アラン・フィンリー探偵事務所(男×男女不問)
Danzig
第1話 アラン・フィンリー
ジェームス:(N)ロンドン、イーストエンド。
ジェームス:(N)テムズ川が曲がりくねる、ここは、ロンドンの中でも、昔から「低所得者等(ら)が流れ着いて暮らしている」と表現される街だ。
ジェームス:(N)治安(ちあん)も、西側と比べれば、それほどいいとは言えない。
ジェームス:(N)かつては、切り裂きジャックが、出没(しゅつぼつ)した場所でもある。
ジェームス:(N)この街の、とあるビルの一室。 その部屋の前に、俺は立っている。
ジェームス:まさか、「また」ここに来る事になるとは・・
コンコンコン(ノック音)
ジェームス:(N)俺は、木のドアに、ノックを3回した。 だが、ノックをしても返事はない。
ジェームス:(N)返事がないのは、この前と同じか・・
ジェームス:(N)俺はドアノブを回した。 ドアにカギは、掛かっていない。
ジェームス:(N)俺はドアを開けて、部屋の中に入る。
ジェームス:(N)部屋は殺風景(さっぷうけい)だが、「小奇麗(こぎれい)に掃除されている」といった印象だ。
ジェームス:(N)30平米(へいべい)に、満たないオフィス。
ジェームス:(N)部屋の電気が点(つ)いていないせいか、窓からの光だけでは、少々薄暗(うすぐら)い。
ジェームス:(N)窓際に置いてある、少し大きめのデスクと、来客用のソファーが2つ・・そのソファーに、寝転がっている人物がいる。
ジェームス:(N)こいつが男なのか、女なのかは分からない・・
ジェームス:(N)年齢も、身長も、性別も、声も、何もかもが分からない、正体不明の人物・・ 今、俺の目の前にある、この容姿が、奴の本当の姿などとは、思わない方がいい。
ジェームス:(N)こいつが今、起きているのか、眠っているのか、それすらも疑わしい
ジェームス:おい、アラン。
アラン:ん? 誰?
アラン:あぁ・・確か「ジェームスさん」でしたか、お久しぶりですね。 何か御用ですか?
ジェームス:あぁ、依頼だ。
アラン:そうですか・・じゃぁ、ちょっと待ってくださいね。 ふぁぁ~(あくび)
アラン:ちょっと眼ざめに、紅茶いれますから。 すみませんが、そこに座っててください。
ジェームス:あぁ、分かった・・
ジェームス:(N)アランは、部屋の電気をつけて、給湯室へと消えて行った。
ジェームス:(N)奴が消えて直ぐに給湯室から声が聞こえる。
アラン:ジェームスさんも飲みますか?
ジェームス:いや、俺はいい。
アラン:そうですか・・
ジェームス:(N)アランは、給湯室から戻ってくると、紅茶の入ったティーカップを一つ、ソファーの前にあるローテーブルに置いた。
アラン:お待たせしました。 「アラン・フィンリー探偵事務所」へようこそ。
アラン:今回の依頼はなんですか? 面倒な事は、遠慮したいんですが・・
ジェームス:依頼は前回と同じだ。
アラン:前回って言っても、ジェームスさんがここに来たのは、もう何年も前ですが・・
ジェームス:ここは、そうそう来たくはない場所だからな・・俺がここに来る理由は、一つしかないだろう。
アラン:ほう。
ジェームス:ある人間を殺して欲しい。
アラン:またですか?
ジェームス:それが、お前の仕事だろ。
アラン:ここは探偵事務所で、僕は探偵です。
ジェームス:表向きはだろ?
アラン:いや、全面的に探偵ですよ。 ただ、あなたのような依頼の仕事も、「仕方なく」しているというだけです。
アラン:そっちの方の顧客(こきゃく)は、数人しかいませんのでね、今は、殆どしてませんよ。
ジェームス:勿体ない話だな。 由緒(ゆいしょ)正しい「殺し屋」の家系(かけい)が、しがない探偵なんて。
アラン:僕は別に、殺し屋をやりたい訳じゃないんですよ。 ただ、僕の家が500年続く「殺し屋」の家系ってだけで、あなたのような人がやってくる。
アラン:だから、仕方なく仕事を受けているだけなんですよ。
アラン:まぁ、それなりのノウハウはありますので、それが探偵稼業(かぎょう)には、役立っていますがね。
アラン:もっとも、僕の素性を知る人間さえ、いなくなってくれれば、殺しなんて、しなくて済むんですけどね。
アランが、ジェームス・コイルの方を、意味ありげにチラッとみる
ジェームス:おいおい、俺を殺したって無駄(むだ)だぞ。 お前は、既に、ロンドンの秘密情報部に認識されている。
ジェームス:お前が殺し屋である事を、見逃す代わりに、俺達の都合で、人を殺してもらう。
ジェームス:そういう関係が、お前の親父さんの時から、続いてるんだ。
ジェームス:今更、お前の素性を知る人間を、全て消すなんて、出来ないよ。
アラン:まぁ、そうですよね。 だから、仕方なく依頼を受けるんじゃないですか。
アラン:・・・と言っても、必要があれば、本当に、全部殺しますけどね。
ジェームス:あぁ・・・、それは分かってる。 実際に、お前になら、それが出来る事もな。
アラン:で、今回は誰を殺すんですか?
