第15話 絶体絶命……?!

 逃げねぇと、やられる。あそこだ、あの地上を目指すぞ!!


 水を囲んだ狭い地面が見えた。急いでそこを目指して泳いで行く。間に合ってくれ。水の中じゃ俺が不利だ!!!!



 あと少し……もう少しで地上につく……!


 ザバァァァァアア!!


 クソ……間に合わなかった────



 俺の足に巻き付かれたクラーケンのタコ足は、デカい吸盤で吸い付いてきた。



 どう足掻いても離れねぇ!!



 怪我した方の左足がギリギリと締め付けられていく。次々と複数の巨大なタコ足が俺に絡みつく。殴っても上手く力が入らねぇ! 次々と俺の胴体……首にも吸盤が吸い付いていく。俺は締められる前にめいいっぱい息を吸った。



『己ぇぇ:グロ映像やん……』


『まつり:もうダメだな』



 クラーケンっつっても軟体動物だろ……!!

 ギリギリと首に巻きついた肉をつかむ。

 下を見ると大きく開けた口が見えた。



『応援隊:撮影者!!!! なんで何もしないんだよ!!!!』


『草履:クラーケン初めて見た……怖すぎる』


『まる:ああああああああ』


『ひーくん:撮影者のこと嫌いになりそう……』



 俺は喰われるのか。




 喰われて、何も残さねぇまま死ぬのか?




 いや、俺はまだやれる。


 最後まで足掻いてやる────!!!!



 ブチブチブチブチッ



 やったぞ。いける。


 閉まった気管が開き、一気に肺へ空気が流れ込む。



「ひゅ〜……はぁっ……」


 クラーケンは痛みを感じて暴れるが、俺の左足だけは離さなかった。そのまま投げてくれはしねぇんだな......。


 でも今離されたら、喰われちまう。徐々に真上へと移動される。あの有名な海賊映画で出てきた、食べられるシーンが脳内再生される。主人公は剣を持っていたが、俺は────



 360°ぐるっと刃が無数に敷き詰められ、奥までも続いている。あれは一体どこまでが口なんだ?!





 他人事のように見ていた映像が現実になっている。


 俺は......まだ死にたくない!!!!


 考えろ、考えろ考えろ考えろ考えろ!!!!


 そんな時間は与えてくれる訳もなく......吸盤がキュポポポポンと離れていき、落ちていく。



『モンち:捕食されるー!!!!』


『Mochi:わお』


『たろす:まじかよ……』


『すけとうだら:本当に終わりだな』


『まむし:ジ・エンド』




 やっぱり頭から落ちるよな!!



 ははっ、ハークはやっぱり助けてくれないようだ。



 時間がスローモーションで過ぎていく。



『koma:やばいって!!!!』


『みじんこ:ああああ!!!!』


『marumaru:エグい』


 今だ。



 刃に手を付き方向を変える。俺は膝を思い切り曲げて、蹴りを入れた。早いのは、俺の方だ!!


 デカブツめ。



 刃の根元がクラーケン自身の身にめり込む。ボキボキと折れる音がする。やったか?!


 クラーケンは口を開けたまま水の中で反対側の壁に────



 ドォォォォオオオオン!!


 バッシャァァアアン



 巨体が壁にぶつかると同時に、とてつもない波が押し寄せる。


『無限号:ファ?!』


『枕元に俺:何が起きた』



 クラーケンの口がその勢いで閉じていく。やべぇ、抜け出さねぇと!!壁にぶつかる衝撃でバラバラと瓦礫が落ちてくる。こんなところで生き埋めなんてごめんだぞ!!


 お願いだ、このまま息絶えてくれ!!!!




 タンッと右手を付き、俺は水の中へ投げ出された。


 その途中で最後に残った右手に刃がぶっ刺さる。



「がぁっ......!」



 鋭い痛みが走る。見ると手のひらに小さな穴が空いていた。貫通はしていないが、ドクドクと血が流れてくる。



 なんでこんなに傷が浅いんだ?

 確実に刺さったよな。あんなにデカくて鋭いんだから、貫通するだろ普通。


 まあいい、今はそんなこと!!



 手を水につけると、チクッと痛んだ。ちょうど近くにあった地上を目指して泳ぎはじめた。


 あそこは狭いが、そんなことは言ってられねぇ!

