第18話 Taste of the Family

「なら、月花ママがくれたのかしら…」

「それは本人に聞かないと解らないし…」

「面白そうだからちょっと披露するにゃ♪」

「うん、何かターゲット出来る物ある?」

「私が土で人形を作るよ」

 鈴音さんが魔法で庭に人形を作ってくれた。


 庭に移動しママ達が観戦の準備をする。

 皆に注目されたまま技を使うのは何とも気恥ずかしい!


「…ブック!」

 次元の狭間から、左手にブックが現れる!

 本を開き、本の名前を決める。

「ブック・オブ・トール!雷鎚らいついミョルニル!!」

 本がほのかに雷を帯び、対象に雷撃と打撃ダメージを与え、人形は散る!


 と、もう一体人形が出来たので索引からタイトルを変える!

「ブック・オブ・アース!大地よ、飲み込め!」

 人形が裂け目に飲み込まれ消えていく。

 裂け目が消えるとブックも通常状態の白い本に戻る。


「…チート武器かにゃ?」

「そんな事ないよー!本のタイトル決めるまで時間掛かるし」

「強いよねーブック!相手の弱点とか見てから有効な攻撃出来るし」

 カイネが羨ましそうに本を見る!

「それって…攻撃以外にも使えマスか?」

「回復系は使えるけど、それ以外には…使った記憶が無いです」

「例えば…この庭に花を咲かせる事トカ?」

「やってみます!…えっと…ブック・オブ・ブルーム!咲き乱れよ!」

 索引から言葉を探し、本を名付けると庭全体に色とりどりの様々な花が咲いた!


「…いけマスね…汎用性が高すぎマス」

「強力な武器だにゃ…どこで手に入れたんだろ」

「私達は月花と式部が月詠にもたせたとばかり思ってたんだけどねぇ」

 ふるふると首を降る式部ママ。


杞憂きゆうかもデスが、もしかしてアカシアの記録と繋がりがあるカモ?」

「考慮はすべきかもねぇ…」

 鈴音さんも難しい顔をする。


「取り敢えず家に入ってから考えるにゃ♪」

 夜は少し肌寒く感じたので全員家の中に入った。



 デザートに出してもらったフルーツ大福に舌鼓したつづみを打ちつつ今後の方針を決める。

 まずはアカシアの記録の情報が漏れない様に自分から聞く、話すのは禁止。

 ブックも、もしアカシアの記録との関係性を聞かれたら(無いとは言い切れないが)関係無いと言い切る。


 そして、カムドアースに滞在は最大三日までで、残りは学校にしっかり行く事…月花ママを探す許可は降りたが学校行く事も約束させられたっ!



 その夜寝る前に舞衣に、帰ってきた事をチャットアプリで報告する。

『帰ってきたよー!舞衣の毒使ってみた』

  『マ?効き目あった?!』

『のたうち回って死ぬ程苦しそうで見てられなかった』

  『…しゃっ!』

『絶対ガッツポーズ取ってるでしょ?』

  『やだもー監視カメラ仕掛けた?』

『仕掛けるかー!手に取るように分かるわっ!』

  『愛は以心伝心!』

『はいはい(・ω・)』

  『(´;ω;`)』

 毒の報告も済んだしぐっすり寝た。

 お家のお布団最高…




 翌日、ママとの約束通り学校へ行く。

 今日はカイネも一緒だ。

「カイネ、お早う!学校は慣れた?」

「うん、行ける時に行ってるけど、舞衣もフォローしてくれるから楽しいよ!冒険者インターセプターもやってるから部活とか入れないけどね」

「人の事言えないけど学生生活って、後の人生で貴重がられるみたいだから噛み締めないとね!」

「あはは!本当だね!」


「おっはよー諸君!」

 突然舞衣が現れた!

「おはよー!」

「お早う舞衣」

「勝負じゃー!」

「やるかぁー!」

 謎の対決ムードになるカイネと舞依。

「何で出会い頭に勝負なの?」

「ノリで?」

「ノリなの?」

 ほあちゃー!とか、うりゃー!とか言いながら突きあう姿はさながらバカップルの如し。

 二人が仲良くなって良かった!



