第41話 3人の思い
訓練2日目。何の因果か、今回の訓練で特に努力した者3名に私から褒美を渡す事になってしまい、皆やる気に満ちていた。そんな中で私はおばあ様と話し合い、悩みを打ち明け、そしてマリーやパレッタ達と話をしてみなさい、とアドバイスを頂いた。そして私は夜、偶然遭遇したマリーから、話を聞く事にした。
夜、人気のない場所でマリーと2人並んで椅子に座り、私は彼女の話を聞いていた。
「隊長。隊長って、準男爵って爵位をどう思いますか?」
「ん?唐突な話題だが、そうだな」
準男爵の爵位をどう思うか、か。私は静かに考えてから口を開いた。
「貴族共の中には、準男爵を貴族の紛い物、などと見下す輩も多いが。私はそうは思わん。彼らもまた王国を支える立派な貴族だ。私は、そう考えている」
「そうですか。……でも、隊長みらいに準男爵も立派な貴族だって言ってくれる貴族が、一体何人いるんですかね?」
「……」
マリーは、フッと乾いた笑みを浮かべた。
「実際、準男爵の家に生まれた私だからこそ分かります。準男爵を貴族だなんて思ってる貴族は、少ないって。いつぞやのオルコスとかが良い例ですよ」
「土地を収めていないなど、貴族と差こそあれど準男爵も立派な貴族として、王国は定めているはずなのだがな」
準男爵とは、元々平民だ。ある程度のお金を国庫に納める事で、その見返りとして準男爵の爵位を賜る事が出来る。我が国での準男爵の爵位は、1番下の位ではある事や、領地を持たないなど他の貴族と差異こそあるが、立派な貴族の爵位として認められている。
しかし血筋などを重要視する貴族連中の中には、『平民風情がはした金で爵位を手にした』、と考えている輩が少なからず存在し、そういう奴らに限って準男爵家の人間を『似非貴族』と嘲笑うのだ。
「私、思うんです。準男爵って『貴族でも無ければ、平民でもない』。『どっちつかずの存在』なんだ、って」
「マリー。……なぜ、そう思ったんだ?」
「理由は、簡単ですよ。実際にそういう風に見られてきましたから。……貴族連中からは、平民風情が貴族を気取るなっ、って言わんばかりの見下したような目で。逆に平民からは、貴族なった連中って事で羨望や嫉妬の目で、それぞれ見られてきましたから」
「だから、どっちつかず、だと?」
「えぇ。貴族からは見下され平民からは嫉妬される。それが準男爵って言う地位にある家に生まれた私の境遇でした」
「……辛かったか?」
そんな境遇で育ったマリーは、どうだったのだろう?とふと思ってしまった。だからこそ、問いかけてしまった。
「最初は、そうですね。どっちでもないからこそ、周りから避けられていて、孤独を感じていた時もありました。でも、成長するにつれて、そんなのどうでも良くなりました。だって、どうやっても私が準男爵家の人間という現実は変わりませんから」
「そうか」
マリーは気丈に振舞い笑みを浮かべながら話してくれた。まるで思い出話を語るように。……だがその笑みが、少し、無理をしているように見えて、心配になってしまった。だからか、話題を変えようと考えた。
「しかし、その。こういったら何だが、なぜ準男爵家に生まれたマリーが、その、私を好きになったんだ?話を急かすようで悪いが。きっかけは、何だったんだ?」
「……そうですね。きっかけは、5年前の大会。隊長が優勝したあの決闘大会です」
「ッ、もしかしてマリー、あの大会を見ていたのか?」
「えぇ。あの時はお父さんの仕事の手伝いで王都に来ていたんです。当時の私は、身の振り方を悩んでいて。と言っても、女なんて大抵は結婚する以外の選択肢は、無いんですけどね」
「……」
マリーの言葉に私は押し黙った。
確かにこの世界において、女性とは基本的に成人すると結婚し家庭を持つ事が多い。そこには平民も貴族も大差ない。貴族の場合は、政略結婚の道具などにされる恐れもあるが、どうあれ結婚するのには違いない。