アランに写真を見せるジェームス
ジェームス:こいつだ。
ジェームス:リミット・チャーチル、殺人鬼だ。
アラン:リミット・チャーチル?
アラン:殺人鬼という割りには、聞いた事ないですね
ジェームス:存在(そんざい)を、公(おおやけ)にはしていないからな
アラン:ふーん・・
ジェームス:奴を殺そうとした奴は、今まで全員死んだ・・
アラン:ほう
ジェームス:奴は念じただけで、人を殺す事が出来るようなんだ
アラン:こんな現代社会の中で、何言ってるんですか、魔法の世界じゃあるまいし
ジェームス:でも、そう考えないと、説明がつかないんだ・・
アラン:そうですか・・・まぁ、それはいいとして、
アラン:それじゃぁ、彼に気付かれないように、遠くから、狙撃(そげき)すれば、いいじゃないですか?
アラン:秘密情報部には、そっちの方の専門家もいるでしょう?
ジェームス:やったさ
ジェームス:300メートル先からの狙撃を試(こころ)みたよ。
ジェームス:だが、引き金を引く瞬間に狙撃手が死んだ。
ジェームス:500メートル先からもやってみたが、結果は同じだったよ
アラン:へー
アラン:殺気を当てると、分かるんですかね?
アラン:ところで、その人は、生身の人間ですか?
ジェームス:多分な
アラン:多分って、そんな適当な・・
アラン:嫌ですよ、殺そうとしたら、人間じゃなかったとか・・
アラン:そもそも、心臓を打ち抜いても、死なないとか、
アラン:それ、殺せませんからね
アラン:もっとも、うちの家系では、人外(じんがい)の魔物(まもの)も殺したなんて、記録もあるようですけど、
アラン:僕は嫌ですよ
ジェームス:奴が、人間かどうかなんて、確かめようがないんだよ。
ジェームス:でも、人間というのは、多分間違いないと思う
アラン:どうしてですか?
ジェームス:奴は突然、その能力に目覚めたらしい
ジェームス:奴のそれまでの経歴を、調べてみたんだが、ごく普通の人間だったからな
アラン:じゃぁ、本物の、リミット・チャーチルが殺されて、別の何かが、入れ替わったという可能性は?
ジェームス:それは・・ない訳では、ないが・・
アラン:うーん
アラン:まぁ、それは考えても、仕方ないですね
アラン:じゃぁ、殺気が当てられないのなら、罠でも仕掛ければいいじゃないですか
ジェームス:それもやったさ
アラン:で、どうだったんですか?
ジェームス:失敗したさ。
ジェームス:だいたい、俺がここに来てるんだ、分かるだろ
アラン:まぁ、確かに、
アラン:そりゃ、そうですね
ジェームス:罠を張っても、罠が発動する直前に、
ジェームス:罠を仕掛けた奴が、死んだよ。
ジェームス:それと同時に、奴は罠から逃(のが)れたそうだ
アラン:どうして、罠から逃(のが)れられたんですか?
ジェームス:罠が発動しなかったらしい
アラン:へー
ジェームス:それで、俺達が出した答えが、
ジェームス:奴を殺そうとするものは、無機物(むきぶつ)だろうと、死んでしまうってな
アラン:「無機物が死ぬ」って、何言ってるのか、分かってるんですか?
ジェームス:勿論、分かってるさ。
ジェームス:でも、それしか説明がつかないんだ
アラン:で、罠って、どんな罠だったんですか?
ジェームス:センサーによって、銃が発砲するような仕組みだったらしい
アラン:それって、単なる不発だったんじゃないんですか?
ジェームス:プロが仕掛けた罠だぞ、
ジェームス:そんな時に、不発になるとは思えないんだよ
ジェームス:しかも、同時に5カ所から、発射される仕掛けだったらしいが、
ジェームス:その5カ所とも、発動しなかったそうだ
アラン:そうですか・・・
アラン:じゃぁ、僕にも無理じゃないですか
ジェームス:もう、お前に頼るしかないんだよ。
ジェームス:お前なら、何とかなるかもってな
アラン:じゃぁ、どうしてもっと早く、僕の所へ来なかったんですか?
ジェームス:いや、お前の手段が・・その・・
ジェームス:あと、お前の依頼料は、少々法外だからなぁ・・
アラン:依頼料が法外だとかいいますが、
アラン:そもそも、殺しの依頼自体が法外でしょ
ジェームス:まぁ、そうなんだがな・・
アラン:ところで、このリミット・チャーチルの写真・・・
アラン:どうやって撮ったんですか?
アラン:ひょっとして、この写真を撮った人も、死んだんですか?