 式部ママとの約束だから三日は大人しく学校通いだ。

 けど、こそこそせずに大手を振って月花ママを探しに行けるのは大きいので、大人しく学校に通う。

 ワンチャンこちらにも偽神ぎしんは出るかもしれないし、そこに期待しながら授業を受ける。

 こういう時こそ私の様な平々凡々へいへいぼんぼん凡人ぼんじんらしく普通にすればいいのだ。

 帰りは本屋に寄って、小説を漁って帰ろう。

 以前みたいに焦る必要は何処にも無いのだ。



 授業も滞りなく進み、放課後になると舞衣とカイネを誘い駅前の書店に向かう。

 書店に入ると、大体は新刊が入口に並び人目を引く構造になっている。

 私はこの光景が大好きで堪らない。

 寧ろ毎回新刊が出る度にこの素敵な光景を作ってくれる書店員さんの功労をねぎらってあげたい位だ。

 素敵な手書きポップにも眼が行く!

 色とりどりの新刊を眺め、気になるタイトルのあらすじに目を走らせ、帯でレビューしている作家さんの感想を吟味し、新刊のハードカバーを捲り冒頭を数行読む頃に薫る独特の本の香りが鼻腔をくすぐる。

 将来は書店員さんでもいいな…

「もしもし月詠?」

「帰ってこーい」


「―――はっ、私何処どこかを旅してた!?」

「詩的な言い回しより、本オタ全開だったって言った方が伝わりやすいかなー?」

「若干トリップ気味なのは当たってるけどね」

 舞衣とカイネに笑われる!

 でも、新刊の本の香りとか、雨の日のアスファルトのペトリコールの香りとかは好きな人が多い筈!と信じたい!


 と、書店で陶酔していた処でスマホがバイブを鳴らす。 


『奈良町上空に偽神ぎしんらしき反応あり。確認されたし』

やしろ】からのメールだった。


 この買うか買わないか、まだ見ぬ名作を発掘できないかの大切な吟味する時間をにじる偽神許すまじ!

 取り敢えず気になった二冊だけお会計して、カイネに鞄を預けて飛び出す!



 奈良町上空…少し広めの空域だが、コロちゃんと飛行結晶で空に登るとその姿を遠くから捕捉出来たので高速で近付く!!


 だが、相手もこちらを捕捉したのか、獣が向かって来る!

 こちらは光の片翼、左手のストライフ、罪なき刀といきなりフル装備だ!

 すれ違いざまに相手の鎌状の尻尾と罪なき刀が一合打ち合う!


 きっちり一撃で鎌を斬ったが、すぐに傷跡から鎌が再生する!


 いたちの姿に尻尾と両手に鎌を生やしたそれはきっと鎌鼬かまいたちなのだろう。

『神封じ…迷惑な存在め』

「いや、偽神が言うな」

風鎌かぜかま!』

 突然突風が吹き荒れるが、突風の中に鎌が混じっていてどこから来るか分からない!

 左側は結晶の片翼と女神の盾で防ぎ、右側は斬られながらも罪なき斬奸シンレス・スレイの範囲攻撃を繰り出し、突風とっぷうごと両断する!

『鎌鼬の鎌からは逃れられん!』

 鎌鼬の速度が格段に上がり、身体数カ所を斬られるが不思議と出血はしていない!

『紙一重で切断をかわしているか、小癪こしゃく童子わらしよ!』

 コロちゃんが炎で牽制しているが、突風の所為せいか火災旋風の様に唸っている割に大ダメージ迄には至っていない!


 だが、それだけじゃない!

 紙一重で躱しながらタイミングを計算していた!

月式抜刀つきしきばっとう・急!」

 超高速抜刀術で両手の鎌を纏めて切断する!

『遅い!!!』

 抜刀術の終わり際に合わせて尻尾の鎌が迫る!

 戦女神の盾の防御が間に合わず肩口を斬られた!

 が、それ以上斬られない様に盾で凌いだ!

『このまま殺す!鬼神の刃!!!』

 両手の刃が再生し、尻尾の刃をこちらに刺したまま襲い掛かる!


 やられはしない!

 私には使命がある!!

 左肩を盾で庇っているので動かせないが右腕は残っている!

罪なき烈風シンレス・ゲイル!!!」

 至近距離からこちらも烈風を起こし、竜巻の様な鎌鼬かまいたち偽神ぎしん鎌鼬かまいたちを襲う!

