第20話 Daughter's concern

 聖域、それは神聖な場所。

 人によってそれぞれ定義は違うけど、私に取ってそれは図書室と保健室を意味する。  


 保健室は、小説を読みすぎて頭痛がした時にお世話になっているし、図書室はさも図書委員であるかの如く空いた休み時間には常駐じょうちゅうしている。

 ていうか、図書委員と勘違いされているフシがある。

 なんなら返却貸出の手続きから本の整理もたまにする。

 そして、窓際の一番端の特等席で新しく入った本を読んでいる。

 流石に本の世界に入り過ぎると本物の図書委員さんに迷惑が掛かる為にスマホのアラームをバイブで設定している。

 こうして私の昼休みは充実していくのだ。

 お弁当はカイネと舞衣と食べるのが定番です。


 放課後、いつもは三人で帰るのだが舞衣は用事でダッシュで帰り、カイネは野球部の試合のヘルプを頼まれてたので一人で帰る。

 いつも三人ないし二人で帰るのでソロで帰るのが珍しかった。


 どうしよう…本屋に寄るのは確定として何かおやつを買って帰ろうか…

 ラムネとグミと…ママにはブラッグザンダーでも箱で買って行こうかしら…

 スーパーでウロウロと悩む。

 先にスーパーに入るのは本屋が先だとスーパーに行くのが遅くなるからだ。

 念の為にママにチャットアプリで買い忘れか買い物がないか聞いてみると『ないよー☆(ゝω・)vキャピ』と返ってきたので、お菓子だけ買う。


 その後、予定通り本屋に行き新刊を漁り、迷っていた文庫を何冊か買う。


 因みに本屋に並んでいる本の呼称はサイズによって変わり、出た時期でも変わるので紛らわしいが、単独で出る物が新刊、サイズダウンした物を文庫、単独で出る物を単行本、ブックとマガジンの中間の物をムックと呼んだり様々あるのです。

 あとは同人誌を薄い本と統一規格で呼称する場合もあります。


 私は主に新刊と文庫狙いで、漫画なんかは主にママ達が買ってくるのを読んでいる。

 漫画は絵が付いてるのでイメージが固定する分迫力があるが、小説は想像力が支配する世界なので、その辺りも私が好きな部分でもある。



 今日も良き本を買えて幸せだ。


 あとは月花ママが帰って来てくれればもういう事が無いのだが。

 偽神ぎしんも何体生み出されたのか分からない以上、感覚で追っている月花ママもキリの無さを感じているだろう。



 そんな事を考えながら…以前サンタと戦った公園を通り過ぎようとした時。

 ベンチに座っていた老人と目が合い、手招きされる。

 もし変質者なら渾身の力を込めてスリッパで殴ろう!



『君は…本が好きなんだね』

「…はい」

『良き哉。だが、私は君を倒さねばならぬ。神封じよ』


 一歩下がって罪なき刀だけ装備をすると、老人は服が裂けみるみる身体が大きくなり五m位の大きさになる。

 着物姿で手には筆と升を装備し傍にはおおがめが待機している!


「本の神…魁星かいせい…」

 中国の神で、科挙かきょ及第きゅうだいを祈願する神でもある。

「斬りたくはないが…ママの為!故に!斬らせて貰います!」

『来るが良い』

月式抜刀・序つきしきばっとう じょ

 まずは小手調べで抜刀術を一撃入れるが、右手に持つ筆で難なく止められる!

 ヒットアンドウェイで再度下がると、懐から出して巨大化したますを左足で蹴って来たので抜刀術で咄嗟に両断する!

 その間に空中に文字を書く魁星!

『火炎』

 その文字から文字通り炎が吹き出るが、コロちゃんが氷の吐息で防いでくれている!

『質実剛健…やるではないか!』

「本の神とて容赦はしない!」

『論をたず。神封じに鉄槌を!』

 空中に墨で書いた『沈黙』が効果を表し、周囲に静寂が訪れる!

「………!」

 発声も出来ないので技の詠唱が出来ない!

 魁星が再び巨大な升を蹴り出して来た!

 難なく升は刀で両断出来たが、続けて繰り出された拳を女神の盾で受け止めるもかなりの重みにたじろぐ!

 左右の拳骨を連打され窮地に追い込まれる中、逆に冷静に思考を巡らせる。

 音読というか詠唱は大事だなと物思う。

 この状況をクリアするスキルを仕入れなければ。


 しかし、状況は突然覆った!