ジェームス:いや、写真を撮るときは、死を覚悟したようだがな、死ななかったよ。
ジェームス:殺すつもりじゃなかったからかもな
アラン:ふーん
暫く考えるアラン
アラン:分かりました。 一旦、お引き受けいたしましょう。
アラン:ただし条件があります。
ジェームス:おお、やってくれるか! で、その条件ってのは?
アラン:まず一つ目、三か月程、猶予(ゆうよ)をください。
ジェームス:三か月で奴を殺せるのか?
アラン:いや、殺せるかどうかは、分かりません。 とりあえず、三か月程待って欲しいって事です
アラン:それで、もう一つは、もし、僕が「殺せない」と判断したら、この仕事を降(お)ります。
アラン:僕も、命の方が大事ですからね
ジェームス:・・まぁ、それは仕方ないな・・
アラン:報酬は100万ポンド
ジェームス:ひゃ、ひゃく・・
アラン:ええ、でも、僕が仕事を降りた場合は、その8割をお返ししますよ
ジェームス:それにしたって・・
アラン:報酬には、殺しに関わる、調査から武器、乗り物などの調達まで、全ての経費が含まれているんです
ジェームス:しかし・・
アラン:それでダメなら、他を当たって下さい
ジェームス:・・わ、分かった、それで頼むよ
アラン:ふふ・・
ジェームス:どうしたんだ? 何故、笑う
アラン:いやね、前回は確か、報酬額を聞いた時に、「上に聞いてみないと返事できない」って、言ってたじゃないですか、
アラン:今日は、この場で決めましたよね。
アラン:つまり、最初から、それくらいの報酬は、覚悟してたって事でしょ?
ジェームス:・・・いや、それはそうなんだが、やはり高くてな・・
ジェームス:せめて、武器とか・・いや乗り物くらい、こちらで用意させてくれれば・・
アラン:それじゃ、僕が困るんですよ。殺しの秘密は、知られたくないですからね
ジェームス:そうか・・わかった
アラン:では、3カ月くらい後に連絡を入れます
ジェームス:わかった待っているよ
アラン:(N)それから暫くの間、僕は、リミット・チャーチルを観察した。
アラン:(N)彼が何処(どこ)に住み、何を食べ、誰と何を話すのか、朝、昼、晩。 一日中、何日も観察を続けた
アラン:(N)ジェームスさんからもらった、情報部の資料と照らし合わせながら、彼の性格や、行動のパターンを探り出す
アラン:(N)そこで分かってきた事がある
アラン:(N)資料によると、リミット・チャーチルは、ごく普通の生活をする、ごく普通の人間だったようだ。
アラン:(N)いや、「ごく普通の」というのは、少し違っているかもしれない。
アラン:(N)彼は、コミュニケーションに障害を抱えており、自分の事を表現する事が、苦手だったと記録されている
アラン:(N)リミットがこの能力を最初に使用したのは、5年前。 ある事件がきっかけだったようだ。 資料によるとこうだ・・
ジェームス:(N)4月某日、
ジェームス:(N)路(みち)を歩いていた、リミットの前を、一人の外国人の少女が、走って横切ろうとし、足を躓(つまづ)き転んだ
アラン:まぁ、そこまでは、特に珍しくもない光景だったろう
ジェームス:(N)泣きじゃくる少女をなだめようと、リミットが少女の前に、腰(こし)を屈めた時、少し離れた場所から、その少女の母親が、叫び声をあげた
ジェームス:(N)母親はヒステリックに、そして、周りに聞こえるような大きな声で、リミットに対して、少女から離れるようにと叫んだ
ジェームス:(N)それは、母親の単なる勘違いだった
ジェームス:(N)しかし、コミュニケーションに障害を抱えるリミットにとって、それの光景は、彼がパニックになるのには、十分なものだった
アラン:少女はただ、その場で泣きじゃくるだけ。 母親はヒステリックに叫ぶ。 周りの人間は、リミットを怪訝(けげん)な眼差しで見つめる・・
アラン:そんな光景は、容易に想像ができる
アラン:リミットはさぞ、戸惑(とまど)っていた事だろうね
ジェームス:(N)そこに、三人の警察官が駆けつけ、銃を抜いてリミットを睨みつけ、少女から離れるように促した
アラン:よりによって、警官が近くにいたとは・・タイミングが悪いというか、なんというか・・リミットは、益々(ますます)、パニックになったのだろうね
ジェームス:(N)リミットは、その場から逃げ出そうと、走り出した。 その時、一番若い警察官が、リミットに向けて拳銃を発砲した
ジェームス:(N)いや、発砲しようと、指に力を入れた。 その瞬間、その警察官は白目をむき、その場に倒れた
アラン:アメリカじゃあるまいし、何故、そこで発砲する必要があるんだよ。
アラン:ロンドンの警官も、アメリカ並みの知性になったか
ジェームス:(N)他の二人の警察官は、同僚の警官が倒れるその光景を見て、危険を感じたのか、リミットに向けて、拳銃を発砲しようとし、若い警察官と同様、即時(そくじ)に絶命(ぜつめい)した
