第21話 daring undertaking

 最近出る偽神は以前より手強くなってきている気がする。

 いや、寧ろ私が弱いのかも知れないが…


「どうしたにゃ?浮かない顔して」

「落ち込んでマース!」

 珍しくカイネ達が居ない晩御飯でママに様子を気取られた。

「落ち込んでるというか…最近偽神ぎしんが手強くなってきてるから、そろそろ修行が必要かなって思ってたの」

「どんな敵が強かったデスカ?」

「最近だと視線で呪うタイプと沈黙を掛けてくるタイプでした」

「Oh!沈黙は厄介ですね!無詠唱で出せるタイプの技も仕入れるべきですが、自分の技を無詠唱むえいしょうで出せる様にする練習もいいですね!」

「無詠唱…」

「コツは最初は短縮から練習するにゃ!短縮が出来るようにったら無詠唱で出せる様になるのも近いにゃ!」

「あと、視線で呪うタイプはたまに強力なのもいるから、耐性をつけなきゃデス!」

「月詠なら王狼の命令で封じられるにゃ♪」

「あ、そうか!真面目に呪言じゅごんを唱えてた…」

 呪言の話からカイネの巨乳貧乳の話になって二人に大笑いされた!!


「あっはっはっ!あの子素直だからにゃ♪」

「月詠みたいに言葉が出て来なかったんでしょうネ!」

「二人共笑いすぎー」

 不服をほおで表す!


 それから二日は偽神も現れる事なく普通の学生生活を送っていたのだが、その日は珍しく転校生が入ってきた。

「転入生を紹介するでー!」

 黒髪セミロングの女性が教室に入ってきた。

下御門神華しもみかどみかと申します。皆様仲良くして下さいね」

 非常に落ち着いたお嬢様系の女の子だった。

「よろしゅーしたってや!席は…鹿鳴ろくめいの前空いてるからそこにしよか!」


 しずしずと下御門さんがやってきて、無言で微笑み会釈をした。

 良かった、仲良く出来そうかも!

 人付き合い苦手なので授業中少し緊張した…


 お昼休みになり下御門さんにクラスの皆が殺到する!

 なんで皆そんなにコミュ力高いのかしら!?


「この前まで大人気だったカイネとしてはどーよ?」

 お弁当を食べながら舞衣がカイネをイジる。

「いやー、ターゲットが逸れて良かったよー」

「モテる女の子の発言!」

「でも独特のオーラがあるからデートを誘うまで行けない男子達…」

 そんな光景を見ながら卵焼きを一口かじる私。

 追い追い仲良くなれるといいな。



 その晩は週末恒例のクッキーを作り、月花ママの為にテーブルに作り置きしてから寝る。


 ―――翌日。

 アナザーバースに向かう前に式部ママが駆けてきた。

「月詠!クッキーが減ってるよ!」

「本当に!?」

「しかも冷蔵庫の備蓄を食べて、お風呂を使った跡まである!」

「なんて大胆な犯行…」

「身内ながら油断ならないにゃ…」

 こらえ切れなくて二人で笑ってしまう!

