4話「アベール、すごい子見つけちゃった」
孤児院を作ると言っておきながら、名称を変更した。
寓居のソファでまったりしているお姉ちゃんのところに駆け寄り、
「孤児院の名前、幼稚園にする」
「なんで?」
「調べたんだけど、この世界だと孤児院って子供を奴隷みたいにして働かせる場所って意味になってて、あんまり良い意味じゃないっぽいんだ」
「そう…………」お姉ちゃんが悲しそうな顔をする。「この世界はけっこう物騒なのね」
そう言って、俺を抱きすくめる。なにかあれば抱きしめればいいと思っているのがお姉ちゃんの短所だ。
お姉ちゃんに抱きしめられるとこそばゆくなる。
遠くのほうから「ヒューヒュー!」とからかった声が聞こえてくる。見ると、大広間のドアの裏側から、十数人の子供たちがにやにやしながらこちらを見ている。
「見んな馬鹿!」
そう叫ぶと子供たちはおかしそうに笑う。
一旦は見つけられた孤児を全員寓居で保護した。だが、どうやら孤児=忌み嫌うものという考えが染みついているらしく、長い間この神聖な寓居で子供たちをかくまうと、住人からの反発が生まれる可能性があるらしい。
前この世界に来たときはそんなことなかったのに…………。
だいぶ終わってんな。
俺が子供たちに歩み寄ると、子供たちは少し警戒してドアの裏側に引っ込んだ。
俺はドアの傍の壁によりかかって言った。
「なあ、憎く思わないか? あんなゴミだめみたいなところで、ゴミのように扱われて」
数人の子供がドアから顔を出した。その目は「なにが言いたい」と敵意に満ちていた。
「だからさ、復讐するんだよ。この世界に」
1人の子供の目が少し輝いた。
「俺は、この世界が好きだけど好きじゃない。この世界をよくするために今までがんばってきたけど、それもダメだったみたいだ。することもないから、俺は誰かの役に立つことにしてみたんだ。だけど、ただの慈善活動じゃつまらない。なあ、俺はお前らの復讐の約に立つ」
子供たちは無言だ。
「なあ、一緒に復讐、してみないか」
「なにをすればいい…………」1人の子供が呟いた。俺が手を差し出したとき、その手を払いのけたあの男の子だった。
「ただ、町を壊して住人を殺すってのじゃ芸がない。どうせなら、この町のトップ、いや、この国のトップになってみんなを見返してみないか」
子供たちが次々にドアの裏側から出てきた。俺の手を払いのけた子が、今度は俺に手を差し出してきた。
「俺たち孤児は、お前の言う通りにする。その代わり、衣食住は提供しろ」
「おおせのままに」
俺はそいつの手をがっしり掴んだ。手垢と煤まみれの手だった。
まずは全員風呂に入れてやらねえと。
俺に「助けて」と言ってきた獣人の女の子が、俺に抱き着いてきた。
「お兄ちゃん、ありがとう。ありがとう…………」
そう言って泣き出した。
俺はケモミミとケモミミの間に手を置いた。
全員を風呂に入れ、寓居にあった白い服を渡してやり、古いボロボロの服は全て燃やした。子供たちの入った後の風呂場は垢汗で地獄のようになっていたが、まあそこには目をつぶった。
どうやら俺の手を払いのけた男の子がこの孤児たちのリーダーらしい。名前はアーベルというらしい。
アーベルはいぶかしげに俺を睨んで、
「で、復讐ってなにするんだ」
「復讐ってよりかは成り上がりだな。とにかく文武両道、いや文魔両道だ! 勉強をして、魔導を極めて、この国の中枢に入り込む」
えらく壮大な計画を話し出した俺に、アーベルが固唾を飲んだ。
「とりあえずはそれが目標だ。おけ?」
「そんなことできるのか…………?」
「アーベルは何歳だ?」
「え、たぶん5歳ぐらい」
俺と同い年か。
「5歳だったらこれからの頑張り次第でどうにでもなる!!!」
5歳から諦められたらどうしようもない。見るに、ここの子供は0歳から12歳ぐらいまでいる。12歳でも目指そうと思えば魔導を極められる年だ。
「ほら、さっそく魔導使えるかどうか試すぞ!」
俺は子供たちを引き連れ、寓居の頂上を目指した。頂上にある勇者判別のための水晶石は、勇者の判別だけでなく、その子供がどれだけ魔導を使えるかの目安にもなる。
頂上に着くと、子供たちを一列に並ばせた。一番最初の子供は俺に助けを求めた獣人の女の子だった。魔力の注ぎ方を体感で教え、その子に水晶石に手をかざさせた。
