第2話 怪魔の制約(後編)

「お前は怪魔やケガレと言った類に好かれやすい血だ」


女性、イヤ怪魔の口からヌラリと赤い舌がのぞく。


「舌舐めずりをするな。それに私は怪魔とやらを見たことは一度だって無かったんだぞ、親もオバケが見えるとか言う話を聞かないし、血なんて間違いじゃ無いのか?」


怖くなって後退あとずさりするも怪魔はぐィっとそばに寄ってくる。返って距離を詰めることになってしまった。


「遺伝に親はあまり関係無い。こう言った血筋ちすじと言ったモノはほとんどが隔離遺伝かくりいでんだからな。と同じだ。多分お前の祖父母の誰かがお前と同じ体質だったんだと思うぞ」

「祖父母からだってそんな話聞いてない…言っとくけどハゲて無いからな」

「ハハハ、誰が見鬼けんきさいと言った?ワシはと言った、見えるか見えないかは関係ない。ただとてもうまそうなだけだ。」


にンまりとゆがませたこちらをにらむ目におののく。


「ヒィっ!食べないで!」

「お前、ワシの話をきちんと聞いてたか?言ったろうワシからは手出しができんと。それにワシはお前に借りを返す為に行動しなきゃいけないんだ。喰うなんてもってのほかだ」


確かに…でも


「確証は?」

「無い…が何にせよワシはお前にまとうことになる。勝手に憑いてこられるよりかは、目の届く所にいた方が安心じゃないか?」

「ぐゥッ…」


ぐゥのも出ない。イヤ出たけどそうじゃなくて、言い返す言葉もない。


「納得しあぐねるといった顔だな。ワシも好きでお前に付き纏う訳じゃないんだぞ。怪魔ってのは制約に縛られるモノなんだ」

「なら、その借りってのを返し終わったら貴女あなたは私に付き纏わないのか?」

「そうだな、お前の味に興味がない訳じゃないが、そこまでを借りとしてすぐにでも退散しよう」


やっぱり食べたいんだ…怖…


「ともあれ、何か願いでも言ってみろ。早く願えば早く借りを返せる。いつまでもワシと一緒にいたくないんだろ?」


顔をまたもぐィっと近づけて怪魔が尋ねてくる。


「急に願えといわれても…」


顔をけながら思考を巡らせる。

あれがしたい、これが欲しい…日々の中の不満にそんな思いはたくさんあったはずなのにいざ叶えてくれると言われると、パタリと思い付かなくなる。


「何でもいんだぞ?」

「思い付かないんだ…」

「思い付かないとな、人間と言ったら大金持ちになりたいだ、女をたくさん侍らせたいだ、容姿を綺麗にしたいだのとよくかたまりだと思っていたが?」


ひっどい言われようだが事実だろう。


「そんな思いがない訳じゃない、私だって人並みにモテたいし裕福な暮らしもしたい。ただ私に似合わないなって…」

「逆にどんなモノならお前に似合うと思うんだ?」

「それは…」


横目に焼け落ちた元我が家を見遣みやる。

不満だらけの毎日だったがあれこそ私に似合った生活だったのではないか?


そんなわが家ももう焼失して…


「そ、そうだ家。家が欲しい!」

「…それは、願いには換算かんさんできんな」

「なんで?」

「なぜって、家は生活の最低ラインだろう!?それを願いとして叶えたところで、借りを返したことにはならんわ。ワシはもっと、こうザ・夢って感じの願いを期待してたんだ!」

「そんなァ、他に願いなんて…」


しばらく怪魔はカジカのことを見つめていたが、ため息を吐いて話を切り出した。


「その場しのぎだが取り敢えずはしばらくワシの家に泊まっておけ。夢でも願いでもコレと思うものが決まるまで時間をかけて考えればいい」

「ワシの家って…貴女あなたの家も一緒にもえたでしょ…」

「浮世の家ではないさ、、常世の家に来ればいいと言うことだ」

「常世って、あの世の事じゃないか!それに第一怪魔とは言え女性の家に泊まるなんてダメに決まってるだろ!」


怪魔は予想外の返答だったのか一瞬キョトンとしたが、すぐに笑い出した。


「あはははははwww大丈夫さ正確に言えば浮世と常世の狭間だ。行ったところで少しばかりのルールさえ守れば簡単には魅入られたりせんわ。それにワシはだ安心しろ」


今度はカジカが驚く番だった。


「えっ?イヤ、でも胸が…」


大きい…


「ワシは怪魔だぞ?体の作りが少々他と違ってな、ここは乳じゃない。」


そんなバカな。どこからどう見てもナイスサイズのじゃないか!?


「これは腕だよ、腕。複腕ふくわんだ」

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四つ腕アシスタントと売れない漫画家 真岸真夢(前髪パッツンさん) @maximumyuraku

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