映画「君たちはどう生きるか」ネタバレ感想

矢木羽研(やきうけん)

感想

公開初日に観覧。ジブリ映画を劇場で見るのは『もののけ姫』以来だったかな? 今回は、タイトルとジャンル(冒険ファンタジー)、ポスターのキービジュアル以外の情報を一切明かさないまま公開に踏み切ったので、興味が出て行ってみた。


平日昼ということもあるのだろうが、イオンシネマ某所はガラガラ。情報公開があまりにもされていないせいで一般人は存在を知らないという説。席に腰を下ろして開始を待った。そういえば今って映画泥棒のやつ無いんだね。IMAXだったからかも知れないが。


以下、本編のネタバレを含むので注意。


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長い予告編の後で本編が始まる。空襲警報? いや火災警報か。戦時中の日本っぽい世界かと思ったら日本そのまま。母が焼死して田舎に疎開して、父は母の妹と再婚(デキ婚??)。まあ昔だと結婚=家同士の繋がりなので、死亡した兄や姉に代わって弟や妹と結婚するのはよくあった話らしいのだが。


例の鳥はこのあたりから登場。最初はアオサギそのもので、思ってたより細いなと思っていたのだが…。


主人公である眞人(まひと)は11歳くらい? 声変わりはしっかりしているようなのだが(見た目の割に声が低い上に、エピローグの3年後でも声が全く変わっていないのは違和感あった)。思春期と言うよりはまだまだ子供という感じ。


眞人の父は軍事工場の経営者で、マイカーのダットサンを見せびらかしたりする成金らしい嫌な部分もあるのだが家族や従業員には優しく、自ら体を張れるタイプの人。神隠しも一笑に付したりしないので、トータルでは好感度が高い。


疎開先である母の実家では、湯婆婆のような妖怪じみた使用人がたくさんいるのだが、あくまでも普通の人間である模様。


眞人は(父親のせいで変に目立ったのもあるのだろうが)学校に馴染めずに取っ組み合いの喧嘩をする。負けん気が強くていい感じなのだが、帰り道で眞人が自らの頭に石を打ち付けて自傷して血を流すシーンがある。罪をなすりつけるとか、あるいは構ってほしいからなのかと思ったが、そうでもない模様。映画を見た人の大半が困惑したと思うのだが…。


大叔父の建てた塔から異世界へいざなわれる。ここに入るまでの過程が結構長く、眞人の行動もいまいち共感できなかったりするのでやや退屈かも。でも弓矢を自作するシーンは面白そうだったな。子供が真似したら割と洒落にならないシーンというか、夏休みに真似する子供は絶対いる。


異世界の冒険は思ったよりマイルドで、少なくとも『千と千尋』がいけるなら十分。しかし群体恐怖症の人には辛いかもという意見もあり、なるほどと思った。敵キャラらしきものもグロテスクなわけではなく、見た目はかわいい。


「わらわら」は絶対グッズ化前提で作っただろと思うほどのあざとい見た目。新たなるジブリのマスコットになるだろうか。見た目があまりにも没個性と言うか単純すぎるため既視感があったので微妙か。


塔の中の世界は異なる時間軸と繋がっているらしく、眞人は若き日に神隠しに遭ったという母(なぜか炎の魔法を使う)と会う。まあ正体が明かされるのは割と後なのだがバレバレである。一応、この物語のメインヒロインなのかなぁ。


眞人は継母である夏子を救い、眞人の母はその先に待つ運命を受け入れた上で元の世界に帰ってくる。つまり過去に神隠しに遭ったのを助けたのは未来の息子だったという話。


その点では「千尋」と似ている構造なのだが、あちらと異なり眞人が何かを得て生まれ変わったかのような描写は薄い。あくまでも眞人が母の死を受け入れて、また継母との家庭を受け入れて新たな日常に回帰するための、内面世界の冒険といったところなのかも。


最後までよくわからなかったのは、一緒に迷い込んだ使用人のおばあさん「キリコ」が、下の世界では若い女漁師として登場していたこと。母とは異なり、あくまでも別人のようなのだが。使用人たちの人形も謎のアイテムとして登場しており、キリコの家で眞人は「テーブルの下に敷いた布団で人形に囲まれて眠る」というかなり異様な形で夜を明かすのだが、それもよくわからなかった。考察ネタとしてはホットな部分だろう。


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総評としては、いろんなジブリ映画っぽい。まず最初は『火垂るの墓』だし、『トトロ』みたいな道を進んでいくシーンがあるし、『千と千尋』のような不思議な世界があるし、『ポニョ』のような水や古代魚の描写がある。


センシティブなシーンもなく、冒険活劇としてちゃんとしているので、家族で見られる新たなジブリの定番となりそうな感じはする。シーンを見ながら「これ、あの映画と似てるよね」と過去作へ入るきっかけになるようなファンサービスも豊富。


特別に面白かったかと言えば正直微妙なのだが、かといって期待外れというほどでもなく、何度か噛み締めて味が出るタイプの映画かも知れない。人物の内面についての直接的なセリフが少ないので、細かい部分を観察することで見えてくるものもあるだろう。


なお書籍『君たちはどう生きるか』については、特に重要でないというか、割と何にでも置き換えられる(それでいて物語そのものには全く関わらないのでマクガフィンですらない)ので読まなくてもいいと思う。まあ私もあらすじを見ただけで書籍自体は未読なのでなんとも言えないのだが。

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