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さわ。神樹の葉が大きくそよいだ。
まだ僕だけにしか聞こえない、トネリコの声がささやく。
「……む。もう次のお客さんか。最近ペース早いよねえ。暇なのかな」
ひとりごちるようにつぶやいて、僕はよいしょと立ち上がる。
トネリコが関知した来訪者は、創造主からの使者。つまり、反逆者である僕とこの世界を消し去ろうとして使わされた追っ手たちだ。
天使の言葉通り、あの後すぐに別の執行者がこの世界を壊すためにやってきた。なんとかそいつは退けたものの、またすぐに次の執行者が。そいつを倒せばまた次……と、使者たちは延々と送られてくる。そして今日も、破壊の使者はやってくる。
永遠に続く防衛戦。飽きもせずよくやるものだと、正直辟易してはいるけれど。僕はこの世界を譲ってやるつもりはない。終わらない戦いだって、何度でも受けて立ってやる。だって僕には、この世界を守る理由があるのだから。
この小さな世界をとりまく、大きな世界の在り方は代わらない。今もどこかの世界が、理不尽に終わりを突きつけられている。それを変えるほどの力は僕にはない。けれど。
今日も世界には新たな命が生まれ、喜びや悲しみ、怒りや幸福、あらゆる感情が輝いている。風が巡る大地には、小さな新芽。恵みの雨が土をぬらし、柔らかに命を育んでいく。特別なドラマなどなくてもいい。ありふれた奇跡。それらすべてが尊く、美しい。こんなにもすばらしい世界を、僕は誰にも否定させない。
ひとりぼっちの神域で時折神樹と語らいながら、僕は長い時を過ごしている。世界に溢れる命の絶えることのない営みに耳を傾けて。そよぐ風に揺れる花畑をみつめている。寂しくはない。退屈もない。忙しくもある日々は充足している。
それでも時折、どうしようもない愛しさが、魂の奥に在る空白の輪郭を撫でる。この空白こそが、僕の心の形。僕が僕で在り続けるための、大切な光。
この形が埋まる、いつかの未来。願って、夢見て、心待ちにして。僕は大切な世界を、この場所を守り続ける。
君にまた逢えたとき、どんな話をしようか。
咲き誇る景色を前に、君はどんな気持ちを伝えてくれるのだろうか。
ルルディ。
風にそっと乗せるように、名前を呼ぶ。
けして枯れることのない、僕だけの大切な。花の名前を。
トリネコの花 ゆま @ymymymk
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