第34話 襲撃


 ――ビーッビーッビーッ


 ある日の明朝、G17基地全体に聞いたことのないサイレンが鳴り響いた。


「この音……まさかっ」


 ルリはベッドから跳ね起き、身支度を一瞬で済ませて部屋を出た。




◇ ◇ ◇




「隊長ッ! レーダーにモンスターが映りました!」


 隊長の部屋に、監視塔から大人の隊員が走ってきた。


「来たか」


「いえっ。基地から300m周囲に、モンスターの仕業と思われる木が出現しました!」


「木だと? 肝心のモンスターは?」


「い、今のところレーダーに映ったのは――」




◇ ◇ ◇




「1体だあ?」


「……ああ」


 ジャズが何か言いたそうな顔で言ってきた。

 ルリは何か異変を感じていた。


「よし。じゃあ作戦を話そうか」


「俺たちもやるぞ」


 サイレンで起きて、講堂に集まっていた第4小隊と第1小隊各々に、ルリとレオが指示を出した。


「――なるほど。訓練通りにやるんですね」


 訓練通りの動きを指示されたのか、ラギルスは自信満々のようだ。


「今回襲撃してきたモンスターが1体だからな。いい実戦になる」


 グラルバも闘気をむき出している。


「お前ら油断するなよ。1体とはいえ、相手はA級モンスター『フォネスト』だ」


 ルリが引き締めるよう全体に伝える。


「……大地に蔓延る者」


 回復しきったスーリンがそう呟いた。


 A級以上のモンスターには二つ名が名付けられている。

 A級は、その二つ名で伝わるほどの強さを持つと言われている。


「とにかく作戦通りに動くが、これが実戦で初めての試みだ。少しのミスが命取りになる。気張っていけよ」


「応ッ!」


 ルリの、冷静だが熱い言葉に、隊員たちは気合を入れた。




『大地に蔓延る者 フォネスト』

・難易度A級

・木が大量に絡まっているような見た目をしており、4本の頑丈な足で、巨体を支えている。

・全長15mほど。

・中心に、体相応の大きで、赤い蕾のような格があります破壊すれば活動が停止される。

・体から木を無数に生やし、鞭のように自在に操ることも、自身より一回り小さい分身体を生み出すこともできる。




◇ ◇ ◇




「やはり早めに準備していて正解だったな」


 司令室に移動した隊長が、モニターに映る映像を見てそう言った。


 モニターに映すカメラは至る所に設置されており、戦況を逐一把握できる。

 また、モンスターの反応を感知することができるレーダーに、基地の周囲の範囲内で、スクラープも精密に感知できる機能を追加したので、味方にも指示を出しやすくなっている。


「防衛設備の調子はどうだ」


 隊長の質問に、男隊員が答える。


「はっ。外壁、監視塔、バリケードにトラップ。すべて正常です」


 司令室はやや広くなっており、何人もの優秀な隊員が配置されている。

 もちろん全員大人だ。


「部隊の配置はどうだ」


 今度は女隊員が答えた。


「はいっ。敵モンスター『フォネスト』の方角に、レオが率いる第1小隊。並びに、ルリが率いる第4小隊が配置。問題ありません。『フォネスト』を正面に、右にナグールが率いる第3小隊。左にエイリーンが率いる第2小隊が配置。こちらも問題ありません」