ジェームス:(N)そして、周囲が騒然(そうぜん)となる中、3人の警察官の死体を残し、リミットは逃走した。
ジェームス:(N)それが最初の事件だった
アラン:なるほどね、リミットは、この恐怖体験が切っ掛けで、能力に目覚めたという事か・・・
アラン:この資料を見る限り、誰かがリミットを殺して、入れ替わったとも思えないし、まぁ、生身の人間ってのは本当らしいな、
アラン:殺して死ぬかどうかは、別にして・・
ジェームス:(N)その後、警察の医療班が、警察官の死体を、念入りに解剖し調査をしたが、
ジェームス:(N)死体には、外傷はなく、内臓など内部組織の損傷もない。
ジェームス:(N)医学的には、死因らしい死因が、全く分からないという結果だった。
ジェームス:(N)事件発生当初、スコットランドヤードでは、リミット・チャーチルを、指名手配するという動きはあったが、この結果を受けて、リミット・チャーチルの案件は、秘密情報部で扱う事となった。
アラン:死因らしい死因がないか・・まるで、生命が突然、遮断されたって感じだったのだろうか。
アラン:確かにこれじゃ、「念じただけで人を殺す」と思われても、仕方がないな・・
ジェームス:(N)そして、この結果を受けて、秘密情報部は、この不思議な力を手に入れようと、リミット・チャーチルに何度も接触を試みた。
ジェームス:(N)しかし、リミットはこれを拒み続けた。
アラン:そりゃ、そうだろうな、どう考えても、実験台にされるか、都合よく、組織に使いまわされるのが分かってるからね。
アラン:組織に付いて行ったら、二度と帰る事が出来ない事くらい、容易に想像がつく。
アラン:おそらく、彼もそう思ったんだろう。
ジェームス:(N)何度もリミットに拒否された秘密情報部は、「手に入らない危険な力は、他の組織に利用される前に、排除する」という結論に達した。
ジェームス:(N)そして、リミット・チャーチルの暗殺が計画された。
ジェームス:(N)しかし、リミット・チャーチルの暗殺計画は、奇襲(きしゅう)、狙撃(そげき)、罠(わな)、毒(どく)・・
ジェームス:(N)考えられる、あらゆる方法で、暗殺を試みたが、全て失敗。
ジェームス:(N)この計画中に死亡した情報部のメンバーは、全部で8人にのぼる。
アラン:お決まりの展開だね、一方的に力になれと言われて、それを拒んだら、今度は命を狙われる・・・か、
アラン:国のご都合主義にも、呆(あき)れるね
アラン:リミット・チャーチルに、同情してしまいそうだ。
アラン:(N)情報部の資料で、大体の情報を得た僕は、その後も、リミットの観察を続けた。
アラン:(N)しかし、僕が観察した限りにおいて、彼は「平凡な生活」を望み、それを実践しようとしている、「ごく一般的な市民」でしかなかった。
アラン:(N)いや、一般的な市民よりも、ずっと善良(ぜんりょう)で、模範的(もはんてき)ともいえる市民だ。
アラン:(N)彼は、自分がコミュニケーション能力に障害がある事を、自覚している。
アラン:(N)それゆえに、より一層、善良である事を、心がけているようだった・・・
アラン:(N)彼が、秘密情報部の接触を拒み続けたのも、この「平凡な生活」を、望んでいたからだろう。
アラン:(N)ここで僕には、どうにも解(げ)せない事柄が、浮かび上がってきた。
アラン:(N)この依頼を持ってきたジェームス・コイルは、リミット・チャーチルの事を「殺人鬼」と表現していた。
アラン:(N)何日も、彼の観察を続けた僕には、どうしても、彼が殺人鬼とは思えない。
アラン:(N)実際、僕が彼を観察してから、彼は殺人を犯(おか)していない。
アラン:(N)僕の目を盗んで、殺人を犯すなんて、不可能だ。
アラン:(N)そして、僕はこの疑問を、ジェームスにぶつける事にした。
トゥルルルルル
ジェームス・コイルの携帯電話がなる
ジェームス:電話・・・
ジェームス:ん? アランからか・・・
ジェームス:はい、ジェームス・コイルだ。
アラン:僕です。
ジェームス:あぁ、アランか。
ジェームス:どうだ、進捗は?
アラン:ぼちぼちですね。
アラン:ちょっと、ジェームスさんに、聞きたい事があるんですが・・
ジェームス:ん?
ジェームス:聞きたい事って?
アラン:ジェームスさんが、僕にこの依頼を持ってきた時、
アラン:リミット・チャーチルの事を「殺人鬼」と言っていましたね。
ジェームス:あぁ・・
アラン:僕が見たところ、彼は殺人を犯してないですよ。
アラン:どうして、彼を「殺人鬼」呼ばわりするんですか?
ジェームス:・・・
アラン:何か、言えない事情があるんですか?
ジェームス:・・・いや、そういう事じゃないんだが・・
アラン:では、どういう・・
ジェームス:・・・
ジェームス:理由がいるんだ
アラン:理由・・・ですか?
