第12話 終章

 人間界は救われた!! 一人の剣士と一人の少女が世界を救った!! この歓喜のニュースは瞬く間に国中に広がり、人々は狂喜乱舞のお祭り騒ぎだった。被害も大きかったが、人類は助かった。それは喜ばずにいられなかった。


 魔王が封印されると同時に、人間界の各地に侵攻していた魔族たちの大半は撤退していった。彼らは一刻も早く魔界に帰らねばならなかった。次の魔王を決める戦いのために。




 こうして、人間界と魔界の戦争は終結した。


 人間界は勝利した。が、その代償は大きすぎた。王都を守る戦いでは、前衛部隊の半数以上が帰らぬ人となり、各地の街を守る戦いでも、多くの戦士が帰らぬ人となった。しかし、彼らのおかげで民間人に死者は出なかった。


 パルキナたちは休む時間もほとんど取らず、すぐに人間界の復興と魔族の和平のために動き出した。やるべき課題が山積みだったこともあるが、それだけではなかった。時間があると、心を食い荒らす悲しみと対峙することになる。それには耐えられそうになかったのだ。


 王都は、前面に広がっていた平原が焼け野原になっただけだったが、他の街はそうもいかなかった。特に魔王の侵攻ルートとなった街道周辺の街は壊滅状態だった。それでも人々は、故郷を元通り復興してみせる、それどころか前より良くしてみせる、と諦める気はさらさらなかった。


 軽傷だった騎士や街の住民が資材を持って、それぞれの街へと復興に、カレヴィと後方部隊の面々は、魔界との和平のために境界の森へ向かった。


 その一方で、悲嘆に暮れ、動き出せない人々も多かった。特に前衛部隊の遺族だった。彼らは空っぽの棺桶の前で、行き場のない悲しみと戦っていた。パルキナは、悲しみと真っ向から戦う彼らを尊敬した。どちらが正しい、とかはないのかもしれないが、自分が選べなかった方法を選んだ彼らを。


 パルキナ王はそんな彼らのために、この戦いで命を落とした全ての戦士を英雄として讃え、王城前の広場に追悼の慰霊碑を建てた。連日のように国中の人々が訪れ、お供えの花が絶えることはなかった。


 全戦死者の名前が刻まれたこの慰霊碑の一番上には、元隊長たちの名前があった。しかし、デイナの名前はどこを探してもなかった。パルキナが刻まなかったのだ。それもあって、人々は、デイナ姫と謎の剣士の二人を、人間界を救った二人を救世主様として崇めはじめた。




 


 カレヴィたちは、魔界中の有力な一族と次々に和平を結ぶことに成功した。魔界の王を決める戦いの最中に、「魔神」を倒した人間界と敵対しようとする魔族はいなかったのである。和平交渉はトントン拍子で進み、ついに魔界全体との和平を締結することに成功した。二つの世界の境界線が役目を終え、パルキナの望む平和で平等な世界に一歩近付いたのだ。


 しかし、いきなり二つの世界の境界線を無くすことは、リスクも大きかった。そこで、世界を少しずつ一つにするために、「二つの世界を自由にする協会」が設立された。メンバーは人間界と魔界、両方から集められた。人間界からはキキと数人の人間、魔界からは有力な一族の中から、戦いから退いた者たちが集まった。協会の最初の仕事は代表の選出だったが、これは満場一致で妖精族のキキに決まった。


 キキは両世界に精通しているのはもちろん、協会のもう一つの役割にも必要不可欠な人物だったからだ。


 協会のもう一つの役割、それは全ての発端となった謎の病の根絶であった。一度は根絶に成功したと思われていたが、新たに罹患する者が現れたのだ。しかも人間界だけではなく、魔界でも数百年ぶりに現れた。そこで協会が光る花の栽培、特効薬の製造と配布を担うことになった。おかげで謎の病で病死する者はいなくなった。


 パルキナ王は、魔界との和平が結ばれたのを機に、スタルヒンたち、西の果てへと避難した者たちに使者を出した。しかし、スタルヒンたちは新たな土地に根付くことを選び、帰ってくることはなかった。








 その後、パルキナ王は娘との約束を守り、人間界の復興と魔族との和平にこれまで以上に精励し、退位するまで剣はおろか、魔法も使うことはなかった。








 ……はるか昔、まだ人間と魔族が、人間界と魔界がひとつになる前。西には人間界が、東には魔界があった。しかし、二つの世界は互いの境界線を取り除き、ひとつの平和を目指しはじめた。

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二人の王と救世主 @YagiriYuki

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