「当時の私も、両親から『そろそろ結婚でも考えてみたらどうだ?』って言われてました。……でも、準男爵家の娘なんて、貴族には嫁ぐ事なんて出来ませんし、平民の方との結婚も身分差の問題がありますし」
「……貴族共は似非貴族と準男爵の爵位を馬鹿にしているが、立派な爵位だからな。平民との結婚も、確かに問題は多かろう」
「えぇ。ですので結婚相手となると、良いとこの商会の息子とか、スケベな金持ちじじいくらいで。って言うか。正直に言うと結婚なんてしたくないなぁ、とさえ思っていました。よく知りもしない相手と結婚なんてしたくないですし」
「確かにな」
私とて女だ。よく知りもしない相手との結婚なんて、確かに戸惑うし、出来る事ならしたくない。
「それで、結婚について悩んでいた私を見た父が、気分転換も兼ねて大会の行われていたアリーナに連れて行ってくれたんです。そしてそこで、私は隊長の姿を見ました」
私の事が話題に上がると、マリーはとても目を輝かせ、楽しそうに笑みを浮かべた。それは今までの、無理をしている時の笑みとは違う。心の底からの笑みだった。
「むさい男たちばかりの中で、ただ一人の女性でありながら。自分よりも体格で勝る男どもを次々と打ち倒していく隊長の姿が、カッコよくて、輝いて見えて、そして何より、衝撃でした」
「衝撃?」
「はい。女性なのに、あんなに強く慣れるのか。あんなに戦えるのか。正直、あの時の隊長が、そう歳の離れていない女性だなんて半信半疑になるくらいでした。私の知っていた大人の女性の在り方を全力で破壊するような衝撃を、あの時の隊長から貰ったんです。そして、同時に思いました。私も、あんなふうになれるのかな?って」
「そうだったのか」
「その日からです。あの人のように、隊長のようになりたい。男の騎士にも負けない、強い女性になりたい。そう、考えるようになったのは。そしてその思いから私は、騎士を目指す事にしたんです」
「……ご家族は、どうだ?かなり反対されたのではないか?」
「そりゃもうっ。めっちゃ反対されましたし、大喧嘩もしましたよ」
マリーは過去を懐かしむように、笑みを浮かべながら話してくれた。
「でも、最終的には私の意思を尊重してくれました」
「そうか。立派なご両親だな」
「えぇ。……まぁたまに、早く婿でも見つけて引退して戻ってこい~なんて手紙をよこしますけどね」
そう言って少し呆れた様子で笑みを浮かべるマリー。
「その後、何とか騎士になった私は、念願かなって聖龍騎士団に配属され、隊長の部下となりました。そして、更に隊長に惹かれるようになりました」
「どうしてだ?」
「自らの力を誇示して威張る事もせず、部下のピンチには必ず駆けつけて助けてくれる。……実際、新人の頃は私も、皆も。隊長にたくさん助けられましたから」
「そうだな。そんな事も、何度もあったなぁ」
確かにマリーが配属されたばかりの頃は、何度か危ない所を助けた事があったな。今のマリーからは、想像も付かない。
「何度も助けられ、落ち込んだ時も励ましてくれて。それに何より、いつも最前線で聖剣を振るい敵を圧倒する隊長の姿が、カッコよかったんです。性別も忘れて、隊長がおとぎ話の王子様に見えてしまうくらいに」
「私が、王子様?似合わないんじゃないのか?」
と、思わず苦笑交じりにそう言った。
「そんな事ありませんよ。だって実際、私たちにとっては隊長が王子様なんですから」
「えっ?」
不意に、マリーの見せた柔らかく、美しい笑みに、私は思わずドキリとしてしまった。な、何で心臓を高鳴らせているんだ私はっ!……でも、今の月光に照らされたマリーの笑みは、美しかった。
と、思わずマリーに見とれていると。
「あぁでも、恥ずかしがり屋でからかいがいのある隊長は、ある意味お姫様みたいですよね?」
今度は一転していつもみたいな悪戯心満載の悪い笑みを浮かべているぞっ!?
