第40話 二日目の夜

 初日の訓練は何事も無く終了、という事になったのだが、夕食の席でパレッタがご褒美の話を漏らしてしまった事から始まった、私からのご褒美欲しさに始まったご褒美争奪戦。おじい様が皆を見て、特に努力した者を選ぶ事になり結果的に私は特に努力した3人に褒美を与える事になってしまった。



 訓練2日目、朝。


 既に皆、朝食を済ませ各々が練習をしていた。私は最初、1人で腕力を鍛えるための素振りなどをしていたのだが……。


「はぁぁぁぁぁっ!」

「おりゃぁぁぁぁぁっ!」


 な、何というか、その傍で繰り広げられている模擬戦の熱量が凄まじかった。皆、何やら鬼気迫る表情で模擬戦に臨んでいた。……ただの模擬戦でこんなにやる気を見せる彼ら彼女らを、私は今まで目にしたことが無い。そんなに皆私からの褒美が欲しいのか?と内心疑問に思ってしまう。


 うぅむ。部下たちの考えが分からん。だが今はそれよりも自分の鍛錬に集中しなければな。


 とにかく今日は肉体面の鍛錬だ。まずは素振りだ。剣を振るには腕力が必要だ。まずはその鍛錬だ。


「はっ!はっ!」


 私は一人、皆が何やら鬼気迫った表情で鍛錬に励む近くでひたすらに素振りを繰り返していた。そんな時だった。

「隊長ッ!!!」

「うおっ!?」

 不意にメッチャ大きな声で声を掛けられたっ!?びっくりして思わず変な声が出たぞっ!慌てて振り返ると、そこには何故かマリーが立っていたのだが。な、何だろう?今のマリーは凄く、やる気に満ちていた。何でぇ?と思いつつとりあえず平静を装う。

「な、何だマリーか。私に何か用か?」


「はいっ!早速ですが、今ここで隊長に決闘を申し込みますっ!」

「えっ!?」

 い、いきなり真顔で何を言い出すんだマリーの奴ッ!?け、決闘だとっ!?

「ま、待て待てマリーッ!いきなり何を言ってるんだっ!?決闘ッ!?私とお前がかっ!?」

「はいっ!」

「り、理由を教えてくれ。なんでいきなりそうなる?」


 訳が分からなかった。なんでマリーはいきなりこんな事を言い出したんだ?

「隊長は我が隊において最強の存在ですっ!そんな隊長に今より近づく事が出来れば私は自分の強さを、成長を実感できると考えましたっ!」

「な、成程。つまり自分の力量を推し量り、尚且つこの訓練の中で自分の成長を感じられるよう、私と戦いたい。という事で良いんだな?」

「はいっ!」


 マリーは真剣な様子で真っすぐ私を見つめながら頷く。ふむ。確かに彼女の言い分にも一理ある。分かりやすい成果が出ればやる気にもつながるだろう。


「良いだろうっ。マリーの熱意に免じてその決闘、受けよう。武器は木剣で構わないな?」

「構いません。ルールは普通に、相手に参ったと言わせた方が勝ちでよろしいですね?」

「あぁ。構わない。今木剣を持って来よう」


 マリーの真剣な表情に当てられたな。私も少なからず気が引き締まる思いだ。私は屋敷の中から木剣を持ってきてマリーに渡す。

「ありがとうございます」


 マリーが静かに木剣を受け取ると、私は一度下がって距離を取ってから改めてマリーと向き合う。

「隊長、決闘を開始する前に1つ、お願いをして良いですか?」

「なんだ?言ってみろ」

「この一戦、実戦のつもりでお願いします」

「ッ」


 その時、私はマリーの鬼気迫る表情に思わず息を飲んだ。

「部下だからと、訓練だからと手心は不要です。実戦で、敵を叩き潰すつもりでお願いします。手加減している隊長を越えても、意味はありませんから」

「……良いだろう」


 成程、マリーは本気だ。なら私も答えよう。彼女の言う通り、この決闘は実戦のつもりで行く。その時、チラリと周囲に目をやると他の皆が集まってきていた。どうやら私たちの戦いを見るつもりのようだ。まぁ構わないだろう。