ジェームス:あぁ、リミット・チャーチルを殺害する為の理由さ。
アラン:そんなものが、どうして・・・
ジェームス:秘密情報部って言っても、結局は国の組織でね。
ジェームス:頭の固い連中が、何人か上にいるんだよ。
ジェームス:リミットも、お前の存在と同じでね、
ジェームス:混乱を避ける為に、組織の中でも、ごく一部の人間にしか、
ジェームス:リミットの能力については、知らされていない。
ジェームス:彼の能力を知らない連中に対して、リミットを殺害する、それなりの理由がいるのさ。
ジェームス:実際、リミットは、警察官も含めて11人を殺しているからな、
ジェームス:「殺人鬼」としておくのが、都合がいいのさ。
アラン:そうですか・・・反吐(へど)がでますね。
アラン:リミット・チャーチルが、一番何を望んでいるのか、ジェームスさんは、知っていますか?
ジェームス:あぁ、ある程度はな。
ジェームス:俺も、個人的には、彼に同情しているんだよ。
ジェームス:しかし、俺は仕事上、奴を殺さなきゃいけない。
ジェームス:仕事で人を殺す、お前と同じさ。
アラン:そうですか・・
アラン:でも、僕と同じといっても、僕はまだ仕事を「受ける」とは言ってないですけどね。
ジェームス:いや、お前は「断る」と言っていないだけだ。
アラン:・・・そうでしたね。
ジェームス:で、奴を殺せそうか。
アラン:ええ、多分。
アラン:僕の予想が正しければ、彼を殺す方法はありそうですね。
少し安堵の表情を見せるジェームス
ジェームス:そうか・・・出来そうか・・・
アラン:でも、僕はまだ「断る」と言っていないだけですよ。
ジェームス:・・・そうだったな。
少し考えるアラン
アラン:また、少ししたら連絡します。
ジェームス:あぁ、いい返事を待ってる。
アラン:では・・・
アラン:そう言って、僕は電話を切った。
アラン:(N)電話を切った後、デスクの椅子に座り、僕は考える。
アラン:(N)全く歓迎(かんげい)しない、悪魔のような力を、手に入れてしまった男。
アラン:(N)その能力によって、自分の命が狙られ、殺したくもない相手が、勝手に死ぬ。
アラン:(N)そして、自分の望む平凡な日常が、どんどん脅(おびや)かされていく・・・
アラン:(N)おそらく、彼の能力を、一番疎(うと)ましいと思っているのは、リミット本人だろうな。
アラン:(N)心底、彼には同情するよ。
アラン:(N)せめて彼が、その能力を使って、カルト教団の教祖や、快楽殺人者にでもなってくれれば、
アラン:(N)心置きなく、殺せるんだけどなぁ・・・
アラン:(N)僕のような殺し屋が、正義を語れるなんて、思ってはいないが、
アラン:(N)同情する相手を殺すなんてなぁ・・・
アラン:(N)殺し屋の家系が、つくづく嫌になる。
アラン:(N)親父達も、こんな気分を味わっていたのだろうか・・・
ジェームス:(N)アランのあの電話から、およそ10日後、
ジェームス:(N)アランから、事務所に来てくれとの連絡があった。
ジェームス:(N)おれは翌日、アラン・フィンリー探偵事務所へと向かった。
コンコンコン
ジェームス:(N)俺は、「アラン・フィンリー探偵事務所」と書かれた、木のドアをノックをする。
アラン:開いてますよ。
ジェームス:(N)中からアランの声がする
ジェームス:(N)ドアを開けて中に入ると、アランは、部屋の奥のデスクに座っていた。
アラン:ジェームスさん、呼び出してすみません。
ジェームス:いや、いい。
ジェームス:俺のオフィスに来てもらう訳にも、いかないし、外で会う訳にも、いかないからな。
アラン:そうですね
ジェームス:で、結論はでたのか?
ジェームス:リミット・チャーチルを殺すのか、依頼を断るのか。
アラン:申し訳ありませんが、まだ結論は出ていません。
アラン:今日は、ジェームスさんにお願いがあって、来てもらったんです。
ジェームス:お願い? 俺にか?
アラン:ええ、
アラン:少々、僕と賭けをして下さい。
ジェームス:賭け?
アラン:ええ
ジェームス:(N)そう言って、アランは携帯電話を俺に渡した。
ジェームス:これは?
アラン:それが、賭けをするための道具です。
ジェームス:これが?
アラン:ええ、
アラン:賭けの内容はこうです。
アラン:今から3日後、
アラン:水曜日の13時30分に、その携帯電話から、指定の番号に電話をかけてください。
ジェームス:それだけか?
アラン:ええ、それだけです。
アラン:誤差(ごさ)の猶予(ゆうよ)は10秒です。
アラン:ですから、正確には、水曜日の13時29分50秒から、13時30分10秒の間に、電話をかけてください。
アラン:できますか?
