選択肢

維千

この手紙を読んだ貴方へ

 今日は読んでくれている君に向けて、自殺についての意見を聞きたい。 社会には禁句とも言える「自殺」に対して様々な考え方がある。今からお話するのは、僕のとある 経験談だ。自殺に関して考える前提として読み流してくれたらそれで良い。


 ある日、僕の手元に一通の手紙が届いた。 市役所か、はたまた自治体か、あまり詳しく覚えていないが、「自殺」についてのアンケートに協 力してもらうといったものだった。無作為に選出された僕は、面倒だなぁと思いながら回答ページ を開く。

そのアンケートにあった一言。


「もし身近な人から『死にたい』と相談を受けたらどうしますか」


僕は選択肢を見た。





「『それは死にたくなるね。』と共感する」


なんだかピンとこない。共感すれば良いってものじゃ無いだろう。



「死なないで欲しいと引き止める」


そんなもので思いとどまるくらいなら、ただのかまってちゃんかメンヘラ気質だろう。



「まずは病院で話をきいて貰うなどの提案をする」


なんて他人任せなんだろう。そんな奴にふつう相談なんかしないだろう。これを選んだやつは「死にたい」なんていう真剣な相談なんて一生縁がないだろうな。



「話を黙って聞く」


何だそれは。相談しようと思った自殺志願者はそんな答えなどを求めていないだろう。



「その他」







 今まで僕は、当人が納得すれば自殺しても良いと考えていた。苦しい環境に置かれた人間は、 我慢し続けるか、自殺という方法で逃げ出すしか選択肢がないと思っていたからだ。


 しかしその日、最後まで回答欄をスクロールして思った。これはお人好しなのか。はたまた偽善なのか。その正体が一体何なのか分からない。でも僕は選択肢を探すうちに、きっとこの人を助けようとしていたのだろう。いや、この人のように助けられたかったのかもしれない。


ロープの垂れ下がった天井を見上げて深く深呼吸をし、その他のところにゆっくりと文字を打ち始めた。

「死なない理由を一緒に作る」


 ここまで読んでくれた君に伝えたい。人生は、この甘ったれたアンケートとは違って、「複数回答可」など存在しないのだ。どちらかを選ばなければならない。だから人間は選ぶ前によく考える。 その時間が鍵となる。


悩む瞬間。


それは少しでも助かる方法があるのなら助けて欲しいと思っている瞬間。


そのときにもしも君が相談を受けたなら、相談してくれた子が死なない理由を作ってあげて欲しい。




そうすればきっと、僕のような犠牲者は減るだろうから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

選択肢 維千 @1-books

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