 突然目の前に羽衣羽心はごろもはねこちゃんが満面のドヤ顔で現れたかと思うと、膠着状態の魁星のすねに飛びきりの蹴りを入れた!

『…………!!!!』

 無言で絶叫し、沈黙の文字が消滅する!!

 神様って全員脛が弱点なのかしら…


「羽心ちゃん!グッドタイミング!」

「うむ!我は神出鬼没なのじゃ!がお―――!」

 口から炎を出し、魁星に浴びせかける!

 書物の神だからか炎には弱そうだ!

罪なき連撃シンレス・バラージ!」

 連続突きでラッシュを掛けて再び文字を書かせないようにするが、その攻撃を無視し『回復』の文字で怪我を癒やす!

『北斗七星連打!!』

 魁星も拳骨ラッシュで罪なき連撃シンレス・バラージに対応して来る!

 刀に拳骨で対応しても傷一つ付いていない!

月式抜刀・破つきしばっとう は!!」

 力の抜刀術で強引に拳骨を弾き返す!

おおがめよっ!』

 鰲が口から水を噴射するのを左の背中の結晶の片翼と左腕の戦女神の盾で防御する!


『灰燼に帰せ!燎原之火りょうげんのひ!』

 鰲に攻撃させている間に文字を書く気だ!

 だが燃焼の文字を書く寸前に羽心ちゃんが筆に蹴りを入れる!


「今じゃ!一思ひとおもいにっちまうのじゃ!」

「だから言い方!レージング!ドローミ!グレイプニル!」

 不壊の鎖で全身を締め上げて、筆を持つ手をグレイプニルで拘束する!


「ブック!」

 索引を引き、ブックに名を授ける!

『!…その書物は我も知ら…』

「ブック・オブ・リチュアル!焚書くんしょされよ!」

『ぐおおおおぉぉぉぉっ!…っ良き哉、書物に愛されし者よ!』

 その姿は紙の様にゆっくりと燃え尽きた。

 偽神のもやもきっちり両手に封じた!


 一頻ひとしきり羽心ちゃんを撫で撫でしてると、羽衣ちゃんが奪ったのか魁星の筆を持っていた。

 ドロップアイテムは初めてかもしれない。


 試しに空中に文字を書いてみたが何も起こらなかったので一旦置いておこう…

「今、何て書いたのじゃ?」

「…猫」

「お主は本当に紙一重じゃのぉ…」

  【ドロップアイテム:魁王かいおうの筆を獲得】


 頭にコロちゃんを乗せてる羽心ちゃんと手を繋いでお家に帰る。

 今晩は家でご飯を食べてもらおう!


「ただいまー」

「おかえりー!羽心ちゃんもおかえりー!♪」

 何故かぽかぽかと殴られる式部ママ!

「今日は賑やかになりそうだねー!お客様が来てるよ!」


 お客様…?

 友人は来る予定も無いし…誰だろう?

 着替えてリビングに行くと、食卓には既にハンバーグやサラダ等が七人分並び、グレースさん、羽心ちゃん、カイネ、鈴音さん、そして鈴音さんの横にとても美しく中性的な女性が座っていた。

 特徴的なのが切れ長の長い耳!

 私はこの人と初対面だけど誰だか知っている。

【アイソレーター】の最後の一人にして、鈴音さんの旦那さん、カイネのお父さんであるルクレツィアさんだ!

 いや、うちと同じでダブルママか!!

「こんにちは、月詠!うちの妻と娘がお世話になってます」

 エルフの王だけあって、落ち着いた喋り方だ。

「ああ、はい!初めまして!仲良くさせて頂いてます」

「緊張しなくていいよ!生まれた頃に一度会ってるんだけだ流石に覚えてないよね」

「はい…」

「気負わずとも良い。私達は家族だ」

 食事しながらウチと鈴音さん家で子供自慢が始まってしまって止めるの時間が掛かってしまったが、ルクレツィアさんは物腰が柔らかく優しい方だったので揉め事にまで発展はしなかった!

「数日離れに泊めてね?うちの鈴音が寂しがりだからたまに帰ってきて相手してあげないとね」

 照れ隠しにルクレツィアの後ろに流れている髪をクイッと引っ張ってる鈴音さん可愛い!

 こんな姿は初めて見たかも知れない!

