第19話 discussion

 鎌鼬かまいたちだの役小角えんのおづぬだの、こちらの世界では日本の、あちらの世界では西洋のファンタジーモンスターがきっちり分かれて出る。

 いや、一度だけ向こうで花魁おいらん偽神ぎしんを見たか。

 この傾向だけでも念頭に置いておけば、先日の鎌鼬の様にボロボロにはなるまい。

 …と、戦いの反省をする毎日。 

 死んだら小説も読めないし、ママ達が泣くから絶対に駄目だ!



 今日はイグムンド王国から、船で三日の場所にあるシールドリア王国までポータルクリスタルを触りに行こうと思う。

 式部ママにその事を話したら、イグムンドの下町にある酒場にミューとナナという姉妹がいるから宜しく伝えてくれとの事だった。


 今回は前回ボロボロになった所為なのか、心配してカイネが付いて来てくれる事となった。

 二人で装備を整え、ダイヴインした先は前回ダイヴアウトしたリトルフェミアだ。


 公爵様は妊婦の秘書さんの監視付きで執務をしていたので、そっと挨拶をしてから城を降りた。


 リトルフェミアから南東に飛ぶ事ほぼ一日。

 その国は魔導船を四隻も所持しており、軍事国家だった名残を残していた。

 ここがイグムンドか…

 夜の方が賑やかな国なのか、飲食店やバーが立ち並び、軍人らしき人達が仲良くお酒を飲んでいる。

 その内の一件に入ると、金髪の女性と青い髪の女性二人がくるくると良く働いていた。


「あの…すみません」

「いらっしゃいませ!未成年さんだからお酒は出せないけど、料理も美味しいよ!」

「ミューさんとナナさんという方はいらっしゃいますか?」

「私がミュー、ホールにいるのがナナだけど…何処かであったかしら?」

「初めましてです!レクスとデッドエンドの娘の月詠と申します」

「私はベルとルックの娘のカイネです!」

 ベルは鈴音さん、ルックは…お父さんだろうと推測。


「まぁまぁ!あの方々の!ナナー!ちょっと来てー!」

 初対面でハグハグされる。

 ここでもママ達は善行をしてきたのだろう。


「レクスさんが飛び出していった?レクスさんらしい!先日来ましたよ!」

「矢張りここにも…」

「万が一娘が来たらスペシャルタコライス食べさせて帰れって言っといてー!って言ってました」

「知り合い全員に言ってるのかしら…」

「月花さんらしいね!」

 カイネがにこっと笑った!

「ママがどこへ向うとかは言ってませんでしたか?」

「ここからなら、恐らくシールドリアかランスランディアかなって思いますよ!さぁ、スペシャルタコライスを食べて元気出して下さいね!」

 出されたのはタコライスの上に大きなステーキ肉の乗った、まさしくスペシャルという背徳的なメニューだった!!


 スペシャルタコライスを頂き、食休みしている間に二人からママ達の事を聞く。 

 矢張りこの国の風通しを良くしたのはママ達らしくて、国中の人間から高く評価されていると聞いて少し誇らしかった。


 一頻ひとしきり話を聞いてからミューさんの酒場を後にする。

「スペシャルタコライス美味しかったよねー!」

「ええ、また是非来ようね!」

 イグムンドのポータルクリスタルに触り、次なる土地・シールドリア王国を目指す。

 船で三日…飛行結晶で飛んでもいいのだが、万が一悪天候に見舞われると休む場所もないので、安全に路銀を払って船に乗ることにした。


「船旅かー!晴れるといいよねー!」

「外国を知らぬ若者の知恵は狭い、とシェイクスピアも言ってるし見聞を広めましょう!」

「難しいことわざ、よく覚えてるよねー月詠は」

「本の虫だもの」

 謎の自慢になった!


