4 君と運命と『変わらない決意』
俺は救急車を呼んだ。近くの先生が警察も呼んでいた。後日、晴香が死んだことが改めて分かった。
――数日後、俺は晴香を弔うために、休日の学校に花束を持って行った。晴香が刺されたあの場所に。そこには女子がいて、その人は泣いていた。友達かと思ったが、どうも様子がおかしい。その人は泣きながら、ごめんなさい、だとか、私のせいだ、だとか、まるで自分を責めていた。
「あの……。大丈夫ですか……。」
俺はそう声を掛けた。するとその人は赤く腫らした目で俺をまじまじと見た後、震えた声で、
「ほ、本当に……。ごめんなさい……。」
そう言って、頭を下げてきた。急にそんなことを言われても。俺はとりあえず彼女を落ち着かせた。
「……落ち着いた?」
彼女を中庭のベンチに座らせ、俺はそう聞いた。そしたら彼女は頷いた。
「それで、何で謝ったの?」
俺は早速本題に入った。急に謝られても、思い当たる節がない。あそこで泣いていたあたり、何となく晴香関連だとは思うが。
「私が悪いんです。私が、彼女をあんな目に合わせたんです。」
「どういうこと?刺した奴一人の犯行じゃないの?」
そう俺は言った。彼女は明らかに晴香を刺した奴ではない。晴香を刺した奴は身長が180cmくらいで、男の声だった。彼女には全く当てはまらない。そんなことを考えていた矢先、彼女はとんでもないことを言い出した。
「私は、晴香さんが死ぬことを知っていたんです。」
……今は冗談を言う場面じゃないだろ。俺は内心そう思った。しかし彼女の表情から、ふざけているつもりではないことが分かった。さらに、追い打ちをするかのように彼女はこう言った。
「私は、晴香さんが死ぬのを回避するために、未来から来たんです。」
さらに理解が追い付かなくなった。急に言われても誰が信じるだろうか。でも彼女は真剣な表情だった。
「……笑えないジョークだな。」
「……私もジョークであってほしいです。でも本当なんです。私が未来からやって来たことも、私が晴香さんの死を回避出来なかったことも。」
「過去に行けるなら、過去に戻ってもう一回やり直せないの?」
「……そもそも、私がこの今の時代に来た時、死んでいたのは朔也さんだったんです。そして、私は未来から来た人間なので、未来の人間が今に直接干渉しても結果は変わらないんです。何度私が試してもダメでした。だから、晴香さんに協力してもらいました。」
「……じゃあ晴香がタイムリープ出来たのも、君のおかげなんだ。」
「……はい。私がまずは朔也さんを何とかしようと思い……。」
「そっか……。」
「あの、怒ってますよね……。未来から来たのに、私何にも出来なくて……。」
「ううん。本来の出来事と違うことが起きたなら、結末は変わるのは当然だ。仕方ないよ。」
「……ちなみに、そのタイムリープは俺でもできるの?」
「……まさか朔也さんもタイムリープするつもりですか?」
察しが良すぎないかこの子。しかもさらっと俺の名前まで知っている。これも未来人だからなのか。
「うまくいく保証なんてどこにもないんですよ!」
「……分かってる。それでも、多分これが何も出来なかった俺が唯一出来ることだと思うんだ。」
「……私が最後に彼女に会ったとき、彼女の心はもう限界だったんです。朔也さんがそうなる可能性もあるんですよ!」
「じゃあ見捨てろって言うのか!……俺にはそんなこと出来ない。このまま諦める訳にはいかないんだ。」
「……晴香が死ぬとき、俺は無力だって感じたんだよ。俺の知らないところで、晴香は勝手に俺のために頑張っててさ。だから少しでも、あいつのために何かしてやりたいんだよ!」
俺は思わず声を荒げていた。自分でもこの感情を抑えられなかった。このもどかしさを。この悔しい気持ちを。
「……私はこれ以上、誰かが目の前で壊れていくのを見たくはありません。だから、どうか約束してください。」
彼女は俺の手を握って、こう言った。
「絶対に死なないで下さい。そして、晴香さんを救ってください。」
「……分かった。約束するよ。」
彼女は俺にタイムリープのやり方を教えてくれた。俺には決意が生まれていた。絶対に晴香を救ってみせる。たとえ何度失敗しても。何度も晴香が死ぬ様をこの目で見ることになろうとも。それが、唯一俺が、いや、俺たちがハッピーエンドを迎えるための手段だから。
俺はスマホの『開始』ボタンを押した。決意を秘めたこの胸を抱えながら。
《終》
もう一度、君の笑顔が見たい 塩茹でスパゲッティ @sprint
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