 やがて私もマリーも、手にした木剣を各々のスタイルで構える。

「……正直、今の私じゃ隊長に勝てるか分かりませんけど、物事はやってみてからじゃないと分かりませんからね」

「最もだな。……来いマリー。今のお前の全力を私にぶつけてみろ」

「はい……っ!」


 ここからはもう、言葉は不要。ミーナやパレッタ達が遠巻きに見守る中、私はただ目の前のマリーだけを見つめ、警戒心を強めている。


「ッ!!」

 次の瞬間、マリーが先に飛び出したっ。繰り出される刺突。

「ッ!」

 それをいなして返しの一撃を繰り出すっ。が、それをマリーは横に大きく飛ぶ事で回避したっ。だが逃さんっ!逃げるマリーを追いかけ木剣を振るう。


「くっ!」

 対してマリーはステップを多用し、私とのつばぜり合いを割けるように防御ではなく回避に徹している。

「どうしたっ!?逃げてばかりかっ!?」

「隊長の連撃の恐ろしさは、身をもって知ってますから、ねっ!」


 私の攻撃を制するように、私の木剣をマリーの木剣が弾き、マリーは距離を取る。

「ふっ、私の戦い方は熟知している、という訳か」

「えぇ。隊長の攻撃リーチの中にいるほど、愚かじゃありません、よっ!」


 お互い笑みを浮かべ、そしてマリーが私に向かって刺突を放ってきた。それを躱し、カウンターを狙うがマリーはすぐさま私と距離を取った。


 私が追えばマリーは距離を取り、かといって少しでも隙を見せれば鋭い攻撃が飛んでくる。これは、私と同じヒット&アウェイの戦闘方法だ。マリーの実戦経験もあって、並の相手なら彼女の足にかき乱され、隙をつかれてやられるだろう。


「そこだぁっ!」

「くっ!?」

 伊達に小隊の副官をしているだけの事はある。マリーの実力は隊内でも上位に入る。その突きは鋭く、何とか受け流す事が出来たが、今の一撃は危なかった。思わず背中を冷たい汗が伝う。


 だが……。


「はぁっ!」

「くぅっ!?」

 私とて聖龍騎士の1人ッ!隙を突いた一刀がマリーの木剣を弾き飛ばした。

「「「「おぉっ!?」」」」

 周囲から聞こえる驚きの声。そして宙を舞った木剣が、傍に音を立てて落ちる。私は木剣をマリーに向け、不敵な笑みを浮かべる。


「まだやるか?」

「……いえ、降参です」

 マリーは少し悔しそうに口元を尖らせながらそう呟いた。降参の言葉を聞き、私は木剣を下ろした。


「あ~あ、もうちょっといい線行けると思ったのにな~」

 さっきまでとはうって変わり、マリーは不服そうな表情を浮かべながら木剣を拾い上げた。

「ふふっ。そう落ち込むなマリー。私はこれでも聖龍騎士だからな。部下に負けたとあっては面目丸つぶれだ。それに、本気でと言ってきたのはマリーだろ?」

「そりゃまぁ、そうですけど。……でも、もうちょっと食いついていけるかな~って内心思ってて。でも実際は簡単にやられちゃったのが悔しいというか、その」


 マリーは少し落ち込んだ様子で肩を落としている。ふむ、この訓練期間中はモチベーションも大切だ。フォロー、しておくか。


「そう肩を落とすな。マリーは順調に強くなっているさ」

「それ、本当ですか?」

 私の言葉に、マリーは小首を傾げながら問いかけてきた。

「あぁ。本当だ。もう何年も一緒に仕事をして、戦ってきたんだ。それくらいマリーを見ていれば分かるさ。お前は入隊した時から、着実に強くなっている。ずっとお前を見てきた者として、保証してやるさ」


 それはマリーを元気づける意味で言ったのだ。だが……。


「ず、ずっと見てきたなんてっ!やだも~!何言ってるんですか隊長ッ!照れちゃうじゃないですか~~!」


 な、何かマリーが顔を赤くしながらニヤニヤと笑みを浮かべている。な、何でだっ!?と、そこへ。

「姉ちゃんッ!姉ちゃんはウチの事もしっかり見ててくれてるよなっ!?なっ!?」

「うぇっ!?パレッタッ!?急にどうしたっ!?」

 なぜか急に駆け寄ってきてまくし立ててくるパレッタッ!なんでっ!?

