後編
◇
「ん? 知らない番号だ」
秋楽が不登校になって数日、放課後も部活の無い俺はソファーでゴロゴロしていたら知らない番号から電話がかかって来た。
「じゃあ着拒しとけば?」
俺の独り言に答えたのは一緒にソファーに並んでテレビを見ている夏純だった。今では昔のような
「そうだな、出ても危ないしな」
夏純の言う通り着信拒否が正解だ。そのまま知らない番号からの着信を無視した。だが、その一週間後に俺はネットの恐ろしさを再び思い知らされた。
「おいおい聞いたか?」
「またお前か……」
例の噂好きのクラスメイトがスマホをスワイプしながら話しかけて来た。
「今度は三年の先輩が飲酒と喫煙で停学だってよ!!」
「朝から酷いニュースだ……」
「これがトーク・テックにアップされてんだよ!!」
「今度はアプリか……ネットこっわ……で?」
「隼田冬花って三年の先輩、東高の
その名前に動揺した。後で聞いたら東高の矢里野
「え?」(冬花先輩が?)
「しかも酒飲まされて
「やめろよ朝から!!」
「お、おう……わりい」
あんなに男を変えていたらトラブルに巻き込まれるのは当然だ。哀れだと思うと俺は急に数日前の電話が気になってブロックを解除した。着信以外にアプリにもブロックしたメッセージが入っていた。
『助けて鷹野やばい』
『お願い電話出て』
『このままじゃ本当に』
それは一週間前の通知だ。あの電話の後のメッセージだと思う。慌てて廊下に出て電話したが先輩には繋がらなかった。
「繋がらない!?」
「フフフ……バチが当たったのよ」
「え? 夏純?」
いつの間にか後ろには夏純がいた。その笑顔は不気味で怖かった。でも放課後に合流した時にはいつもの夏純に戻っていた。
「俺が悪いのかな?」
「ううん、ハルは何も悪く無い、自業自得よ」
それから数週間後、俺は冬花先輩の話を夏純にしていた。あの後、先輩は停学から自主退学に切り替わって学校を辞めたからだ。
「もし俺が電話に出てれば……」
電話の内容は今でも分からない。でも間違いなく緊急で俺に連絡したに違いない。そんな先輩を俺は見捨ててしまった……後味が悪過ぎる。
「あんな連中と付き合ってたのが悪いのよ、ね?」
「でもやっぱり俺、一度先輩に連絡を……」
俺は膝枕してくれている夏純を見上げて言った。だが夏純は俺の頭を撫でながら穏やかな声で言った。
「ハルは本当に優しいね、でも、あんな簡単に誘いに乗るバカを心配するのはダメ、連絡なんかして逆に警察に目を付けられるかも」
確かに急に事件の関係者に連絡なんてしたら怪しまれるのは当然だ。だから俺は夏純の言葉に従った。それから数日間は平和だったが珍しく放課後に用事が有る夏純とは別行動になってしまった。
◇
「久しぶりに……走るか」
それがいけなかった。今思えば秋楽の件が発覚したのも走った時だ。体を動かしたくなった俺は近所の神社の脇を通るコースを走っていると夏純と元カレが二人で境内に居たのを見つけてしまった。
「あっ!?」
また夏純を取られると思って焦ったが同時に夏純の様子に違和感を感じた俺は咄嗟に隠れていた。
「頼む!! もう一度、今度こそ本当に付き合ってくれ!!」
そして告白された瞬間、夏純の表情が一気に変わった。それは秋楽と対峙した時と同じ顔だった。
「たまに勘違いするバカが出るのよね、あんたで二人目、私達の関係はビジネスライクって言ったよね? 偽カレシ役の報酬も出したでしょ?うちの私の親がさ」
色々と意味不明な単語が聞こえたが偽カレシとはどういう意味だ?
「お前の彼氏の振りをしている内に本気になったんだ!!」
「あっそ私は無いから……絶対無理、てかお前とか何様? とにかく今すぐ消えてよ。そもそも手まで繋いだのは本当に苦痛だった……分かる? ハル以外の男と手を繋ぐのも私にとって拷問だったの!!」
夏純の狂気に染まった目と何より言ってる事の理解が追い付かない。
「あんな男より俺の方が!!」
「私がハル以外を好きになるなんて……絶対に無い!! あんた達の役割はハルを挑発して早く私に告白してもらうように仕向ける当て馬、その状態をキープするだけが役割……勘違いしないでって何度も言ったよね?」
待て……じゃあ、あの男も歴代カレシも全員キープなのか……いやキープの意味が違うとはいえ俺と同じでキープ扱いは複雑だ。
「契約切った時に言ったでしょ? 予定が変わったから終わりって……私ね気付いたの!! 偽カレシのあんた達がいると優しいハルは奪うより引いちゃうって、それで変な女に目移りする……だから予定変更って!!」
「な、なら力付くで俺の女に~!!」
だが夏純に襲い掛かったのを見て思った……何も知らないのかと。そして予想通り夏純の回し蹴りを合わされた偽カレシは前歯ごと蹴り飛ばされた。夏純の趣味はムエタイでコーチは元世界チャンプだ。
「あと私のハルはお前と比較できない唯一無二……じゃ治療費は後日請求して、さようなら二度と私とハルの前に現れないでね、キープさん」
そう言って最後に偽カレシの顔面を踏み付け気絶させていた。それから夏純は何事も無かったかのようにスマホを取り出し電話をかけていた……俺に。
「っ!? 何で!?」
しかも俺のスマホの着信音の設定が勝手に最大になっていた。音が鳴り響くと同時に夏純は俺の背後にいた。
「あ、見てたハル?」
「夏純……これは」
「昨日の夜中ハルの部屋にコッソリ入って設定イジったんだ~」
そう言って抱き着いて来るが今まで癒されていたのが完全にホラー展開だ。ここまで見て見ぬ振りをしていた数ヶ月の出来事の全てが違和感として思い出された。
「なに……する気だ、夏純?」
「え? もちろん告白だよ……ハル、六歳の頃から大好きでした!!」
俺は混乱しながら色々と考えた。断ったら何されるか分からないし今までの動きを見るに夏純のイカレた行動の原因は俺だ。だが俺はこんな状況なのに告白されたのが嬉しかった。
「昔から、お前だけは変わらないな……」
「そう? だってハルはハルだし……」
昔、俺は幸運を呼ぶなんて言われたけど違った。今までのカノジョ二人には利用され浮気され散々な目に遭わされた。それで最後に俺の所に来たのは少し頭がおかしくなった初恋の女の子だ。
「ほんと夏純だけは変わってなかったんだ」
「うん、それより答えは?」
「そんなの……決まってる、俺も好きだよ昔から……」
「やった~!!
こんなこと言われてるのに喜ぶ自分がいる。騙されたし目の前の幼馴染は他人を俺みたいにキープ扱いしていたから普通なら許せない、だけど俺は……。
「もう、こんなことするなよ……恋人なんだから……」
「うん!! ハル以外いらないから大丈夫だよ!!」
皆が変わる中こいつだけは変わってなかった事が嬉しくて仕方なかった。そして俺達は二人揃って大事件に巻き込まれるのだが、それはまた別の話……具体的には三年後の話だ。
「じゃあ帰るぞ夏純」
「うん!!」
――――to be continued?
裏でキープ扱いされてたから離れます――俺が離れたら不幸になるとか偶然だからな?―― 他津哉 @aekanarukan
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
同じコレクションの次の小説
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます