多重並行オントロジー

花野井あす

多重並行オントロジー

 気が付くと私は、幼女になっていた。

 擦り切れたテディ・ベアを両腕で抱いて、感極まり、落ち着きなく飛び回っている。

 そして愛する誰かに重いっきり甘えていた。


 その誰かも、私だった。

 背の高く髭の生やした男だ。ゼニアのスーツをぱりっとさせて、ひどく上機嫌に気の利いたジョークを並べ立てている。

 隣にいる誰かの気を引きたくて仕方ないのだ。


 その誰かも、私だった。

 尻の大きな女だ。赤いイブニングドレスを着て細くて長いヒールを履いている。

 腹の底から不快な感じがこみ上げ、きいきい喚いている。

 誰かが存在することに耐えられぬのだ。


 その誰かも、私だった。

 若い青年だ。分厚い本を片手に裸足でそこに立っている。世界が真っ暗で、鬱々として、乾いた涙を流している。

 そして誰かをじっと見つめ羨んだ。


 その誰かは――私であり、幼女だった。

 私は幼女として喜び、男として楽しみ、女として怒り、青年として悲しんでいた。


 私はひとりとして問いを投げかけ、集団として問いに答える。

 私は個であり、私は群である。


 私は男であり、私は女である。

 私は年寄りであり、私は幼子である。


 一体だれが私で、私はだれなのか。

 だれが私を定義づけるのか

 私か、他者か。はたまた神か仏か。


 目を醒ますと、私は私になっていた。

 私は暫し雑然とした余韻に浸った。

 次第に混沌とした思考は打消し絡み合い――混ざり合った何かへ収束した。


 さて私は、いったい何者になったのであろうか。

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多重並行オントロジー 花野井あす @asu_hana

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