「お姉さまっ!わ、私はどうなのでしょうかっ!?マリーさん程ではありませんが、私の事も見てくだいっ!」

「ちょっ!?ミーナまでどうしたの急にっ!?」


 なぜか分からんがミーナまで駆け寄ってきてそんな事を言い出す始末っ!というかっ!今ここでこんな風に駄弁っている場合ではないっ!

「お、お前ら訓練をしろぉ~~~!!」

 私は思わず、皆に向かってそう叫ぶのだった。


 

 その後、皆も私もそれぞれの訓練に戻った。それぞれ模擬戦や体力作りのためのトレーニングとしてランニングや筋力作りの雲合に励んでいた。


 しばらくして昼食と、昼休憩を挟んでから午後もまた訓練を再開した。


 そして私はというと再びおばあ様とチェスで勝負していた。昨日の反省を生かして、とにかく一手一手慎重に打つ。そんな時。

「ねぇレイチェル、少し聞いても良いかしら?」

「はい、何でしょうかおばあ様」

「あなた、彼女達の事をどう思っているの?」

「え?彼女達、とは誰の事ですか?」

 今の言葉だけでは、誰の事だか分からず、思わず聞き返してしまった。

「それはもう。フェムルタ嬢やあなたの率いる第5小隊の女性たちの事よ。皆、レイチェルを慕っている、いいえ。それ以上にあなたに、恋慕の情を抱いているようだけど。あなたはそれに気づいているの?」

「うっ、そ、それは、その……」


 おばあ様からまさかこの話題を聞かれるとは思わず、予想外過ぎて自然と顔が赤くなってしまう。

「……知っては、います。ミリエーナ様やパレッタ、それにマリー達も皆。私への思いは包み隠さず口に出しているので」

 おばあ様相手にこんな話をするのは恥ずかしいなぁ。などと考えつつ、駒を動かす。

「そう。それで?レイチェルはその誰かの思いに答える気はあるの?」

「答えるって、彼女達にですか?しかし、彼女達は私と同じ女性ですよ?」

「えぇそうね。……でもねレイチェル。世の中にある人の思いや考え方、主義主張は星の数ほどあるわ。そしてそれは人の恋や愛の形も同じ。人の数だけ恋愛がある。そう考える事は出来ない?」

「そ、それはまぁ。おばあ様の仰っている事は分かります」

「であれば、理由はそれぞれ違うでしょうけど、皆あなたを思っている。あなたに振り向いてほしいと思っている。あなたと生涯を共にしたいと思っている。そんな彼女達の思いも理解できるわね?」

「………はい」

「なら改めて聞くわレイチェル。あなたは、あの子たちの思いを知った上でどうしたいの?あなたの願いは、どんな形をしているのかしら?」


「私の、願い」

 しばし私はチェスの手を止め、考えた。ミーナやパレッタ、マリー達の思いについて。私自身の思いについて。


「……正直、皆の事は大切な存在だと考えています。部下として、戦友として、友人として、皆大切な存在です。だから、あいつらの思いに答えたいと思う自分が居るのは確かです」

「そう。ならもし、あの子たちの誰かから。結婚の申し入れがあったら、受けられる?この際、女性同士だとか、貴族としての立場などという些細な事は気にしなくていいからね」

「……」


 ミーナやパレッタ、マリー達との結婚、か。色々な事を気にしなくていいというのなら。正直に言うと、私は皆の事は嫌いではない。むしろ、好きか嫌いかで聞かれれば、断然好きと答えるくらいには、皆を思っているつもりだ。だから……。