 左肩への攻撃を止め、三本の刃でこちらの技を受け止める鎌鼬!

 金属の衝突の様な音が連続で周囲に響く!

 動けない鎌鼬をようやく狙いやすくなった!

停滞領域スタッグメントゾーン!!」

 動けない鎌鼬に徐々に停滞していくスキルを掛ける!

 これでスピードは防いだ!


「ブック!」

 神器を罪なき刀からブックに持ち替える!

「ブック・オブ・パニッシュメント!!」

 周囲の空間が割れたガラスの様に割れ落ち、領域に鎌鼬を閉じ込めた!

 これでもう逃げられない!


「七つの神罰セブン・パニッシュメント!!」

『きぎいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!』

 停滞し領域結界に揺蕩たゆたう鎌鼬に七色の雷が一発落ちると、断末魔を上げて鎌鼬は散っていった…


 偽神を倒した時のもやも両手に封じたのでこれでよし、とブックの領域を解いた瞬間、全身の切り傷から血が吹き出る!

 出血しないのは鎌鼬の特性だったからだろうか、発生源が消えた途端に傷の出血が始まったのだ!

女神の息吹ブレス・オブ・ゴッデス!」

 回復スキルを掛けてみたが、出血が止まる様子が無い!

 ……心配させるが、式部ママを頼るか…


 血の滴りと傷の痛みを我慢しながら上空から降下し、家に直接降り立つと、玄関前で古めかしい壺を持った式部ママとカイネと舞衣が待っていた!

「おかえりー!やっぱり血だらけにゃー!!」

「月詠大丈夫!」

「制服がボロボロで血だらけ!幾らで売ってくれる!?」

「うん、舞衣は帰っていいよ?」

 悄気しょげげてる舞衣を尻目にママに事情を話そうとしたら、もう解ってるかの様にママが壺から軟膏らしきものを傷口に塗り始めた。


「さっき下から見てたにゃ♪鎌鼬の傷は昔から伝わる軟膏じゃないと治らないから、戦ってる間に慌てて探したにゃー!」

 軟膏を塗った箇所が見る見る内に再生し出血が止まる!

「あーでも、輸血はいるかなー?電話しておくから病院いっといで!カイネ、行き倒れにならない様に付き添いお願いにゃ!」

「はーい!」

「舞衣ちゃんは晩御飯食べていくにゃ♪お家に連絡しておいてにゃ?」

「有り難う御座います!」

 三人分の鞄を持って私の部屋に向かう舞衣。

 私はカイネの付き添い付きでいつもの病院で輸血してもらった。


 シンプルな偽神だったのに、過去で一番のダメージを負った事は反省しないと…


 病院から帰宅して皆でご飯を食べる。

 今日の晩御飯は早良さわら西京焼さいきょうやきにほうれん草のおひたし、しじみのお味噌汁に炊き込みご飯だった。

 全員で舌鼓したつづみを打ち、一息つくとグレースさんがスマホからテレビに何かの映像を飛ばしてるので全員で見ると、何と先程の戦いの録画映像だった!

 遠くから隠し撮りされていたの!?


「序盤のこの切合一合いちごうで相手は刃物や風属性主体の敵と推測が付きマス!この時点で対策を寝れば次の鎌鼬かまいたち現象の様な技に捕まらなかったデス」

 戦闘教官グレースさんの講義が突然始まり、私とカイネと舞衣でふむふむ言いながら研究する。

「カイネが介入しても良かったデスが、これは月詠がノーダメージでも倒せた敵でしたので、月詠はもっと勉強しまショウ」

「はい!」

 出し惜しみせず戦乙女の援助ヴァルキュリア・アシスタンスを出しても良かったかもしれない!


 ―――その夜。

 皆も帰って、お風呂に入った後だった。

「月詠、今ヒマにゃ?」

「うん」

「只今よりクッキーを作るよ!」

「突然どうしたの?」

「月花の性格からして突然とかこっそり帰ってくるかもしれないから、テーブルの上に家族の味を作り置きしておくにゃ♪」

「それいい!」

 親子で深夜のクッキー作りはそれから週一の恒例となり、週末に残ったクッキーは皆に配られる事となった。




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