057 勝負の日

 総督の車で端地家の近くに来た3人は、その家の近所にある小さな駐車場で待機していた。位置的には角度的にはぎりぎり家の玄関が見え、誰が出てきたかの判断くらいは可能である。とはいえ、今日も待ちということで退屈する3人かと思えたが——。


「これ美味しいですね。これはおすすめしたくなりますね」

「そう思うかい? 私もこの前買ってあまりの美味しさにびっくりしてね。また買いたくなったんだよ」


 千咲と総督はコンビニで買った新商品のパンを食べながらその美味しさを語り合っていた。傍から見れば車の中で親子仲良くおやつを食べている図にしか見えない。……見張りといえばパン(?)と飲み物みたいな印象があるのである意味正解なのかもしれないが。


「……」


 そんな様子を比呂は気にする様子も無くただただ窓から外の様子を眺めていた。ちなみにその片手には2人と同じパンがあるにはあるがまだ食べてはいない。


「……そういえばさ比呂、今週の金曜日の放課後って空いてる?」

「一応空いているが」

「前にさ、私の友達が話を聞きたいけど大丈夫かって話したじゃん」

「あぁそんな話してたな」


 少し暇な千咲は、比呂に凪たちの予定の話をし始めた。比呂はその話を視線を窓の外から動かさないまま返答する。


「昨日友達と連絡を取っててそれで今週の金曜日の放課後ってことになったんだけど」

「いいけど。でも俺は何の話をするんだ?」

「うーん、それは正直私にも分かんない。一応3人来るんだけど、そのうちの2人が話をしたいって言っててさ。1人は銃技のことだろうけどもう1人は教えてくれなくてね」


 凪の話したいことは銃技のことで間違いないだろうが、鈴は結局教えてはくれなかった。残念ながら当日にならなければ不明である。


「……最初は1人って言ってたのになんか増えたな」

「ごめん、でもなんかどうしても話したいらしくてさ。あ、でも1人はただ付き添いって感じだから気にしないで」


 これに関しては千咲も想定していなかったことなので仕方ない。


「二条がそこまで女子から注目されるなんて意外だね」


 そんな2人の会話は聞いていた総督が口を挟んできた。総督からすれば比呂が女子から話をしたいと誘われているこの状況が面白いのだろう。


「銃技のことで注目されるのは分かりますけど、他に注目される理由が私にも分からないんですよね……」

「本人の目の前で言うんだねそれ」

「まあ事実ですから」


 それに対しての比呂の反応は特にない。と思ったのだが……。


「……少しコンビニに寄ってくる」


 比呂はそう言い残すとそのまま車を出て歩いて行ってしまった。


「……もしかして少し刺激しちゃったのかな?」

「いや、そんなことないと思うよ。二条は本当にコンビニに行っただけだと思う」


 実際の話、比呂が女子からの反応など本当に気にしていないだろう。


「でも、何しに行ったんでしょうね」

「さあ」


 比呂が座っていたところにはさっきまで持っていたパンが置かれている。ご飯を買いに行ったわけではなさそうだ。


「そのパン、比呂には合わなかったとか?」

「二条が好き嫌いしているのは今まで見たことがないから違うと思うよ。おそらくお手洗いに行ったとかじゃないかな」

「あーなるほど、確かにその可能性が高そうですね」


 そんなことを言いながらパンを食べ終わった千咲は、持ってきた本を読み始めた。総督も家のほうを見ながらずっとスマホでラジオを聞いていた。



 ※※



 ——そうして時間が経つこと数時間。時刻は既に15時を過ぎようとしていた。千咲たちは引き続き見張りをしようとしていたのだが。


「……本当にどこに行ったんでしょうね」

「さすがに私も分からない……」


 あれから比呂は戻ってこなかった。おかしいと思った2人は比呂に連絡を取ったものの未だ既読すらつかない。


「こういった見張りの時に比呂と連絡が取れなくなるなんて今まで無かったと思う。さすがに探しに行く必要がありそうだね」

「何か行く当てとかあるんですか?」

「正直言うと何にも分からない」


 数時間程度連絡が取れないこと自体はそこまで気にすることではないのだが、今は状況が状況である。もしかしたら良くないことに巻き込まれている可能性がある。


「とりあえず近くのコンビニに行こう。今日の見張りは一旦中止だ。本条、精算だけして来てくれる?」

「分かりました」


 千咲は車を出て近くにある精算機で支払いを済ませる。既にエンジンのかかった車に戻った千咲は助手席に座ってシートベルトを締めた。


「準備はいい?」

「大丈夫です」


 こうして2人は駐車場を後にして近くにあるコンビニへ向かっていった。——それと同時に端地家の扉が開いたことに2人は気づくことはなかった。



 ※※



 その後しばらく比呂の行方を捜しまわったが、結局見つかることは無く気づけば時刻は18時過ぎ。既に日没直前で、あたりは暗くなりつつあった。——未だ、比呂からの連絡は、何もない。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

銃を司る者たちよ 浜野さく @phy3901

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