ジェームス:・・・
アラン:もし、ジェームスさんが、指定の時間に、電話を掛けられなかった場合、
アラン:もしくは、指定の日時以外に、電話をかけた場合、
アラン:そして、その携帯電話と指定の電話番号について、秘密情報部が調査をした場合、
アラン:その場合は、僕はこの依頼を断ります。
アラン:このまま何もせずに、ジェームスさんが、指定の時間に電話を掛ける事が出来た場合、
アラン:僕は、この依頼に対して、正式に回答をします。
ジェームス:随分と一方的だな、
ジェームス:依頼をしたのは、俺の方だぞ。
アラン:難しそうですか?
ジェームス:それくらいは、難しくないだろうが・・
ジェームス:いや、そういう問題じゃなくて、どうして俺が、お前の一方的な賭けに、乗らなきゃいけないのかって事だよ。
アラン:ジェームスさん、
アラン:僕はこの案件には、少々疑問がありまして、
アラン:それを解決する為に、この賭けに乗って貰いたいんです。
アラン:ジェームスさんの組織が、僕の信用に足る所かどうか・・・
ジェームス:まぁ、そういう事なら・・・
ジェームス:しかし、誰かが、その時間に俺に電話をかけさせないように、邪魔をするとか、そういう事はあるか?
アラン:いえいえ、そういう事はしませんよ。
アラン:僕はただ、ジェームスさんが約束を守れるかどうか、知りたいだけです。
ジェームス:まぁそういう事なら、仕方がないか・・
ジェームス:でも、「正式な回答」と言ったが、
ジェームス:必ず受けると言わないのは、断る可能性もあるという事なのか?
アラン:そういう事になりますね。
ジェームス:・・・
アラン:正直、まだ、リミット・チャーチルを殺せるかどうか、僕にも分からないんですよ。
ジェームス:それが電話と、何か関係があるのか?
アラン:いや、その頃には、分かっているだろうという話です。
ジェームス:・・・そうか・・・
アラン:どうです? ジェームスさん、
アラン:賭けにのりますか?
ジェームス:この賭けに乗らないと、依頼は断るんだろ?
アラン:そういう事になりますね。
ジェームス:・・わかった、いいだろう。
アラン:そうですか、よかった。
アラン:それでは、僕の話はそれだけです。
ジェームス:・・・
アラン:この後、一緒にランチでも食べに行きますか?
ジェームス:いや、やめておくよ
アラン:そうですか・・
ジェームス:アラン、一つ聞いてもいいか?
アラン:なんですか?
ジェームス:お前が、依頼を断る可能性を残しているのは、リミットが善人(ぜんにん)だからか?
アラン:・・・
ジェームス:もし、お前が善人を殺したくないという理由で、依頼を断るのであれば、
ジェームス:俺個人としては、それはそれで、仕方がないと思っている。
ジェームス:だが、俺は仕事上、俺の心情に関わらず、奴を殺さなければならないんだ。
ジェームス:もし、お前が依頼を断るなら、奴を殺す方法だけでも、教えてくれないか?
アラン:ジェームスさん、
アラン:僕が回答を保留している理由の中に、「彼が善人だから」というのが、無い訳ではありません。
アラン:でも、僕は、これでも殺し屋ですからね、
アラン:もし、依頼を断る事があったとしても、多分、それが理由になる事はありません。
アラン:それに
ジェームス:それに?
アラン:例え、殺す方法を教えたとしても、あなた達の組織には無理です。
ジェームス:そうか・・・わかった。
ジェームス(N):そう言って俺は探偵事務所を後にした。
ジェームス:(N)それから3日間、
ジェームス:(N)俺は、仕事が手に付かなかった。
ジェームス:(N)3日後の水曜日、
ジェームス:(N)俺は、秘密情報部の一室にいた。
ジェームス:(N)誰も入って来ないように、ドアに鍵をかけて、一人、部屋に閉じこもり、
ジェームス:(N)時計と、携帯電話を見つめていた。
ジェームス:(N)そして、13時29分50秒を確認して、俺は指定された番号に、電話をかけた。
ジェームス:(N)しかし、携帯電話からは、
ジェームス:(N)ツーツーツー
ジェームス:(N)という音が聞こえるだけだった。
ジェームス:(N)電話は、どこにかかっていたのか・・・
ジェームス:(N)いや、掛かっているのか、いないのか、
ジェームス:(N)それすらも、よく分からなかった。
ジェームス:(N)俺は発信履歴から、電話番号を何度も確認した。
ジェームス:(N)しかし、何度確認しても、発信した番号は、間違っていなかった。
ジェームス:どういう事だ・・・
ジェームス:(N)俺は、訳が分からなかった。
ジェームス:(N)アランとの約束の時間を、3分程過ぎた時、
ジェームス:(N)俺は、アランに、確認の電話を掛けた。
トゥルルルルル(電話がなる)
アラン:はい、アランです。
ジェームス:俺だ、ジェームスだ。
アラン:あぁ、ジェームスさん。
ジェームス:今日、約束の時間に、指定された番号に、電話を掛けたぞ。
ジェームス:約束通り、携帯も、電話番号も、調べていない。
ジェームス:ただ、電話の音が、妙(みょう)でな、
ジェームス:正確に電話を掛けられたのか、どうかが、分からない。
アラン:そうですか、分かりました。
アラン:多分、大丈夫です。
ジェームス:そうか、それはよかった。
ジェームス:で、今回の依頼の回答は?
