退屈
@sokkou
退屈
「お前もやめるのか...」
「先輩、僕はやりがいを求めて警察官になったはずなのに、こんな生き方をしていることに嫌気がさしました、僕は他の仕事を探します」
「お前がいい仕事につくことを祈っている、新しい場所でも頑張るんだぞ」
「もちろんです先輩、そちらも頑張ってください」
別れ話がすむと、一人分部屋が広くなった部屋で男はため息をつき、もう一人の同僚に愚痴をこぼした。
「地域の人間を守るはずの警察はロボットのせいで無くなってしまったんだな・・・」
「仕方ないですよ、機械の方が正確に現場に指示を出せるし、駆けつけるのも電波を受け取れば、いつでも出動体制が整ってる分私たちよりも迅速に現場に向かうことができるし、機械なら鉄砲や包丁も効かないから、安全に犯人も確保できて、悲しいですけど我々に勝てる部分なんてないんですよ」
「ですから私たちは、もしもの時のためという理由で署の中にいればいいんです」
「だが、それのせいで働いてない奴らに税金を払うなんておかしいとデモが発生してるじゃないか」
「それは、我々がいきなり廃業になったら大変だという国からの配慮なんですよ、素直にそれに応じましょう」
「それはそうなんだが・・・」
男はそう答えると黙り込んでしまった。
実際全てそうなのだ、再就職の厳しい我々に対して、定年まで安定した暮らしをさせようという国からの配慮なのだ。
これ以上のことはないではないか。
しかし、それでも男は腑に落ちなかった。
「何か、想定外の事件なんかは起こらないだろうか...」
「怖いこと言わないでくださいよ」
その時、署全体にアナウンスが鳴り響いた。
「たった今、周辺地域の警察ロボットが全てハッキングされ、街で暴走している模様、直ちに現場へ出動せよ」
男はいきなりのことだったので焦ったが久しぶりの仕事だと思い、内心嬉しかった。だが、冷静に考えると怖くなってもきた。
我々ではとても匹敵できないようなロボットが何体も暴れているのだ、命の保証はない。怖気付きそうになったが、市民の平和のためには我々がいかなければいけない。男は気を引き締めて現場に向かおうとした。
しかし、その時電話が鳴った。男は他の警察官に先に行くよう伝えて電話に出た。
相手はさっき辞めた後輩だった。
「もしもし、どうしたんだこんな時に?」
「先輩、いきなりですが落ち着いて聞いてくださいね、今回の騒動は私も含め今までやめてった警察官や他の署の警察官達で行っています」
男は一瞬言葉を失いかけたが、なんとか後輩に応答した。
「なぜそんなことをしたんだ」
「簡単ですよ、我々は今まで市民の為に日々頑張ってきたのに、ロボットがきた途端に邪魔者扱い、あまりにひどいではないですか、そこで私たちは、違う管轄の警察同士で手を組み、あらゆる地域のロボットの情報を盗み取りました」
「当初、ここの署を辞めるのは僕だけだったんですが、情報を抜き取っている時に他のもの数人に見られてしまい、そいつらもこちら側に引き込みました」
「ここの署で辞める人間が多かったのはその為ですよ」
「そして、なぜこの電話をあなたによこしたかというと、こちら側に引き込む為です、先輩はおかしいと思いませんか?
自分たちのことを好き勝手に叩いた人間達がピンチになったら助ける仕組みなんて、むしろここで私たちがこの地域を支配し、この腐ったルールをただすべきです」
「なるほど・・・」
男は返事に悩んだが、後輩の言っていることは心の奥底で自分も思っていたことでもあった。
そして男は返答した。
「ああ、そちらの仲間になろう」
「そう言ってくれると思っていました、
では今から迎えに行きます」
こうして、正義を貫こうとした男は悪に染まった。
退屈 @sokkou
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