冬より緑

伍代 太郎丸

「カタチ取られた」者(もの)

私がいつも座るこの席には日中日光が燦燦と

差し込む窓がある。この窓からは外の草木が

よく見える。私の目の前に広がる「キレイに

カタチ取られた」草木は他の木々が大きく揺

れているのに対し、微動だにしない。「傲慢

なやつだなぁ」と勝手に思惟ていた。

この席は普段私以外誰も利用しない。個人的には隠れスポットだと思っていた。しかし今日は私が座っている隣に一人の少女が座ってきた。多分五・六歳であろう。その小さな骨骨しい腕が本を捲るとともに私の視界に写りこんだ。最初はほとんど気にとめなかったのだが、時が過ぎると自分の世界が邪魔された感じがして苛立ちを覚え始めた。するとその時、少女の父親らしき人物が少女の隣に座って、娘に先程探してきたであろうおすすめの本を紹介し始めた。なぜ「父親らしき」なのかというと、その男はサングラスとピアス、派手な髪色をしていて、何よりかなり立派な体格をしていたものだから、どうもその少女の父親とは見えなかったらしい。そんな男が少女におすすめの本を紹介した後に「少しの間席を外すからここで動かず待ってなさよ」と低い声で念を押し、大きな身体でそそくさとその場を後にした。すると父親が離れたのを見計らってか、その少女が突然と席を立ち、男とは明らかに違う方向へと走り出した。その一部始終を目撃していた私はその少女を止めようかと一瞬脳裏をかすめたが、それが実際に遂行されることはなかった。というのも脳裏をかすめたのはそれを止めることだけではなく、その後の展開を少女に実験させてみたいという欲が同時に過ぎったからである。

五分ほどが経ち、男は少女を引きずりながら隣の席に戻ってきた。男はその大きな拳で少女に過度な拳骨を入れた。そして激しい怒りを顕にして私の姿が見えていないのか、という程に癇癪玉を破裂させていた。私はそれを目の当たりにした時、少女に同調して怒りの感情が湧いてきた

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

冬より緑 伍代 太郎丸 @iwaiwa1708

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