水晶石は――――反応がなかった。
女の子は「あれ? あれ?」と焦り「ふーん!」と水晶石に念を送るようにしたが、水晶石の反応はなかった。女の子はうつむき、全身から絶望のオーラを放った。
「ま、まあ獣人は魔導より武力のほうが優れてるから、気にすることじゃない、つ、次!」
石のようになった女の子をバルコニーの隅に連れて行き、次の子に順番を回した。次の子は水晶石に手をかざすと、水晶石の色が少し変わった。
「よし、君は幻術魔法が得意らしい。次!」
なんの反応もない子が2人続き、水晶石に手をかざすと、その子の周りに光る石が現れた。身体強化魔導が得意な子だ。
水晶石の判別を見るに、割合としては、魔導の使えない子が半分ってとこか。全人口の半分は魔法を使えないから、おおむね正しい。
もう半分の子も全員使えるとしても今はまだ初級魔導でギリギリだ。
幼いし、別に悲観するほどの結果でもない。魔導は特訓すればするほど使えるようになるものだから。
それよりも…………。
「なあ、君。そろそろ離してくれない?」
獣人の女の子は俺に抱き着いて「やだやだ」と首を振る。
「別に魔導使えなくても捨てたりしないから」
女の子が「ほんと?」と顔を上げる。その顔は涙でぐちゃぐちゃになっていたが、人形のように整った顔立ちだった。
「ほんとほんと。だから落ち着けって。えーと、これで全員水晶石の判別受けたな」
「勇者様―、まだアーベルがやってないー」
子供がそう言い、俺はアーベルを目で探す。どこにもいない。
「あれ、アーベルは?」
「さっき階段降りて行ってたよー」と情報提供者が1人。
は…………? 俺たち孤児は、お前の言う通りにする。とか言ってたクセに?
急いで寓居中アーベルを探し回った。だがどこにもいない。
あいつ…………! 魔導使えないかもしれないのが恥ずかしくて逃げたのか?
どんなにリーダーぶっていても所詮は5歳。仕方ないっちゃ仕方ないが…………。
「だからって逃げんなよ…………!」
寓居の外に出ると、町人が取り囲んでくる。
「勇者様、どうかいたしましたか?」
「孤児どもは悪さをしておりませぬか?」
「孤児を保護するなんて、さすが勇者様です!」
「あのさ! 目つきの悪い白い服着た青髪の子供見なかったか?」と俺はアーベルの特徴を言う。
「ああ、その子ならさっき東のほうへ向かっていきましたよ」
「ああ、もう!」
東のほうって言ったら孤児たちの集まっていた通路のところか。
走って通路のところに行くと、案の定アーベルがいた。
「もう! お前あの孤児たちのリーダーなんだろ! なら逃げだすなよ!」
「悪い。でも、オレ思い出したんだ。母さんに、目立つことはするなって言われてる。国の中枢に潜り込むとか…………」
「なんでお前を捨てた母さんの言うことなんか聞くんだよ」
「母さんはオレを捨てたかったわけじゃない。仕方なかったんだ。本当に俺を愛していなかったら、孤児院に売って金にするはずだ」
「でも、目立つことしないと、お前の母さんが今お前がなにしてるか分かんなくなっちゃうんじゃないか?」
アーベルが俺の顔を見て、
「オレがなにしてるか分からなくなる…………?」
「ああ、逆に、お前が目立てば母さんはお前が生きてるって分かって安心するんじゃないのか?」
「た、たしかに」
「そうとなったらさっさと水晶石の判別受けようぜ。それに、国の中枢に潜り込むってなったら、めちゃめちゃ魔導使えないといけない。そもそもアーベルは魔導使えない人間って可能性もあるんだぜ」
寓居に戻り、寓居の頂上に行き、アーベルに水晶石に手をかざすよう促した。
アーベルはおずおずと水晶石に手をかざし―――――
水晶石が光り、花火がのぼった。大きな花火が3,4つ続けて夜空に咲いた。
攻撃魔導が得意という印だ。普通、なんの訓練も受けてない子供が連続で花火を出すなんて不可能に近い。
「ア、アーベル、お前」
「なあ、勇者。オレ決めた。強くなって、国のトップになる。そうしたら、安心して母さんを迎えに行ける」
アーベル、5歳。攻撃魔導の才能、未知数。
すごい子見つけちゃった。
神のいない世界で、俺は再び勇者となる。 @keisakuryou
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