はっぴーはっぴー☆ちょーはっぴ〜!

白千ロク

私の人生はちょはぴですね!

 異世界転生を自分たちが経験するとは思わない。なによりもまた、お嬢様と使用人の関係になるなんていう不思議なこともあったようだ。これは天文学的数字ではないでしょうか?


 いまの私たちの関係は乳母姉妹といえばいいのだろうが、正しく言えば幼馴染の方である。使用人の娘と雇用人の娘なのだから。前世に関しても同じではあるのだが、年齢が違っている。前世は二歳違いで、今世は同い年。けれども前世同様、私は『お姉さん』を心がけていた。――これが私の小さなプライドなのだから。


「お嬢様、本日のお昼でございます」

「魚おいしいよね〜」

「はい。とても美味しゅうございます」


 学園の中庭に設えてあるテーブルセットに並ぶはムニエル定食。いやまあ、定食というよりかはプレート料理か。なんといっても、ムニエルだし。バターのよい香りがすごい。


 王兄の娘――公爵令嬢たるお嬢様は、ナイフとフォークを手にお昼をいただき始める。んふーと満足げな顔をするお嬢様を眺めながら、私も昼食だ。メイドであるが、お嬢様とともに食事をするのは昔から変わらない。他の者がいたらば眉を顰める者が多いであろうが、私達にはこれが日常風景なのだ。『ご飯は一緒に』なのは。それこそ前世からの話であるので、いまさらの軌道修正は不可能に近い。


 剣と魔法のファンタジー世界に生まれ変わって早十二年。公爵令嬢に仕える者としての訓練や心構え等はキツイものもあるが、心を折ることがないのは、お嬢様の笑顔を守るためである。笑顔絶対! なにがあろうとも、これだけは譲れません!


 さて、昼食を済ませた私達だが、食事後の運動に取り掛かっていた。運動といっても走るとかではなく、魔法で生み出したミニゴーレム同士――姿は子猫を模している――を戦わせている。私は薄茶色というのか、柔らかなミルクティー色の猫で、お嬢様は三毛猫にしたようだ。日によって猫の色や形が違うのは、現代日本ではそれだけ種類が多かったからであろう。前世のお嬢様の家は完全室内犬であったので、猫とは縁遠かったのだが、図鑑やネットを駆使して猫にも癒やされていたんだよね。ちなみに、飼っていた犬種はといえば、ゴールデンレトリバーである。お嬢様の誕生と同時期に、子犬としてやってきたのだ。おそらくは情操教育のためであろうと読んでいる。これは大きく間違ってはいないだろう。


「今日こそ勝って耳掃除権を手に入れてみせる!」

「耳掃除ならいつでもして差し上げますが」

「いつもじゃ特別感がないからダメー!」


 両手でばってんを作るお嬢様の、長い亜麻色の髪が肩を滑る。艷やかなの髪は日々の賜物だろうか。可憐なお嬢様をもっと可憐に仕上げるのはこの私以外には許されませんよね! ええ、本当に!


 失礼、お嬢様の可憐さに乱されました。負けても耳掃除はしているし、なんなら入浴も一緒にしているよね。どの世界であっても、お風呂は最高ですよねー! お風呂文化がある世界でよかったですわ。


 今回の勝負も私が勝ちましたが、お嬢様のゴーレム捌きは日々磨かれているので、負けるのも時間の問題だろう。それにしても、二匹、いや、二体か? お嬢様の膝の上で丸まっている姿は大変愛らしい。


「次は勝つからね!」

「はい。覚悟はできておりますよ」


 子猫ゴーレムの頭を撫でるお嬢様は不機嫌そうにそう言うが、お嬢様は知らないままだ。私はもうお嬢様に負けているんだと、心の中で叫んでいることを。本日何度目であろうかね?


 同じようにして、『生まれてきてくれてありがとう』なんていうのも、何度も思ったよ。思いすぎて腐ってしまったかも解からないほどに。『私と出会ってくれてありがとう』もそうだ。だってそうでしょう? お嬢様は私の全てなのだから――。お嬢様がいることが私の幸せなのだ。前世も今世も、優しく愛らしいお嬢様に仕えることができてよかったとしか思えない。


 つまり、私の人生――それこそ毎日は、それはそれは超絶なる幸福超ハッピーなのである。




(おわり)

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はっぴーはっぴー☆ちょーはっぴ〜! 白千ロク @kuro_bun

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