「はい。受け入れられます」

 私は真っすぐおばあ様を見つめながら答えた。それは、個人的に衝撃的な発言だと自分でも思った。

「そう」

 しかしおばあ様はまるで私の発言を予想していたかのように一切驚いた様子が無い。

「おばあ様、驚かれないのですね?」

「えぇ。だってあの子たちを見ていれば分かるもの。あの子たちのレイチェルへの愛は本物だって。本気であなたに恋をして、あなたの傍に居たいと本気で思っている。そしてレイチェルも、少なからずあの子たちの事を思っている。だからあなたにあの子たちからの求婚を断る理由はない、そう思ったのだけど。違う?」

「いえ、おっしゃる通りです」

 どうやら私の考えなど見透かされていたようだ。流石はおばあ様か、と思い思わず苦笑してしまう。が、それもすぐに消える。どうしても考えてしまうのだ。おばあ様の言った、『些細な事』が。そのことについて考えると、笑みも消えてしまう。


「あら?どうしたのレイチェル?」

 するとおばあ様は私の表情の変化に気づいたようだ。……私は静かに口を開いた。

「……おばあ様、今の話に嘘偽りはないのですが、やはり私は考えてしまうのです。同性同士の婚姻は、わが国では認められておりません。それに周囲から、私と、私の愛した者が奇異の目で見られるのはいたたまれません。いえ、百歩譲って私がそう言った目で見られるのは良いとしても、私の大切な人が侮辱されるような事があったらと思うと」


 同性同士の結婚はまだこの国の法では定められていないはず。故に、同性婚について明確な罰則も無い反面、それが周囲にどう受け止められるか、分からない。それに……。


「まして、私はクラディウス公爵家の人間です。下手をすれば、家族に迷惑をかける事になるやもしれません。そう思うと……」

「彼女達との関係が進む事について、二の足を踏んでしまう?」

「……はい。今のような、友人や部下、戦友と言った関係性を壊したくない。そう思う自分が居るのです。今ある関係が変わって、その結果どんな事が起こるのか分からないのです。分からないから、予測できないから、怖い」


「そうねぇ。女性同士の同性婚、それがまして、貴族の娘が、ともなれば周囲がどのような反応をするか、想像もできないわね」

「えぇ。前例がないからこそ、どうなるか全く見当がつかない」

 前例が無さすぎる。法や国による保護なども期待できない。だからこそ、二の足を踏んでしまう。これ以上、先に進んで良いのか?と。


「そうね。……でもレイチェル、前例というのはいつだって、ある時ふと生まれる物なのよ」

「え?」

「誰にだって、いつの時代にだって、最初から前例がある物なんて存在しないわ。同性婚だってそう。いつか誰かの選択が、後に続く人たちの前例となるのよ。それで、あなたはどうする?誰かが前例を作ってくれるのをのんびり待つの?それとも、自分が前例になるの?」

「……自分が、私たちが前例に?」

「えぇ」


 頷くおばあ様。……私はしばし考えこんでしまった。私たちが、女性同士の同性婚の前例になる、か。今まで考えた事も無かった。ただ、前例がないからと二の足を踏んでばかりだった私たちが。他の物たちが足を踏み出すきっかけとなる前例になる、か。


 しかし、前例がないからこそ、仮に私が誰かと同性婚をしたとして周囲が私たちをどう見るか。祝福か、罵詈雑言か。一体どうなるのか、見当もつかない。私は、どうすれば良いのだろうか。


 ふと、そんな事を考えていると。

「はい、チェックメイト」

「え?……えっ!?」


 い、いつの間にか追い詰められていたっ!?今になってチェスの盤上の戦いが絶体絶命のピンチになってる事に気づいたっ!

「ふふふ、会話に集中しすぎよ、レイチェル」

「う、うぅ。……ま、負けました」


 どう考えても挽回の一手を見出す事が出来ず、私はがっくり項垂れながら敗北を宣言する事しか出来なかった。

 うぅ、また負けたぁ。だが気持ちを切り替えないとっ!次だ次っ!