 広い場所までは遠すぎる。ったく何でこのフロアはこんなにも広いんだよ!!



 きっとあいつはまだ生きてる────



 俺は懇親のクロールであっという間に辿り着いた。



 ゴロンと仰向けに寝転む。俺は死を目の前にした。

 緊張が解けずに身体が震えている。くそ、収まってくれ!!





「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」




 マジで死にかけたよな……。力が上手く入らねぇ。アドレナリンは使い果たしただろう。





『応援隊:まだ終わってない……!』


『モモタロち:どうなるんだー?!』


『ひーくん:頑張れ!!』



 目線ををクラーケンの方へ向けると、まだ生きているようだ。クソ……もう勘弁してくれ。





 水を赤く染めながら、ゆっくりと此方へ泳いでくる。



 最後の一撃をかますしかねぇ。立て、俺!!!!




「くっそぉぉおああああ!!!!」



『モロ:堂真が立ったぁぁああ!!!!』


『ごり:やべぇアツイ!!』


『TA :カッコよすぎだろ』


『ポンコツ:右手が血まみれ……目も赤くてコワイ』





 俺の近くまでやってきたクラーケンは、何本もの足で俺を攻撃してきた。サッと避けるとバチンと床に張り付く。そしてゆっくり離れて上がっていく。



 なるほど。ワンパターンだな。俺はじっと足の動きを見て、タイミングを待った。




 横から上から……どっから攻撃しても変わんねぇよ!!!!




 上から来た足を避け、バチンと張り付いて……離れていく足を掴み────



「おらぁぁぁぁああああ!!!!」




 投げ飛ばした。



 ドガァァァアアアアアアン!!



 階段の横に続く地上は割と広い。



 ちょうどそこへ投げ飛ばされたクラーケンが瓦礫に埋もれる。ぐったりと辛うじて足先をウヨウヨと動かしているようだ。


 トドメを刺さないと。



 俺はフラフラと、そこへ向かって歩いた。



『まむし:なんかやばい雰囲気じゃね』


『マントヒヒーん:目が逝ってる』


『後藤家:人間じゃねぇよお前……』


『田:軽くホラーなんだが』



 俺はコイツを倒して外へ出てやる。ハークが助けてくれなかった。死にかけている俺を見ても、何もせずに────




「なんなんだよ……」


 ドカッ


 ドゴッ


 ベチャッ


 グチャッ



『モカ:え……』


 俺はただ殴った。



 何度も何度も、何度も何度も何度も何度も何度も何度も──────



『卵焼き:やりすぎやって』


『Kuu:グロ注意』


『halohalo:液体化するレベル』


『ドーム:ぐちゃぐちゃや……』


『ものくろ:おかしくなった』


『堂真くんちゅき:もう倒したよ!!』


『応援隊:やっときた!!!!』


『オロロロロ:UNLCOだ』



「た……阿形!!!!」


 ガシッと肩を捕まれ揺すられる。


 声......? あれ?


 ハッとして手を見ると血まみれで……クラーケンのようなものは、ぐちゃぐちゃになっていた。原型も留めていない。



 俺は……



『もみの木:おわぁ! 殺人鬼の目や』


『のりたまご飯:こ、こわ』





【────配信終了────】






「もう、終わったんだ」


「長官……」


「堂真さん……堂真さぁぁああん!!」


「うぉっ伊織?!」





 抱き着いてきたのは伊織だった。長官と……あと知らねぇやつが何人か。どうなってんだ?


「ど、どういう状況っすか……」


「君は私の忠告を無視して、S級ダンジョンに入った。急いで救援を送ろうとしたのに、転移できなかったんだ。こんな事は初めてだ。今やっとポータルでここへ来ることが出来た。本当に……無事でよかった」


「忠告を無視……? ああそうだ、一人で入っちゃいけねぇって言われてたっけか……なんで忘れてたんだ、俺は」


「君は何か重大なことを隠していないか? 赤い目をして、武器なしで戦っている上にこんなことまで……撮影者はどこだ」


「撮影者は……大丈夫っす。生きてます。後でちゃんと────」


「阿形!!!!」


「堂真さん!!!!」



 2人が俺の声を呼ぶ声がして、意識が途切れた。



 ドサッ





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無能なほど強くなれる?! 拳で戦ってダンジョン配信!〜脳筋だけど明るさでなんとか乗り越えてみせる〜 やーみー @yaamii

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