言ったのはお前だろ」


(ヴァン)

「ぐう…いくらだ?」


(エイヴァン)

「300だ」


(ヴァン)

「ちっ!ほらよ!」


(エイヴァン)

「どうも〜」


(ホラン)

「それにしても本当に強いですね隊長。トゥルバスいちの怪力…俺もあれだけ強ければ…」


(オルカ)

「やめときなホラン」


(ホラン)

「え?」


(オルカ)

「ガンダスじゃあんたには目標が高すぎる。あれは異次元の強さ。あんたはもっと自分に合った獲物で自分に合った目標を見つけな」


(ホラン)

「俺じゃ、鎚は振れないってことですか」


(オルカ)

「そうは言わないけど、私から見ればあんたに鎚は不相応。今日の任務中も鎚の重さに体が負けて満足に振れてなかった」


(エイヴァン)

「おかげで盗賊を1人捕まえ損ねた」


(ホラン)

「……すみません」


(エイヴァン)

「何もガンダスに拘る必要はないだろ。素直に体格に合った武器を使え馬鹿」


(ヴァン)

「そーだそーだばーか!」


(ホラン)

「……」


(オルカ)

「まあ、頑張んなホラン。あんたはこの自警団に入った新入りの中でも特に見込みがあるんだし」


(ホラン)

「はい…ありがとうございますオルカさん。まあ、新入りはもう俺しか残ってないですけどね」


(ヴァン)

「ガンダスとエイヴァンが虐めすぎたからな!」


(エイヴァン)

「黙れ馬鹿。あの程度で根をあげるやつはいらん。そろそろ行くぞ」


(オルカ)

「え?どこに?」


(エイヴァン)

「どこって、あいつが闘技場終わりに行くところなんて1つしかないだろ」


(オルカ)

「…酒ね」


(エイヴァン)

「遅れて機嫌損ねる前に行くぞ。おいホラン、先に言っておくが面倒くさい酔っ払いの相手をするのも新入りの立派な仕事だ。給料はでないがな」


(ホラン)

「ええ…」


(エイヴァン)

「頼りにしていぞ、期待の新人」


(ヴァン)

「頼んだぜ!」


(ホラン)

「はあ…」


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


(トゥルバス兵)

「ふわぁ〜。眠みぃ」


(トゥルバス兵)

「おい、警備中にそんなだらしないとこ見られたら怒られるぞ」


(トゥルバス兵)

「警備ねぇ。警備っつったって、誰も来ねぇじゃん」


(トゥルバス兵)

「まあな。近頃はこの近辺で盗賊共が現れたという情報があるが…」


(トゥルバス兵)

「他の国ならともかく、力自慢の勇士だらけのトゥルバスじゃ、何も悪さはできんだろう」


(トゥルバス兵)

「ああ、情けない話だが俺たち王城兵よりも数段強い連中だ。毎月開催される闘技大会のおかげで各国から腕試しに勇士たちが集ってる。おかげさまで、戦争のないこの平和なフォルトナの中でも特に平和な国とまで言われている」


(トゥルバス兵)

「だろ?こんな暇な仕事だとは思わなかったよ。まあでも楽して稼げるのは悪くねぇがな」


(トゥルバス兵)

「確かにそうだな。大昔、人間同士での争いはしないようにと、国の建国者同士で誓いを立てたらしい。それでも各国に兵士を置いて軍事機能を保っているのは何故だろうな」


(トゥルバス兵)

「そりゃ、いつかその誓いを破るやつが出てきても対処できるようにだろう。あるいは、魔族の襲われたときか」


(トゥルバス兵)

「魔族?あれは御伽噺の話だろ?」


(トゥルバス兵)

「さあな。学者によっては大昔から今も存在しているって話だ」


(トゥルバス兵)

「あんなのが存在したらって思うと恐ろしいな」


(トゥルバス兵)

「全くだぜ。頼むから、俺たち人間様の前には現れないでくれよな」


(ボーデン)

「随分余裕そうだな、そこの2人」


(トゥルバス兵)

「あっ!?ボーデン将軍!?」


(トゥルバス兵)

「雑談しながらの警備は感心せんな」


(トゥルバス兵)

「も、申し訳ありませんボーデン将軍!」


(ボーデン)

「確かに。大昔、建国者たちによってフォルトナでの人間同士の争いは一切行わぬよう誓いが立てられた。それでも軍事機能を有しているのは、抑止力のためだ」


(トゥルバス兵)

「よ、抑止力…?」


(ボーデン)

「誓いを立てたとは言えど、大昔の誓いはあくまでも大昔のもの。時代が数百、数千年と経てばフォルトナの環境も変わる。そして人の心もな」


(トゥルバス兵)

「人の心もですか?」


(ボーデン)

「そうだ。大昔の人たちの心にはあっても、現代を生きる我々が大昔の人たちと考えを等しくしているとは限らぬ。率直に言えば、いつまでも古い盟約に捕われることを嫌う君主が誕生した場合、さてどんな事態が考えられるか…」


(トゥルバス兵)

「そ、そうか…盟約を破棄し隣国を攻め込み…奇襲!?」


(ボーデン)

「その通り。如何なる時も全ての可能性を考慮すべし。万が一盟約を破棄し奇襲するような不届き者がいた場合、この国の人々の命を繋ぐのは勇士ではない。お前たちなのだ。そのこと、努努忘れるなよ」


(トゥルバス兵)

「は、はい!」


(トゥルバス兵)

「肝に銘じます!」


(ボーデン)

「私は街の中を見てくる。お前たち、交代の時間まで己が義務を全うせよ」


(トゥルバス兵)

「はい!」


(トゥルバス兵)

「奇襲…か」


(トゥルバス兵)

「考えたこともなかったな。そんなこと」


(トゥルバス兵)

「ああ。フォルトナじゃありえない話だと思ってた。ちょっとばかし気を引き締めないとな」


(トゥルバス兵)

「そうだな」


(トゥルバス兵)

「んじゃ、ちょっくら用を足してくる」


(トゥルバス兵)

「ああ」


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


(トゥルバス兵)

「よいしょっと、ふう…」


(???)