「お、お前なぁ。隊長は揶揄う相手じゃないんだぞ?」
もういつもの事だからそこまで怒るつもりはないが、一応言っておかないとな、うん。
「えへへ。ごめんなさい。でも……」
その時、ふとマリーが何故か私の方へと手を伸ばしてきた。な、何だマリー?一体何を?
そう思ったのも束の間。
「そんな隊長だからこそ、王子様でお姫様な隊長だからこそ、私の、初恋の相手なんです」
「ッ!?!?」
マリーの手が、私の頬に触れる。その温もり、マリーの甘い言葉、そして紅潮した頬と僅かに潤んだ瞳。なななな、何だこの状況はっ!?
「まま、マリーッ!?お、お前はっ!」
「知っておいて欲しいから、分かっていて欲しいから、改めて伝えます。私は、あなたが、レイチェル・クラディウス様が、大好きです。愛しています」
「ッ!」
真っすぐと私を見つめるマリーの視線。しかし、彼女の決意を表すような視線と相反するような、不安そうな表情を彼女は浮かべていた。
「身分が違いすぎる事は重々承知しています。女同士の恋愛、まして貴族と、貴族とは名ばかりの準男爵家の平民。それでも、私はレイチェル様の隣に居たいと、思ってしまうのです。身分の違いとか、女同士の恋愛とか、そういう問題があると分かっていても、諦めきれない程にっ」
「マリー」
今、マリーは静かに涙を流しながら、自らの思いを口にしていた。まるで、今までため込んでいた物を、吐き出すように。
「憧れて、部隊に配属されて、一緒に戦って。一緒に居るだけで、最初は良かったんです。でも今は、ミリエーナ様やパレッタちゃんが居て。2人とも隊長と一緒になる事を考えてて。……このままじゃ2人のどっちかに隊長を奪われるんじゃないかと思うと、途端に怖くなるんですっ」
「マリー」
彼女は今、怯えているようだった。それほどまでに、私と一緒に居たいと、彼女は考えていてくれたのか。なのに私は、その本気の彼女の想いに気づかず。全く、私は何と愚かなのだろうか。
これは、私の落ち度だ。
「すまない、マリー」
私は席を立つと、マリーに歩み寄り彼女を正面から抱きしめた。
「そうとは知らずに、お前を頼ってばかりだった私を許してくれ。すまなかった」
「いえ、こちらこそ。何だか色々、抑えきれなくて」
マリーは私を抱き返しながらも、小さく答えてくれた。それからしばらく、私はマリーを抱きしめていた。
数分後、彼女が落ち着いたのを確認し、私は椅子へと戻った。そして、その時私はマリーに話すべきだと思った。
昼間おばあ様と話をして、そして決心した事について。
「マリー、聞いてくれ」
そう言って話を切り出した私はマリーにおばあ様とした会話の内容を伝えた。
「前例は、作る物、ですか」
「そうだ。前例がないのなら、私たちがその前例になれば良いのだと、おばあ様は仰った。そして、一人で抱え込むだけではダメだと、マリー達ともしっかり話せとおばあ様は仰った。だからこそ、こうしてマリーと話をしてみたのだが。……おかげで、私も決心をすることが出来た」
「え?決心、というと、もしかしてっ?」
少しばかり驚いた様子で目を見開くマリー。そんな彼女に、私は小さく頷くと座っていた椅子から立ち上がり、マリーの前に立った。
「あぁ、近いうちに、答えを出す。もはや同性同士だとか、身分の差だとか、そう言った事は気にしない。今日おばあ様と話し合い、そして今のマリーを見て、決心がついた。……ただ答えを出す事を引き延ばしていては、皆を苦しめるだけだ。だからこそ、近いうちに、この修行を終えたら、答えを出すつもりだ」
「つまり、誰かひとりを伴侶として迎えると?」
「あぁ。誰を選ぶのか、決めようと思う。……それが、もしかしたらマリーやミーナ、パレッタに、悲しい思いをさせてしまうかもしれない。それでも、私は答えを出すつもりだ」
「隊長」
マリーはただ茫然と私を見上げていた。そんな彼女の前に、私は膝をつく。そして、彼女の右手を取った。