 船が出港し半日、ミューさん達がお弁当を持たせてくれたのでカイネと客室で食べる。

「あのお店本当に料理美味しいよね!お弁当も凄く美味しいよ!」

「うんうん!」


 と、その時大きめの地震に気付く。

「地震??」

「ここは海上だから地震は有り得ない…」

 甲板に出てみると巨大な海獣が何匹も海面から首を伸ばし、周りを囲んでいる!

「ハラペコなのかなー」

「餌は私達ー!取り敢えず敵意向けてる奴だけやっつけよ!」

「オーキードーキー!」

 自分とカイネに飛行結晶を付けて動きやすくする!


 早速一匹が私を飲み込もうと首を伸ばしてくるので、結晶の片翼と戦女神の盾で防御する!

 カイネは召装しょうそうラムウで雷攻撃をしている!

罪なき切り札シンレス・ジョーカー!」

 高速移動抜刀術でまず一匹の首を両断する!

 すぐに、甲板にいる人を狙ってる海獣にファングハーケンを打ち込み、気を引く!

 海獣の振り向きざまに月式抜刀つきしきばっとうじょあごを上下に斬り割く!

 滑るように海中に沈んでいく海獣だが、後から後から海中より沸いてくる!

 と、その時群れの中に一際つのの大きい個体を見つける!


「カイネ!リーダーを倒すから三分頑張って」

「了解ー!」

戦女神の援助ヴァルキュリア・アシスタンス!ヴァルキュリア!船上の人を助けて!」

「承知!」


 威嚇や噛みつきをする群れをすり抜けリーダーの元へ向かう!

彼方よりの星光スターライト・ビヨンド!!」

 ビームで早期決着を着けようとするも、硬そうに光る角がビームを打ち消した!

襲撃の魔狼アサルト・ウルヴズ!!フレキ!ゲリ!喰い散らせ!」

 前回の二の轍は踏まない!


 リーダー海獣に喰いかかっている魔狼二体と混じり斬撃を入れる!

 鱗が他の個体より硬く、一撃で両断するのは難しそうだ。

「月式抜刀・破!!!」

 三種の月式抜刀術の中で斬撃力重視の技!!!

 リーダー海獣の喉元を掻き斬るが、両断までは行かない!

「ギャオオオオオオオオッ!!」

 と悲鳴を上げ、フレキ・ゲリに食われながらもこちらを喰おうと蛇の如く首を素早く伸ばしてくる!


「レージング!ドローミ!」

 弱った海獣を不壊の鎖で縛り付ける!!


「ブック!」

 左手に現れた本の索引を見て本のタイトルを決める!

「ブック・オブ・ドライネス!干上がれ!」

 両生類は乾燥に著しく弱い生き物だ。

 急激に干上がれば粘膜や鱗も乾燥し本体も急激に弱体化する!

 悶える海獣にとどめを刺すべくブックから罪なき刀に持ち替える!

罪なき切り札シンレス・ジョーカー!!!」

 先程の斬り口から更に追い打ちをかけてリーダー海獣の首を落とす!!

 すると、リーダーがやられたのを悟り周囲の海獣も姿を消していった…


 よし!

 硬い敵だったけど何とかなった!

 フレキ・ゲリを戻して船に戻るとカイネがヴァルキ様と打ち解けていた!

 何たるコミュ力!!!

「あ、月詠!この人誰ー?」

「自己紹介してないっ!?えっと…神話で名高いヴァルキュリア様よ」

「えっ?」

「今は月詠の友達権アシスタントだ」

 ちゃっかり友達主張されてる!

 そうニコっと笑うと私の背後に消えていった。

「月詠…とうとう2・5次元のお友達が…」

「超優秀スキルだから!若干可哀想な目で見るのは止めてっ!」


 勿論その後船の乗務員やお客さんに感謝された!!

 幸い怪我人だけで死亡者はいなかった様だ。


 この後二日は悪天候や海獣に見舞われる事も無くシールドリアに到着!