「…………」


グシャ!


(トゥルバス兵)

「ん?」


ドタッ!


(トゥルバス兵)

「なんだ?誰かいるのか?」


(???)

「…………」


(トゥルバス兵)

「おい、誰かいるのか?」


ガタッ!!


(トゥルバス兵)

「そこで何をしている?」


(???)

「…………」


(トゥルバス兵)

「おい、一体なにして…って…」


扉を開け、男の目の前にいたのは…

この世の者とは思えない恐ろしく醜い姿だった。


(トゥルバス兵)

「な、なんだお前…」


(???)

「キシャァァァァァァ!!」


(トゥルバス兵)

「ひっ…!ぎゃあああああああ!」


(トゥルバス民)

「あー?なんだ今の声」


(トゥルバス民)

「え、なに…?悲鳴…?」


(トゥルバス民)

「きゃあああ!!」


(トゥルバス民)

「うわああああ!!」


(トゥルバス民)

「な、なんだ、一体何があった!?」


(トゥルバス民)

「おいみんな逃げろ!敵襲!敵襲だ!」


(トゥルバス兵)

「敵襲?馬鹿な。今までそんなこと一度も…ん?なっ!?」


(???)

「キシャァァァァァァ!!」


(トゥルバス兵)

「がはぁっ!?」


(トゥルバス民)

「なんだよこいつら、化け物だ!みんな逃げろ!!」


トゥルバンを突如襲ったのは、人間たちにとって初めて目にする魔族だった。


(トゥルバス兵)

「みんな、急いで避難してくれ!」


(魔族)

「キシャァァァァァァ!!」


(トゥルバス兵)

「ぐはあっ!?」


(トゥルバス兵)

「くそ!なんなんだお前ら!」


(魔族)

「ギャアァァァァァ!!」


(トゥルバス兵)

「や、やめろ!うああっ!?」


(トゥルバス兵)

「ひ、ひいぃ、やめろ!近づくな!」


(魔族)

「キシャァァァァァァ!!」


(トゥルバス兵)

「うわあああ!!やめてくれ!!」


(???)

「はああ!!」


(魔族)

「ギヤァァァ……」


(???)

「おい!大丈夫か!?」


(トゥルバス兵)

「ハ、ハミル様…」


(ハミル)

「後ろへ下がっていろ!貴様ら、一体何者だ!何故民を襲う!?」


(魔族)

「ギャアァァァァァ!!」


(ハミル)

「はあっ!!くっ、聞く耳を持たないか。皆の者、すぐに城の方へ避難しろ!」


(ボーデン)

「ハミル様!」


(ハミル)

「ボーデン!街の様子は!?」


(ボーデン)

「混乱状態です。突然の化け物の奇襲により既に何人かの民と兵が…」


(ハミル)

「くそ!なんてことを…。父上と母上は!?」


(ボーデン)

「恐らく城の中にいるかと」


(ハミル)

「ボーデン、ここは俺と他の兵で食い止める!父上たちのところへ行ってくれ!」


(ボーデン)

「し、しかし!ハミル様を置いていくなど…」


(ハミル)

「俺は大丈夫だ!死にはしない!さあ早く!」


(ボーデン)

「ハミル様…か、かしこまりました。どうかご無事で…」


(魔族)

「キシャァァァァァァ!!」


(ハミル)

「トゥルバスの平穏を乱す化け物め、来い!殲滅する!」


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


(エイヴァン)

「………」


(ヴァン)

「どうしたエイヴァン、さっきから上の空だな」


(エイヴァン)

「いや…」


(オルカ)

「らしくないじゃない。どうかしたの?」


(エイヴァン)

「妙に外が騒がしいような気がしてな」


(ヴァン)

「あー?そうか?」


(ホラン)

「確かに言われてみれば、さっきから何度か遠くで誰かが叫んでるような声が聞こえますね」


(ガンダス)

「がははははは!大方酔ってとち狂った闘士たちが喧嘩でもしてんだろうよう!!ほらそんなことよりもっと飲むぞ!」


(ホラン)

「まだ飲むんですか…」


(オルカ)

「もうやめときなよ。店の酒全部飲み干す気かい?」


(ガンダス)

「ガハハハハ、そいつはいいや!」


(エイヴァン)

「少し様子を見てくる」


(ヴァン)

「あ、抜け駆けずりぃ!なら俺も行くぜ!」


(エイヴァン)

「好きにしろ馬鹿」


(ヴァン)

「おう、好きにするぜ!じゃあそういうことだから2人とも、酔っ払いの相手よろしくな! 」


(ホラン)

「やっぱりそれが狙いだったんですね…」


(オルカ)

「ツケ、いつか払わせてやる」

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人魔大戦 朽木ロキ @kuchiki_loki

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