「無事なのが分かったから安心して探せるわ」

「うんうん、月詠も気をつけて行くにゃ♪」



 少しだけ明るい気持ちで異世界へと向かった。

 今回の目的はシールドリアからランスランディアのポータルクリスタルに触りに行く事。

 そして情報収集だ。


 何でもほこと盾の話逸話がある様にシールドリアとランスランディアはあまり有効的では無かったらしいが、近年国交も多くなり徐々に親密になってきたそうだ。


 そんな活気ある街の特徴が対岸に向かい合った巨大な竜の骨。

 直立し、対称に向かい合っている。

 何でも何かを封印する為にこの配置に仕上がったらしい。

 謎多き国だ…


 この街の一番大きな酒場を聞いて、その酒場でママの手掛りを探す。

 ママはお酒飲めないけど情報収集はこういう処に行く筈だから。

 酒場に入ると、ジロッと見られるがそれはきっと年齢が年齢だからだろう。

 カウンターの中にいるバーテンダーに話しかける。

「お嬢さん、子供にお酒は出せないよ?」

「あ、いえ、人を探してまして…この人なんですが」

 パソコンでプリントアウトした月花ママの画像を見せる。

「…あ、月花レクスさんですか!」

 月花ママの、この世界での二つ名がレクスだ。

「いや、最近見てないですね…たまにひょこっと顏を出してくれるんですけどねー」

「分かりました…もし見つけたら帰ってこいって伝えて下さい」

「…ああ!もしかして噂の眼に入れても痛くない娘さんですか!?」

「どういう話をしていたのか分からないですが大体あってます」

 いつもママ達が来たら飲んでるという激甘のミルクを奢って貰った。


「成程、偽神ですか…情報が入って来たら【社】を通じてお知らせしますね。国王様もレクスさんのご息女なら連絡を取って下さいますでしょう」

「助かります、有難う御座います!」

 ママ達の善行は人々の信用に繋がっている!


 街の目ぼしい場所で聞き込みしてみても「最近見ていない」ばかり…

 この方面には来ていないのか…?

 兎に角やれることはやったので船でランスランディアに渡る事にした。

 飛行で直接渡れる距離なのだが、海獣が多く、竜の封印の為にスキルや魔法が不安定との事で安全に船を選択したのです。

 船だと海獣の生息の多い域を迂回してランスランディアに航行する為に一日程掛かるらしい。


「…アンタ、レクスの身内か?」

 突然三人組の柄の悪い男達が話しかけてきた。

「……さもあらば?」

「あいつには酷い目に合ったんでな!身内ならば意趣いしゅがえ返しさせて貰うぜ!!!」

 突然拳銃らしきもので連続発砲されたので、左の結晶片翼を出しながら、廃屋とおぼしき家屋の壁から屋根に走って登る。

「それは精神年齢が低い人が扱っていい代物じゃない!」

「うるせぇっ!!」

 後ろの二人が炎の魔法の矢と氷の魔法の矢を連射してきたので、屋根を駆けながら矢を避け廃船に飛び移る!!

「すばしっこい奴め!三人同時にやるぞ!」

 魔法の矢と拳銃が雨嵐とばかりに飛んできたが、襲撃の魔狼アサルト・ウルヴズで出したフレキ、ゲリが全てを食い尽くした!


「我が名は【孤立アイソレーター】!先代王の後継にして、鋼の意思を継ぐものなり!!!」

「撃てぇぇぇっっっ!!!」

 高速で疾駆し避けて、被害が出ない様にフレキ、ゲリ、コロちゃんが射出物を止めていく!

 避けているが、周囲の人にも当らない様に逃げ回っている!

王狼の魔眼キングアイ!屈せよ!」

 二人が気絶するが、拳銃使いの男が威圧に耐えた!!

 男が状況を見て逃げるかと思いきや、突然肩に薬を打ち身体が怪物の様に巨大化していく!!

 こんな非人道的な薬が存在するなんて!!!

 様相も人より鬼に近くなってきている。

 鬼人は思ったよりも素早く、フレキ・ゲリの攻撃を裏拳一撃で叩き落し、コロちゃんの猫属性攻撃に耐えている。

 怨恨で人を倒したくないが、きっとこの変容はもう元に戻らないだろう…

 終わらせてあげなければ!


 鬼人が廃船の船首を殴ると、ボロボロに崩壊し破片がこちらに飛んでくるが、結晶の片翼と戦女神の盾で防ぐ!

 少々かすったのは想定の範囲内だ!

 続けて船の上に乗って来たので、バランスを取りながら罪なき刀を次元の狭間から取り出した。

 両手を組んで振り下ろして来たのを片翼で受け止め、両手を斬り落とす!


罪なき切り札シンレス・ジョーカー!」

 高速移動抜刀術で鬼人の首を斬り落とした!!