 一旦ポータルクリスタルに触れて急いで帰る事にした。

 そう、式部ママとの約束を一日オーバーしているからだ。


 ぷんすかしている式部ママに今回の旅の話をすると『あー、あそこは時間かかるもんにゃー』で許してくれたっ!

「海獣出なかったかにゃ?あの海域はウヨウヨしてるにゃ」

「あ、出てきましたー!」

「あ、ママ達も通った道だったのね…」

 盛り上がる討伐話!

 話の流れでヴァルキュリア様も呼んでお茶をしながら女子会になった。

 最近のスキルってお茶するんだ…


「今回も月花ママの手掛りだけで見つけられなかった…」

 式部ママと二人きりになった時にふと洩らした。

「まぁまぁ、月花が危ない目に合うとか早々ないし、あれば周りを頼るから逆に手掛りになるし、ゆっくり待つにゃ」

 横に座って頭を撫でられる。


 ピンポーン

 もう夜の9時なのに、誰だろう…

 いつものメンバーは鍵があるので勝手に入れるし…

「はーい」

 インターホンには誰も返事せずカメラにも映っていない。

 前回の件もあるので恐る恐るドアを開けると…


「よぉ」

 どこかで見た赤髪の女!

 そうだ!

 ママが入っていた水槽を守っていた女だ!

 瞬時に刀を抜こうとするが、柄を抑えられて静止される。


「話し合いだ。親はいるか?」

「あ―――!あんた私達をさらった奴ー!」

 式部ママが出てきた!

 なる程、空間転移スキルでママ達を攫ったのはこの女だったか。


「話したい事は沢山あるし、上がっていいにゃ!」

「……お、お邪魔します」

 揉めるかと思いきやすんなり通されて敬語の女!


 ソファに座ると、三人分のお茶とお茶菓子が出てきたので、三人共一口、口に含む。


「で、どうしてああいう事になったにゃ?」

「どうもこうも…こちらには不幸な人間が沢山いる…生まれた環境、貧富の差、身分の差…圧倒的に幸せな人が少ない」

「それはこちらの世界も同じ事にゃ」

「違う!こちらにはモンスターが人を襲う事がないだけマシだろう!」

「この国には圧倒的な数の神はいるにゃ…けど、神は基本的に人間に不干渉…幼くして死ぬ人もいるし、紛争地帯で戦争に巻き込まれる人だっている」

「だが、この世界の希薄でまつろわぬ神と違い、カムドアースでは意思を持ち実体化している!人を幸せに導くには確実な神がいるんだよ!」

 憤ってテーブルを叩き、悔しそうな顔をする。

「お前達が生み出した神は基本的に不干渉でバランスを取る神だ…そんな神は要らない!生まれたら皆幸せになっていい筈だろ!」

 また机を叩く!

 ん?

 何か様子がおかしいと思ったらお酒臭い!

「ママ、お酒盛った?」

「盛ったにゃー!本音も聞きたかったしー♪」

 机に突っ伏したまま寝る女!

 こんなにお酒に弱かったのかっ!

 敵って皆お酒強い者とばかり…


 もう害はないだろうと判断し、ソファでタオルケットを掛けてそのまま寝かせてあげた。

 確かティリスとか言ってたか…

 悪気は少なそうだが、理想論を口にするなら犠牲は出してはいけないのだ。

 大事の前の小事は『皆幸せ』ではないのだから…



 朝起きると、ティリスは居なくなっていた。

 寝る前に用意されていた朝御飯はきっちり食べた後があったのが逞しいというか何というか。

 本当に話し合いに来たんだな。

 やった事は許さないけど、人の幸せが行動原理ならいつか和解出来るかも知れない。


「お早うー…お、きっちり食べて帰った見たいだにゃ♪」

「ちゃっかりしてるね」

「でもあんな理由があったんだねーただの愉快犯かと思ったら一寸した思想犯だったにゃ」

「愉快犯でも思想犯でもウチが大迷惑よ」

「まぁまぁ…私達無事なんだし」

 今度来たらきっちり話し合わないと!

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