「マリー、もし私がお前を伴侶として選んだら、私の隣に居てくれるか?」
「ッ」
我ながら、童話のような場面だと思う。マリーの前で膝をつき、彼女の手を取り、問いかける。マリーは顔を真っ赤にしながら息を飲んでいる。そして彼女は……。
「えぇ、えぇっ!もちろんですともっ!」
満面の笑みを浮かべながら頷いた。そして勢いよく椅子から立ち上がった。
「隊長ッ!おかげで元気が出ましたっ!こうなったら隊長にもっともっと惚れてもらってっ!お嫁さんとして選んで貰えるよう頑張りますっ!とりあえずは今回の訓練をがんばりますかねっ!という訳で失礼しますっ!明日に備えて早く寝たいのでっ!ではっ!」
マリーは満面の笑みを浮かべながら、そう言うと足早に部屋へ戻って行った。
「全く」
私はそんなマリーの後ろ姿を、やれやれと言わんばかりに微笑を浮かべながら見送った。……しかし、その表情もすぐに陰った。
理由は言わずもがな。答えを出す、そうマリーに言ったがそれは、結果としてマリーやミーナ、パレッタの中から一人を選ぶ事であり、逆に他の二人を切り捨てるような事になってしまう可能性がある。そう思うと、その二人を私は深く傷つけてしまうかもしれない。
それでも、答えは出さなければならない。しかし選ばれなかった二人を傷つけてしまうかもしれないと思うと、胸が痛い。
誰も傷つかず、皆が幸せになれる方法があれば、それに越した事はない。
「いっそ、皆をまとめて私の伴侶に出来ればな」
ふと、思った事が口を突いて出た。しかし、そんな事は出来ないだろう。貴族の男でも、正妻は1人。妾を抱える事はあっても、その立場は正妻とは違い、愛人のようなもの。
それがまして、女性同士で身分を一切考えない結婚になるかもしれないのだ。妾として残った2人を養う事も、出来るかどうか。いや、そもそも残された2人がそんな立場で納得するとは思えない。
……やめよう。今このことを考えても仕方ない。それに私たちはここに訓練で来ているのだ。とにかく、今は寝よう。寝て明日に備えよう。
私は、とりあえず考える事を中断し、眠る事にした。それにミーナとパレッタにも話を聞かなければな。
私は足早に部屋を出て、戻って行ったのだが。だからこそ私は、廊下の隅で私たちの会話を聞いていたであろう、人影に気づかなかった。
翌朝。私たちは食事の後、訓練を開始した。私はおじい様と模擬戦。他の面々もおじい様の考えたメニューに沿って模擬戦や筋トレなどをしていた。
そしてその休憩の合間に、私はミリエーナ様の元を訪れた。
「ミリエーナ様」
「あっ!レイチェル様っ!」
体力作りという事でランニングをしていたミリエーナ様は、木陰で休憩をしていた。私がその元を訪れると、彼女は笑みを浮かべて立ち上がった。
「何か私にご用でしょうかっ?」
「えぇ。少し、お時間をいただいてもよろしいですか?」
「ッ。……分かりました」
私の真剣な表情を見て、ミーナもただ事ではない、と理解したのだろう。息を飲み、真剣な表情で頷いた。
その後、私は昨日の夜、マリーに話したようにおばあ様との会話の内容、そして、私の決心についてを話した。
「そうですか。では、この修練の後に?」
「えぇ。答えを出すつもりです。ミリエーナ様との婚姻を受けるのか否かにまつわる、答えを」
「……分かりました。ならば私も、この修練を今まで以上に頑張る理由が出来ましたっ」
「えっ?」
不意に、やる気に満ちた表情を浮かべるミーナに私は疑問符を浮かべた。
「お姉さまと結ばれるためには、お姉さまに惚れていただく必要がありますっ!となれば、この修練を頑張って、ご褒美を貰ってっ!それでお姉さまとデートしてっ!私に惚れてもらえるように頑張るのですっ!」
「そ、そうか」
ミーナの逞しい考えに私は少し驚きつつも頷く。