「よし」


「後方は部隊を配置しなくてよろしいのですか?」


 別の女隊員が聞いてきた。


「問題ない。後方は防衛設備、迎撃装置が部隊のいる方面より優れているからな。今後の襲撃までには全方面に反映させるつもりだ」


「はっ。失礼しました」


 女隊員は敬礼し、モニターに向き直る。


「さて、上手くいくかどうか……」


 隊長は確認を済ますと、ドカッと椅子に座った。




◇ ◇ ◇




「こちらルリ。第4小隊配置よし」


「こちらレオ。第1小隊配置よし」


「こちらナグール! 第3小隊配置よーし!」


「こちらエイリーン。第2小隊配置よ~し」


「こちら司令室。設備に異常なし。いつでもいけます」


 通信を繋げ、G17隊総員の戦闘準備が完了したことを伝える。

 その報告を受けた隊長が、基地のアナウンスを使って話し始めた。


「――こちらG17隊隊長、ケイリスだ。戦い始める前に伝えておくことがある」


 スクラープを装備している隊員たちは、隊長の言葉に耳を傾ける。


「この戦いはあくまで防衛戦だ。もし危険がせまったら、何振りかまわず避難しろ。勝利の前に、自分の命を優先しろ」


 部下思いの言葉に、ほとんどの隊員が心打たれた。


「――総員! 必ず生き残り! この戦いに勝利するぞぉ!」


「うおおおおおおおっ!!!」


 最後に活を入れ、隊員たちの士気は最高潮になった。


「……流石、戦地に立っていただけあるな。士気の上げ方がよく分かってる」


 ルリはボソッと呟いた。


 ――ゴゴゴゴゴゴッ


 そのとき、隊員たちの声に呼応するように、地面が唸りを上げた。

 しかし慌てる様子はなく、全員が意識をフォネストに向けた。


「――来るぞ」


「キュイイイイインッ!!!」


 甲高い音が鳴り響く。

 きっとフォネストの叫び声だろう。


「ッ……!」


「……」


「……?」


 隊員たちは身構えるが、何も起こる様子がない。


「――あれ? 攻めてこない?」


 静寂に包まれた空気が、一瞬でざわざわしと騒ぎ出した。


「おいっ! お前ら気を抜く――」


 ――ゴゴゴゴゴゴゴゴッ


 先ほどより、近くで地面が振動しているのが分かった。

 次の瞬間――。


「キュイイインッ!」


「隊長! 周囲の地面から、フォネストの分身体と思われるモンスター多数出現! 急接近してきます!」


 司令室で、女隊員が隊長に向かって叫んだ。

 レーダーには赤い点が基地を囲むように示されていた。


「部隊はまだ待機するよう伝えろ! 我々は迫撃砲・・・の準備を進める!」


「はっ!」


 まずはコイツで様子見だ。




◇ ◇ ◇




「おいルリ! まだ動かないのかよ!」


 モンスターの出現を見て、マルクが怒鳴る。


「俺たちはまだ待機だそうだ。決して慌てることなよ」


 ルリはそう言うが、ほとんどの隊員は焦っていた。

 スクラープを装備した隊員は、外壁の外に配置されている。

 目の前にあるのは金網フェンスと塹壕、そしてスパイクなどを使ったトラップだけだ。


「僕たちも待機だよ。最悪僕が先頭に出るから落ち着くように」


 レオは余裕そうな態度で、部下にそう言った。

 それを聞いた部下は、多少は落ち着きを取り戻したが、死神の件もあるか、まだ焦りの方が大きい。


「にしても、一体何をするつもりなんだか」


 アリナは頭の後ろで腕を組んでいる。

 自信はあるようだ。


「外壁の中から音が聞こえてくるので、破壊力のある兵器を準備しているかもしれませんね」


「さっすがラギルスっ! 頭のいいんだね~」


 白いスクラープを装備したラギルスに、アリナは抱き着いた。


「おいお前らイチャイチャするなぁ!」


 その様子を見たジャズが、遊びじゃないんだぞと怒鳴った。


「うるさっ。短気は早死にするよ~」


「この野郎……」


「はいはいそこまで。いつでも出撃できるようにしとこうよ」


 ラトが2人の間に入る。


「お前らそろそろ来るぞ。デカい音が嫌な奴は注意しろ」


 ルリが頭上を見上げた。



「――撃てぇ!」


 隊長の一声で、迫撃砲が一斉に弾を放った。


 ドンッという音が何重にも重なり、先ほどの地響きと同等の音が周囲に響いた。


「うおっ……っておいアレ!」


 誰かが空を指さし叫んだ。

 音に驚いた隊員たちが、恐る恐る空を見上げると、黒い点が放物線を描き、向かってくる分身体の元へ落ちていった。


「迫撃砲か……第4小隊! 出撃準備!」


「お、応ッ!」


 黒い点が地面に着く直前、ルリが出撃準備の掛け声をかける。


「じゃあこっちも……第1小隊出撃準備!」


「応ッ!」


 レオも続いて声をかける。


 第1、4小隊全員がいつでも出れるようにしたそのとき、基地を囲むように爆炎が上がった。


「行くぞぉ!」


「おおおおおおおっ!!!」


 ルリの掛け声を皮切りに、第4小隊は出撃した。


「僕たちも出るぞ!」


「うおおおおおおっ!!!」


 第1小隊も、レオを先頭に出撃した。


「『雁行の陣』だ!近接部隊メレーは俺に続け! 少し離れた位置に砲兵ガンナー! 狙撃手スナイパーは塹壕到着後、指示を待て!」


「応ッ!」


 役割ごとに陣形を変えていく。

 騎兵トルーパーは、外壁の中で設備の操作を任されているので指示する必要はない。


「陣形揃いました!」


 ラギルスが陣形が変化したことを確認して、ルリに報告した。

 第4小隊は右上から左下に向かうような、斜めの陣形になった。

 砲兵は横一列になり、狙撃手は塹壕に入った。


 『雁行の陣』とは、他の陣形と合わせると強力になる陣形である。

 今回は、砲兵に一般的な陣形である『横陣』を使わせて合わせる。

 また、壁役としても成り立つことができる。


「第1小隊も! 第4小隊と鏡合わせの陣形だ!」


「応ッ!」


 第1小隊も、第4小隊と同じような陣形を取った。

 唯一違うところは、近接部隊の『雁行の陣』が、左上から右下に向かうような形になっていること。


「チッ、真似しやがって……」


 ルリは似たような陣形を取られて舌打ちした。


「こちらレオ。今真似されたと思って苛立ってるでしょ?」


 レオからの通信が来て、ルリは余計苛立った。


「何の用だ?」


「まあそんな怒らないで。こうすることで、この陣形は進化するのさ」


「……まさか」


 ルリはレオのやろうとしたことが分かったようだ。


「じゃあ目標はフォネストということで。何かあったら連絡するようにね」


 爽やかにそう言ったレオは通信を切った。


「チッ、今回はアイツの策に合わせるか」


「こちらルリ! 近接部隊並びに砲兵に告ぐ!」


「こちらレオ! 近接部隊並びに砲兵に告ぐ!」


 通信を切った2人は、一言一句同じ言葉を各小隊に告げた。


「「陣を中心に寄せろ!」」

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スクラープ ~モンスターが溢れる世界で機械兵士は駆ける~ ダブルミックス(doublemix) @doublemix

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