 と、意気込んで駒の位置を戻していた時だった。

「レイチェル」

「え?は、はい。何でしょうおばあ様?」

「あなたは色々考えるでしょうけど、一人で抱え込むだけではダメよ。彼女達ともしっかり話し合いなさい?もしかしたら、残りの人生を共にする伴侶となるかもしれない子たちなのですからね」

「……分かりました」


 おばあ様の言葉は最もだった。そうだな。時間があれば、ちゃんと皆と話し合いをするべきだ。時間があれば、ミーナやマリー、パレッタに話をしておこう。



 その後、夕食やら湯あみやらをした後の夜。明日も訓練なので私たちは早々に眠りについたのだが……。


『ね、眠れんっ』


 昼間におばあ様と話した事をずっと考えていたせいか、中々寝付けずにいた。仕方ない、少し水でも飲んでくるか。


 私はゆっくりと起き上がり、寝ている他の皆を起こさないようにゆっくりと部屋を出た。厨房の方へと行き、水を飲んだ私は部屋に戻ろうとしたのだが……。


「あれ?隊長?」

「ん?」

 不意に声を掛けられ、声がした方に目を向けた。見ると、ちょうど部屋の方向から来るマリーの姿があった。

「あぁマリーか。どうした?こんな時間に?」

「いやぁちょっとお手洗いに。そういう隊長はどうしたんです?」

「ちょっと寝つきが悪くてな。水を飲んできて部屋に戻るところだ」


 と、話していた時、ふと昼間のおばあ様の言葉を思い出した。……今なら、他の誰かに話を聞かれる心配も無いし、聞いてみる、か?


「なぁマリー、少し、話をしたいんだがこの後良いか?」

「え?はい大丈夫ですけど」

「そうか、ありがとう。なら少し場所を移すか」


  その後、私とマリーは場所を食事などに使う大部屋に移した。窓際近くの椅子を並ぶようにして置き、2人して座る。カーテンの隙間から照らす月と星の明かりが私たちを小さく照らしていた。


「それでお話って何です?」

「そのことなんだが、マリー。これは真面目な話だ。おふざけは無しで答えてくれ」

「ッ、何です?」

 マリーは私の言葉と表情から真面目な話だと感じ取ったのか、真剣な表情を浮かべている。


「お前は、その、いつも私の嫁だとかどうだとか話をしていただろう?だからこそ聞きたい。マリー、お前はもし、私と結婚したいかどうか問われた時、どう答える?」

「無論、隊長と結婚したいです」

「ッ」


 そこにあったマリーの表情は、いつもこちらを弄っては楽しそうに笑みを浮かべる、悪戯っ子のような笑みは無かった。ただ真剣な表情と瞳で私を見つめていた。


 その表情に思わず息を飲んでしまったが、聞くべき事を聞かなければ、と私は考え改めて問いかけた。


「この国ではまだ、同性婚など認められていないし、違法でもないから罰せられる可能性も、今の所はない。だが前例のない事だ。仮に私たちが結婚したとしても、周りからどんな目で見られるか見当もつかない。それでも、良いんだな?」

「有象無象の目なんて気にしませよ。そんな事より、隊長の傍に居られる方がよっぽど大事です」


 確認のために問いかけても、マリーは一切躊躇する様子を見せず、ただそう言って見せた。だが、こうなると逆に気になる。


「なぁ、マリー」

「はい?なんでしょう?」

「どうして、お前はそんなに私に、好意を寄せてくれるんだ?」

「え?」

 キョトンと首を傾げるマリー。

「好意を向けてくれるのは嬉しいが、改めて思ったんだよ。マリーはどうして、私と結婚したい、なんて言い出したのか。その理由を」

「あぁ、その理由について聞きたいって事ですか」

「そうだ。……聞かせてもらえるか?」


 私が問いかけると、マリーはいつものように笑みを浮かべながら少しばかり考えた後。

「良いですよ。ちょっと長くなるかもしれませんけど。構いませんか?」

「あぁ。頼む」

「分かりました。じゃあ……」


 そうして、マリーは話し始めた。 どうやら2日目の夜は、まだまだ終わらないようだ。


     第40話 END

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