「見ていてくださいねお姉さまっ!この修練を頑張って、最高のデートにお誘いしますからっ!という訳でもう一度ランニング、行ってきますっ!」
「あ、あぁ。気を付けるんだぞ~」
「は~いっ!!」
ミーナは元気よく走り去っていった。私はそれを見送った。ミーナには、とりあえずこれで良いか。伝えるべき事は伝えた。
次は、パレッタだな。とはいえ、その時は時間も無かったので午後、私はキースらと模擬戦の後に休憩していたパレッタを見つけ、とりあえず木陰に呼び出した。
「なんだよ姉ちゃん、話って」
「あぁ、実はパレッタに話しておきたい事があってな」
そう前置きをし、ミーナやマリーに話した事を、パレッタにも伝えた。
「そっか。じゃあ、この修練が終わったら、姉ちゃんは誰をお嫁さんにするのか、決めるんだな?」
パレッタは真剣な表情で、私を見つめている。
「……あぁ」
私も、そんな彼女を真っすぐ見つめながら頷く。
「ミリエーナ様も、私が彼女と婚姻を結ぶかどうか、答えを待っている。マリーも、私と結婚したいと昨日の夜、話してくれた。そしてパレッタ。お前も、そうだろう?」
「うん。ウチも、姉ちゃんと一緒に居たい。姉ちゃんと、結婚、したい」
パレッタは恥ずかしそうに顔を赤く染めながら、ポツリと小さな声で呟いた。
「でも、姉ちゃんがお嫁さんを決めるって事は、ウチと、ミリエーナ様と、マリー姉ちゃんの、誰か2人が選ばれないって事だよな?」
「……そう、なってしまうな」
今、パレッタは悲痛な表情を浮かべていた。その表情を見るだけで、辛い。しかしパレッタもまた辛いはずだ。現に……。
「ヤダよ、ウチ。選ばれなかったらって思うと、怖ぇよぉ、姉ちゃん」
「パレッタ」
今の彼女は、まるで怯える子供だ。いや、実際パレッタはまだ子供だ。だからこそ、感情を吐露してしまったのだろう。
パレッタは怯えた様子で涙を流し、そして私に縋りついて来た。
「ウチ、姉ちゃんとずっと一緒が良いよぉ。傍に居てぇよぉ」
「パレッタ。すまない」
自らの選択が、彼女達3人の誰かを傷つける事は分かっている。分かっているのだが、やはり苦しい。私は謝罪の言葉を口にしながら、パレッタを優しく抱きしめる。
それから、パレッタが泣き止むまで私は彼女を抱いていた。
「ぐすっ、ごめんな、姉ちゃん」
「気にするなパレッタ。……こうなる事は、分かっていた事だ」
私はパレッタを優しく抱き寄せたまま、彼女の背中を摩っていた。
「私が誰か一人を選ぶという事は、他の二人を選ばない、という事になるのだろう。結果的に、その二人を深く傷つけてしまうかもしれない。すまないな、パレッタ」
「うぅ、姉ちゃん」
パレッタは、私に縋りながら泣いている。その姿を見るだけで心が痛い。選ばなければならないと分かっていても、苦しい。
しばらくすると、パレッタは訓練の疲れと泣き疲れたのも相まってか眠ってしまった。私は眠ったパレッタの涙をぬぐい、彼女に膝枕をしていた。
彼女は、パレッタは泣いていた。そしてそれを考えると、ふと思ってしまう。ミーナやマリーも、同じなのではないかと。さっきは私に気を使って、気丈な不利をしていただけで、本当は『選ばれないかもしれない恐怖』に怯え、今まさにどこかで涙を流しているのではないかと。
そう思うと、胸が張り裂けそうだ。選ぶ事も、選ばない事も、どちらも誰かを傷つけてしまう。そう思うと、本当にこれで良いのかと、疑問が顔を覗かせる。
「私が、お前たち3人全員を愛し、妻として迎えられるのなら、どれほど良いか」
そんな中で私は、眠るパレッタを見守りながら、空想を口にした。その空想が現実になればいいのに、と頭の片隅で、考えながら。
第41話 END
無自覚ヒーロー属性の女騎士百合ハーレム物語 @yuuki009
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