早番、そして限界へ。

 薬を処方してもらった次の日、初めての早番担当となりました。リーダーは2回目まで一緒に早番に出てくれました。言われたことは3つ。

 ・1回目は見て覚えること。

 ・2回目は自分でやり、リーダーは間に合わなさそうと判断したら参入すること。

 ・3回目からは1人で行うこと。

 遅番を覚えることに4日間という期日を守れなかった私は、何が何でも覚えきらなければと気合を入れました。


 1回目

 リーダーの後ろをついて回り、流れを覚えつつメモに残しました。帰宅してからもイメトレを繰り返しました。


 2回目

 昨日のリーダーと同じ流れで動きましたが、いざ調理室に入ると覚えた順番が逆になってしまう、昨日は無かった工程を行わなければならないなど、終始慌ただしくなってしまいました。

 昨日は無かった工程、これは洗米と浸漬、果物の消毒と乾物を戻す作業でした。そして、早番は使用する食材の下処理も行います。家でやる下処理の方法と違うため、食材ごとにやり方を覚える必要もありました。苦戦したのは葉物とジャガイモ。葉物の汚れは中々落ちないし、ジャガイモは洗浄、皮むき、芽取り、洗浄、カットと工程が多いうえ数も多いと来た。なんとか残すはジャガイモのみとなった時、


「これじゃ(時間内に)終わらないよ~。」


「ごめんなさい!!!」


 それしか言えませんでした。原因は米と果物、乾物を戻す作業があると気づかなかったこと、覚えたつもりでも素早く作業に取り掛かれなかったことだと思いました。休憩時間にメモを加筆し、一通りの流れを可視化することができました。あとはこれを30分以内に終わらせるだけ。だけと言っても、それが今日できなかったんですけどね。


「明日1人でやらせるの危ないですよね。」


 リーダーが調理師さんにそう言いました。本当に申し訳ない。


「…大変ご迷惑をおかけして申し訳ないのですが、もう1度傍にいていただけないでしょうか…」


「じゃあ、明日最後ね。」


「すいません!ありがとうございます!!!」


 情けの3回目

 3度目の正直とでも言いましょうか…2回目に比べるとメモを加筆したお陰でスムーズに行うことができました。それでも、野菜の下処理でやはり手間取ってしまい結局リーダーと調理師さんには迷惑をかけました。そして、とてもまだ30分以内に終わらせられる気がしないと思いました。


 4回目

 今回から完全に1人です。絶対時間内に終わらないと思った私は、こっそり10分前に作業を開始しました。作業をしながら、漏れがないか、順番は間違っていないかを確認し、中番の方が出勤する時間には、下処理も半分ほど終わらせた状態にすることができました。今回もまた、野菜の下処理で指摘されることが多くあり、申し訳なさで溢れていました。


 その後、後日使用する食材の中に下処理したことのないものがあれば、前日のうちに確認をとったり、ネットで下処理のやり方を確認したりしてから出勤するようにしました。そのお陰があってか、早番の仕事には割と早く慣れることができたと思います。


 *********

 薬を服用し始めて1週間ほど経ったころでしょうか。変化が見え始めました。

 1つは、今までほとんど目が合わなかったリーダーと目が合うようになり、受診前に比べ優しく感じました。これは、単に時間が経って距離が縮まってきたのか、はたまた受診の結果が怪しいことを気遣ってくれているのか、考えられるのはこの2つでした。病院を受診する際、結果を報告してほしいと言われていたので、心療内科にかかり自律神経をやらかしている可能性があることを伝えていました。どっちにしても、この急な変化何事?怖…という大変失礼な心情が勝ってしまいました。

 そして2つ目、これまでの症状に加えて、仕事中急に涙が滲むようになり、そして大声で叫びたい衝動に駆られるようになりました。なんで涙が滲むのか分からないし、なんで叫びたいと思うのかも分かりません。最近情緒不安定だな~、めんどくせ〜、なんて思う程度でした。

 そして大分身体的にしんどかったのは、朝全く動けないことでした。起きなければいけないのに、重くて上体を起こすことができないまま15分経つ、なんてことがザラにありました。

 薬の副作用…?それとも風邪引いたかな…と思い検温しても、ギリギリ平熱。どうせならもう、完全に熱出てくれば休んで治せるのになぁ…と毎日思いながらなんとか出勤していました。


 *********

 再受診まで後2日、明日明後日頑張れば病院に行ける。その事実を糧に重い身体を動かし出勤しました。ですがこの日、私は調味料の匂いから出来上がった料理の匂いまで全てがきつく感じ、初めて給食を残してしまいました。帰宅して夕飯の支度にとりかかっても、調味料の匂いがしんどく、味もよく分からないまま作りました。


 明日乗り切れば病院に行ける、今日もそれを糧に出勤します。朝はほとんど食べられず、豆乳だけ口にしました。そして荷物の中にはゼリーとソイジョイ、給食は食べませんでした。お腹は空かず食欲も湧かない、ただ食べないと退勤までもたないから口にする、そんな感じでした。そして食べたら食べたで気持ち悪くなって後悔するまでがセットです。この日から、主食はおじやになりました。何を胃に入れても気持ち悪くなるため、結果は変わりませんが、せめて消化にいいものをと思いました。


 今日頑張れば、明日病院。

 先日と同じように昼食を持参し出勤しましたが、身体は堪えていました。少しの運動量でも息が切れ、立ち上がれば眩暈と立ち眩みに襲われる。食べる量が減ったせいかな、と思いながらも作業していました。

 ですがこの日は情緒もやられていたのか、リーダーの言葉全てが引っかかってしまいました。

 この前の研修でやった内容を問われ答えると、その内容、去年は行われず紙媒体のみ配布されていたことを知りました。また、異動していった先輩は、それを見てこなしていたこと。去年はアレルギーの子がおり、頑張って覚えてこなしていたことも知りました。以前の私であれば、もっと頑張ってその姿を目指そうと意気込んでいたと思います。今は、今年はアレルギーも居ないし、去年より恵まれているのだから、もっと頑張れ、そういう思いが含まれているんじゃないかと、捻くれた思考になっていました。

 そして、原因をよく覚えていないのですが、恐らく大罪を犯しかけたのでしょう。ぼそりと呟いたリーダーの言葉は、はっきりと聞こえ、今でも頭にこびりついています。


「アレルギーの子が居たら、あなたのミスはその子を殺しかねないよ。」


 そしたら殺人だよ殺人、そう紡がれる言葉。それは紛れもない事実、そして小さい命を脅かしてしまう可能性を突き付けられ、心臓が強く痛みました。


 ああ、私、栄養士向いてない。もう、無理だ。

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新卒2ヵ月で適応障害になった話。 ZeRo. @Amber-xxx-00

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