アラン:その件については、近いうちに、ジェームスさんに、届けられると思いますよ。
アラン:それまでお待ちください。
アラン:僕は少し、別件で立て込んでおりますので、これで・・
電話が切れる
ジェームス:おい、アラン!
ジェームス:チッ
ジェームス:(N)電話の向こうのアランは、淡々と話し、そして電話を切った・・
ジェームス:(N)それから少しして、俺は部屋を出た。
ジェームス:(N)俺は、情報部の自分の机に戻ったが、リミットの案件が気になって、仕事が手に付かない。
ジェームス:(N)何も出来ないまま、3時間ほど経っただろうか、
ジェームス:(N)突然、俺のもとへ、知らせが入った、
ジェームス:(N)「リミット・チャーチルが死んだ」と。
ジェームス:(N)突然の事に、戸惑いながらも、知らせを持ってきた職員に、詳しい状況を聞いた。
ジェームス:(N)今日の13時35分頃、8番地で突然地面が崩れ落ち、その事故に巻き込まれた人物が、死亡した。
ジェームス:(N)その人物の身元を確認したところ、リミット・チャーチルだったという事だった。
ジェームス:そんな事が・・・
ジェームス:(N)俺は、崩落(ほうらく)現場へと、足を運んだ。
ジェームス:(N)地面は半径2メートル程の、丸く穴が開(あ)くように崩れており、
ジェームス:(N)深さは3メートルを超えていた。
ジェームス:(N)情報部の話によると、
ジェームス:(N)この通りは、もともと人通りが少ない通りだったが、それでも、今日の午前中だけでも、何人かがこの道を通っているらしい。
ジェームス:(N)しかし、13時35分頃に、リミット・チャーチルがそこを通った途端に、地面が崩れたようだ。
ジェームス:(N)リミットが穴に落ちた後、周りの土砂も崩れ、リミットは、全身打撲と土砂による窒息で、死亡した。
ジェームス:(N)俺は、この話を聞いて、ある確信をもって、アランのところへ向かった。
コンコンコン
ジェームス:(N)俺は、「アラン・フィンリー探偵事務所」と書かれた木のドアをノックをする。
アラン:どうぞ、開いてますよ。
ジェームス:(N)中からアランの声がする。
ジェームス:(N)ドアを開けて中に入ると、
ジェームス:(N)アランは前回と同じように、部屋の奥のデスクに座っていた。
アラン:ジェームスさん、そろそろ来る頃だと、思っていました。
ジェームス:アラン、
ジェームス:リミットの話は聞いたよ、お前がやったんだな。
アラン:ええ、勿論、
アラン:これで、依頼達成という事でいいですね?
ジェームス:あ、あぁ・・
アラン:それはよかった。
ジェームス:アラン、
ジェームス:一つ教えてくれないか?
アラン:何をですか?
ジェームス:どうやったんだ?
ジェームス:どうやってリミットを殺した。
アラン:あれ?
アラン:ジェームスさんは、現場に行かれたのかと、思ってましたが・・・
ジェームス:あぁ、行ったよ。
アラン:じゃぁ、分かるでしょ、落とし穴ですよ。
アラン:古典的な手法ですが、落とし穴は、殺人手段としては結構有効なんですよ。
ジェームス:いや、俺が聞きたいのは、そんな事じゃない。
ジェームス:俺達もリミットを殺す為に、罠をいくつか試してみたが、全て不発だった。
ジェームス:なのに、どうして・・・
アラン:あぁ、その事ですか。
アラン:これは殺しのテクニックですので、本来は秘密にしておきたい事なんですが・・・
アラン:まぁ、今回はお話しましょう。
アラン:秘密情報部の仕掛けた罠が、全て不発に終わったのは、その罠が、リミット・チャーチルを狙った罠だったからですよ
ジェームス:どういう事だ?
アラン:ジェームスさんも、気づいていると思いますが、
アラン:リミット・チャーチルは、自分に向かう殺意に対して、カウンターのように、能力が発動するようです。
ジェームス:あぁ・・まぁ、確かにそうだが・・
アラン:だから、リミット・チャーチル本人を、直接狙った罠は、発動しなかったんだと、僕は思っています
ジェームス:それじゃ、お前の罠は・・・
アラン:僕の仕掛けた罠は、リミット本人を狙ったものではありません。
ジェームス:それは・・・どういう事だ?