「しかし、久しぶりに来たのに月花が旅に出ているとはね」

「あははは、少し前に色々あったからねー!」

「それで月花と月詠さんが神封じをしていると。面倒事の種は尽きないもんだねー」


 いっそ尽き果てて元の生活に早く戻してほしい!


 積もる話も花咲き乱れ、夜も更けたので御開となり全員就寝する。 

 だが、私の時間はこれからだ。

 最近積みゲーならぬ積み本をしてしまっているので、少し読み進める。 

 明日も学校なので徹夜しない様に気を付けなければならない。


 部屋の中には機械式の時計など音のなる物はほぼない。

 小説に没頭出来る様に環境を整えているからだ。


 と、音のなる物が一つだけあった!

 スマホだ。

 バイブの音が周囲に小さく響き渡る。

 もう嫌な予感しかしない!


『市立病院駐車場上空に偽神らしき反応あり』

 さっき倒したばかりなのにもうおかわりが来た!


 私の憩いの時間を踏みにじる偽神許すまじ!

 ……まぁ、きっと集中出来ないだろうからベッドでごろ寝してたんだけど…


 服を脱ぎ、動きやすい服の上から防弾・防塵コートとブーツを履く。

 こっそり出ていける様に装備はもう部屋に常備している。

 ちなみにメールは私にしか届かないので、誰も巻き込まない!


 窓を開けて飛行結晶で空に飛び上がる!

 目指す市立病院はここからそう遠くないので現場に急行する!



 すると大きな駐車場の車を潰しながら暴れている獣がいた!

 身の丈三メートル超えの、頭が鬼、体が蜘蛛の姿をしている!

土蜘蛛つちぐも…または牛鬼ぎゅうきかしら…」

 目があった瞬間身体の熱が上がる!

 しまった、呪詛系の能力も持っていたか!

 民間伝承でその記述を見た覚えがある!

「石は流れ、木の葉は沈み、牛は嘶き、馬は吼える…」

 呪言じゅごんを唱えると身体が軽くなる…

 逆さ言葉で呪詛解除出来るのは覚えていたが、視線を合わせる度に呪言を唱えなければならない!


「鳥は泳ぎ、魚が歩き、光は暗き、闇は明るき」

 呪言を唱えながら次元の狭間から罪なき刀を取り出す!

「月式抜刀・急!!」

 初撃はスピード重視の技で挑んで見る!

 だが、機敏な蜘蛛の動きで躱されつつ毒を吐いてくる!

 毒は結晶の片翼で防ぐが、距離を取りながら呪詛を掛けてくるので微妙にやり辛い!

 一定距離離したかと思うと突然車を弾き飛ばしながらこちらに猛前進してくる牛鬼!

 前足を猛烈に動かし、こちらを串刺しにしようと繰り出して来るのを刀で弾き返す!

 一瞬でも気を抜くと殺される!

罪なき連撃シンレス・バラージ!!」

 こちらも固有スキルを乗せて更に突きの速度を上げると再び巨躯を機敏に後退させた!!

 遠距離になると毒を連射してくるが、片翼と女神の盾で防ぎつつ、際どく避ける!



「あー!やっぱりいたー!月詠手伝うよー!」

 どうやって気付いたのかカイネが来てくれた!

「あれ?なんか突然高熱が…」

「視線を合わすと呪われるから、逆さ言葉を口にして!」

「逆さ言葉!?え…急に言われても…うーん、月詠が巨乳で私が貧乳で」

「オイ」

「お、身体が軽くなった!」

「呪言が効いてるっ!!」

 おのれ牛鬼許すまじ!

「そのまま敵視稼いでくれたら何とかする!」

「了解ー!」

 何回か斬りつけてみるが、ひょいひょいと避ける牛鬼!


「レージング!」

 不壊の鎖も素早く避ける!!

 一方毒と高熱で戦いながらもカイネが貧乳だの巨乳だの呟いている。


「ブック!!!」

 少し不機嫌気味にブックを取り出す!

「ブック・オブ・ライトニング」

 牛鬼に何発も稲妻が落雷し、霧散する!!!

 偽神のもやも回収!


「……えーと月詠さん?怒ってらっしゃる?」

「……いち時間だけお説教ね?」

「えーん!」

 お説教前に回復してあげた。


「因みに何で戦ってるの気付いたの?」

「あ、いや、家居たら二人がイチャイチャしてるから二時間位留守にしようかと…」

「中学生の気遣いっ!」



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