 廃船に鬼人が倒れ込み、ようや怨嗟えんさによる戦いが終わった。

 自分の正義を全うしたとしても絶対的に善人である事は不可能で、必ずマイナスは付きまとう。

 成るべく命を摘まずに終わらせたかった。


 倒れた二人と鬼人を自警団に任す。

 後味が良くない闘いだったが、被害が少なくて良かったと思う。



 その後、自警団で多少の取り調べを行ったが、身分証明証があったのですぐに解放された。

 再び港を訪れ、船賃を渡してランスランディアへの出航の手続きをする。

 ここでママの手掛かりは無かったので、もしかしたら次の国でも手掛かりはないかも知れないが、ポータルクリスタルに触れておいて情報が入った際に迅速に移動できることが最優先なので、元々望み薄でも仕方ない。



 船は昼過ぎに出航した。

 海獣の巣窟を避けて迂回する分戦闘の可能性は少ないだろう。

 しばし潮風に当たって物思いにふける。

「ママ何処にいるんだろ…帰ったのなら顏位見せてから行けばいいのに…」

 帰ったら一寸だけお説教しなきゃ!


 それから何事もなく順調に航海は進み、次の日のお昼頃にランスランディアへ到着した。 

 第一印象は緑の多い街だな、と思った。

 対岸の対となった竜の遺骸はさておき海辺に面している割に潮風に負けず植物が多く見える。

 何はともあれ、街の中心にあるポータルクリスタルに触れる。

 これでそこそこ広範囲を移動出来る。

 改めて情報を得る為に酒場や市場で聞き込みをしてみるも、ママの顔や名前を知っている人は居れど、行方は知れないという答えばかりだった。


 少し途方に暮れる。


 次の街へ向かうか…

 いや、折角二つの街を行き来出来るようになったんだし、もう少し聞き込んでみようと決めた矢先、皇女様に会ってみてははどうかという意見があった。

 皇女様も昔ママ達と戦った経験があるそうだ。

 一縷の望みを託して謁見の許可を申請する。

やしろ】の身分証明証を出すと比較的早く申請が通る。

 本当に上の世界からこちらの世界まで名が知れている【社】とはどういう企業なのだろう?


 そんな事を考えながら謁見迄控室で待機し、漸く謁見の間まで通された。

 待っていたのは妙齢の美しい皇女様で赤いロングヘアに多少露出の高めの服を着ていた。

 傍には美しい大剣を携えて控える従者もいる。


「私がリューネシア・リ・ランスランディアだ。初めての顏だが…何処かで見た気もするな」

「…月花レクス式部デッドエンドの娘で月詠と申します。母が御世話になっています」

「おお!あの二人の娘だったか!見た目はどことなくレクスに似てるな」

「中身が似てないとよく言われます…」

「あの二人は騒がしいからな。だが、美しい髪色はデッドエンドの色だな」

「有難う御座います…実はお伺いしたのは訳がありまして…」


 少し長いが事情を話して、月花レクスママの行方を捜している事を伝えた。


「あの二人が封殺ふうさつされかけたのも驚きだが、お前の成長速度も驚きだぞ?流石二人の血を継いでる面目躍如めんもくやくじょだな」

「いえ、そんな…」

「謙遜するな。普通戦闘経験のない者は初見で大怪我を負うか死ぬかのいずれかだがお前は大した傷も負わずに偽神相手に戦って来た事がその証拠だ。母達の血を誇れ。それは凡人には無いセンスだ」

「はい!」


「で、肝心のレクスの行方だが、私も暫く会って無いのだがここらでは見ない偽神らしき魔物の情報はあるぞ」

「本当ですか!」

「うむ、この国の北側には森が広がっているのだが、その周辺で見かけない魔物を何体か見たという話を聞いている。害を成すならば討伐隊を率いようと思案していた処だが…行ってみるか?」

「行きます!」

「部屋を一つ用意させるから、拠点に使うが良い。偽神かどうかは定かではないが魔物の討伐を請け負ってくれるなら助かる」

「ママが早く帰ってくるかも知れない要素があるのなら、どんな相手でも戦います!」

「無茶はするなよ?時に引く事も恥とは言わない」

「分かりました!」


 偽神がいるかも…少しでも減らしてママに早く戻って来てもらわなきゃ!



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天使が織り成す神封じ 桜狼 殻 @kaku-ookami

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