アラン:僕の罠は、発動してから、最初に通る人間が、穴に落ちるという仕掛けです。
アラン:リミットは「たまたま」最初に通る人間となっただけです
ジェームス:それじゃ・・リミット以外の人間がそこを通ったら・・
アラン:ええ、勿論、その人が死んでましたね。
アラン:そして、もしそれで、リミットを殺し損ねたら、今度はいつ彼を殺せるのかが、分からなくなる。
アラン:だから、依頼の回答を、保留していたんですよ
ジェームス:それは分かったが、
ジェームス:無関係の人が死ぬかもしれないんだぞ、
ジェームス:よくも、そんな仕掛けを・・・
アラン:だから、ジェームスさんに言ったでしょ? 殺す方法を教えても、秘密情報部では無理だって
ジェームス:・・・まぁ確かに・・・・
アラン:僕は殺し屋ですからね、
アラン:最適の方法で、ターゲットを殺せるのなら、他の人間が死ぬ可能性など、大した障害にはなりません
ジェームス:つくづく、お前を怖いと思うよ
アラン:それは、誉め言葉として受け取っておきます
ジェームス:もう一つ、教えてくれないか
アラン:なんでしょう?
ジェームス:リミットはそれで殺せたとして、
ジェームス:俺達の仕掛けた罠では、罠を仕掛けた奴は死んだんだ、
ジェームス:なぜ、お前は生きている・・・
アラン:それは、さっきも・・
ジェームス:いや、例え罠が、リミット本人を直接狙ったものでなかったとしても、
ジェームス:罠を仕掛ける時には、リミットが罠にかかる事を、想定していたはずだ
ジェームス:なのになぜ・・
アラン:あぁ、それはですね・・
アラン:多分、僕が罠の発動を知らなかったからですよ
ジェームス:「知らなかった」ってどういう事だ
アラン:あの落とし穴は、ただ「穴が空いているだけ」じゃないんです。
アラン:ある条件で、罠が発動する仕掛けになっていて、発動する前であれば、誰が何人通ろうと、穴には落ちません。
アラン:実際に、今日の午前中にも、何人かが罠の上を通っているはずです。
アラン:それだけじゃない、
アラン:罠は数日前に出来ていますので、リミット本人も何度か、穴の上を通っているんですよ
ジェームス:あぁ、確かに、今日の午前中にも、人は通っていると言っていたな
アラン:あの落とし穴に、非常に高い確率でリミットを落とす為には、極めて限定的な時間に、罠を発動させる必要があったんです。
アラン:でも、僕は、その時間帯の事は知っていても、その時間に罠が発動するかどうかを、知りませんでした
ジェームス:知らなかった・・って、まさか
アラン:僕が何日もかけて、リミットチャーチルを観察した結果、
アラン:リミットだけが、あの穴の上を通る確率が、極めて高い時間帯がありました。
アラン:まぁ、リミットが善良な市民を心がけて、いつも同じルーティーンを、繰り返してたからなのですが・・・
アラン:そして、その時間帯とは、水曜日の13時30分から40分前後・・・
ジェームス:俺の電話か・・・
ジェームス:あれが、罠の起動装置(きどうそうち)になっていたのか・・・
アラン:僕は、ジェームスさんが、約束通りに、罠を発動させるかどうか、分かりませんでしたからね。
アラン:わざと、その時間帯に別件(べっけん)を入れて、罠の発動に、意識が向かないようにしていました。
アラン:それでも、僕が死ぬ可能性はあったのですが、
アラン:まぁ死ななくてよかったです
ジェームス:俺も死ぬ可能性があったのか・・
アラン:ええ、
アラン:ジェームスさんの死ぬ可能性は、僕よりも遥かに高かったですね。
アラン:でも、お互い死ななくて何よりでした
ジェームス:はぁ・・(ため息)
ジェームス:それなら、そうと・・・
アラン:だから「賭け」だと言ったんです。
アラン:それに、事前に事情を教えていたら、ジェームスさんは、多分死んでましたよ。
アラン:ジェームスさんに、リミット殺しを意識させないようにしたから、死ななかったんです
ジェームス:・・確かに・・
アラン:誰も、彼には殺意を抱(いだ)いていない、
アラン:だから、誰も死ななかった。
アラン:それが、今回の顛末(てんまつ)だと思っています
ジェームス:話は分かった
ジェームス:しかし、それにしたって・・
アラン:そうですね、ジェームスさんにとっては、惨(ひど)い話だと思いますよ。
アラン:でも、僕にとっては、ジェームスさんが死ぬのは、
アラン:リミット以外の人間が、リミットより先に罠を踏む事と、あまり変わらないんです。
アラン:殺し屋ですからね
ジェームス:(N)俺はその時、背筋が凍る感じを覚えた
アラン:これで疑問は解決しましたか?
アラン:それでは改めて、これで依頼は完了という事でいいですね
ジェームス:あぁ・・それで問題ない
アラン:それはよかった。
アラン:僕としては、できれば、もう殺人の依頼は、しないで欲しいですね
ジェームス:あぁ、俺も心底そう思ってるよ
ジェームス:じゃぁ、俺はもう行くよ
アラン:はい、
アラン:では、お気をつけて
ジェームス:あぁ・・・
ジェームス:(N)俺は、この事務所の主人に背を向けて、
ジェームス:(N)「アラン・フィンリー探偵事務所」と書かれた木の扉を開けて、外にでた
ジェームス:(N)「もう二度と来るか!」という、吐き捨てる想いを、抱えながら・・・
完
アラン・フィンリー探偵事務所(男×男女不問) Danzig @Danzig999
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